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「今日はどのレストランを予約してるのだ?5階で良いのだろう?」
 エレベーターのパネルに薄紅色の手を伸ばし掛けている。
「今なお、クリスマスの日にフレンチを食べるという人は一定数いるらしくて……。だから静けさを求めて『シャンタオ』 にしました」
 祐樹を見上げる白皙の頬が後光でも刺したように艶やかな明るい色に変化するのもとても綺麗だった。
「祐樹と行くならどこでも嬉しいが『香桃』はとても好きだ」
 二人きりのエレベーターが音も振動もなく降りて行く。
 秀でた薄紅色の滑らかな額の吸引力に負けて手を伸ばした。すると待ち構えていたかのように顔が祐樹へと意味ありげに上げられて先ほどのサーモンよりも艶やかで艶やかな唇がキスを強請っている。
 彼からのおねだりは何でも嬉しいけれども。
 そして磨き抜かれた茶色と鏡の空間で、刹那の口づけを交わした。
「食前のシャンパンよりも、祐樹のキスのほうが確実に酔えるな……」
 名残惜し気に唇を離すと、須臾の間唇だけでなくて口腔内も貪った証拠の銀色の小さな架け橋が二人の唇にあだはなのように咲いて切れた。
「クリスマスといえばフレンチなのか?別にキリスト教を信じているわけではないけれども、キリスト教圏内ということであれば、一階の地中海料理でも充分なのに、な……」
 振動もなく停まったエレベーターから歩き出した。
 このエリアの店は午後五時半からなので、廊下のあちらこちらに置いてある椅子に座っているワンピースだかドレスなのか祐樹にはイマイチその違いの分からない女性と、気合の入った髪型とあまり着慣れていないスーツ姿の男性以外は家族連れが多かった。
 もしかしてあのカップルは今日にでもプロポーズするのではないかなと思ってしまう。不格好のスーツだけれども、男性の気合が満ち満ちているような感じだったし。
「この辺りで待つか?あの、薔薇の円球も素晴らしく綺麗だな……」
 最愛の人が薄紅色の指で示しているのは、バーの中に設えてある花を惜し気もなく使って祐樹の腕でも抱えきれるかどうかの薔薇の花だった。ただし、生花かどうかはここからでは分からない。
 しかし、色目がロビーで見た物と異なるような気もしたから生花かも知れない。
 どうせ二人でホテルの部屋に入ってしまったら身体と
こころ全部で最愛の人を感じ尽くし貪りつくす予定だ。彼が一階のロビーの薔薇のツリーを見たがっている以上、部屋に行く前にツリーを見る流れにしないとお預け・・・を命じられた哀れな犬のような気持ちになる。
 しかも三日間くらい餌を与えられず、目の前には極上の食事が置いてあるような状況だ。
 といっても、最愛の人との愛の交歓は三日以上ご無沙汰している。平日に関しては祐樹の帰宅は相変わらず深夜3時頃だ。それでも彼は目覚めて待っていてくれて嬉しいのと同じくらい罪悪感も抱いている。
 カップルの前を通り過ぎる。何しろ祐樹達の目指す「香桃」はフレンチレストランの奥に存在するのだから。
「あのね、僕あんなに知らない人からもお誕生日おめでとうって言われて嬉しかった。綺麗なおねーさんが『ハッピーバースデー』のお歌をピアノで弾いてくれたのも嬉しかったよ!!」
 子供独特の甲高い声が重厚な空気を切り裂くようだった。
 どうやら家族連れの一組は一階の喫茶室から上がって来たらしい。
 紅茶・コーヒーが一杯1700円もするので、最愛の人も祐樹も一度しか足を踏み入れていない。34階に行けば質はともかくとしてコーヒーも紅茶も無料で飲むことが出来る。そして、祐樹は質を云々するほど舌が肥えているわけでもない。
 ただ、ピアノの生演奏も行われているので、特別に誕生日ソングも披露したのだろう、多分。
 以前は合理的な説明のつかない子供のことは苦手だったが、小児科の浜田教授は常に子供に慕われて囲まれている。
 ハロウィンの催し物のお蔭で小児科に寄っても皆が歓迎してくれる。「また『領域展開・無量空処』して!とか「虚式むらさき放ってなど子供に囲まれてしまっていてもう慣れた
 「無量食らうとバカになりますよとか放ったら身体はバラバラになってしまいますなどと言って適当にあしらっているけれどもそれでも信じ込んでいる様子子供達は可愛いなと思ってしまっている昨今の祐樹だ。
 といっても最愛の人の物はともかく自分の遺伝子など残しても仕方がないと思っているので実子を「作る・・」気は更々ない。
「ああ、あちらのカップルは多分フレンチの席でプロポーズでしょうね」
 誕生日を祝う家族連れがスタッフに案内された後に、緊張しまくっているのが分かる足取りで店内に入る男性を微笑ましく見つめる。何しろ右手と右足が同時に出ているというのだからきっと相当な緊張なのだろう。
「え?そうなのか?ドラマで観る限り、こういう場所では薔薇の花束を捧げて男性が跪いて指輪を出すという流れだろう……。
 それにあのご家族連れなどのギャラリーもきっと味方をしてくれる、上手く行くと良いな」
 彼は一応応援しているが、知り合いではないので強い感情は乗っていない感じだった。まあ、誰だってそんなものだろうが。
 先ほどの子供だって誕生日ソングが流れたので家族以外の居合わせた客は同調圧力というかその場の空気を読んだだけで「誕生日おめでとう」と言ったり拍手をしたりしただけだろうし。
 それよりも、祐樹の知る限り久米先生もその男性めいた要素を持っているけれども、救急救命室の凪の時間などで祐樹と柏木先生がデートや婚約者の家に伺った時などの挨拶を文字通り、手とり足取りしかも台本まで作成したので、あれほどではないだろうなと俄かに不安になった。



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