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「もちろん、構わない。この身体は全て愛する祐樹のものだから。むしろ愛の刻印が刻まれた素肌を見るたびに祐樹の愛の交歓を思い出して嬉しくなる」
 森技官に祐樹が唆された裏の事情を何一つ知らない――というか知らされていない、二人の専門家にアドバイスされた通りに――彼は濡れた瑞々しい唇に花よりも艶やかな笑みを浮かべている。
 上半身は何も身に着けていない彼の胸の尖りの一つは祐樹の前歯で甘く噛んだ痕で真紅に色づいて淫らで慎ましげな煌めきを放っている。もう片方は指で強く触れただけなので紅色の小さな花のようだった。
 森技官が「万が一」の場合に備えて授けてくれた――本当に彼は最悪の事態まで想定するという日本人には珍しい乱世向けの人間だと心の底から思ったが――祐樹最愛の彼の薫る肢体にあからさまな情事の痕を残すというのは、そしてその肢体を見るのが井藤とやらいう狂気の研修医であることも祐樹にとって我慢が出来ないことではあったが、背に腹は替えられないのも事実だ。
 胸の尖りだけでも、二つの煌めきの色が異なっている点で二人の愛の交歓を察するだろう、しかも井藤とかいう研修医は大阪のホテルで親密で濃密な夜を二人きりで過ごした事実も握っている。本当に忌々しいことに。
 彼の紅色に染まった右の手首を恭しく持った。彼は利き手と同じように左手も器用かつ滑らかに動かすことも出来るが、右手が一番危ない。
 井藤とかいう研修医が彼の卓越した外科的才能も嫉妬の対象なのは自分の出世も諦めて――いや、戸田教授に親の資産力を十全に活かして取り入ろうとしているのかも知れなかったが――研修医としての職務を全て無視して祐樹最愛の彼の手術を見に来ていることからも明らかだ。
 だとすれば、狙われるのは右手全体が一番危険だろう。
 手首を恭しく掲げて、愛の交歓の流れとして不自然でないように、指の付け根に尖らせた舌で丹念に辿る。最愛の彼の弱い場所は祐樹の方が良く知っている。
「あ……」
 祐樹の舌の微かな濡れた響きに紅色の指の付け根や何も纏っていない上半身が微かに震えている。
「愛の交歓の時の……聡の素肌は……さらに……敏感ですね。私の……愛撫を……全部……悦楽に……変えて……感じて下さって……とても素敵です、よ」
 言葉が途切れるのは、彼の紅色の手首の裏側やさらにその上を唇で「う」の音を発音するように強く吸ったせいだった。
 井藤とやらが祐樹や森技官がピンと来たように特殊な性的嗜好を持っていたとしても、通称香川外科のホープである久米先生――同じく研修医で同級生だが――の証言が正しければ、祐樹の学生時代のようにその場限りの夜の相手を口説いて即物的な熱の放出というか肌の触れ合いをするような機会にも恵まれていないだろう。一夜限りの夜の相手にだって意気投合するまでは他愛のない話し――時によっては身の上話とか職場のこととか、ただ、祐樹は医師だと分かると健康相談まで話が及ぶので「会社員」と自称していたが――というか会話力も必須だ。
 ただ、最愛の彼も祐樹もそんな場所には足を踏み入れたことすらないが「同好の士」が密かに集まる公園もあるらしく、そんな場所では会話よりも見た目だけで「そういう行為」が始まるということも聞いたことがある。そういう場所では一晩に何人もの人間と交わるツワモノさえもいるらしいが。そういう場所に井藤とやらが行きつけていたら病気のリスクは格段に高まる。そう考えると不安で押しつぶされそうになったが。井藤とやらが明日病気で死んでくれても全く構わないが、最愛の彼に病気をうつされるのも絶対に避けたい事態だった。
 祐樹もHIVなどを始めとする病気の恐ろしさについては熟知しているので――念のために検査もしている――そういう無軌道なマネはしようとも思っていなかったし、紅い小さな唇の刻印を右手の内側に咲かせている最愛の彼もアメリカ時代に一度だけ祐樹に良く似た日系人に肌を委ねたらしいが――アメリカに永住して光栄なことに初恋の相手である祐樹には二度と会えないと思っていたせいだと後で聞いた――その時は「安全な」行為をしたらしいし「男性なら誰でも良い」というメンタリティとは無縁の存在だった。
 それに検査はキチンと受けていて陰性だったし、祐樹との愛の交歓の時には「安全でない」行為を嬉々として受け入れてくれているが、それは彼なりの愛の証しなのだろう。
「ほら、右手の内側に私の唇の刻印の花が綺麗に咲き誇っていますよ」
 祐樹の手が楽々回る細い手首をそっと掴んで宙へと掲げた。
 井藤とやらが祐樹最愛の彼の卓抜した手技だけに魅せられているだけではないことも知ってはいるが、手技にも執着を見せているのも間違いはない。そしてそれを壊そうとした場合――祐樹にとっては絶対に避けなければならない事態だが――手の腱を断裂させるのが最も手早い方法なのも職業柄知っていた。特に右手の裏側には切ってはならない腱が集中していることも。
「本当だ……。何だか三個目の贈り物を祐樹がくれたようで……とても嬉しい」
 艶めいた怜悧で端整な容貌に無邪気な笑みを浮かべている彼を見て、良心の呵責で心が痛い。
 ネクタイピンも、そして祐樹が愛梨ちゃんの名前を便宜上借りて彼に渡したシロモノも心の底からの愛の発露ではなかったので。
「祐樹……良かったら……もう一度……抱いて……欲しい」
 肩に唇を落として強く吸っていると、最愛の彼の桜色の声が頭の上を春の艶めかしさと満開の桜吹雪のように降ってきた。
「良いですよ。何度でも最愛の聡を抱きたいと思っている私の気持ちはご存知でしょう?」
 繋がったままの花びらが強く緩く祐樹の愛情と欲情の象徴を先程よりも熱く濡れた感触で包み込んでくれている。
 祐樹は何も知らせていないのだが、彼は――愛情を疑っている様子は微塵もないが――祐樹が普段と微妙に異なることに不安を抱きつつも何も聞いてこなかった。
 その代償行為としての愛の交歓をせがんでいるのだろう。
「祐樹……。愛しているし……信じている」
 彼の声は――たとえ絶頂を極める時ですら――小さくて慎ましやかだったが、今回祐樹の耳に落とされた声は愛の交歓の予感というより不安に震えているようで、そしてとても微かだった。
「私も愛していますよ。それに聡のことは私への愛情だけでなく全部信じてもいます。
 立てますか?今度は立ったまま後ろから最愛の聡を抱きたいのですが……」 
 愛の刻印を肢体に刻む行為よりも今は彼の極上の花園を味わいたい。
「大丈夫だ……。どんな愛の形であれ、祐樹がしてくれるのであれば、私はそれで充分なのだから……」
 唇を重ねながらいったん繋がりを解くことにした。祐樹の放った熱い真珠の放埓で濡れている部分から極上の音楽が奏でられた。
「シンクに手をついて下さい。今度は強く激しい動きで聡の花園を蹂躙したいので。大丈夫です……よね?」
 明日も仕事なだけにあまり無理なことはしたくなかったし、唇の刻印と違って瑞々しい双丘が祐樹の腰で打ちつけられても何日も熟した紅色を保っているのかは未知数だったが。
「大丈夫……祐樹を……花園の奥処で……感じたい」
 肩幅よりも大きく開いた長く綺麗な脚の付け根から祐樹が放った真珠の粒が滴っている。そして花園の門も先程の熱の余韻のせいなのだろうかしどけなく開いて紅い花びらを微かに見せている。
「最愛の聡の肢体全部が甘い花のように私を誘って止みません。それに無垢な魂も」
 後ろ髪を掻き上げて、うなじにきつく口づけを落とした。愛の刻印の一環として。
「ああ……祐樹……早く……挿れ……て。私の……花園を……いっぱいに……して」
 キッチンのシンクに手をついた色香の他に何も纏っていない彼というのも祐樹の目を釘付けにするには充分だったものの、彼が真に望んでいるのは多分「悦楽以外は何も考えられないようにして欲しい」ということだろう。
 彼の胸の尖りを親指と人差し指そして中指まで使ってきつく摘まんだ。
「ああっ」
 仰け反った背中の肩甲骨が淫らなラインを描く。それに魅入られながら彼の祐樹にしか許されていない花園へと幾分乱暴に押し入った。一度身体の熱を馴染ませた極上の花園は厚く濡れたベルベットのように祐樹を迎え入れてくれる。湿った音がキッチンを淫らな空気に染めて。
 真珠の雫で濡れた花園が歓喜に震えながら繋がる二人の結合の響きを淫らに奏でている。
「ゆ……祐樹っ……もっと……強くして……」
 艶やかな背中を若木のように撓らせながらお互いを求める濡れた音がキッチンに響く中で彼の声が慎ましやかな艶やかさに満ちている。
「どちらを……ですか?」
 色違いが却って魅力的な煌めきを放つ胸の尖りだろうか、それとも真珠の雫で濡れた花園を蹂躙する祐樹の動きだろうか。



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諸般の事情で途中で切れてしまっていた『気分は、下剋上』《夏》ですが、旧ブログに跳んで読んでください!と申し上げるにはあまりにも長いのでこちらに引っ越しします。
『前のブログで読んだよ(怒)』な方、誠に申し訳ありませんが何卒ご理解とご寛恕くださいませ。










何だか長くお休みを頂いている間にYahoo!さんにも日本ぶろぐ村にも仕様変更が有ったらしく、メカ音痴な私はサッパリ分かりません(泣)


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