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「今年のツリーは薔薇なのだな……。綺麗だけれども折角の本物の(モミ)ノ木が隠れてしまっているのは何だか気の毒だ……」
 正面入り口の値段が付けることが出来ないとかいうペルシャ絨毯を軽やかな足取りで通り過ぎて、暖炉の有るロビーに二人して来た。今日は12月23日の土曜日で、クリスマスイブを二人で過ごそうと第二の愛の巣とも言うべきホテルにデートで来た。
 最愛の人は全体が真っ赤な薔薇に埋まっているツリーよりも綺麗な笑みを浮かべて見上げている。
 ツリーも大人の背丈の二倍くらいだが、その全てが薔薇の花というのも壮観だった。
 幸いなことに今年のクリスマスイブは日曜日なので、祐樹も大手を振って仕事を休むことが出来たので訪れたのだけれども、毎年変わるツリーは電飾とかモール、いやモールの年も有ったが、祐樹が幼い頃に実家で飾ってあったような安っぽさはない。
 だいたいがベルベットなどのリボンで、そのリボンの先にプレゼントが吊ってあるのも本場ほんばに相応しい飾りつけだった。
 しかし、今年は薔薇がメインテーマらしい。
「これはこれで綺麗ですね……」
 薔薇色の溜め息を零している最愛の人の横に立って眺めた。といっても彼の前髪から覗く秀でた額とか描いたように綺麗な眉や細い鼻梁や艶やかな唇を眺めていた、一緒にツリーを見るフリをして。
「そうだな……。赤はクリスマスカラーなので、こういう設えにしたのだろう。とても綺麗だ……」
 誰しも同じことを考えるのか、スマホで撮影している人が9割といった感じだ。
「薔薇のツリーを背景にした画像を撮りますか?」
 何だか愛おしむように見ている彼にそう言ってみた。
「いや、祐樹と二人で画像に納まりたいので今は良い」
 チェックイン時とランチタイムが重なっていてこのイギリスの貴族の邸宅をモデルにした静謐な空間にも多数の客がいる。
 といってもスーパーのバーゲンセールのような常軌を逸したお祭り騒ぎではないが。
「でしたら、クラブラウンジが閉まる時間を見計らって参りましょうか?その時間には確か最も営業時間が遅いバーも閉まっているので、宿泊客しか居なくなりますし」
 一応、公衆の面前なので自粛したけれども、この時期に泊まるカップルは部屋から閉じこもって出てこないだろうなと思った。
 祐樹も出来るならば外に出掛けず、二人きりの密室で思う存分、愛の交歓に惑溺して過ごしたいというのが本音だ。
 しかし、折角こんなに見事なツリーが有るのだから、夕食を摂った後にバーでゆっくりと過してからここに降りて来て暖炉の火に当たりながらフカフカの椅子に腰を掛けて薔薇のツリーを二人して眺めた後に、密室に入っても良いのではないかと。
「クラブフロアの宿泊です」
 通りすがったボーイさんに告げると「畏まりました」と気持ちのいい挨拶が返ってきた。
 このホテルはそういう点まで行き届いているので気に入っている。
「当ホテルにようこそいらっしゃいませ。ではチェックインのために、エレベーターにご案内させて頂きます。お荷物をお預かり致します」
 祐樹は経験がないので知らないが女性なら一泊どころか普段のバックといった大きさの物を最愛の人はボーイさんに渡している。
 女性と宿泊を含めて同行したのは、医局の慰安旅行で道後温泉に行った時のことだった。
そもそも祐樹は女性に興味が全く持てない人種なので、学生時代も付き合いで合コンには参加してはいた。
 しかし、それは「『幹事の女子大生が田中を是非連れてくるように』と言っていたので是非是非!何卒宜しくお願いだ!!」などと拝み倒されたからで、旅行などは大学に入って同じ専攻の同じ学年の人間と行ったくらいだった。
 その時参加した医局の紅一点の長岡先生の場合は、海外旅行ですか?とツッコミたくなるほどの荷物の多さだったので絶対に参考にならないし、財布が紛失したとかで幹事の祐樹は振り回された思い出がある。
 しかも、ピンヒールで転倒してストッキングを破いてしまって、財布が行方不明中だったせいもあり、長岡先生と最も親しい最愛の人がSAサービスエリアで女性の日常品にお金を立て替える羽目になり、うっとりと彼を見ていた店員さんがあからさまにガッカリした表情を浮かべていたらしい。
 そして「何故あの店員さんはあんな表情をしたのだろう?」的なことを真顔で聞かれて祐樹は可笑しいやら呆れるやら表情の選択に困った想い出がある。
 ただ、そのSAの喫煙エリアに吸いもしないタバコを買って最愛の人が来てくれて束の間のデート気分、しかも医局の喫煙者が来ないかどうかというハラハラ感も味わった。
 そんなセピア色に煌めく想起を感じながら祐樹はキッパリと言い切った。
「私のバッグは小さいですし、何よりも大切な物が入っているので一時いちじたりとも手放したくないのです。お気持ちは有り難いのですが……」
 最愛の人は、木目が綺麗なエレベーターの中で切れ長の目を瞠っている。
 今までの経験則からして、クリスマスプレゼントが入っているというのは当然推測しているだろう。
 しかし、付き合ってから生涯に亘るパートナーの誓いを交わしている今まで、プレゼントは多々して来た。その分のお返しも当然貰っているけれども。
 他人に絶対に持たせない物というのが気になったらしい。



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クリスマスシーズンの話を書きたくて、突発的に更新しました。
3話くらいで多分終わりますが、宜しければ読んで下さいませ。
ちなみに、薔薇のツリーは今年飾られています!!
体調が超低空飛行しているので、更新も多分マチマチです。済みません!!
では、読者の皆様も良いクリスマスを!!

 こうやまみか拝

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