最後の一本になってしまった線香花火を最愛の人の綺麗な指に手渡して火を点けた。
「セミの幼虫用にはそこいらで拾える木の枝で充分ですよ。ああ、カブト虫などと異なって少し歩いて探さないといけないので、懐中電灯は用意してくださったら嬉しいです」
線香花火の煌めきよりも綺麗な笑みが夜の闇に浮かび上がった。
「裕樹と遠足気分を味わえるのだ、な。しかも夕方なのだろう?」
花火よりも弾んだ透明な声にふとした違和感を抱いた。二人きりの時間を大切にしてくれている最愛の人だったが、何だかそれだけではない期待感めいたニュアンスも含まれていたのでなおさらだった。ただ、最愛の人の決して幸せではない寂しい過去を裕樹が根掘り葉掘り聞く気分にもなれなかったので、視線だけで話しの続きは促したがごく弱い感じに留めておいた。話したくなければそれでも良かったし、話たいのであれば聞こうという曖昧な視線の先に若干は寂しそうな煌めきを含みながらもそれでも嬉しそうな無垢な眼差しを線香花火と裕樹の顔に交互に当てていたのも儚げな印象を与える、線香花火のせいだけではなく。
「小学生の高学年からだったと記憶しているが、母の体の具合がーー今思えばあの時から心臓疾患を抱えていて、無理やりにでも入院させれば良かったのかも知れないーー良くないのは子供心に分かっていたので、昼間の遠足はともかく、宿泊を伴った学校行事は全て断っていた。母から目を離してはいけないような気がして。だから林間学校などの思い出を話すクラスメートの話しか聞いていないし、楽しそうだとは当時から思っていたが、自分とは縁のないモノだと思っていて……。
ただ、裕樹が夜の山でセミの幼虫探しを提案してくれて、とても嬉しい」
最愛の人の過去は大まかな話としては聞いていたが、ここまで具体的に話してくれたことはなかったような気がする。今までは言葉の端々でそれとなく察するだけだったので。
「それでは、夜のセミの幼虫探しはことさらゆっくりと行いましょうか?夜の木立の中をあちこち歩き回るのもきっと楽しいですよ」
下手な同情の言葉はこんなにも儚げな笑顔を見せる最愛の人には返って失礼かもしれなかったのでーーそして花火の煌めきよりも期待感に弾んだ表情の方が彼の気持ちをよりいっそう雄弁に物語っているような気もしたしーー敢えて快活な感じの声と笑いを実際よりも強く表現した積もりだった、成功しているかどうかは分からなかったが。
「そうだな。裕樹と一緒ならどこに行っても楽しいが、セミの幼虫探しとかは、林間学校でも有ったようなので……。裕樹と二人で出来るのならとても嬉しい」
小さな火玉が今にも落ちそうになっているのを心許なげに見入っている最愛の人の少し寂しさを伴った透明に弾んだ笑みは花火の煌めきに似て多彩な印象だった。
「そうですね。そういうご事情でしたら、新神戸駅に有るホテルの安っぽさは却って貴方には良いかと思います。貴方には相応しくないかなとも思っていたのですが、公立高校の修学旅行にも利用されるホテルなのでーーもちろん神戸はあまり旅行先には選ばれず、全国区で人気なのは京都なのですがーー」
公立高校の限られた予算内の悲しさでーー大学時代の同級生とか医局に居る人達は修学旅行が海外だったとか、一流老舗ホテルに泊まっただとかの体験談が何かの拍子に出ることも有ったのでおおよそのことは知っていたがーー裕樹が修学旅行で泊まったホテルもあんな感じのチープな感じだったし、林間学校はバンガローだった。
「そうか、それはとても楽しみだ」
小さな火玉が今にもポトリと落ちそうな儚げな最後の名残りのように煌めく一瞬を狙って最愛の人に誓いの口付けを落とした。
花火独特の香りが残っている海岸の風景に相応しく触れるだけの瞬きのようなキスだったが。











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都合により、一日二話しか更新出来ないーーもしくは全く更新出来ないかもーーことをお詫びすると共に、ご理解とご寛恕をお願いいたします。
やっとリアバタがー段落ついたので、次回更新分からは毎日更新を目指します!(目指すだけかも……(泣)

諸般の事情で、クライマックス近くにも関わらず中断してしまっていた「気分は、下剋上」夏 ですが(プロットは流石に覚えていましたが、ちょっとした登場人物の名前などその場で思いついた名前とかは忘れてしまっていたため、復習に時間がかかりましたが、「ドライブ~」か「震災編」が終了次第再開する予定ですのでもう暫くお待ちくだされば嬉しいです。
あと、熱烈リクエストがあった「蛍の光の下のデート」も超短編で書こうかと目論んでいます!ただ、ストーリー性が強いのは「夏」なので、そちらを優先したいのですが、予定は未定(泣)