お互いの身体の位置を変えて最愛の人の紅に染まった端整で艶っぽい顔に唇を近付けた。

「祐樹、それは嫌だ……」

 最愛の人が否定的なコトを言うこと自体珍しくて、思わず目を見開いてしまった。

 以前、弁護士という「お堅い」仕事に就いているのも関わらず茶目っ気旺盛な杉田弁護士が(多分)笑いながら送りつけて来た「大人のおもちゃ」の使用法どころか、それが何であるかも分からなかった人だったが。まあ、祐樹はそういう無垢な点も最高に愛おしく思えたものの、冗談交じりで「使ってみますか」には敢然と「ノー」と言い切った人ではあった。それ以外は黙って首を横に振る程度しか意思表示をしてくれない時期が長く続いた。

 最近はかなり色々なことを喋るようになってくれているので心の距離も程よい感じで縮まっているように思うと喜ばしいが。

 ただ、明瞭に「嫌」と言われるとは思ってもいなかったので、一瞬頭の中にクエスチョンマークが飛び交うような気がした。

「ああ、もしかして、あの行為の後ですから、キスに抵抗が有るとか……?」

 正解かどうかは分からないが、祐樹の出した唯一の答えだった。

 確かに「美味しい」と言うには程遠い味ではある。そして最愛の人は、口での行為自体は嫌がってはいない――というか、祐樹がして欲しいと言うとむしろ嬉々として没頭してくれる可愛くて健気な――側面も持ち合わせている。

 ただ、その行為の後に口づけを交わそうとすると嫌がるのは以前から変わっていない。

 多分、合っているだろうとは思いつつも、愛の交歓の最中に――例の「大人のおもちゃ」事件は、二人で寛いで過ごしている時に「こんなものが送られてきた」とか言って見せてくれたような気がする。

 最愛の人の驚異的な記憶力には程遠いので、細部は忘れてしまっている。祐樹的には職業に適している以上の記憶の容量は持ち合せていると自負していたが、それでも忘れて良いような些細な情報はどんどん消去して行かないと容量がパンクしてしまう「凡人」だ。

 最愛の人が頬に紅色の薔薇の花よりも綺麗な色と瑞々しさを一刷毛塗ったような感じに染まっている。

 どうやら正解だったみたいだ。

「聡は以前、『私にとっては美味しい』とか仰って下さいましたよね?

 今、その言葉がストンと腑に落ちたというか、実感したというか……。

 私も聡のだからこそ、美味しいですし、口でも感じてくださった証しだと思うと嬉しいですよ?」

 花園の比較的浅い場所に有る凝った場所を刺激していなかったら無理だったかも知れない、口の中に残る独特の香りとぬめりだったが、その件は内緒にしておこう。

 本当に嫌がっていることは無理強いしたくないので注意深く表情を見守った。

 それこそ、睫毛が触れ合うほどの距離で。

 しかも、床とはいえ寝そべっている体勢だったので、最愛の人の紅色の滑らかな素肌とか朝露のように宿る汗や涙の雫までが綺麗に見える。

 窓の外には飛行機が離発着しているライトとか機体よりも綺麗だし、見ていても飽きないのは言うまでもない。

「――祐樹がそう言ってくれるのはとても嬉しいが、やはり……」

 仕事の時とは異なる曖昧な口調が紅色の唇から戸惑いがちに告げられる。明晰かつ明瞭な話しぶりは主治医として同席していて聞いているが――祐樹が主治医で執刀医が最愛の人というパターンは以前よりは減っているとはいえ割と有る――こういう歯切れの悪い感じの話し方は多分、祐樹しか知らないハズで、それだけで充分だった。

「分かりました。洗面所に行きましょう。先に使わせて貰いますね」

 この程度なら大丈夫だろうと紅色に薫る額に唇を落としてから立ち上がった。

 当然ながら白皙――と言うには今は無理がある――額に嗅覚は存在しないので。

 祐樹の表情を探るような感じで息を殺していたと思しき唇から安堵のため息が零れている。

 その薔薇色のため息の中には祐樹の放った白い真珠の飛沫が含まれているのだと思うと何となく嬉しかった。

「祐樹、お待たせ……って、何故、柚子ソーダなのだ?」

 最愛の人が洗面所から出て来たので、飲んでいた柚子ソーダをグラスに注いで手渡した。

 ただ、夜も更けているからかアイスボックスの氷は融けていたので残念ながら見送ったが。

「サッパリした飲み物の方が良いと思ったのです。こういう時の口直しには。

 ただ、どんなセレクトをしたのか知りませんが冷蔵庫の中には柑橘系の飲み物はこれしかなかったので、仕方なくです」

 紅色の唇が可笑しそうな笑みを浮かべるのもとても綺麗で、何だか本当に日本に帰って来たという実感がこみ上げてきた、再び。

「この小休憩の間にお土産をお渡ししようかと思いまして。

 貴方から頂いた物と比べると見劣りしてしまうのですが……」

 ただ、値段に――多分、祐樹最愛の人は即座に分かってしまうだろう――拘るような人ではないのは知っている積もりだった。

 しかし、ベルリンの時に「お土産」として――公開手術前夜に祐樹も休暇をもぎ取って合流したので厳密に言うとお土産ではないのかもしれないが――最愛の人が用意してくれた時計とはケタが違う、悲しいほどに。

「何だろうと、祐樹から貰えるものは私にとっては掛け替えのない宝物だが……」

 最愛の人がバスルーム兼洗面所に籠っている間に用意した黒い紙の袋を――敢えてその袋にして欲しいと店員さんに頼んだのもちょっとした小細工だった――両手で差し出すと花が綻ぶよりも綺麗な笑みを浮かべた唇が綺麗な笑みを零してくれたのも。


--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが上がりますので、宜しくお願い致します!!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村




小説(BL)ランキング








現在ノベルバ様で「下剋上」シリーズのスピンオフ作品を書いております。

もし、読みたいという方は是非!!
こちらでもお待ちしております。

https://novelba.com/publish/works/884955/episodes/9398607
↑ ↑

すみません!試したらノベルバ様のトップページにしか飛べなかったので、「こうやまみか」と検索して頂ければと思います!!



最近、アプリの不具合かノベルバ様から更新通知が来ないのです……。
基本的にこちらのブログを更新した日は何かしら更新しておりますので、読んで頂ければ幸いです。
























まだ自宅療養中の身の上です(泣)
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、ヤフーさんとは違いライブドアさんはアフォリエイトOKなのでリンク貼っています。
ほんの実験のつもりでしたが、病院通いって予想以上にお金って掛かるんですね。しかもひと月のお薬代が(新薬でジェネリックも存在しない)2万円以上というお財布に大打撃を受けている今日この頃です……。

人気ブログランキングやぶろぐ村ポチまで強請っているのも心苦しいのですが「なんかネットで買い物しようかな」みたいな方がいらっしゃったり「エステ行ってみようかな」な方は是非、このリンクから飛んで下さればとても助かります。勝手なお願いばかりで申し訳ないのですが何卒宜しくお願い致します。



PVアクセスランキング にほんブログ村