「会場は物凄く盛り上がっているみたいだね……」

 従業員控室なだけに、モニターも当然置いてあった。オレには何をしているのか分からなかったが、物凄い勢いでタブレットを操作した後だったが、ユキの心の準備も有るだろうから束の間の自由時間は好きにさせたい気持ちで見守っていた。

 ユキが華奢な指で手招きしたのでモニターの画面を見ると、実際にプレイをしているのが8割は超えている感じだった。

 そして、それを眺めている人間は二割程度だろう。

 詩織莉さんは氷の女王という感じでヘンリーⅣだろう、あの特徴的なボトルを優雅かつダイアモンドが散りばめられているせいで煌めきを添えて手酌で酌んで水のように飲んでいる。何だかユキがユウジという巨漢との――大きな身体に相応しい立派過ぎるほどの息子を持っていた――本番が始まりそうな時には動揺していた感じだが、今は何だか映画のスクリーンを観るような感じだった。しかも余り面白くないストーリーをただ眺めているだけといった淡々とした表情だ。

「舞台の上は『好き者』が思う存分愉しんでいるみたいだな……。

 ユリは本当にああいう行為が好きみたいだ……」

 四人の男達に囲まれて二本は手でそしてもう一本は赤い唇で愛している。しかも美味しそうな感じで頬を窄めて咽喉まで挿れている感じだった。もう一本は勿論尻に挿れてピストン運動に細い身体を委ねきっている。

 オレ達がこの店から離れている時にでも脱いだのか、それとも力付くで引き千切られたのかほぼ肌全部を曝け出している。

 そして、赤く上気した肌には白いエキスが多数飛び散っている。

「音も出るけど、聞く?」

 ユキは舞台に出る踏ん切りがつかないのか――確かに初心者のユキには辛い眺めのような気がした――何だか躊躇った感じの声だった。

「いや、それは良い。

 ただ、この舞台の上も、そして客席で繰り広げられているのも『上級者』のお愉しみという感じだな。

 まあ、この店では日常茶飯事なのだろうが。

 しかし、その方がユキとオレにはチャンスが有る」

 ユキが縋るような眼差しでオレを見上げるのも何だか可愛くて仕方がない。

 先程、好きと言い合ったばかりだが、こういう表情をしているユキも山百合のような凛とした雰囲気を醸し出していて、画面越しに見える「悪魔のパーティ」とも言いたくなる淫らな乱痴気騒ぎとは一線を画している感じだった。

「どういうコト?」

 厚めのデニムの紺色のシャツとチノパン姿のユキはどう見ても堅気の大学生のようにしか見えない。クラシカルな感じの美しさが孤高の花のような雰囲気だったけれども。

 オレはナンバー1ホストの制服とも言うべきアルマーニの今シーズンに販売されたばかりのスーツを着用しているが。

「皆が初々しい感じで『そういう行為』をしているのなら勝ち目はないだろうが、ざっと見る限りプレイを楽しんでいるだろう?しかも複数人で……。

 何だか肉欲というか情欲を貪っているだけというか、そういう悪魔的な感じだろう?

 だから、逆に初々しい、そして心の底から愛し合っている恋人が我慢しきれずに行為に及ぶというのが逆に新鮮に映ると思う」

 「心の底から愛し合って」と言った時にユキの頬が紅くなった。その可憐な美しさに目を細めてしまったが。

「ユキ、オレ達は舞台の上だけの設定ではなくて、本当に好きあっているんだろう?それはオレの勘違いか?」

 細い首筋まで紅く染まって、若木の枝のように横に振られた。

「ううん。リョウのこと大好きだよ。こんな僕のどこが良いのか分からないけど。

 でも僕のことを『劣情を発散する相手』ではなくてちゃんと僕自身のことを見てくれたから……。シオリお姉さんが言ってた通りの人だと今夜しみじみと思った」

 ユキは熱の籠った声で言ってくれるのが妙にくすぐったい。

 ただ、詩織莉さんとユキとの関係性は思っていた以上に深いのかも知れない。

 ただ、それを聞くのはこの悪趣味極まりないショーが終わってからにしようと思った。

「オレもユキのことが好きだ。だから、安心して身も心も委ねて欲しい。

 嫌なことはしないと約束する。好きな人に無理強いとか出来ないからな……」

 尤もオレは嫌がる女や男にも「そういう」行為はしていない。しかしその点まで言ってしまう必要もないだろう。

「大丈夫。リョウがしたいようにしてくれたらそれで良いんだ……。観客のことなんてさっきのショーでも頭のどっかに飛んで行ってしまっていたし。

 でもそれじゃダメなんだね……今度は、そうならないように気を付けなきゃ」

 健気な言葉に画面のソドムの街もこんなのだったのかも知れないと思わせるモノも目に入らなくなって、華奢な腕を優しく掴んで唇を重ねつつ、しっかり覚えてしまった乳首をツンと弾いた。

「ああ…んっ……」

 ユキの紅く上気した頬が更に瑞々しさで匂うようだった。

 撓る肢体もとても綺麗だったし。

「さあ、最後のショーに行くぞ。ユキは敵情視察というか、場の雰囲気を掴みたかったのだろう?」

 何か言いかけたユキをもう一度唇で塞いだ。

 チノパンのお尻からも良い感じで白い液が滴るように手で広げながら、舞台に通じる扉を開けた。

 百合の濃厚な香りが会場内に満ちていた。

 そして、真打ち登場とばかりに会場から2割の視線が集まってきた、固唾を飲んだ感じで。

 その二割に触発されたのか、淫らな行為に耽っている人間も動きを止めている。

「ユキ、愛している!もう我慢が出来ないんだ!!抱きたくて抱きたくて……それしか考えられないっ!!」

 オレ自身もシェイクスピア俳優になったような感じで叫んだ。

 すると、ユリとそのお相手達もピタリと動きを止めた。

 詩織莉さんだけが紅いルージュを引いた綺麗な唇で極上の笑みを浮かべているのを視界の隅で捉えながら、ユキの華奢な身体をキスで啄みながら押し倒した。

「僕も早く抱いて……全て奪って欲しいっ、リョウに、だけ……」

 ユキの臨機応変な柔軟さに内心感心しながら、白い胡蝶蘭の上に綺麗に乗るように調節した。

 その方がユキの薄紅色の肢体とか少し紅い乳首とかが際立つだろうから。


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