海外の銀行の場合通帳がないことも多いと最愛の人に聞いていた。
 即座に既読が付いたかと思うと、世界一有名なネズミのキャラクターが飛び跳ねて喜んでいるスタンプが送られてきた。医師同士では文字だけでやり取りするのが不文律になっている。それがスタンプを送って来たとなると相当嬉しいのだろう。最愛の人にスマホの画面を見せたら目を瞠っていた。
「こういう可愛いスタンプを遠藤先生が使うとは意外だな……。私も祐樹にLINEを送る時にはスタンプの(ほう)が良いのだろうか?」
 祐樹の前にはロックが置かれた。最愛の人の頼んだ桜のカクテルにはグラスの(ふち)に塩がついている。形だけ乾杯して二人ともグラスに口をつけた。最愛の人は一回唇を付けて呑むとグラスを回している。塩を全て摂取する積りらしい。最愛の人が普段オーダーする「季節の果物」のカクテルにはグラスの(ふち)に塩は付いていない。もしかして塩気を欲していたのかも知れないなと微笑ましもついドキリとして見入ってしまう。
 というのも繊細なグラスに薄いピンクのカクテルが入っていて、その(ふち)を薄紅色の唇が辿っていく様子は何というか愛の交歓の時をまざまざと想起させるような仕草だった。
「まさか……。LINEスタンプは可愛いながら機械的な感じがしますよね?それよりも貴方が一生懸命に考えてくださった文章の(ほう)が何倍も好ましいです」
 彼の祐樹に送ってくれる文章は他人が見たら()()ないと感じるだろう。ただ、その一文一文を十五分以上かけて考えて、しかも推敲に推敲を重ねているということを知った。そういう手間暇をかけてまで祐樹に送信してくれていると思うと大変嬉しくて……。
「38万ドルではなくて、51万ドルものお金が口座に入っていました。父が毎月送金してくれていたのですが」
 え?と思った。……祐樹は根っからの庶民育ちでそんなに潤沢な仕送りは貰っていない。それでも母が精一杯のことをしてくれているのは分かっていたし、入学祝いにベンツを買ってもらったとか5人家族でも充分暮らせる広いマンションに独り住まいをしているなどの同級生とは世界が違う人だと思っていた。遠藤先生も自費で留学するからには祐樹や最愛の人とは異なる「お育ち」なのだろう。
 ちなみに医局の中でもそういう異なる世界育ちの医師は何人も居る。脳外のアクアマリン姫こと岡田看護師と婚約している久米先生だって市内のクリニックを経営しているお父様が居る。そしてお母様は専業主婦で、息子の婚約相手が看護師という一点が気に入らなかったようだ。看護師を根拠もなく下に見ている奥さんは多いのが現状だ。
 昭和の価値観ではそうなのだろう。ドラマではなくて原作の「白い巨塔」だって教授の家は芦屋などの高級住宅街として有名な場所ばかりで、関西で一番のお嬢様大学出身という設定だ。ちなみに祐樹も学生時代はそのお嬢様大学との合コンに友人に懇願されて出席した。お育ちも良いし頭も良い女性が多かった印象だけれども生憎(あいにく)祐樹は女性に全く関心がなかったので、あくまでも飾りというか人数合わせという感じだった、主観的には。
 ただ同級生(いわ)く「田中が来ると女性のレベルが上がるので絶対に出席して欲しい」とのことだった。医師の卵という点では皆同じだけれども、やはり容姿もポイントなのだろう。恵まれた容姿に産んでくれた母親に感謝しなければならないなと祐樹は当時苦笑しながら「付き合い」としての合コンに参加していた。
 その合コンに懸けている同級生達は「中高も同じ学校か?」と必ず聞いていた。「大学からよ」と言う女性に対しては散会した後に「学歴トッピング女かよ」と馬鹿にしたような口調で言っていたのが特に印象に残っている。世間では出身大学しか問題にされないのに……と当時は思っていた。しかし、同級生が博士号は東京大学で取得すると聞いて学歴トッピングの根強さを知った。
 それはともかく「白い巨塔」では裁判の証人となる看護婦(当時)は結婚して下町として有名な市に住んでいたし、そのご主人もブルーカラーの職業だった。久米先生のお母様もそういう「常識」に囚われているようだったこともあり、手術室ナースと結婚している柏木先生が最愛の人の代理として説得に赴いた経緯もある。柏木先生は医局長だしそれなりに出世コースを歩んでいる。
「香川外科では本人の実力しか問われないし、教授は久米先生の実力を高く評価されています」と柏木先生が久米先生のお母様に言ったらニコニコ顔に変化したらしい。
「遠藤先生は51万ドルものお金が入っていたそうですよ」
 最愛の人がアルコールのせいか艶やかな眼差しに驚嘆めいた光を宿している。
「1ドル170円まで行くと思うので、そのタイミングで円に換えれば8千6百70万円だな。為替介入も日本だけだろうから……。アメリカもEU諸国も為替介入はしないと私は考えているので」
 8千6百万円!!それを箪笥の肥やしにしていたのかと瞠目してしまった。




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