腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2022年10月

気分は下剋上 ハロウィン企画 17

「あ、田中先生お待ちいたしておりました。ハロウィン実行委員会会長を務めさせて頂いている中山と申します」

 きびきびとした足取りで近づいて来たナースに呼び止められた。ネームプレートには師長と書いてあった。

「中山師長どうか宜しくお願い致します。心臓外科の田中です。一応、浜田教授の説明はお聞き致していますし、練習もして参りましたが……、至らぬ点が有りましたらご指摘を宜しくお願い致します」

 「あの、支払わないとダメですか?」と聞きたいのをグッと我慢する。最愛の人とのデートならそれだけの金額を支払っても全く惜しくない。プレゼントも同様だが、祐樹は単に演じるだけのボランティアの積りだったし、素人(しろうと)とはいえ役者なのだから出演料(ギャラ)を貰いたいくらいだったので。

 ただ、病院でもかなりのお給料を貰っているという自覚もある。Aiセンター長の役職手当とか超過勤務手当とかで。だからあまりケチなことは聞きづらい。

「こちらこそ宜しくお願いします。田中先生はこちらにいらして下さい。ご案内致します」

 「やだ、ピッタリ」とか「田中先生がウチの科に」などとはしゃいだ小声が聞こえる。

 小児科の業務はどうなっているのだろう?と思ったが、良く考えなくても今は患者さんの食事の時間で配膳係が忙しいだけなのかと思う。

 小児科は子供たちの精神面も考慮したに違いない、幼稚園のような彩りに溢れていた。

 先ほどまでは機能性に特化した心臓外科に居たので何だか別世界に迷い込んだ気がする。

「病棟の入り口は凄い人でしたね?いつもこうではないのでしょう?」

 中山師長は我が意を得たりという雰囲気の笑みを浮かべていた。

「内田教授が効果的かつセンセーショナルな宣伝をして下さったお蔭です。毎年は小児科の先生がメインの囚人服とか吸血鬼に扮したり技師が大きなカボチャを被ったりして病棟を回ってお菓子を配っていました。

 ただ、長年ベッドに居る患者様もいらして『つまらない』とか『毎年同じ』との要望を浜田教授が汲んで下さって特別なイベントにしようとアンケートを取ったのです。

 気さくな教授として患者様もその保護者様にも大変ご好評な(かた)で……あ、勿論(もちろん)国内外から患者様が続々と手技を慕って押し寄せる香川教授は別格ですけれど」

 フォローの積りかそう付け加えてくれた彼女は祐樹の全身を品定めするように立ち止まって眺めている。

 小児科と心臓外科では患者様の求めるモノが違うことも承知の上だし、浜田教授の為人(ひととなり)は祐樹も好ましく思っていたので別にフォローしてもらわなくても大丈夫だったのだが。

「いえいえ、浜田教授の患者様に対する心遣いは凄いですよね。

 で、あの入り口の人だかりは一体……」

 そちらの方はまだ聞いていなかった。

「内田教授のお蔭もあって、お金を払ってでも参加したいという先生達が各科から押し寄せまして、有難いことです。経費として認められない物もありますでしょう?それに事務局の締め付けは厳しくなるばかりで……」

 先ほどの笑顔が(しぼ)むような溜め息だった。祐樹も「何でこれが経費と認められない!」とか「慰安旅行の補助金は!?」とか腹立たしく思っていたので思いっきり首肯(しゅこう)したい気持ちだった。

「それは同感です。しかし、5万円の参加費を払ってまで参加する先生方や技師達があんなにいらっしゃるのですか……?」

 お金の掛け方は人によっては様々だし、そのことに対して何も言う積りはない。ただ、コスプレをして五万円も取られるのは祐樹的にはかなり痛いような気がするのだが。

「浜田教授に直接申し込まれた先生達、後は内田教授からのリストに名前の載っている先生や技師の方からは徴収しないことになっています」

 祐樹は免除対象決定だ。ただ、趣味にバカほどお金を遣っていた――今はアクアマリン姫こと脳外科の新人ナースの岡田さんに厳しく止められていると聞いてはいる――久米先生はともかく、しっかり者の奥さんの尻に敷かれている柏木先生はお小遣い制だとか言っていた。確か奥さんはボーナスでシャネルのバックを買ったとか言っていたが、物として残るバッグとは異なってコスプレなどというモノに5万の出費を許すだろうかと、祐樹自身の心配はなくなった今は現金にも(おもんぱか)ってしまう。

「あのう、ウチの科の柏木先生と久米先生も参加希望していたと思うのですが、リストに載っていますか?」

 あれだけの人数で小児科病棟を回っていいのだろうか?とも思いながら聞いてみた。

「ご心配なく。全面協力をいち早く(おっしゃ)って下さった香川外科所属の皆さまからはお金は取らないようにと浜田教授が申しておりました。それに内田内科も同様です。

 ただ、田中先生もある程度はご存知でしょうが、毎年使いまわしが出来る吸血鬼とか囚人の服とは異なって今年きりですし、しかも人間ではなくて呪霊のコスプレとかで――ああ、香川外科の柏木先生がお知り合いの特殊メイクのプロまで紹介して下さって本当に有難うございます――色々コストが掛かりますし、アニメは旬のモノが目まぐるしく変わりますので……一回きりなのです。原価は内田教授が試算して下さってその上に必要なお金を乗せたモノを人数で割ったのですが、あんなにも集まって下さったので大黒字になりそうです」
 確かに去年の今頃は鬼退治のアニメの映画版が歴代興行収益だかを塗り替えそうだとか、抜いたとかいう報道がニュースにもなっていた。その後どうなったのか祐樹も知らない。アニメはまだ続いているのかとか、漫画本が何巻まで出ているとかを。そう考えると一年キリというのも尤もな話だった。

 そういえば最愛の人の執務室に寄った時に何か言っていたような気がする。他の話とかあの短時間でアニメを観たことなどに気を取られ過ぎていて話題が逸れてスルーしてしまった何かを。



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気分は下剋上<秋休み>29

「祐樹……車内の温度……高すぎないか……?」

 目的地に向かって車を走らせていると助手席の人がごく薄い紅色の顔で祐樹を見つめている。目論見が有ってこの気温設定にしたが最愛の人が疑問に思うのも尤もだ。祐樹だって汗ばむほどだし、それに普段はこんなに高くはしない。

「良いのです……。温度調節なら窓を開けてください……」

 最愛の人は怪訝そうに切れ長の瞳を大きく見開いて祐樹を見ていたが、祐樹が何も言わないと分かると窓の開閉スイッチを押している。

 羽織る物は持参しているが、それを着用されては祐樹が困る。

 普段なら一枚一枚を脱がす喜びが有るけれども、限られた空間しかない車内では(おの)ずと行動も制限される。

「この山です。聡を是非ともお連れしたかったのは」

 何の変哲もない、ただ高さは割と有る山の前でスマホを出して確かめてみた。何だか「隣のトト〇」が住んでいそうな感じの山で――まあ、車の音を(うるさ)く感じて引っ越しするような気もしたが――鬱蒼(うっそう)とした木々とギリギリ二車線の山道が見える路肩に停めた。

 街灯と表現するよりも蛍光灯といった感じの光しかない場所だった。

山道を車で攻略しようという人間は居ないらしくて他の車のヘッドライトの光はないし、田んぼと畑と思しき土地があるだけで、民家もなかった。ホテルの男性スタッフに教えて貰った後に祐樹も地図を拡大して家がないのは確かめてあった。こういう時にはグーグルマップはとても役立つツールだ。

 カーナビは車を買った時に付いて来たけれど、最近はスマホをナビ代わりに出来るスマホホルダーも売っている。ただ、祐樹は休日にしか乗らないし、車には付けていない。それほど高いモノではないが、不要なモノは買わない。その代金を節約(?)したら最愛の人の大好きなケーキを買えると思ってしまったし。

「ここか……。一体……え?」

 運転席から最愛の人へと顔を近づけてキスをした。先ほどのように唇に触れるだけの軽いキスではなくて、唇を舌で辿って半ば強引に口腔内に入って舌の付け根や先端といった感じやすい場所を重点的に愛する。同時に白いワイシャツの(ぼたん)を上から一つずつ外していって、滑らかな素肌の感触を味わいつつ胸の尖りを車内の空気に晒した。ただ、シートベルトに戒められた場所は当然触れない。

「聡の肢体は全部食べてしまいたいほど綺麗ですが、胸の尖りは私が愛するとルビーよりも紅く硬く、そして熱くなりますよね……」

 激しく絡み合った舌の余韻のように―-まるで舌を使って愛の行為をしているかのような感じだった。お互いの感じる箇所は二人とも当然把握していたし――お互いの唇に銀色の細い橋が架かっている。それを断ち切るのも惜しいような気がしたが、次のステップに進むためには()むを得ない。

 まだ薄い紅色の尖りを四本の指を使って強く早く愛してみた、石を磨くような感じで。

「あっ……祐樹っ……。もう片方もっ……。指で弾いて……欲しっ……」

 車内の空気までもが紅く染まっていきそうな吐息交じりの嬌声も艶っぽく濡れている。

 祐樹の指の動きで紅さを増した尖りのような空気が車内を愛の場所に塗り替えていくような気がする。

「シートベルトを外さないと流石に無理ですね。外して下さいますか?」

 カチッという音が車内に大きく響いたような気がした。最愛の人の熱い吐息と切れ切れの艶やかな声、右の尖りを四本の指で強く弾いた結果の汗に濡れた素肌と指が触れ合う音に混じって。

 正確にはエンジンの音も混じっているが、そういう雑音(ノイズ)は愛の行為に耽っていると全く聞こえなくなるほどに魅惑に満ちた肢体だったので。

「あっ……」

 薄紅色の肢体がヒクリと跳ねた。シートベルトの金具部分が尖りに当たったせいで。

 祐樹はその部分は敏感ではないが、シートベルトを外す(さい)の勢いの付いたベルトや金具がどの程度肌を刺激するかは知っている。服を着ていても、痛いとまでは行かないが最愛の人の尖りはただでさえ鋭敏になっているので些細な刺激でも貪欲に取り込むことも分かっていた。

「指が良いですか?それとも口で……?」

 汗で濡れている白いワイシャツを素肌から剥がしながら聞いてみた。薄紅ではなくて夜目にも輝くような紅色の素肌が瑞々しく薫るようだった。

「両方で……。ただ……」

 右の紅く硬い尖りを歯で挟んで頭を上下に動かし、もう片方は先端部分だけを指で転がした。
 熱と硬さを増して行くにつれて薔薇色の濡れた溜め息交じりの嬌声も高く甘く車内に響いて空気までも染めていくようだった。

「ただ……何ですか?」

 熱くて甘く蕩けた声が車内の空気を紅に染めていくようだった。

「ここが……祐樹の……お勧めの場所……なのか?」

 祐樹の指と口の動きに連動して高く低くなる声が壮絶な色香を放っている。

 確かに、この路肩部分が――これまでのドライブデートと比較しても――何の変哲もない場所だった。

 最愛の人は結ばれた最初の頃は愛の行為で理性を飛ばしていたが、馴染むにつれて理性が脳の片隅に宿り続けるようになった。

 そういう彼が不審に思うのも尤もだと思ってしまう。ただ、愛の行為の前菜ともいうべきこのドライブも必要不可欠だったが。


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気分は下剋上 二人がどうして探偵役? 35

 「トイレを借りるという口実で、灰皿に何を使っているか。ブランド物なのか空き缶なのかなど見て来て下さい。あと、キッチンの中の什器類、食器や調理用具がどの程度有るのかも確かめて下されば更に有難いです」

走り書きだったが読めれば充分だろうし、難しい漢字は書き慣れているのでそう苦でもない。祐樹の手元を見た最愛の人は眼差しで合図をしてくれて、すらりと立ち上がった。

「申し訳ありませんが、お手洗いをお借りしたいのですが……」

 西ケ花さんに近づくと見せかけてキッチンの内部を全部暗記しようとしているのだろう。普段でも無意識に全てを覚えている人だが、祐樹の指示通り完璧に近づけようとしてくれるハズだ。

「どうぞ。廊下右側の二番目のドアよ」

 西ケ花さんはさっきの「高校の時の授業参観を思い出す」発言のせいで媚びる気持ちが雲散霧消(うんさんむしょう)したのか冷たく事務的な口調だった。

 整った容姿のせいかと先ほどは思ったが、良く考えてみると――まあ、彼女に(やま)しい点がなければ長楽寺氏の遺産が入るのでその必要を感じてはいないのかも知れないかも知れないが――水商売の女性は男性の衣服を見ただけでおおよその値段も分かる特技を持っていると暇つぶしに読んだ本に書いてあったような記憶がある。

最愛の人は選ぶのが面倒という点と教授職に相応しい恰好という二点を満たすだけの理由でフランスの老舗ブランドで全身を固めている。その点祐樹は百貨店で適当に買ったスーツやネクタイなので価格差には格段の開きがある。容姿プラス金銭的余裕という点で西ケ花桃子さんが次のカモ……いやターゲットリストに加えようとしていたのかもしれないなとも推測出来る。何だか自宅で寛いでいるハズなのにフルメイクだし、体形の維持にも細心の注意を払っていそうだ。単なる習慣かも知れないが、4億5千万円が入り、こんな高級そうなマンションも――先ほどスマホで確認したがこの広さと立地なら億までは行かないにせよ5千万円では買えない――持っているものの、自分のお店を持ちたいとか考えているならカモ、いやパトロン選びは必須だろう。
 将来についてどう考えているか聞き出す必要が有るな……と思った。祐樹もドラマの中でしか知らないし、そのドラマがどの程度リアリティを持って描かれているかは分からない。ただ、水商売の聖地というか憧憬(しょうけい)羨望(せんぼう)の的である銀座にそれなりの規模のお店を開く開業資金は一億以上必要で、人件費とかのコストを考えるとお金などは(いく)らあってもまだまだ不安なのだろうし。

 最愛の人の姿がお手洗いのドアの中に消えたのを音で察して西ケ花さんに済まなそうな表情を向けた。

「申し訳ないです……上司があんな人で……。仕事は出来るのですが……」

 前半は方便で、後半は本当のことだ。それにキッチンの入り口付近では数秒立ち止まっていたので、内部の様子は全部暗記済みなことは確信している。

「あら、貴方……田中捜査官って言っていたかしら?そんなどこにでも売っているノートを使っているの?警察手帳にメモとかしないの?ドラマみたいに……?」

 祐樹のノートは先ほど買ったもので、確かにどこにでも売っている。内心ギクリとしたが表情には出さない。

「警察手帳ですか?ドラマでは良く使われていますよね。ただ、あんな小さい手帳に全てメモすることが出来るでしょうか?

 それに警察はいざ知らず、警察庁では皆がこういうノートとかタブレットを使っています。事件ごとに替えることが出来ますし、書ける容量も異なりますので」

 「警察もいざ知らず」と言ったが実際は「警察も警察庁も知らない」が正解だ。ただ、それなりの説得力は有ったらしく、西ケ花さんはおそらく煙草をもみ消す動作をしながら「ふうん」と言って頷いている。

「悪いけど、食後のコーヒー淹れて良いかしら?貴方方は要らないのでしょ?別に淹れて上げても良いのよ……?別に誰にも言わないし……」

 意外と気配りが出来るのだなと思った。ただ、水商売の女性は――しかも若さとバカさが取り柄な店もあるらしいが――咄嗟(とっさ)の機転とか気配りも必要だと何かで読んだ。

「いえ、本当に結構です。コーヒーでも煙草でもご自由になさってください」

 「女房が煩くてさ」とか言っている柏木先生のように、コンビニで袋詰めにされて売っていて、一杯ごとにお湯を注ぐヤツかと思いきやコーヒーに凝っている最愛の人や不定愁訴外来の呉先生のような本格的なモノを使って感じの音と気配だった。

 最愛の人がトイレから戻って来て席に座った。祐樹に眼差しで「全部見た」というほどの意味を伝えてくれた。

「マイセンですか?とても……良い趣味ですね」

 西ケ花さんが一人分のコーヒーをトレーに載せてこちらに歩んできたので嫌でもコーヒーカップは目に入った。

 最愛の人も食器の収集癖は有るし、マイセンも多数家にある。祐樹が気に入っている――といっても最愛の人が嗜んでいるのを見るのが好きなだけだ――大きな薔薇が一輪描かれているモノではなくて色とりどりの小さな花がたくさん描かれているカップで割と少女趣味なのだなと思った。「とても少女趣味」と言いかけたが祐樹にまで(ヘソ)を曲げられたら困るので慌てて言葉を選んだが。まあ、確か少女趣味ではない長岡先生も病院内の個室で使っていたような気がするし、趣味は関係ないのかも知れないが。

「で?話って何かしら?」

 ダイエットのためか砂糖もミルクもなしのコーヒーを一口飲んだ彼女が口を開いた。

「単刀直入にお聞きします。その点はご容赦ください」

 なるべく事務的な口調と無表情さを取り繕って口を開いた。




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気分は下剋上 ハロウィン企画 16

「え?私に出来ることなら。

 それと先ほどの祐樹の質問だが、外国人とは一回も言われていなかったし、呪術師の御三家と呼ばれる名家出身なので多分日本人だ。ただ、あの青い目は一般人には不可視の色々なことが見えるらしい特別な目なので、その副次的効果でああいう色になったのではないかと思う。あくまでも想像だし、医学的根拠も全くないがそれはフィクションの世界なので……。

 あのキャラクターは――他の女性などはリップクリームか口紅を塗っているのだろうが――唇がつやつやでそこも綺麗だったな……。祐樹も唇の形が男らしくていつも惚れ惚れして見ている。全体的な顔立ちはそこまで似ていないと思うし、性格も異なるみたいだが……、口角を上げた不敵な笑みは似ていると思うし、あの恰好をどこまで再現するのかはまだ分からないがリップクリームを塗った祐樹の姿をみ……」

 絶対に見に来てくれるのだろう、この言い方だと。確かに祐樹の顔とあのキャラクターの全体的な顔立ちは似ていないと思う。まあ、どうせコスプレとやらをするのだったら、そして最愛の人がこんなに楽しそうにしてくれるのなら是非とも見て貰いたい。今時(いまどき)はメンズリップもコンビニに並んでいるが、祐樹は使っていない。

「……それはそうと、呪いというのは人間の(マイナス)の気持ちが蓄積して出来たものらしくて、病院や学校などの負のエネルギーが溜まりやすい所では特に発生しやすいとか言われていた。

 この病院なんて……作中では呪いがたくさん発生しそうだな……。

 それはそうと、リクエストとは?」

 無理やり話題を変えたのがありありと分かる最愛の人が長く白い首を傾げている。マイナスの気持ち……。出世競争の階段を踏み外した怨恨も含めると、確か「『特級』()(じゅ)怨霊(おんりょう)」と紹介されている女の子の怨霊が居るならば、ランク分けがされているっぽい。だったらこの病院には特級以上の呪いがバンバン発生しそうな気はする。手を尽くして亡くなってしまった患者さんの無念な気持ちについては忸怩(じくじ)たる思いは当然有ったが。

「このキャラクターの得意技、覚えてらっしゃいますよね?」

 疑問形で聞いたが否定で返ってくる可能性はゼロだろう。

「ああ。『無量空処』だろう?漢字は分からないが」

 祐樹もそうだったが、アニメだと音しか聞けないので、漢字変換が分からないのはある意味当然だ。

「そうです。漢字についてはこのマンガ本で確認してください。あ、それとこのマンガは1巻からではなくて0巻から読むのがお勧めらしいです。

 その『無量空処』のポーズ……あ、指だけで大丈夫です……、それをしてみて貰って良いですか?……今後の参考にしたいので」

 向かいに座った彼が怪訝(けげん)そうな表情を浮かべたので、慌てて言い訳というか「こじつけ」を付け加えた。

「『領域展開・無量空処』」

 アニメの俳優?いや声優だったかも知れないが、その人も割と淡々と言っていたような気がするが、芝居っけ皆無の最愛の人はむしろ恥ずかしそうな口調だった。ただ、イントネーションの模倣(まね)は完璧で、そして右手の親指を立てて人差し指と中指を絡み合わせて他の指は握っていて、薄いグリーンのワイシャツを左手の人差し指でキュっと下ろしている。

 その白くてすんなりと伸びた長い指がその形を作っている、その圧倒的な存在感と協力過ぎる破壊力は祐樹の想像していた以上に素晴らしかった。もうその指だけを凝視してしまうほどに……。

「素晴らしいです。見惚れてしまいました……。こういうふうな動きをすれば更に良いとも分かりましたし……」

 アニメではなくて、この指の動きを再現出来れば良いなと思った。

「そうか?それは良かった。少しでも役に立てて……。これは読み終わったら医局に持って行って良いか?」

 そろそろタイムリミットだ。

「はい。私が不在の場合は柏木先生にでも渡しておいてください。では後で……」

 あの指を見ることが出来ただけで眼福(がんぷく)の至りというか、教授執務階の分厚い絨毯(じゅうたん)の上でスキップしたくなるほどだった、当然しないが。

「あ、祐樹……」

 最愛の人の指が祐樹の着衣を掴んで、そして楽しげな笑みの余韻を残した顔がキスを強請るように上を向いていた。

 その唇にそっと唇を重ねた。愛情と感謝が唇で伝わるように。

 

 

 約束した時間に辛うじて間に合った小児科病棟に一歩入ると、物凄い熱量が場を支配していた。ナース達に熱烈歓迎を受けることは予想していた。しかし、熱量と共に人口密度も高い。こんなにスタッフが居るわけでもないだろうに……と思って周りを見渡せばどこかで見た覚えのある若手の医師とか技師達――小児科所属でないことだけは確かだ――そし小児科のナースと思しき人が「参加料をまず支払って下さい。一人5万円です」と言って回っている。

……参加料が5万円……?祐樹も支払わなくてはいけないのだろうか……。思わず(きびす)を返そうとしてしまった。


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ハロウィンに間に合うようにと思っていたのですが、安定の終わらなさです(泣
多分、読者様は私の悪癖をご存知だと思いますので「またかよ!!」と生暖かく見守ってくださると嬉しいです……。

     こうやま みか拝



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気分は下剋上<秋>28

「こんなに秋の味覚がギュッと詰った料理もとても美味しかったな……。

 葡萄のソースが掛かった三田牛もとても美味だったし、あれは一体どんな風に調理しているのだろう……」

 最愛の人とレストランから出て、部屋に戻る途中に弾んだ声で話しかけて来た。

「満足して下さって選んだ甲斐がありました……。

 あ!すみません、そこのスタッフの人に聞きたいことが有るので少し外しても良いですか?」 

 チェックイン時も女性のフロントマン(?)――ウーマンかも――だったし、このホテルは女性が多い。子育て支援とかの福利厚生がしっかりしているのかも知れないが。

「構わないが……?」

 最愛の人はやや酔った表情で――呑んでも酔わない人だが、温泉のせいか、それとも今日一日色々な体験をしたからなのか分からない――潤んだ瞳と薄紅色に染まった首を優雅に傾げている。

 ちなみに祐樹は密かな企みも有ったので一滴も呑んでいない。

「済みません。久しぶりに山道を思いっきり運転してドライビングの腕が落ちないようにしたいのですが、この辺りにくねくねと曲がった道が有る山は有りませんか?」

 スマホで検索しても良かったが、地元民と(おぼ)しきスタッフの方が断然詳しいだろうし。この辺りはJRの駅がポツンと有るだけだし、都会から働きに来るには不便な場所なので。

「ああ、それならこの山がお勧めです。神戸の六甲山よりもドライブには最適と(おっしゃ)るお客様もいらっしゃるので」

 六甲山よりも最適とは打ってつけだった。最愛の人とドライブをした経験の有る――そしてドライブ以上の悦楽にも耽った――場所よりも急な坂道があったとは。

 祐樹のスマホに入っているグーグルマップを器用にタップして道順まで教えてくれた。

 礼を言って最愛の人の佇んでいる場所まで戻りながら六甲山よりも素晴らしい利点をもう一つ考え付いて、一人悦に入った。

「お待たせいたしました。一旦部屋に戻りましょう」

 最愛の人は潤んだ瞳に怪訝な光を宿して首を傾げている。

「一旦……?この後は部屋で祐樹と二人きりになって……ベッドで激しく愛し合うと思っていたのだが?」

 こんなことで採算が取れるのか心配になるほど客の姿が居ないホテルの立派な内装の――と言っても大阪のホテルのような歴史的な感じの豪奢な重厚感はないが――(くぼ)んだ場所に最愛の人の腕を掴んで引き込んだ。

「それほど切羽詰まっていますか?こちらは大丈夫なようですが……?」

 (つい)ばむようなキスをしながら最愛の人のしなやかな肢体のラインを手で確かめるように辿った。スラックスの前は大丈夫だったが、祐樹だけに花開く極上の花園の中までは確かめようがない。

「切羽詰まるというほどではないが……。私の身体は早く祐樹に愛されたいとは思っている……」

 健気で淫らな言葉を紡ぐ薄紅色の唇は食べてしまいたくなるほどの魅惑に満ちていた。

「一時間くらいは我慢出来そうですか……?

 是非ともお連れしたい場所が有るのですけれど……」

 「是非とも」というわけではなくて、さっき聞いた場所だったがそこまで言う必要はないだろう。それに最愛の人は一旦愛の交歓に雪崩れ込んでしまうと歯止めが利かなくなるタイプだが、その前だと祐樹の言うことを優先してくれる可愛い人だ。

「それくらいなら我慢は出来るが……?」

 胸の尖りは食事をレストランで摂ったこともあって、熱さも引いているだろうし。部屋で二人きり、しかも隣り合って食べていたならまた異なった反応を魅せてくれるだろうが、他人の前で改まって食べた場合は熱も欲も引いていく人だ。

「では一旦部屋に戻って……着替えをして出かけましょう」

 裁判官の槌のようなキスを交わす。アルコールで体温が上がっている最愛の人の肢体からは先ほどの温泉の香りと温泉備え付けのボディソープの健康な香りがした。

 普段はシトラスの香りがするが、今は付けてないらしい。その(ほう)が旅行気分になって嬉しいが。

「貴方はこれを着てください。秋の夜なので、冷えるといけませんから、その上に何か羽織るモノを持って行きましょうか?」

 バックから今夜の目的に適した服を選んで差し出した。

「え?これか……。一応念のために持ってきただけのシャツだが……?ただ、祐樹が言うのであればそうする……」

 一切の躊躇もなく素肌を晒す最愛の人は「まだ」そのモードに入っていないらしい。

 ホテルの部屋に相応しい間接照明の灯りの元で紅色の小さな尖りが白い素肌を引き立てている。慌てて目を逸らして――そうでないと、言い出しっぺの祐樹の(ほう)が我慢出来なくなってベッドに押し倒したくなりそうだ――ちょうど壁に貼ってあったホテルの館内図と非常口、そして駐車場の位置を再確認した。

 最愛の人とは入ったことはないファッションホテルのような造りになっているのが今夜の目的に相応しい。予約を入れた時にはそんなことまで考えていなかったが。

「終わりましたか?では参りましょう」

 ホテルのカードキーと車の鍵とスマホを持って部屋を出た。

「非常階段から行くのか……」

 最愛の人が興味深げにコンクリートむき出しの階段を眺めていた。

「私達の部屋からはエレベーターを使うよりもこちらの方が早いのです」

 直線距離にして短いというのも事実だが、帰りのコトを見越した下見も兼ねている。

 帰りは、最愛の人の姿を絶対に誰にも見せたくなかったので。

 駐車エリアにも数えるほどしか車は止まっていなかった。

「乗って下さい……」

 松茸を始めとする今日の収穫物はホテルのスタッフに頼んで適温の場所にそれぞれ置かれていて、車の後部座席には何も乗っていない状態だった。

 祐樹も乗り込むとエンジンをかけて、車内温度の設定を目いっぱい上げた後にスマホで位置を確認した。

 楽しい、いや愉しいドライブの始まりだ。



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