「森技官と同じ大学だ。祐樹も知っている通り筆記試験しかないので。
 その……彼女の場合あまりにも手先が不器用なので高校の先生から医学部への推薦は出来ないと言われたとか……。
 推薦入学の場合は高校の校長先生が厳選した学生にお墨付きをつけて大学に送り込むという建前(たてまえ)だから。
 本音は担任の先生が決めるのだろうが、それでもあまりにも酷い学生だった場合は次年度から募集がゼロ人になるらしい……」
 内科医としては内田教授が相談したり議論したりするほど優秀な彼女だけれども包帯すら上手く結べないし、うっかり手に裂傷を負った時に心臓よりも患部を上にするという世間一般の常識も忘れて果てていた……。
 「幼稚舎と聞いて幼稚園かと思っていましたが小学校なのですよね。
 そういえば、彼女の『お友達』のお買い物に対する熱意は物凄くて驚いたことがあります。
 東京のどの店舗でも品切れになっている物が京都の百貨店にあると彼女が一報を入れたら交通費なども物ともせずに買い物に来たくらいですから」
 ホワイトデーに最愛の人に良く似合いそうなシルクの高級ランジェ……もとい夜着を買いに行った時に感じのいい店員さんが更に高価なシルクランジェリーを見せてくれた。
 ああいうのがハイブランドの中のハイエンド商品なのだろう。
 「お知り合いに勧めて頂けますか」的なことを言われて長岡先生にLINEを送ったら東京から買いに来た人がたくさんいたらしい。
「長岡先生に医学部全般は向かないと思いますので高校の校長先生や担任が二の足を踏むのも良く分かります。
 しかし、少なくとも森技官よりは優秀な医学生だったと思いますよ……」
 長岡先生は手先が絶望的に不器用なだけで、手術を見てもケロリとしているのは知っている。気になる患者さんの手術には付き添ってくれているのだから。
 森技官は嘔吐を堪えるのに精神力をフル動員させているのだからどちらがよりマシかは火を見るよりも明らかだ。
 まあ、外科医的に向いていない点は五十歩百歩だろうけれども。
「遠藤先生は学費、年間600万円、といっても当時のレートなので今はもっと高いだろうが……そんなの学費の引き落としも無事に行われて、しかも物価の高いアメリカに住むわけだから生活費も余分に送る必要がある。
 その上留学時に銀行口座に纏まったお金が入金されていないとそれだけで断られるケースもあるという。
 だから遠藤先生のアメリカの口座には纏まった金額が残っている可能性が高いと踏んだのだ。
 38万ドルもあったのには内心驚いたけれども……」
 祐樹は学費が安い国立大学だったし、母がかなりの無理をして仕送りをしてくれていたのは知っている。
 だから医学部にありがちな留年は絶対に避けたかったし、通称医師免許試験は一回で通ろうと決めていた。
 ちなみに医師免許試験の合格率は国公立大学の(ほう)がそこいらの私立医学部よりもかなり低い。
 国家試験はペーパーテストなので臨床や実技に明け暮れる国公立大とは異なって予備校並みに医師免許試験対策ばかりする私立大学とは全く異なる。
 その上、「この学生は合格しないだろう」と教授や講師が判断した場合には容赦なく留年だか卒業試験を不合格にして国家試験そのものを受験させないようにしているらしい。
 例えば学生が200人居て100人が(多分受かるだろう)と判断されて医師国家試験を受験させ、残りは受けさせない。
 98人が受かれば合格率98%だ。
 しかし、切り捨てられた100人を足せば合格率は49%まで下落するという数字のマジックを使っている。
 祐樹も例に漏れず18歳から24歳は所謂(いわゆる)「したい盛り」なので性欲の解消にゲイバー「グレイス」などに赴いていた。
 しかし、ムラっとした時に即座に行くのではなくてレポートを全て書き上げたり試験が終わったりした「打ち上げ」みたいなタイミングで行っていた。
 付き合いで参加した同級生の打ち上げなら割り勘が当たり前だが、ゲイバーだとバーデンが「あちらのお客様からです」と言ってくれる可能性は80%くらいあったので性欲の解消と無料(ただ)酒までありつけるのだから最高だった。
 普通は祐樹のような「男役」がお酒を奢る立場だったので「グレイス」の常連には随分と妬み交じりの皮肉を言われた覚えがある。
 それはともかく、仕送りでカツカツの生活をしていたことは確かで口座も仕送り直前は千円単位しか残っていなかった。
「モルガンスタンレー銀行にあんな多額のお金を残していて、それをすっかり忘却しているというのはあり得るのですか?」
 最愛の人は決して多弁ではない。しかし、祐樹の車の助手席に乗ってデートをしていると、白皙の顔が仄かな薔薇色に染まるし、何よりも静謐な笑みを浮かべて珍しそうに辺りの風景を見たり飲み物を飲んだりと、とても楽しそうに振舞ってくれる。
 心臓が弱かったお母さまが気がかりで幼い頃から遠足などには滅多に参加しなかったらしいので。
 そういう無邪気な心の昂ぶりを見せてくれる最愛の人を乗せたドライブが楽しくないわけがなくて、「癒しのクラシック音楽集」というBGMを流した車内には薔薇色の空気が漂っているようだった。




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