「タワーマンションが好きな人を否定する積りはなかったのだけれども……。
 私の場合、祐樹と明石海峡大橋が眼前に見えるホテルに泊まったりこのホテルのクラブラウンジや部屋から大阪城を見下ろしたりするのは好きだ……。ただ、そういう特別で格別な景色は特別な日だけで良いと思っている。
 それにここのホテルのクラブフロアも34階などの高層階だろう?上がり降りする時間も掛かるし……これは祐樹が一緒だからかも知れないが……いったん部屋に入ると階下に降りるのが億劫になってしまう」
 艶やかな眼差しが濃い朱を混ぜたように煌めいている。もしかして、部屋で二人きりになった時のことを想像しているのかもしれない。実は祐樹も、だったが。
「ウチのマンションのようなこじんまりとした建物の方が日常を過ごすのに相応しいと個人的に思っている」
 苺のクルスティアンを幸せそうに口に運びながら薄紅色の唇が極上の言葉を紡いでいる。
「明石海峡大橋……綺麗でしたよね。私も貴方と過ごした宝石のような日はどれも深く頭の宝石箱に仕舞ってあります。
 ああ、高さですか。確かにそれはありますね。救急救命室に搬送されて来た大腿骨骨折患者さん、所謂(いわゆる)反社会勢力の若頭(わかがしら)だと後で分かったのですが……」
 銀行などでは反社会勢力に所属する人は口座も開設出来ないと聞いたことがある。
 その点病院は人道的な立場から来る者拒まずだ。ピストルで撃たれたとか、そういう特殊なケースは警察病院に搬送されるのがタテマエだ。しかし、実際は間抜けなことに町のそこいらにある病院と同様の診療時間だ。唯一異なる点は刑務所に入っている受刑者が治療を受けることが出来る点だろう。
 必然的に大学病院に搬送されて来る。麻薬を摂取して暴れて怪我をした患者さんなどは治療の後に警察に通報する義務があるが、大腿骨骨折程度ではそんな面倒なことはしない。
「若頭というのは組長に次ぐ地位だと記憶しているが……?」
 ワイングラスに残ったワインを名残惜しそうに吞みながら興味深そうに相槌を打ってくれた。
 ドラマも最近は反社会勢力を舞台にしたものを作らないようにしているというのに最愛の人がそんな詳しいことを何故知っているのか、一瞬疑問に思った。多分一回見たり聞いたりしたことを全て記憶出来る最愛の人の数多い特技のせいだろう。
「そうみたいですね。初めは会社の専務と名乗っていらしたのですが……。
 妙に気に入られましてリハビリがてら心臓外科の病棟にいらしてくださいました。組長の心臓のことなどを相談に乗ったり廊下で雑談を交わすようになったりしたのです。その(スジ)では割と有名な人みたいでしたよ?
 専務としてのお給料にも『危険手当』が付くような会社らしくて……。その(かた)も『三階以上には絶対に住まない。いざというときにベランダから無事に逃げることが出来ないから。これは落ち方と打ち所が悪かった』とか苦笑していましたね。
 高層階は外に出るのにも時間が掛かりますし、特別な日のデートにこそ相応しいと私も思います」
 最愛の人も大輪の紅の色の薔薇のような笑みを浮かべて頷いてくれている。
 ちなみに五階以上からの転落の場合よほど運がいい人しか助からないことは痛いほど経験している。救急車を受け入れる時に転落事故・自殺の場合は何階から落ちたかを必ず聞くのはそのためだ。木や車のボンネットがクッションになったとしても、そして頭からではなく足からアスファルトの地面に落ちた場合でもほぼ助からない。助かるように懸命に治療はするけれども。だから危機回避のために三階の部屋を選というのは大変賢明な判断だと感心した覚えがある。
「それに隅田川の花火目当てにマンションを買うとか……、都内に何軒も家を持っているような人は別にしてさほど魅力的だとは思わないですよね。レインボーブリッジや明石海峡大橋は一年中見ることが出来ますが、花火は年に二日くらいですよね……、しかも二時間とかですよね。コスパが悪いことこの上ないでですよね」
 このホテルの美味しいフレンチの味や豪奢でシックな空間や感じの良いスタッフも祐樹的にはたまに来るから素晴らしいと思っていて、それはどうやら最愛の人も同じようだった。
 祐樹の顔を見つめながらサーブされたアイスコーヒーのストローを薄紅色の唇に当てている人の整った横顔をついつい見てしまう。
 最愛の人と祐樹には精妙なパーソナルスペースを確保しているギャルソンだったが、車椅子のご婦人には女性が(ひざ)を折って会話している。あの老婦人は多分だけれどもこのレストランにも足しげく通っているのだろう。女性スタッフの表情はとても楽しげだし、老婦人もまるで孫を見るような眼差しだ。その年齢にならないと分からないことではあるが、祐樹としてはあくまでも職務の一環として話し相手をしてくれる人と一緒にいるよりも最愛の人と過ごしたいという価値観の相違だろう、多分。
 それはそうと危機回避という言葉で何か引っかかった。ワインはボトルで呑んでいるわけではないのだけれども程よくアルコールの回った頭は良い具合に弛緩しているようだった。普段は激務なだけにゆっくりと時間を掛けて食事を摂るというだけでも格別なのに最愛の人と過ごす時間が酔いを誘っているようだった。



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