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「いらっしゃいませ。田中様、香川様」
 クラブラウンジに着くと顔見知りのスタッフが満面の笑みで迎えてくれた。
 この部屋にもふんだんに薔薇が飾ってあるツリーが各所にあった。それを最愛の人は花のよりも綺麗な笑みを浮かべて見ている。
 ちなみに祐樹の名前が先に呼ばれたのは今日予約したからで、もし最愛の人が予約したなら順番は逆だっただろう。
 予約した人間がクレジットカードを出すという二人の不文律を知っているからだ。
「明日までのご宿泊でございますすね?アフタヌーンティは如何致しましょう?いつも通りでしょうか?それでしたらシャンパンをお持ち致します……」
 大阪城が見下ろせる最愛の人お気に入りの座席へと案内されて椅子を引かれたので座った後に祐樹はクレカを差し出した。
「はい、明日までです。この高層階の別世界にずっと滞在していたいのですが、生憎仕事が有りますので……とても残念です」
 あながちお世辞ではない。この34階などのクラブフロアはその階に滞在している人間しか入って来られないし、何よりも非日常の趣きだ。
 イギリス貴族の邸宅を模したとかでここが大阪で最も忙しいビジネス街だということを忘れさせてくれる。
 日頃病院で香川外科と救急救命室、そして呼び出しが有ったら行くAiセンターなどの建物を走り回っている祐樹からすれば、バカンスに来たようなものだ。しかも、ドアツードアで1時間程度というのは何よりも捨てがたい美点だ。
「アフタヌーンティセットはいつも通りパスします。シャンパンは若干辛口の物をお願いしたいのですが?
 祐樹は何を飲む?」
 甘いモノが比較的好きな最愛の人はこのホテルの物は好みではないのでいつもスルーしている。
「私も同じシャンパンをお願いします」
 クレカを返して貰った後にそうオーダーした。
「祐樹、スモークサーモンとか好みそうな食べ物を適当に見繕って来るな」
 最愛の人も心の底から楽しそうな笑みを浮かべて軽やかにビュッフェコーナーへと向かっている。
 祐樹は鞄の中に入れておいた小箱を念のために確かめた。今年のクリスマスは祐樹にとっても特別でそして格別だ。  
 だから、普段よりも値が張るものの、最愛の人の祐樹に対する気持ちをしっかりと受け取った証拠としても是非とも贈りたい物だった。
「祐樹、お待たせ」
 最愛の人は薔薇のように模ったスモークサーモンだけでなく、ローストビーフも同様にしてお皿に盛りつけている。
「いつもながら凝っていますね……。ローストビーフもそして、それに掛かっているグレイビーソースはいつもよりも赤みが強いみたいですね。ああ、この薔薇の赤に似せているのでしょうか……?」
 一階のロビーにも置いてあったけれども、それよりも小型のツリーは、そこかしこに置いてあった。 
 そして、その薔薇の色に寄せた色目にしてあるのだろう。
 何だか赤いビーフに更に紅い花弁が載っているような感じだった。
 スモークサーモンも鮮やかなオレンジ色の薔薇の花のようだったし。
「美味しそうだろう?」
 薄紅色の指が白いお皿を弾むようにリネンの掛かったテーブルに一切の危なげなく置いていく仕草も艶めいた彩りを放っている。
「貴方と一緒に召し上がれる物は何でも美味しいのですが、やはりこのホテルは格別ですからね」
 フルートグラスを空中に掲げて重ね合わせた。チリンと微かな音と細かくたった泡が繊細な雰囲気を増している。
「このシャンパンの味はスモークサーモンよりもローストビーフに合うかな……?」
 最愛の勧めに従ってローストビーフにナイフとフォークを使って口に入れると、どう調理しているのか肉汁が弾けるような感触だった。
「確かに、サーモンよりもローストビーフの強い味がこのシャンパンには合うと思います……」
 クリスマスディナーに合わせて少し遅めのチェックインだったので夜のとばりが降りている。
  大きな窓というかガラスの壁面にはライトアップされた大阪城や真下の高速道路を走る車のヘッドライトや色とりどりの看板が東洋の夜景だなと思ってしまう。
「ロンドンのシックな街並みに調和する白と黄色の照明も良いですが、こういうふうに多彩な色の夜景も素敵ですね」
 最愛の人はフルートグラスを細い指でくるくると回している。夜景を見るフリをしていてもガラスに映った祐樹を視界に捉えていて、切れ長の綺麗な目が凪いだような風情を湛えている。
「そうだな……。ロンドンか、懐かしいな……。あの時は本当にドキドキしていて、しかも祐樹に気取られないように必死だった……」
 最愛の人は祐樹の知る限り最も記憶力に長けているが、それでも何回も言うからにはよほど心に深く刻まれていて何度も発露をしたくなるのだろう。
「あの頃は私も舞い上がっていましたから……。っと、そろそろ予約していたレストランに降りて行きましょうか?」
 薄いけれども形の良い唇が最愛の人の隣に置いてある薔薇の花、といっても生花ではなくブリザードフラワーだかそういう物だろう。造花の安っぽさはなかった。その花よりも活き活きとした笑みを浮かべている。
「クリスマスディナー、とても楽しみだな……。いつも一緒に居るのはとても嬉しいのだけれども、改まった席で向かい合うというのは何だか新鮮な気持ちというか……」
 コンシェルジェを兼ねたスタッフに渡されたカードキーを持ち上げて、思いついたことが有った。
「少々お待ちくださいね。お手洗いに行って参ります」
 カードキーと鞄を持って立ち上がった。
「ああ、私は夜景とこのとても美味しいグレイビーソースを絡めたローストビーフを食べながらシャンパンを楽しんでいるので」
 祐樹はさほど記憶力に自信があるわけではないけれども、今回のソースはとても美味しい。もしかしてシェフだかコックが変わったのだろうか?
「お待たせいたしました。さて参りましょうか」




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