「なるべく普段とはかけ離れた服を買って来ることにする」
裕樹が車を買って以来、休日に家で過ごすよりも一泊二日の小旅行をすることが格段に多くなっていて、ラフな服もそれなりに増えたが今回は「ローマの休日」ごっこなので全然別の人になりきらなければならない。病院長命令があったとはいえ、そして各地の病院からの助っ人が駆け付けて来てくれたものの一人でも多くの医師が必要だと考えるーー自分も北教授に指揮権を移譲した後は一外科医としてスタッフに加わるのがスジだと思っていたのでなおさら大学病院の旧弊なヒエラルキー制度を知らない人間には職務放棄と取られかねないーー映画のヒロインの王女様は髪の毛を切ったと記憶しているが、前髪を下ろすと裕樹が褒めてくれるほど雰囲気が変わる自分と異なり、裕樹の場合普段も髪は普段は乾かしただけでそれ以外のことはしていなかったので、髪型を少し変えるのもアリかもしれない。一階のホテルのショップにはーー裕樹がタバコを買うとかで何度も立ち寄ったことがあるのでーーラインナップは大体覚えている。確か整髪料も置いてあったハズだった。
普段の裕樹も充分過ぎるほど自分だけでなく多くの人間の目を惹きつける男らしく凛とした端正な顔立ちだったが、前髪を上げたら秀でた額がより男らしい印象を強めるだろう。シャワーの後などに水分で前髪を後ろに流している姿は見たことがある分、随分印象が変わることも知っていた。
脱ぎ捨てたジャケットをボタンを全部外して羽織って最後の仕上げをしてから裕樹の横たわったベッドに近寄ると満足そうな笑みで見つめられた。
「だいぶ印象が変わりましたね。聡の花園の門が意思の力で堅く閉ざされるのは存じていますし信頼もしていますが、私の差し上げた愛の証しを零したらお仕置きです、よ」
裕樹の睦言めいた言葉を間近で聞くと背筋に甘い痺れが奔って極上の蜂蜜のような黄金色の甘さが心を満たしていく。額に口付けられて幸福感と甘酸っぱい気持ちが込み上げた。
「では行って来る。部屋に戻って来たら裕樹も着替えるのだから、服を脱いでリラックスした方が良いと思うのだが……」
怪我の痛みは今のところ出ていないようだったが、いくら自分よりも非常時に強いと言っても一晩中救急救命室で勤務をして、休む間もなく非常事態宣言の優秀過ぎるほどの補佐を務めてくれた後だっただけになるべくならゆっくり休息を取って貰いたいのも本音だった。裕樹なりのデートプランはあるようだったし、それはそれでとても嬉しいが、部屋で休んでーー微睡みではなく本格的に眠ってしまった傍でずっと見守っていても充分過ぎるほど幸せなのだから。
「そうですね。スーツは脱いで少しは休みます」
ベルトに手を掛ける裕樹を見てからーー出来れば手伝いたかったがーー踵を返して寝室を出ようとした時にフト思い付いて携帯を取り出した。
「裕樹のお母様に電話を掛けても良いか?テレビで無事な姿をご覧になってはいらっしゃったようだが、やはり裕樹の元気な声を直接お聞きになりたいだろうから」
ジャケットを脱いでワイシャツ姿になった裕樹が広い肩を優雅な感じで竦めている。
「ああ、そういえばすっかり忘れていましたよ。聡の優しい気配りがウチの母まで網羅してくださるののも純粋に嬉しいです。私が掛けるよりも母は聡からの電話の方が喜ぶでしょうから、聡が
ヘリから見下ろした限り、京都の街や京都寄りの大阪の被害状況に比べると、大阪のビジネス街の中心地のこの辺りはまるで別世界だったので電波も通じるだろう。北教授から聞いた覚えがある阪神淡路大震災の時も被害甚大だった神戸を含む兵庫県の海に近い場所はこの地震よりも惨憺たる有様のようだったが、今自分達が居る大阪の梅田は日常そのものだっらしいし。
胸ポケットから携帯を出して、裕樹がワイシャツ一枚羽織ったきりになっているヘッドのへりに腰を下ろして電話を掛けた。
裕樹は口では皮肉は感じで実のお母様のことを自分に告げるが、肉親の情が篭っていることは分かっていたし、それに何より天涯孤独の自分に遠慮している節も口には出さないものの何となく分かっている。ただ、性的にマイノリティの自分に「肉親の情」を惜しみなく注いでくれる人の存在を与えてくれたのは裕樹の優しさだろうし。
『ああ、聡さん。わざわざ電話をくれて有難う。忙しいのに時間を割いて電話してくれたということはメールは届いたと言うことね。怪我とかはしていないのでしょうね』
普段よりも幾分早口かつ心配そうな声が電話越しに流れてきた。
「私は怪我一つ負っていません。ご心配有難う御座います。それにあくまでも私は臨時の指揮官で、本来の責任者が病院に帰着しましたから、私はお役ご免になりまして、今は病院にすら居りません。
医学部長兼病院長に臨時休暇を頂きました。メールを頂いて心の底から嬉しかったです」
安堵のため息が電話越しに聞こえた。
『ウチの愚息は聡さんの役に立ちましたか』
幾分心配そうな口調には自分の息子を案じるお母様の確かな愛情がこもっていいるのは聞き違いではないだろう。怪我の件を言うべきかどうか少し悩んでから言葉を続けた。
「充分過ぎるほど役に立ってくださいました。ただ地震発生時にメスを握っていたので……患者様に被害が及ばないように咄嗟の判断で腕にメスを突き立ててしまっていてですね……」
息を飲む感じが伝わってきた。裕樹同様憎まれ口は叩くもののーーもしかしたらそういう性格はお母様からの遺伝か高校卒業まで一緒に暮らしてきたので似たのかもしれないーー裕樹もお母様もお互いを気遣っていることも知っている。
容態をありのままに告げて良いかどうかは分からずに、途方に暮れて裕樹を見詰めた。







何だか長くお休みを頂いている間にYahoo!さんにも日本ぶろぐ村にも仕様変更が有ったらしく、メカ音痴な私はサッパリ分かりません(泣)

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リアル生活にちと変化が有りまして、更新時間も日付けが変わる頃が一番投稿しやすいので、その頃に覗いて頂ければと思います。誠に申し訳ありませんが、1日何話かは更新します。iPad更新に泣く泣く切り替えたので、文頭の余白を空けると、レイアウトが崩れます(泣)
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都合により、一日二話しか更新出来ないーーもしくは全く更新出来ないかもーーことをお詫びすると共に、ご理解とご寛恕をお願いいたします。
やっとリアバタがー段落ついたので、次回更新分からは毎日更新を目指します!(目指すだけかも……(泣)
早く「夏」も再開させないといけないですし。自業自得とはいえ宿題は山積みです。

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今夜は疲れが溜まっていたらしくウッカリ爆睡してしまったせいで更新時間が大幅に遅れてしまったことをお詫び致します。
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