夜間の高速道路も何だか独特の特別感がある。
 それはともかく、思春期の頃に少数派の性的嗜好の持ち主だと自覚があったと聞いている彼は院長先生のバカ娘の「結婚して病院の跡継ぎになることと、これまで以上の自由で贅沢な生活を送らせて欲しい」という要望を呑んだ。
 どうせ異性に恋愛感情は抱けないものの、律儀な彼は「良き夫・良き跡継ぎ」として振舞って生きていくことをを決めたらしい。
 夫婦生活はバカ娘も期待していないと明言したらしいし……。
 予備校代や生活費は過分に援助を受けていたらしいが、無駄なお金は一切使わなかったので修学旅行すら行っていない。
 今通っているルートとは異なるが、京都から神戸へ行く高速道路から、とあるエレベーターを作っている会社が有って試作段階のエレベーターのための特徴的な塔みたいな物が立っている。
 最愛の人がそれを初めて見たのは凱旋帰国後だ。
 祐樹だって大学時代に同級生の車でそれを何回、いや何十回と見たというのに。
 最愛の人はそこまで行動範囲が狭いので、無邪気な子供のような眼差しで車窓を見ている様子も物凄く愛おしい。
「遠藤先生の場合も直ぐに遣う予定がなくても、アメリカの学会に出席する日のためにとって置いておこうと思ってそれっきり忘れるというのは良くある話なので」
 なるほどと納得した。祐樹も千円未満しか入っていない口座を持っているのと同じかな?と思った。金額は雲泥の差だけれど、解約は面倒なので放置してある。
「それでも遠藤先生は門物凄く喜んでいましたね。
 今頃きっと自宅で通帳その他を家探ししていることでしょう。貴方の親身なアドバイスに感激しながら。
 それはそうと『午後の紅茶』ミルクティを一口頂けませんか?」
 ごく薄い紅色の指と健康そうな薄紅色の唇に触れているペットボトルを祐樹も口を付けたくなった。
「それはもちろん良いけれども……祐樹に飲ませることは出来ない、な……」
 弾んだ声が消沈の響きをはらんでいるのもデートに相応しい。
「私が自分で飲みますよ。車の中ですので急ブレーキを掛ける事態が起こる可能性もないとは言えないです。
 そうなったらスーツやワイシャツやネクタイに飛び散ってしまいますよね?そういった服装でホテルに入れませんから」
 最愛の人細くしなやかな指で手渡してくれた大好きなミルクティはコクが有ってとても美味だ。
 やがてホテルの車寄せに入ると、スタッフが走り寄ってきた。
「田中様・香川様お帰りなさいませ。お車はどうかそのままで」
 良いのかなと思った。車寄せに停まっているのはベンツやジャガーといった外車ばかりだった。ちなみにフェラーリも見たこともある。
 そういったホテルの格に相応しい車が優先されるのもある意味仕方ない。
 祐樹の車は国産車としては割と良い値段だとはい見劣りすることは否めない。
 まあこの場に置いておくのではなくて運転の飛び切り上手なスタッフが駐車場に運んでゲストには見せないようにするのだろうが。
 鍵を渡して玄関で降りると重厚な木の扉を恭しく開けられた。
「いつも思うのだがやはり別世界に来た感じだな……」
 弾んだ声が鈴のようだ。
「そうですね。海外に行かなくても、この豪華なホテルに入ったら一足飛びに別世界という気が致します。
 まずはフレンチを……」
 正直なところこのホテルは入り組んでいて記憶力と方向感覚に若干の自身がある祐樹ですら迷いそうだ。
 一階のティルームの入り口で最愛の人が立ち止まっている。
 何かと思えば「ストロベリー・スペシャル」と銘打った季節限定のメニューが案内されている。
「フレンチの予約時間の関係で今は無理ですけれども、明日にでも味わってみませんか?」
 ポスター(?)に見入っていた最愛の人は細く長い首を横に優雅に振っていた。
「いや、良い……」
 イチゴのショートケーキが大好物なのは知っているものの、このホテルのお菓子類はさほど興味を示さない、特にマカロンは。
「ああ、イチゴ単体ならともかくマカロンがネックですか?」
 レストラン階までしか行かないエレベーターホールで聞いてみた。
「それも有るが……ケーキもさほど……」
 五階を押した祐樹に言い辛そうな感じで言葉を紡いでいる。
 そういえばこのホテルのケーキを最愛の人は口にしなかったなと思いつつエレベーターを降りて貴族の館のような感じの回廊を歩んだ。
「予約をしていました……」
 受付で声を掛けると名を名乗るまでもなく「田中様ですね?ようこそいらっしゃいました」と感じの良い女性が微笑みかけてくれる。
 男性二人の予約は今夜、この時間帯に一組だけなのだろうかと思いつつ店内に入った。
 すると何故、名前を名乗らなくても良かったのか分かった。
「貸し切りみたいですね……」
 最愛の人に話しかけている積りだったものの、多分ブリザードフラワーと思しき薔薇が置かれ、果物の静物画や暖炉で落ち着いた豪華な雰囲気を(かも)し出す店内を先に立って歩んでいたスタッフが慇懃かつ親しみやすそうな笑みを浮かべている。そしてさも重大なことを告げるように口を開いた。




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