腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2023年06月

気分は下剋上 ロンドン編 21 香川教授視点

 祐樹の話をしていると時間はあっという間に過ぎてしまうのだなと内心苦笑した。
 祐樹が億の一の確率で失敗したらというネガティブな思いは呉先生との会話でかなり薄まった。ただ心の中からすっかり消えてしまわないのは性格のせいだろう。
 呉先生の言う通り人に話すことで随分と楽になるのだなと――今までは祐樹以外の人間に心の奥底にある思いを全て吐露したことはなかった、そんなに濃い人間関係を構築してはいなかったので――しみじみと実感した。
「ああ、すみません。もうそんなに経ちましたか?
 ……この後黒木准教授とのアポイントメントが入っていまして。教えて下さって有難うございます。呉先生を介して森技官の良きアドバイザーになって下さい。私からもお願い致します」
 長岡先生が驚いたような表情を浮かべている。
「何か?」
 ネガティブな感情が表情に現れていたのだろうか?それとも祐樹が術者に選ばれたことへの喜びとか誇らしさが漏れてしまっていたのかも知れない。
「いえ、教授の体内時計は、どんな時計よりも正確さを誇りますでしょう?それが機能しないほど田中先生のことが気掛かりなのですわよね。
 分かりました。森技官とは私だけでお会いしますし、教授の手術(オペ)のリスケジュールも明日にでも試案を作ってメール致します。
 田中先生の優れた手技は岩松の病院でも評判になっておりました。教授もご存知のように優れた医師なら報酬にも糸目をつけないという方針で経営しておりますでしょう?その外科医達が脱帽するような手技は語り草になっておりますもの。ですからきっと田中先生は大丈夫だと確信しております。
 岩松の病院にもアメリカやフランスで執刀経験を積んだ医師も、そしてその中には国際公開手術の成功者すら()ります。その先生方が絶賛していたと聞いております。
 それに田中先生は物凄くポジティブな性格ですわよね。ですから外科医にとっての(ひのき)舞台でもきっと臆することなく挑めると思いますの。ご心配なさるお気持ちは痛いほど分かりますが、きっと大丈夫ですわ」
 確信に満ちた口調で断言されると――しかも二回も大丈夫と言われている――きっと祐樹なら成功してくれるという気持ちがますます大きくなった。
 以前は手術室が一室しか使えないなどで祐樹の才能が、くすんでは大変と思って自分が厚労省に行く(さい)の同行者として祐樹を選び、東京に行く日の午後、祐樹は岩松氏の病院で密かに執刀経験を積んでいた。
 それがそんなに評価されていたというのは初めて聞いたような気がする。祐樹は岩松氏の病院内で褒め言葉を聞いていたのかもしれないけれども、夜には厚労省の研究会やディスカッションなどに気を取られていて話しそびれたのかも知れない。
 祐樹が同行すると言ってくれたのは、一人で厚労省に行った時に当時の厚労省ナンバー2が何をとち狂ったのか自分みたいな人間にセクハラを仕掛けてきた。キスまでされたという事態に呆然となって京都へ帰って告白したら、祐樹が森技官に土下座をしようとしてまで森技官のアイデア通りに行動して倍返しをしてくれた過去がある。
 そういう不測の事態に備えてのボディガード役と祐樹は笑っていてくれた。
 そう言えば祐樹から愛情も、そして時間も沢山貰っているような気がする。
 祐樹はずっと自分にとっては太陽だ。初めてキャンパス内で祐樹を見た時にもそう感じた。
 しかし、恋人となって以来はその輝かしさが増したような気がする。
 燦々と浴びせられる祐樹の愛情を受け続けていたのだから、今度は祐樹にお返しする(ばん)だろう。
「森技官は祐樹とは仲の良い喧嘩友達でして、皮肉や毒舌を吐く時が有るかも知れません」
 森技官も当然、相手によって態度を変えるし、ТPОは弁えているはずなので長岡先生に対しては好戦的な言動はしないだろうが念のためだ。
「そんなのは全然平気ですわ。だって、教授もご覧になったバーキンヒマラヤを持って銀座などを歩いていますと、羨望の目で見られることもあります。
 しかし、中にはそれだけで腹が立つ(かた)もいらっしゃるみたいで、言いがかりと申しましょうか、いきなり喧嘩腰で話しかけて来る人も一定数は経験致しましたもの……。
 そういう方々を相手にしておりますので免疫が出来たと思っておりますのよ?」
 祐樹が値段を聞いて絶句していたバッグだ。
 確かに割と良いマンションを買うことの出来る金額をバッグにポンと払えるという御身分は周りから見て羨望と立腹の源なのだろうなとも思ってしまう。
 長岡先生は医師としての給料の他に実家からの仕送りを受けているし、婚約者の岩松氏も太っ腹なのでそういう暮らしが出来る。
 ただ、それは大前提として、内科の内田教授が相談するほど優秀な内科医になるための努力とか勉強の成果でもあった。
「では宜しくお願い致します」
 すっかり冷めたコーヒーを飲み干してキッチンスペースに二客運んで手早く洗って水切りラックの上に置いてから部屋を辞去した。
 少しでも内田教授の医局員の手間を省きたかったし、快く頼みを引き受けてくれた長岡先生への感謝の意味も込めて。




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気分は下剋上 ロンドン編 23

「分かりました」
 黒木准教授の後に続いて医局を出ようとすると皆が一斉に近づいて来て、肩や背中をバンバンと叩いた。若干は痛さも感じたのだけれども、しかし、そのエールにも胸が熱くなった。
「いやあ、香川教授の時には何だか『雲の上の話』といった感じでしたが、田中先生が推薦されたという点は自分のことのように嬉しいです。
 それにしても、田中先生が心臓外科医学会の理事になられましたよね。その大抜擢に内心驚いていましたが、もしかしたら今回の件と何か関係があるのかも知れませんよね」
 え?と思った。たまたまホワイトデーのデートに訪れた第二の愛の巣とも言うべきホテルの中華レストランで心臓外科医学会の二次会と遭遇してしまった。
 その勢いのまま理事になってしまったのも確かだ。
 あの時のデートを思い返してみたけれども最愛の人は中華レストラン「(シャン)(タオ)」に積極的に行こうとはしていなかった。
 クラブラウンジで中華料理がなかったことから祐樹が積極的に誘っただけだ。
 それにバレンタインデーのお返しに精緻なレースが施されたシルクのランジェリーを贈ろうとホテルの予約をしたのも他ならぬ祐樹自身で、最愛の人とは何の相談もしていない。
 故に、その日、あの時間に「香桃」に行くことは最愛の人の関与はゼロだった。
 ただ、理事になるという議題が出されていたらしいのであの日に言われなくとももしかしたら後で知らせが来たという流れならば、最愛の人がどこに居ようと関係ないという話にはなるのだけれども……?
「いえ、黒木准教授を差し置いてあのようなポジションに就いたことを再度ですがお詫び致したく思います……」
 理事職は原則として教授、例外として准教授が一人といった構成になっていた。だから心臓外科医としては一介の医局員に過ぎない祐樹などが本来は就くことは出来ないハズだったのだけれども。
 しかもその上、黒木准教授は理事ですらないので、思いっきり飛び越した形になってしまっている。その非礼を詫びに行ったが念のために二回謝った。
 黒木准教授はからりとした笑顔で祐樹を見上げている。
「いえ、外科医の本領は執刀ですから。
 それに……。まあ、この話は私の部屋に入ってからお話しします。
 とにかく私は後進を育てるのが自らに課した責務なのでお気になさらず」
 行き交う医療従事者の会釈に応えながらエレベーターに乗った。准教授の個室は教授執務階の一階下になる。祐樹がパネルを押すと「有難うございます」とだけ言って口をつぐんでいた。
 まあ、割と混んでいる箱なので――ちなみに英語ではバスケットではなくて「Car」と呼ばれている――人の耳を憚ったのだろう。
 この時間のエレベーターは各駅停車状態なので割と時間が掛かる。
 せっかちな性格だと自覚している祐樹一人なら階段を迷わず使うのだけれども黒木准教授が迷いのない足取りでエレベーターへと向かったのだから仕方がない。
 どこかの教授秘書と思しき妙齢の女性が「田中先生、こんにちは」と話し掛けてきた。ソツのない笑顔で「こんにちは」と返したが何だか心はロンドンに飛んでいるような高揚感だった。
「どうぞ」
 手慣れた感じでドアを開けて貰って中へと入った。当たり前だけれども黒木准教授の個室は最愛の人の個室よりも床面積は狭い。ただ、キチンと整理整頓されていて、実面積よりも広く感じる心地よい空間だった。
「本題に入る前ですが、ああ、そちらに掛けてください」
 許可を得てから座るというのは社会人としてのマナーだ。教授執務室に比較すると、こじんまりした応接スペースのソファーに座った。
「実は私の出身はまだ村と呼ばれている地域がたくさんある県なのです。そして町に唯一ある医院の跡取り息子は――皆がお坊ちゃまと呼んでいた人です――その県の医学部に受かったのですが、昔から勉強だけは良くできた私はK都大学医学部に合格しました。
 入学のために電車に乗る私を副知事とか市長など、普段は雲の上の人と思っていた人までが送りに来てくれました。『黒木君頑張れ』という横断幕も貼られましたしね。何でもその町でK大医学部に入ったのは初めてとかで……。そういう雲の上の人が万歳三唱で見送って下さって、父母も感動の涙を浮かべていたのが目に焼き付いています。
 そして、大学病院で准教授まで昇った私は郷里に帰ると大歓迎されるようになりました……」
 話の意外さに思わず目を見開いてしまった。
 大学時代以降、祐樹の周りには恵まれた成育歴を持つ人間が多いので黒木准教授もてっきりそちら側に居ると思い込んでいた。
「そうだったのですか……」
 祐樹は日本海側ではあったけれども一応京都府でそんな暖かな送別は受けなかった。京都に向かう時には母が見送ってくれた程度だ。察するに更に田舎なのだろう。
「この話をしたのは香川教授と田中先生だけなのです。何だか話したくなる雰囲気を二人ともお持ちのようでして……」
 それは……?




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色々仕事が立て込んでいまして、更新する時間がなかなか取れずでして、本当に申し訳なく思います。
読者様にはご理解とご寛恕をお願いいたします。
 こうやまみか拝

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気分は下剋上 離宮デート 63

「具体的にはどういうことですか?」
 興味津々で聞いてみた。
 祐樹だって色々な患者さんの主治医を務める関係上――救急救命室では患者さんと話すことはまずない――話のネタの抽斗(ひきだし)は多い方が望ましい。
 それよりも普段以上にいつもよりも饒舌な最愛の人の蘊蓄(トリビア)を聞くものとても楽しい。
 それに「帝国ホテルに負けない」と紹介してくれた山科さんが豪語するだけあってソースもお皿に一滴すら残さずパンに付けて食べてしまいそうなほど美味だし、実際肉料理のソースも皮はパリパリ、中はふんわりとしたフランスパンとの相性は抜群だった。
「光源氏は禁忌(タブー)を犯すことばかりしているけれども、東宮(とうぐう)と死別した六条御息所の場合は男性を通わせることも可能で元妃としてもちやほやされていたし、そしてその美貌や歌の才能も相俟って上級貴族の若者の憧れの的だった。
 その次期天皇である東宮だった人は桐壺帝の兄に当たる人だった。その兄が亡くなった――いや崩御(ほうぎょ)と言うべきかもしれないが――ただ、光源氏の父の桐壺帝が天皇位に就いて弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)との間に一子を儲けている。
 六条御息所が『(さか)()』の巻では16歳で東宮妃となり20歳で東宮と死別したと書かれていて、30歳で光源氏と別れたと書いてある。
 『賢木』当時の光源氏の年齢は23歳で、桐壺帝は絶対に即位23年以上になるだろう?それに弘徽殿女御とも既に男皇子も居たので即位して25年以上が経っている。
 しかし、その東宮がそれまでご存命ならば桐壺帝の即位はもっと遅れたはずだ。
 仮に25年前に帝位に就いていた桐壺帝が居るとその妃も20歳プラス25年だから最低45歳になっていたはずで、辻褄が合わない。
 今の時代だったら45歳でも女優さんを始めとして綺麗な人は山ほどいるけれども、平安時代の貴族の平均寿命は男性が35歳で女性が27歳だった」
 成る程……と頷きながら前菜のスモークサーモンのミルフィーユを口の中に入れた。
 スモークサーモンの濃厚な味とレモンの酸味が本当にスモークサーモン以上の美味しさで、一瞬言葉を失った。
「このミルフィーユ、とても美味しいです。スモークサーモンをギュッと濃縮した味わいと言いますか……」
 最愛の人は興味深そうな笑みを浮かべて銀のフォークで刺して薄紅色の唇に運んで一口噛むと大輪の花のような笑顔がお日様の光を浴びたような風情になった。
「本当だ……とても美味しい……」
 口の中で重層的に広がるサーモンとレモンの味を楽しんでいる雰囲気だ。
 蝋燭の光とシャンデリアが――といっても第二の愛の巣とも言うべきホテルのような豪華な煌びやかさはないのだけれど――最愛の人を優しく照らしている。
「27歳が平均寿命ですか……。まあ、幼子(おさなご)が亡くなる率も物凄く高い時代ですよね。女性の場合結婚も早かったでしょうし、お産の時に亡くなる確率も高かった時代ですよね。
 それを考慮しても45歳というのは老人の範疇ですよね……。貴公子が皆憧れたという六条御息所という女性が老婆では物語として成り立たなくなりますね。
 確かに齟齬をきたしています……」
 前菜のお皿にはもう一個ずつスモークサーモンのミルフィーユが載っていたのでワインと共に楽しんだ。今後患者さんから「源氏物語」の話題を振って来た時にはこの話をネタにしよう。
「お産の時に亡くなる可能性が高かった時代だったという側面があるけれども、平安時代の貴族は食に関して全く拘りを持っていなかった。
 ご飯と少々の副菜――魚の干物とかそういったものだったそうだ――が全てだったみたいだな。
 その証拠に『源氏物語』を始めとするどの物語にも食事の描写は全くなくて、衣装の美しさとか趣味の良さ、和歌を書いた紙とその紙に付けられていた細かな心配りは微細に記している。
 『歴史書で読み解く死因』という本を読んだ覚えがあるのだけれども、道長は癌か糖尿病もしくはその両方で62歳という年齢で亡くなっている。当時の貴族としては長命な(ほう)だったその兄の道隆(みちたか)は――清少納言が仕えた定子の父だけれども――糖尿病で亡くなっている。43歳だった……。
 ちなみに道長のもう一人の兄の道兼は天然痘だと思しき病気で36歳だったな、亡くなったのは……」
 食事中に死を話題にするのは――ちなみに天然痘は現在根絶した病だけれども、皮膚は赤く爛れたり発疹が出来たりして普通の人間だと見るだけでも恐怖を感じるらしい。祐樹も医学史の講義で症状が出た画像を見せられた覚えが有って、眼科志望の女の子が「トラウマになる」と真っ青になっていたのが印象に残っている――避けるという不文律があるらしいけれども、最愛の人と祐樹にとっては普通(・・)の会話だ。
 天然痘は九州経由、つまりは唐の国と呼ばれた中国から入ってきて、最愛の人が今日明快に説明してくれたのだけれども、九州にある大宰府には菅原道真が永眠していることから「道真公の祟り」とされている致死率の高い病気なので当時は手の施しようがない。
 ただ、糖尿病は……?
 専門外なので良く知らないのだけれども、確か糖分を摂り過ぎたせいで起こるのではなかっただろうか。
 食に拘りがなかったらしい平安時代の貴族が糖分過多になるのは不思議だった。






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気分は下剋上 ロンドン編 20 香川教授視点

「そうですね。東京大空襲の時に建物が全て焼けて、しかも戦後は女性解放運動が重なって結局は再建出来なかったらしいですね。京都は空襲を受けなかったので、島原遊郭は残っています」
 そう言えば祐樹と行こうと約束していた。
 その日を個人的にはとても楽しみにしていたのだけれども、祐樹が国際的な心臓外科医として認められるか否かの瀬戸際だ。
 デートは何時(いつ)でも行くことが出来るけれども国際公開手術は一度きりしかない貴重な機会だ。
 どちらが優先順位の高いものかという点は言うまでもない。
 また祐樹を始めとする内科の内田教授・小児科の浜田教授との呑み会では鬼退治アニメの話や「呪いが廻る戦い」で盛り上がった。長岡先生の話ぶりでは全く興味がなさそうなのでそちらの話はスルーしよう。どんな番組を観ようが個人の自由だし。
「そうみたいですね。ですから外国の外科医の皆様は意外と京都がお気に入りですわ。ですから京都での日程を多くして自由な時間を取るのが良いかと思います。
 例えば百貨店巡りと島原遊郭などの日本文化を回るツアーや着物を買う組などに分かれて、臨機応変に対応すれば宜しいかと思います。
 ああ、不定愁訴外来の呉先生でしたわね。ラインを教えて貰えませんか?教授は田中先生のことで手一杯でしょうから」
 彼女は暖かい好意的な笑みを浮かべている。
「確かにそうですね。成功を信じたいとは思うのですが……」
 悲観的な性格は生まれつきで――といっても祐樹が傍にいてくれてかなりマシになったと自覚しているけれども――どうしてもネガティブな気持ちになってしまいがちになる。
「大丈夫だとは思うのですが、一応呉先生に聞いてみます。
 ご協力いただければ大変嬉しいです。世界の外科医が集まる催し物を日本で、それこそ国際公開手術みたいな物が開かれれば、我が医局も物凄く勉強になるので……。
 私のベルリンの時は有給休暇をもぎ取ってまで来てくれた祐樹ですが。何か?」
 長岡先生が驚いたように目を瞠っていたので不審に思った。
「……教授の笑顔が田中先生と仲睦まじくしていく過程で徐々に生気に満ちて来られたのは存じています。それでもそういう晴れやかそうな、そして瑞々しさに満ちた表情を拝見してあの()感じた私の勘のような物は当たったなと。いえ正確に申し上げるとあの夜の直感以上にお幸せそうで本当に何よりですわ。
 今の笑顔などはアメリカ時代と比較したらそれこそ天と地ほど異なりますもの」
 そんな嬉しそうな顔をしているのだろうか……。ただ最も自分の傍に居てくれた彼女なのできっとそういう感想は事実なのだろう。
「あの夜ですか……?ちなみにどんなふうに感じられたのですか?」
 呉先生にラインを送る手を止めて聞いてみた。長岡先生は悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「この人なら、教授をきっと幸せにしてくれる、と」
 薄いピンクに彩られた唇から重々しい声が発せられた。
 多分あの夜というのは、長岡先生が祐樹と自分のキスシーンを偶然に見た日だろう。
 そして彼女の慧眼はまさしく正しかったと感心してしまった。女性の勘というものだろうか?
「はい。私生活は物凄く幸せです。
 しかし、今回の国際公開手術のことを考えると居ても立っても居られない気持ちでして」
 長岡先生は深く頷いている。
「それは人間、いえ恋人として当たり前ですわ。
 それはそうと、教授は田中先生の手術(オペ)をその目でご覧になりたいのでしょう?」
 慈しむような笑みが印象的だった。
「はい、出来れば……なのですが。ただ、私の手術の予定も(つま)っていますので……。何もかも放り捨てて行きたいのが本音ですが、そう出来ないのが歯がゆいです」
 長岡先生は晴れやかな笑みを浮かべている。
「教授の手術のリスケジュールが必要ですわね。田中先生も出来れば見て欲しいとお思いになるでしょうし。教授も田中先生がベルリンに応援に来て下さった時にきっと物凄く嬉しかったと思いますの。今度は逆になりますものね。
 私もこれでやっと兄とも勝手に思っている教授を幸せにして下さった田中先生にご恩返しが出来るかと思いますと、精いっぱいご協力を致しますので。
 ああ、日本で国際公開手術のような催し物の話でしたわね。すみません、話を逸らしてしまって。
 つまりアメリカとかヨーロッパで開催されると、医局の先生達が見学出来ないですものね。
 しかし、京都で開かれた場合は時間が許す限り見学出来ますものね。そちらも是非実現出来るように私も出来る限りお手伝いを致しますわ」
 呉先生からの返信が来た。
「長岡先生と是非お話ししたいそうです。出来れば三人で。ではラインIDをお教え致しますね。後は宜しくお願い致します」
 長岡先生もスマートフォンを取り出して華奢な指で操作している。
「手術のリスケジューリングの件は何卒宜しくお願い致します。ただ、直前までは本当に行けるかどうか分からないので祐樹には内緒にしておく積りですので……」
 勘の良い彼女なら大丈夫だとは思ったのだけれども、一応念を押すことにした。
「それはお約束致します。あ、呉先生から返信が参りました。ライングループに招待いたしたいところですけれども、教授はきっとそれどころではないので今回は見送りますね。
 ……あの、30分は経ったと思いますが、教授は大丈夫なのですか?」
 長岡先生が心配そうに聞いてきた。





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気分は下剋上 離宮デート 62

 何しろ、病を得たと分かったら医師よりも先に――昔は薬を投じる内科医しかいなかったと記憶している――陰陽師(おんみょうじ)とか僧侶に加持(かじ)祈祷(きとう)を頼んでいた時代だ。
「そうなのですね。ただ、陰陽師とか僧侶だって天皇家とか摂関家のような名門の家の軋轢(あつれき)とか内紛(ないふん)は噂として知る機会も有るでしょうし、それらしいことを言ったら信じてしまいますよね。
 『やむごとなし』は『高貴な』という意味と『捨てておけない』という意味が有りますよね。
 高貴な家というのはいつの時代も注目されるのでしょうね。道長の父の妻の一人も……」
 えっと、誰が何を書いたのか咄嗟には思い出せない。
 広大な庭園、しかも歴史の重みを感じる空間を最愛の人と散策した心地よい疲れがワインの酔いに作用しているのかも知れない。
 酩酊というほどではないものの、普段よりも頭が回っていないのは事実だった。
「ああ、それは多分『蜻蛉(かげろう)日記』だろう。
 紫式部とか清少納言と同じく国司階級という貴族としては中流の家に生まれた藤原道綱の母が書いた日記だ。
 和歌の才能と美貌で――といっても当時の美人の条件と今とでは全く異なるのだけれども――道長の父でもあった兼家が一時通った女性だった。
 女房として宮中に出仕している女性以外は屋敷の中しか知らないというのは高校時代の私にとって衝撃だったな……」
 薄紅色の細く長い指が舌平目のポワレのソースを香ばしく焼かれたパンで掬い取って艶やかに煌めく唇に運びながら最愛の人が言葉を紡いでいる。
 確かにその通りだなと祐樹も苦笑を漏らしながらソースを絡めたパンを口に運びワインを呑むと相乗効果でより一層美味しい。
「私も『世の中』という単語が『男女の仲』という意味だと書いてあった時には驚きました。それに来るか来ないかも分からない男性をひたすら待つ女性はある意味気の毒でならなかったです。
 多分『源氏物語』だったと思いますが、宇治の(なかの)(きみ)と呼ばれる女性が光源氏の孫にあたる匂宮(におうのみや)の本宅に迎え入れられる時に初めて、牛車での旅を経験して『こんなに遠いのだったら匂宮がなかなかいらっしゃることが出来ないのも納得した』というような文面が有って逆に驚きました。
 確か宇治十帖の中で唯一幸せになった女性でしたよね。
 それはともかく、道綱の母も身分が異なる摂関家のほぼトップの男性と男女の仲になって、そういう他人から見れば幸運な身の上でも実際はこんなに辛いとか色々書いていましたよね。
 確かに『やむごとなき』人と子供まで儲けてもずっと待つとか、色々なネットワークを持つ使用人から夫が今どこそこの女の元に通っているという伝聞を聞くのは気持ちが引き裂かれるほどだとか書いてありましたよね。
 当代一の夫を持っていても、実際はこんな感じだと赤裸々に綴っていましたよね。
 まあ、屋敷の中でずっと待っているなんて、私だったら耐えられないと思います。
 あ、有難うございます」
 祐樹の言葉に一々頷きながら聞いていた最愛の人が空になったワイングラスにワインを満たしてくれる。
 そのボトルを彼の手から受け取って注ぎ返した。
「有難う。こんなに重厚で美味しいソースはなかなか食べることが出来ないな。
 それに祐樹と一緒に食べているからだと思うのだけれども、物凄く幸せだ……。幸せ過ぎて頭の中がふわふわしている。今日は他人の目も全く気にせずに祐樹と二人きりの時間が多かったせいだろうな……。
 確かに平安時代の女性達は――まあ、字が書けない庶民の生活などは知るべくもないのだけれども――使用人たちとか文通している人としか接触がなかったし、夫の訪れを待つだけというのはある意味地獄だと思った。
 正式な夫人として認められた『北の方』だとしても、夫がどこかの女性の元に行ってしまうという可能性も多々有っただろうし。
 屋敷に籠っている生活で時間潰しがてら日記や物語を書くことが出来るのはある意味救済の時間だったと思う。紫式部も夫だった人が亡くなった時期に『源氏物語』を書き始めたという説もあるし、絶好の気晴らしだったのだろう。
 逆にそういう気晴らしを持っていない人が生霊(いきりょう)になってしまうのだろうな」
 薄紅色の唇が艶やかに言葉を紡いている。
「ああ『源氏物語』に出て来る六条(ろくじょう)御息所(みやすどころ)ですか。元東宮のお妃として有名ですが、その気位の高さもあって思い詰めた挙句に生霊になってしまっていますね」
 ソースの美味さに手が止まらなくなってパンを駕籠から二つ取って片方を隣に座っている人に手渡した。
「六条御息所に関しては辻褄の合わない点があって……」
 薄紅色の指で祐樹から渡されたパンをソースに絡めている仕草()絶品だった。
 ……それにしても辻褄の合わないとはどういうことだろう?





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