「このお時間はお二人の貸し切りで御座います」
 貸し切りでなくともテーブルとテーブルの間は充分な距離を取っているので恋人としての語らいには格好の場所なのに貸し切り状態とはとてもラッキーだ。
 とはいえ、このレストランが閉店して貰っては困るので経営は大丈夫かと心配になる。
 尤も最愛の人と以前来た時は小学生低学年の孫の誕生日のお祝いとしてその両親とそれぞれの親御さん計6名が来ていたので客もランダムなのだろう、多分。ちなみにスタッフとシェフが「ハッピーバースデー」の歌を合唱して祝っていた。
 歌が終わった時には居合わせた客が拍手を送り空気を読んだ最愛の人も祐樹も拍手した覚えがある。
 そしてこのレストランは17時半からの営業だったと記憶しているので第一陣(?)の客は帰ったのだろうか……。
 以前17時半に来た時はどう見ても北新地という東京で言えば銀座のクラブのようなお金持ちが呑みに集まる場所からの立地が良いせいでホステスさんと常連客の「同伴」に使われている」ようだった。
 北新地のバーが何時に開くのか祐樹は全く知らないけれど、常識で考えて19~20時だろう。
 ああいう場所は食事を出さないので客は夕食を摂ってから行くというのが「普通」だろうし。
「先にシャンパンを頼みましょうか?グラスで」
 皮張りのメニューが三冊もあるが、アルコール用は空恐ろしいことに全てがフランス語表記で日本語は全く書いていない。
「そうだな」
 桜色の笑みを浮かべた最愛の人に微笑みかけた後にこちらの声が聞こえない絶妙な場所に佇んでいるギャルソンに視線を遣った。
「食前酒代わりのシャンパンをお願いいたします。あまり辛口ではないものを……。銘柄はお任せで」
 横の席に座った最愛の人は薄紅色の細い指で楽しそうにメニューを(めく)っている。
 隣とはいえ充分なパーソナルスペースが有るのはフレンチの店なので仕方ないだろう。
 向かい合う席も用意されているが、どうしてこちらに案内されたかはナゾだ。
 普段泊まっているクラブフロアのコンシェルジュだかスタッフは二人の真の関係を知っているが、レストランにまでその情報が共有されているかどうかまでは分からない。
 ただ、知り合いが来店してもこの距離だと不審には思われないだろう。
「畏まりました。メニューをお決めになる前ですが、前菜は全コース共通ですのでご一緒にお持ち致しましょうか?」
 営業用ではあるものの、温かい笑みを浮かべたギャルソンの言葉に頷いた。
「手で摘まんで召し上がってください」
 シャンパンの泡が細かく美しく弾けているフルートグラスと共に供された、可愛らしい円球の前菜の説明を終えたギャルソンは最後にそう付け加えた。
「ん!美味しい!こういう繊細な味は表現出来るだろうけれども、この大きさでは無理だな……」
 最愛の人が幸せそうな笑みを浮かべている。
「貴方が作って下さる料理は美味しく頂いていますよ、毎日。
 しかし、プロと同じものを作るレベルまで要求していないです」
 口の中に何重もの味が絡み合って極上のシンフォニーを奏でているような料理だ。
 祐樹はさほど詳しくはないが、何重もの工程を経ていることくらいは分かる。
 卓越した事務処理能力まで持ち合わせている最愛の人なので定時にはたいてい上がる人だけれども精緻なまでに手の込んだこれほどの料理を作るには時間がいくらあっても足りないだろう。
「『クラシック』のコースの『甘鯛のプティレポシェ』にしようか、それとも『鴨胸肉 骨付きロースト』どちらにしよう……」
 渦巻く春風に舞っている桜のような表情と声が新鮮な魅惑に富んでいる。
「それってorで括られていますよね。だったら別々に頼んで半分ずつ味わいましょう。ワインセットも付けますよね?」
 最愛の人はその気になったら世界中のワインの蘊蓄(うんちく)とかそのワインに合った料理も全て(そら)んじることが出来そうな記憶力の持ち主だ。
 しかし、プロにお任せするという姿勢は崩していない、資産運用と同様に。
 ワインセットはソムリエがその料理に合ったワインを厳選してくれているのは知っていた。
「遠藤先生のパンフレットよりも黒木准教授に届いたタワマンのパンフの(ほう)が何だかお気に召さないお顔でしたよね?」
 50センチくらいの高さの乳白色の台形っぽい物から器用にナイフで切り取っている。
「バターで御座います。無塩なのでお好みでそちらのヒマラヤ岩塩をお使いくださってパンに塗って下さい」
 小皿にピンク色の顆粒めいたものが載っていたので何かと思っていたが岩塩だったらしい。
「有難うございます」
 パターも薔薇状にして皿に載せてくれているギャルソンに感謝の言葉を述べた。
「タワーマンションは確かに眺望こそ抜群だろうけれども、足場を組むのにも限界が有って特別なお金が掛かるのだ……もちろん、そのお金は部屋のオーナー負担で、そのお金が途方もないらしい」
 描いたような眉が曇っている。
 最愛の人が「途方もない金額」と言うのだから祐樹にとって目が飛び出るような大金に違いない。




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