ただ、彼女の部屋で同棲を始めて引っ越していって家賃を浮かそうとした人がいたり、極端な例では生きた化石のようなマルクス主義を標榜する共産党員にいつの間にか傾倒してしまって共産党員と共同生活をするために部屋を引き払ったりしたと聞いた、あくまでもウワサだったけれども。
 次の入居者が見つかるまで数カ月は空き家だったと記憶している。
 また、祐樹のような性的嗜好の持ち主は感情の振れ幅が大きいというのを経験則から知っている。
 祐樹は流血の修羅場を演じたことはないけれどもゲイバー「グレイス」でウワサを何度か聞いた。
 別れ話の(もつ)れで逆上して相手を刺した人も居た。
 幸い命に別状はなかったらしいが、同棲していた部屋は()飛沫(しぶき)が壁にべったりと付いていたと杉田弁護士が例のように飄々とした口調で教えてくれた。
 杉田弁護士は「グレイス」の常連客で、出会い目的ではなくて店の落ち着いた雰囲気が気に入っているから通っていると言っている。
 祐樹は生涯に亘るパートナーを見つけてから例外というか必要に迫られてしか店に行っていないが、杉田弁護士は依然として足を運んでいると聞いている。
 また祐樹とは異なって真の職業を隠していない。
「退去時には原状回復義務があるからね。血飛沫は日常生活では絶対に付かないから家主さんに請求される」
 過去にそんな話を聞いた覚えがある。その別れ話に流血を伴ったカップルが元の鞘に収まるとは思えないので引っ越しは必然的に行われるだろう。
 どの程度まで壁が血に染まっているのか知らないが内装工事の間、当然家賃は支払われない。
 ちなみに向かいに座って真剣かつ澄んだ眼差しをパンフレットに注いでいる最高の恋人は感情の振れ幅が極端に少ない点も大好きだ。
 祐樹的は当時特に何も思わなかったが、大家さんからすればその空き部屋からは家賃収入が入らないので懐が痛んだのではないかと今思った。
 3億5千万円の高級物件に住む人はそれなりの社会的地位にある人とその家族だろう。または「小学生なりたい職業ランキング」10位以内に入っているYouTube配信者とか。
 前者は海外赴任とか最悪仕事で取り返しのつかないミスをして地方使者に左遷など、最愛の人が1ページ1ページ白い指先で捲っている豪華で広い部屋から引っ越す事態もあり得るし、後者は先の読めない仕事だ。
 割と有名な配信者でも不倫とか未成年と不適切な関係を持ってしまって、それが暴露されて炎上して事務所をクビになり、アカウントごと削除された動画の収益も入って来なくなったり、視聴者に飽きられて月の収入が激減したりして遠藤先生の部屋を出て行かざるを得ない事態になったら無収入になってしまう。
 祐樹はその程度しか想定出来ないが、向かいに背筋を伸ばして座っている最愛の人はもっと説得力のある指摘をしてくれそうだ。
「この物件なら空室リスクはかなり少ないでしょうね。
 ただ、賃貸物件なので借りてくれる(かた)が海外赴任などで解約し、次の入居者が決まるまで最悪二カ月ほどは家賃収入が入って来ないことは想定すべきです。ローンを使うお積りですか?」
 怜悧な声が重厚な雰囲気の執務室に響いている。
「空室リスク……確かにそうですね……。それは全く考えていなかったです……。
 はい、フルローンは怖いので頭金(あたまきん)を貯金から出して後はローンでと考えていました」
 遠藤先生は意気消沈したような雰囲気だった。
「仮に二カ月間家賃収入が途絶えても当然ローンの返済額は銀行口座から引き落としされます。それでも大丈夫ですか?
 また、何年ローンですか?」
 最愛の人の表情は患者さんに対する時のように熱意と親身さに溢れている。
「30年ローンが一般的だと聞きました。銀行の融資審査自体は問題ないとも言っていましたが……?」
 最愛の人の描いたように綺麗な眉が寄せられて何だか集中しているような感じに変わった。
 デートの時に屈託なく笑う彼の顔も大好きだったが、患者さんの命が掛かってない今、こういう真剣そうな表情を見ているのも至福の時間だ。
 三億五千万円という祐樹にとって天文学的なお金もどうせ遠藤先生の財布なのでまるっきり他人事(ひとごと)だったし。
 要点は聞いておいて損はないが些末な部分はどうでも良い。
 それよりも理知的かつ多彩な変化を見せる最愛の人の顔を見詰めていても先ほどコーヒーを運んで来た秘書に不審に思われないことに感謝しよう。
 祐樹も固唾を飲んで不動産投資に対する意見を聞いているように見えるだろうから。
「銀行の融資が通るのと、実際に返済出来るかどうかはまた別の話なのですが……計算しやすい元利(がんり)均等返済が一般的ですが、営業の(かた)元金(がんきん)均等返済にするように勧めませんでしたか?」
 ガンリキントウとガンポンキントウ??ガンポンは元本と漢字変換されることは予想出来たけれども……。
 隣に座っている遠藤先生もキョトンとした表情で祐樹と最愛の人を交互に見ている。
「済みません、元利均等と元金均等の意味が分からないです……」
 この際、祐樹が質問役に徹して遠藤先生の心理的負担を減らそう。
 デート中も祐樹の素朴な疑問にも丁寧に答えてくれる最愛の為人(ひととなり)だけれども、遠藤先生は知らないだろうから。




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