腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2022年12月

気分は下剋上 ゆく年くる年 1

 予めイメージしていた執刀の手順――こういうイメージトレーニングが重要だと教えてくれたのは言うまでもなく最愛の人だ――よりもスムーズに手術(オペ)は終了した。
「お疲れ様です。皆様がお気づきの点が有りましたら是非ともお教え下さい」
 第一助手から順番に表情を見て確かめていく。手術スタッフには技師も看護師も含まれている。その全員の表情を確かめた。
 かつては最愛の人の第一助手を務めていた時には最愛の人が祐樹の眼差しで手技の出来を確かめていた気持ちが痛いほど分かった。
 執刀医は確かに外科医なら誰でも羨むポジションだが、手術の全責任を負うし、手技の出来は遠慮して言わないのが病院の不文律だ。
 だから最愛の人は祐樹の目を見て自分の手技の出来を確かめていたのだろう。
 医師専用の手術控室に入って術着を脱いでランドリーボックスに入れる。ご家庭用の洗濯機ではなくて手術中に飛び散った菌やカビの胞子まで根こそぎ除去する必要のあるものは100%対応可能な特別な洗濯の機械だ。かつて術着は使い捨てだったらしいが、世の風潮が再利用出来る物はなるべくそうした方が良いという雰囲気に変わっていったのを受けて経費節減を呪文のように唱えている事務局長も渋々認めた。この病院の面子(めんつ)に関わるとして分厚い経費の壁を突破した一例だ。
 シャワーを浴びて個室から出ると「いの一番」に指輪を付けた。クリスマスプレゼントとして最愛の人が贈ってくれたのだから当然だ。
 着衣を纏っていると「田中先生もいよいよ年貢の納め時だなぁ……。バリキャリの商社レディはプライドも高いし尻に敷かれるのが目に見えているな……」隣のロッカーで着替えている柏木先生が何だか同病相憐れむといった感じで話しかけて来た。
 柏木先生の今の奥さんは手術室の敏腕ナースだが、共著の本を出した記念のサイン会に来てくれた時には完全に彼女が主導権を握っていたので家でもそうなのだろう。
「それが、彼女が海外駐留員に選ばれまして……。数年は帰って来られないのです。婚約の前渡しという感じで指輪を交換しただけですよ……」
 不幸中の幸いというか祐樹が女性(むし)()けに贈った最愛の人の指輪とはデザインが異なっているので――ちなみに祐樹も最愛の人が喜ぶので同じデザインの物を持っているがつけたことはない――怪しむ者など居ないだろう。それにブランドに詳しい看護師からは「エルメスですよね!?」と騒がれた。
「そうなのか?遠距離恋愛は割と聞いたことがあるが、海外と流石は田中先生だ」
 柏木先生の無駄口を聞き流してスマホを確認した。
「差し入れのお弁当は来ていないが、至急相談したいことがあるので申し訳ないが執務室に来てくれないか。私一人では心もとないので」
 ラインが入っていた。最愛の人と向かい合って一流の料亭やホテルの特別メニューを食するのも確かに楽しみではある。
 それは認めるが、別に昼食のせいで執務室に行っているわけではなくて、最愛の人の顔を見たいのが一番の理由だ。二人の認識にズレがあるなと苦笑して「了解しました」と送信したら即座に既読が付いた。
 「相談したいこと」が何を指すのか全く分からないが祐樹よりも早く手術室を後にして執務室に戻った最愛の人が他の事務仕事を放置してスマホを見ている点が気になった。
「田中です。お呼びにより参上致しました」
 ランチタイムは教授執務階だけに外に食事に出る気分になった教授とか秘書などが歩いているので室内に入るまでは油断は出来ない。
「どうぞ……」
 ノックに応えた声も普段の怜悧さではなくて何だか憂いを帯びているようだった。ただ、最愛の人の手術は相変わらず見事だったと第一助手を務めていた久米先生が様子見に寄った医局で言っていた。
 だから仕事上の相談ではなくてプライベートなことなのだろう、多分。
 ドアを開けると応接机の上には教授用にと調理された幕の内弁当とお味噌汁、そして秘書が淹れてくれたと思しきお茶が並んでいた。最愛の人がいくら患者さんの希望の光でも毎日豪華なお弁当が届くわけではないので用意してくれたのだろう。
 ただ、執務用のデスクに座った最愛の人は白皙の顔が強張っている。
「私に相談したいことというのは何ですか?」
 彼がこんなに深刻な表情を浮かべているのを見たことがないような気がする。
 かつて厚労省のナンバー2に唇を奪われた時は深刻というよりも取り乱している感じの方が強かったし。
 ただ、そんな精神状態でご飯を食べても美味しくないだろうし先に話を聞くことにした。
「これを見てくれ……」
 白くしなやかな指が微かに震えてスマホを祐樹へと差し出した。受け取った時には手が汗に濡れている。言うまでもなく手からの発汗は精神的なことが原因だ。
「ああ、母からですか?え『聡さんに重大な話が有ります。お昼休みにでも携帯の(ほう)に掛けて良いですか』か……」
 実母だけに重大な話とやらが気になったがラインのタイムスタンプ(?)は九時十六分だった。緊急の用事ならばもしかしたら通じるかも知れないと思って即座に掛けてくるだろう。
「重大な話……。安定していた容態が悪化したとか……。祐樹との仲を認めないとか……」
 心配性かつ悲観的な恋人を持つと大変だなと微笑ましく思ってしまった。
「救急車で運ばれたら一人息子である私に第一報が搬送された病院から連絡が有りますよ。ちなみにそんなのは一切ありませんでした。次に母は私に『聡さんと別れるなら勘当するからね』と低めな声で脅されています。
 実の息子よりも可愛がっている上に、貴方も気を遣い過ぎるほど母を大切にして下さっていますよね。ですから有り得ないと思いますが……」
 祐樹の言葉が進むにつれて次第に青みの帯びた肌が白くなっていく。
「私一人では上手く対処出来ないと思って祐樹に来て貰ったのだが……」
 そういう点が祐樹の少ないと自覚している庇護欲をそそるし愛おしいが。
「どうせ今頃は家で昼食を食べながらテレビでも観ているのでしょう。こちらから掛けますね?」
 最愛の人のスマホは祐樹が持っていたが、そのスマホを時限爆弾のように見つめている。





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気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 89

「謝って欲しいわけでは全くないです。貴方の笑顔を拝見するだけで一晩の疲労など吹っ飛んでしまいます。それに私が好きでしていることなので……。それはそうと、夫婦で共有出来ない類いの問題は愛人の西ケ花桃子さん関係でしょうか?」
 仮の話として祐樹の浮気を出したことからの連想だった。宥めるようなキスを終えて本題に入ることにする。
 西ケ花さん以外にも野上さんにまで性行為を強いた長楽寺氏は歳に似合わず精力的だ。人としてはどうかと思うものの、まあ、そういう人だからこそ会社を経営出来るのかも知れないが。
「二年前といえば西ケ花さんと愛人関係にあったのだろう……。彼女の処世術めいたものは『自分を高く評価してくれる男性が現れたらあっさりそちらに乗り換える』というのが有る気はするけれども……。亡くなるまで愛人関係を続けていたのだから更に良い条件で彼女の面倒を見る男性は現れなかったのではないかと推察出来るな……」
 最愛の人も先ほどの悲しみの光は消え失せた怜悧な眼差しで言葉を紡いでいる。
 祐樹が念押しした効果もあったのかも知れないけれど、気持ちの切り替えが早いのが外科医としての適性で最愛の人は充分以上に持ち合わせている。
「確かにこの不景気な時代にあれほどの好待遇で面倒を見ることが出来る男性は限られていますし、昨日森技官の協力を要請した時に『ITベンチャー企業の経営者か怪しげな通販とか情報商材を売って儲けている会社の社長を演じる』とか言っていましたよね。
 雑誌の露出を見る限り、そういう人って皆若いというイメージが有ります。若い男性なら年下の女性に目が向きがちですから、彼女の場合年齢制限に引っ掛かってパスされてしまう可能性の方が高いです」
 最愛の人や祐樹のような少数派の性的嗜好の持ち主の場合は「年寄りが好き」とか「体重100キロ以上ではないと恋愛対象からは外れる」などを公言している人は一定数存在する。かつては行きつけだったゲイバー「グレイス」でもそういう趣味の人は祐樹など眼中にないといった感じで逆に清々しさを覚えた記憶が微かに残っている。どんな人だったか顔は覚えていないものの。
 その点異性愛者は若いとか綺麗とかに価値を見出す人の方が圧倒的なような気がする。男性が女性に若さを求めるのは本能的に「子供を産めるか」と判別しているからだという生物学者の学説を読んだ覚えが有る。自分の遺伝子を残すために卵子の劣化していない状態の人とそういう関係になりがちだとか書いてあったような。
 その点同性愛者は子供を性行為によって作ることが出来ないので若さはそれほど重要な因子ではないのかも知れない。
「確かに男性は若い女性が好きだからな……幾つになっても……」
 最愛の人がやや呆れたような表情を浮かべているのは妙齢の美人秘書を取っ替え引っ替えしている斎藤病院長や教授達のことを脳裏に描いているのかなと思う。
 ただ、病院内のある程度のポジションに居る医師達がウワサをしているような「特別な関係」には少なくとも斎藤病院長は結んでいないと祐樹は判断していたが。
 斎藤病院長は豪放(ごうほう)磊落(らいらく)に見えていても「自分の軽率な行動」ごときで病院長の座から失脚するようなバカな真似はしない人間だと思っている。それに医学部長ではなくて大学のトップの学長の選挙を控えた身の上なので、妻帯者の下半身ネタは格好のスキャンダルとなって積年のライバルでもある法学部長に利することくらいは即座に分かるだろうし。魑魅魍魎の跋扈(ばっこ)する大学病院で腹黒タヌキと伊達に言われているわけでもない。
「そうですね。共有出来ない問題の二番目は直哉氏との確執でしょうか……。佳世さんは直哉さんの考え方も分かると言っていらしたので完全同意は得られないでしょうから。……あのう、貴方と佳世さんが話しておられた株式の保有パーセンテージの問題が全く分からなかったのです。教えて頂いても良いですか?」
 最愛の人と付き合うようになって祐樹が影響を受けたなと思ったことの一つに分からないことは素直に分からないと言って相手に説明を求める点だった。
 心臓外科のことで無知な点が有った場合は物凄く恥ずかしいが、専門外のことは知らなくて当然だという態度で向き合えるようになった。
 祐樹も人並み以上のプライドは持ち合わせているし、その矜持(きょうじ)を保つために知らないことを知っているかのように振る舞っていた時期もあった。
 ただ、病院内のポジションが上がるにつれて投資話とか資産運用といった勧誘が増えてきて「先生ならばご存知だろうと思いますが」とか「先生にとっては常識だと存じますが」といった枕詞(まくらことば)的なモノから始まる勧誘トークで聞くに聞けなくなって損をしたという話をよく耳にするようになっていた。
 最愛の人は富裕層の元患者さんから信頼出来るPB(プライベートバンク)を紹介してもらって全て運用は任せていると聞いている。そして資産運用報告書の中で分からないことが有れば電話して聞いているとも。そういう謙虚かつ熱心な姿勢は見習った方が良いだろうなと思ったからだ。
「ああ、その件か。会社の代表人事とか経営戦略とかの大切なことは株主総会の議決で決まる。ただ、普通の選挙と異なって投票権は一人につき一票ではなくて、一株につき一票なのだ。例えばだが、祐樹が100株保有していて私が50株だったとしよう。その場合、祐樹の意見や考えが私の2倍反映される」
 そういう仕組みだったのかと驚いた。
「つまり次期社長を決めるに当たって、ええと確か佳世さんが35%直哉さんは10%瑠璃子さんが5%持っているとのことなので半数の意見は決まっているということですか?」






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歳の瀬も押し迫って来ましたね。読者様もお忙しいと思います。やっと「クリスマス編」に<了>が打てたので、年越しとか初詣の話を今日から書いて行こうと思っています。読んで下されば嬉しいです。
コロナに加えてインフルエンザも流行っていますのでお身体くれぐれもご自愛ください。
   こうやまみか












































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気分は下剋上 クリスマス編 最終話

 弾んだ声と表情で聞いて来る最愛の人を惚れ惚れと見詰めてしまった。
「いえ、京都ではこんな雪は体験出来ないでしょうから、お連れしただけですよ。愛の交歓で身体が温まったとはいえ、急に冷やし過ぎるのも風邪の元だと思います。もう人が居ない時間だと思われますので一階のツリーを見に行きませんか?」
 バーも店仕舞いをしている時間だったし、一階のロビーにあるレストランも閉店時間が過ぎている。暖炉の火は多分消されているだろうが、その分ツリーは二人きりで眺めることが出来そうだ。
 暖炉の周りには色々な意匠を凝らした椅子がたくさん並べられている。一人用のも有れば二人掛けやそれ以上のも。多分ゲストの人数に合わせて使い勝手の良いように考えられているのだろう。
 案の定、ツリーが鎮座しているスペースに人は居なかったので、二人掛けの椅子に座った。クリスマスイブだからか暖炉の火は消されておらず、何だか貴族のお城のリビングルームに――生憎(あいにく)お貴族様の知り合いは居ないし、お屋敷に行ったこともないのであくまでイメージだが――居るような贅沢さだ。
「予想以上に良いクリスマスになりましたね。神様の祝福の証しに雪まで降ってきましたし……。それはそうと」
 最愛の人の左手首をそっと掴んで上着の袖を(めく)った。客室を出る前に見た物が幻でないのを確かめるために。
「シャワーを浴びた後にも着けて下さったのですね……」
 祐樹が贈ったバングルがワイシャツに半分隠れてはいたものの、黒く艶やかに光っている。
「祐樹が私のために選んでくれた物だろう。付け心地も抜群だし」
 最愛の人がシャツの袖についているボタンを外して宙にかざす。薄紅色の素肌にも黒い革と金色のカデナ(錠前)が良く似合っている。
「予想していた以上に似合っていますね。職場には流石に無理でしょうが……室内着の時に付けて下さればとても嬉しいです」
 最愛の人は怜悧さの中にも艶やかな笑みの花を浮かべて祐樹を見ている。
「このカデナ……。何だか祐樹に束縛されているようでとても幸せな気分になれる。私がベルリンの国際公開手術の術者として行って祐樹が見に来てくれたことが有っただろう?帰国直後に贈って貰ったリングは祐樹の持っている鍵でしか開かないので、絶対に二人きりの時にしか使えない――いや、それも嬉しいのだが――けれども、こちらの方は一人で外せるので、ずっと付けていたい。勿論プライベートの時間に限るけれども……」
 幸せ色に弾んでいる最愛の人の声が耳に心地よい。
「私こそ、この指輪は貴方からの束縛の(しるし)だと思ってずっと付けますね。最高のクリスマスプレゼントを有難うございました」
 最愛の人と部屋で激しい愛の交歓をする時間も勿論大切だしこの上もなく幸せな時間だけれども、こうして二人きりで暖炉の火や本格的なツリーを見ながら言葉を交わす時間も宝石のように貴重だ。
 この場所は高価な絨毯のせいで足音が聞こえないのでそっと辺りを見渡して人が居ないことを確かめていると、最愛の人が察した感じで瞳を閉じて祐樹の方へと顔を上げた。
 口づけを交わしていると暖炉の脇に置かれた大きな古時計が12時を告げる鐘の音を鳴らしている。
 その鐘の音は熱烈に愛し合う二人を祝福する教会の鐘の音のようだった、特別な日に鳴る。
「メリークリスマスというよりもハッピークリスマスと言った方が正確ですよね……」
 飽きることのない口づけを解いてそう告げてから、バングルのカデナ部分にも誓いのキスを落とした。
「そうだな……。ずっと祐樹とこうして居たい、な。それが私の幸福なのだから」
 最愛の人は祐樹の左手の薬指に唇を寄せながら極上の言葉を紡いでくれた。
「ずっと一緒に居ましょうね、死が二人を分かつとも……。あんなにタイミング良く天使の羽根を思わせる雪が降ったのも、きっと神様のご加護が有ったからですよ。そのご加護は一生続くと信じましょう」
 指輪に口づけた最愛の人は天使のような笑みを浮かべて祐樹を見上げている。
「そうだな。ずっと一緒にいよう……」
 荘厳さを宿した真剣な眼差しでそう告げると最愛の人が指を付け根まで絡めてきた。そして紅い花のような唇をあたかも儀式のような感じで祐樹の唇と重ねた。

    <了>





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気分は下剋上 クリスマス編 23

「祐樹!雪が降っている……!!」
 最愛の人のフルートグラスを持った薄紅色の指に祐樹が見惚れていると弾んだ声が空気を金色に染める感じで知らせてくれる。
「え?本当ですか?」
 祐樹もガラスに目を遣ると確かに牡丹雪が風に舞っている。しかもこのクラブラウンジは高層階にあるために風も強いし大阪の中心地だけに高層ビルも多くて風の吹き方が複雑なのだろう。
 大粒の牡丹雪が天使の羽根のように舞っているといった感じだ。降り積む雪という感じではなくて多数の天使が舞っていて、その羽根が羽ばたく度に抜けているような。
「この聖夜(イブ)に相応しいですね。確か聖書ではキリストの生誕を知った東方の三博士がお祝いに来たとかでしたよね?」
 アメリカで生活歴のある最愛の人の(ほう)がキリスト教のことも詳しいだろうと――何しろ患者さんはアメリカでも富裕層が多かったと聞いているし、アメリカのお金持ちはキリスト教徒が圧倒的に多いと何かで読んだ覚えが有る――聞いてみると案の定楽しそうに頷いている。
「東方の三賢人とも呼ばれているな。新約聖書によると星に導かれて幼子(おさなご)のイエスと聖母マリアの居る場所に着いて神の子を拝んだ後に乳香と(もつ)(やく)と黄金をそれぞれが贈ったとされている」
 最愛の人は祐樹の顔とガラスの外を交互に見ながら説明してくれた。
「星に導かれたというのはロマンテックで良いですが、――そしてベツレヘムに雪が降るかどうかはとんと存じませんけれど――この天使の羽根が宙を舞っている方が更にロマンテックですよね。多分お年寄りの東方の博士よりも天使が祝福に来たと書いてある方が物語的にも盛り上がるのではないでしょうか?」
 無神論者の二人だが常識程度の知識は持ち合わせている。特に最愛の人は。
「天使の記述が頻繁(ひんぱん)に現れるのは旧約聖書だし、新約聖書ではヨハネの黙示録に『神の審判が下る時に七人の天使がラッパを吹く』程度しか書かれていなかったような気がする。あまり詳しくはないのだけれども」
 最愛の人が上着に包まれた若干華奢な肩を(すく)めている。
 先ほどの愛の交歓の余韻は首筋とか頬は薄紅色に染まっている点と気怠く甘い香りが肢体全体から漂っているように感じる点だ。ただ薄紅色はアルコールで酔った場合でも――最愛の人も祐樹もアルコール分解酵素が日本人にしては多いので顔には出ない体質だがそんなことは他人には分からない――そうなる人も居るし、気怠さなども普段の彼を良く知っている人しか分からないだろう。
 この場に仲の良いケンカ友達とでも言うべき森技官などが居た場合は即座に見抜くだろうが、不定愁訴外来の呉先生と森技官のカップルは何となくケンタッキーのデリバリーを頼んで家でクリスマスイブを過ごしているような気がする。聞いたわけではないのであくまでもイメージだが。森技官と呉先生は吉野〇で牛丼を食べるデートとかを普段していると聞いていた。二人とも「幼い頃に食べさせて貰えなかったから」という理由でジャンクフードが好きだと聞いている。厚労省のキャリア官僚様が「ジャンクフードは健康に悪い」という省の注意喚起を無視しているのも彼らしいけれど。
「そうなのですね。私は聖書を読んだこともないもので……。ただ、最後の審判はともかく、ガラスの外の雪は天使の羽根が舞っているようでとても綺麗です。何だか二人で過ごす聖夜(イブ)に神様が贈ってくれたか祝福して下さったようにも思います。ホワイトクリスマスになるという予報は出ていなかったので、なおさら奇跡的なモノを感じます。ああ、そろそろラウンジも閉まる時間ですね……。シャンパンをもう一杯頼みますか?」
 人の少ないラウンジだったけれども、ぽつぽつとクラブラウンジから出ていく人たちが居て、その人たちも都会が織りなす雪景色を眺めてから各々(おのおの)の客室に戻っていく。
「いや、それよりも水が欲しい」
 愛の交歓で散々喘いだからのか最愛の人は唇に薄紅色の笑みを浮かべている。
「客室に帰る前に喫煙所に寄って良いですか?」
 煙草を吸う積りはなかったけれども、そう誘ってみた。
「こんなに雪が舞っていて、四方八方から冷たい雪が吹き付けて来たのは初めてだ……。雪国に来たみたいだし……、それに祐樹との愛の行為で火照った身体を心地よく冷やしてくれる」
 バーや鉄板料理のお店などは低層階にあって、夏の間はイギリスの貴族の館の庭園を模した場所でカクテルなどを楽しむ趣向になっている。その片隅に灰皿が置かれていることは当然把握していた。
 ガラスの外をあんなにも楽し気に眺めていた最愛の人なら神様の贈り物みたいな雪を実際に体験してみたいだろうなと思って誘ったのだけれども、祐樹の想像以上に喜んでくれていてとても満足だ。
 部屋で魅せてくれた妖艶さも捨て難いけれども無邪気で無垢な笑みを浮かべている最愛の人を眺めると心が暖かくなる。
「祐樹、煙草は吸わないのか?」





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気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 88

「私は祐樹とこういう行為をするのが至上の悦びなので……、祐樹が憂さ晴らしの積りでいてもそれは構わないのだけれど。野上さんは二年前、長楽寺氏に普段以上に関係を強いられたと言っていただろう?あれがずっと引っ掛かっていて。祐樹が太田夫人から受けたストレスは多分私などには想像も出来ないほどのダメージなのだろう?」
 最愛の人が真摯な光を放つ眼差しで祐樹を至近距離から射貫(いぬ)くようだった。
「呉先生にも言われましたが、ああいう症状の人と話すと心が疲弊していくのです……。危うい言動に振り回されて、平常心が保てなくなってしまいまして、情けない話ですけれど……」
 精神科には微塵も興味はなかったし必修科目に含まれていた精神科の講義には出ていたが睡魔に勝てなくてほとんどが睡眠学習だった。
 どうやらそのツケが回って来たのかも知れないなと笑ってしまった、祐樹自身の余りにも情けなさに。
「それは祐樹の精神が健全だからだろう。それに患者さんの話は親身に聞いてカルテに書いた後に、次の患者さんが入ってくるまでにはすっかり忘れ去るのがコツだと思うのだが……」
 図星を衝かれて頭を掻いてしまった。
「呉先生にも同じようなアドバイスを貰いました。停年までに改善されなかった場合、海の近くのクリニック経営では精神科だか心療内科は貴方にお任せ致します。それはそうと、どういう点が気になるのですか?」
 停年を迎えたら二人して海の近くの田舎町にクリニックを開いてのんびりと暮らすという未来予想図を描いていた。ただ、医学界の重鎮になっているハズの最愛の人がそういう暮らしが出来るのかなどは不明だったが。
「要するに愛の行為に耽ることで嫌なことを忘れたいという欲求がどの程度なのかは人によって異なるものの、それなりのストレスという負荷が掛かった状態に置かれた時だろう?長楽寺氏は息子の直哉さんと折り合いが悪くて後継者から外すという考えも持っていたのだから、そのお嫁さんの瑠璃子さんの流産がそれほどのストレスになっていたとは考え辛いと思うのだが?野上さんに執拗に性行為を強いるレベルに至っていなかったというか……」
 確かに佳世さんは残念がっていた感じだったが、故長楽寺氏がどう思っていたのかは口にしていなかった。もし本気で孫の顔が見たいと思っていて、それが残念な結果に終わったなら何かしらのことは言うだろうし、佳世さんも話してくれたように思う。
 それに「孫の顔が見ることが出来なくて残念」という思いが強かったとしても、それは佳世さんと同じ思いを共有出来る類いのことなので、野上さんに対して「憂さ晴らし」の必要はないようにも思える。
「そうですね。それは確かに。二年前に佳世さんとは共有出来ないストレスが有ったということでしょう……。具体的にそれが何なのかを突き止めなければならないですね……」
 最愛の人は愛の交歓の余韻を残した紅い首を優雅に傾げている。
「共有?それはどういうことなのだ?」
 頭の中で考えていたことを自己完結して話してしまった。最愛の人の場合医学的知識だけでなく法律や経済なども膨大に持ち合わせているものの――いやそのことは素直に尊敬しているが――人間関係構築能力は発展途上だ。それでも以前よりは他人を理解しようとしたり他人と共感しようとしたりと努力はしていることは見ていて分かるが、それでも苦手分野には変わりない。
「これは仮の話で、たとえ話ですからね!!」
 特に恋愛関係の話は悲観的に考える人だけに、先に念を押しておこう。
「例えば、私が執刀医を務める手術(オペ)でミスをしてしまったとします。その場合、貴方に相談して善後策を講じたり、何故そんなミスが起こったのかとか話し合ったりしますよね。そして落ち込んでいる私を慰めて下さるでしょう?」
 最愛の人は深く頷いている。
「以前、手術中に亡くなった患者さんが居ただろう?幸いにもそれまで術死ゼロだった私がどうして良いか分からなかったのを祐樹が死因を突き止めてくれた。そして私の責任ではなかったのだけれども、動揺して涙した私を黙って抱き締めてくれた……。あの時の安堵感は死ぬまで忘れないだろうな……」
 患者を三人殺して一人前の外科医だという先輩たちの言葉は――少なくとも祐樹の病院では外科医の共通認識になっている――最愛の人には当てはまっていない。
 祐樹の場合は執刀医を務めていた患者さんの命を奪ったことはないけれど、救急救命室では力及ばず亡くなった患者さんは10人を超えたところで数えるのは止めている。
「そういう二人の間で共有出来ることは話し合ったり慰め合ったり出来ますよね?しかし、万が一、万が一ですからね!?私が浮気をして、そちらとトラブルになった場合は貴方に相談出来ない問題になります。貴方の真剣な愛情を踏みにじったことになりますから浮気を白状出来ないし、その相手が貴方に何を言って来るかなどは一人で悶々と解決策を考えて対処しないといけないですよね。いえ、絶対にそういうことは致しませんが」
 最愛の人が悲し気な光を放っているのを見て慌てて更に念を押した。
「例えばの話しなのだろう?祐樹がそういうことをしないと信じているというか祈っているというのが本音なのだが……」
 悲観的な考えが最愛の人の標準(デフォ)装備(ルト)なので、それを緩和したいと強く思っている。
「それは信じて貰うしかないですね……。言い訳を許して貰えるなら救急救命室の勤務が大体二時頃に終わって、そのまま病院で仮眠を取った(ほう)が時間のロスも防げますし、睡眠時間も増えます。しかし、短時間とはいえ貴方と同じベッドで眠って一緒に朝食を摂りたいという思いの(ほう)が勝って殆ど帰宅していますよね?」
 恩をきせる積りは毛頭なかったのだが話の流れでつい白状してしまった。
 最愛の人は驚いたように涼し気な目を大きく(みは)っている。
「そうか……。祐樹が帰って来てくれるのが嬉しくてそこで思考停止してしまっていたが、確かに祐樹には負担を掛けていたのだな……。それは本当にすま」
 紅色の唇が謝罪の言葉を紡ごうとするのをキスで止めた。






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