腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2022年08月

気分は下剋上 登場人物紹介小説 11

「呼んで下さって有難うございます。今日は和風フレンチですか?とても美味しそうですね」

 透明な笑みを浮かべて祐樹の方へ向かって来る足取りが軽やかだった。

「白河教授と桜木先生に先ほどお会いしましたよ。

 医局運営のことで何かアドバイスなさったとか」

 牛蒡(ごぼう)と思しき冷たいスープが美味だった。

「ああ、医局員同士のトラブルが有ったらしくて。

 どちらの意見もじっくりと聞いて、良い点は褒める。そして感心出来ない点はキチンと釘を刺しておいた上で皆の前で仲直りさせれば良いと言っておいたのだが……」

 サーモンのマリネを口の中に入れた最愛の人がふんわりとした笑みを浮かべている。

「そうなのですか?ウチの医局では起らない類いのトラブルですけれど……」

 最高に美味しいステーキを――目の前に居るのが最愛の人だから更に美味しく感じるのだろう――味わいながら答えた。

「医局では起っていないのは正解なのだが、それはトラブルが顕在化する前に祐樹が抑えてくれていることは知っている。

 そして祐樹ならどうするかな?と考えてアドバイスしただけだが……」

 最愛の人の最高の答えに思わず笑みが浮かんだ。

「それは光栄です」

 笑い合って食べるランチは最高級に美味だった。

「祐樹、今日は定時上りだろう。百貨店に行かないか?

 出来れば買い物に付き合って欲しいのだが……」

 デザートの抹茶ソース掛け白玉をフォークとナイフで器用に掬う指の動作が匂い立つように鮮やかだった。

「ええ、もちろん。ご一緒します」

 

◇◇◇

「子供の頃夕立は夏に降るものだとばかり思っていましたが、この頃は季節構わずといった感じの豪雨ですよね。車で来て良かったと思います」

 ほんの30分前はあんなに晴れていたのにワイパーを「強」に設定してもよく前が見えないほどだったので更なる安全運転を心がける。こんな時に自動車事故を起こして、最愛の人に怪我を負わせたくないし、他人様に迷惑もかけるのも願い下げだった。

「本当だな……。祐樹のお母さまへのプレゼントを百貨店からの配送にしてもらって正解だった。一回自宅に持って帰り、手紙を同封しようかと思ったのだが……」

 薄紅色の笑みを浮かべて祐樹に話しかけてくれる。

 自動車の中では見つめ合えないのが残念だ。それに前方を注意しないとならない激しい雨だったし。

「先月は貴方手作りの『いかなごのくぎ煮』を送ってくださったでしょう?あれって神戸名物ですよね。母はご飯が進むとたいそう喜んでいましたし、それに何より貴方から贈って貰うだけで充分喜ぶと思いますので大丈夫で」

 すよ」と言いかけて、最愛の人の視線が車窓に注がれているのに気が付いた。しかも、驚きと怪訝そうな表情で。

「どうかなさいましたか?」

 彼をそんな表情にさせる何があるのだろうと不思議に思いながら聞いてみた。

「祐樹、車をUターン出来るか?」

 割と切羽詰まった声で言われて道路標識を確認した。

「可能ですけれど、いったい何が?」

 最愛の人は言葉を選んでいる雰囲気だったので、取り敢えず先ほどの場所に向かうべくウインカーを出した。

「長岡先生が非常に困った事態に陥っている……」

 最愛の人がアメリカの病院時代に内科医として来た彼女の優秀さを認めて凱旋帰国の際に連れ帰った逸材だ。ただ内科医としては専門の内田教授が「うちの科に是非」とスカウトするほどに優れているものの、プライベートでは常に突飛なことをしでかすし、部屋は乱雑を極めている。

彼女の婚約者は日本で知らない人が居ないほどの有名私立病院の御曹司で、最愛の人や祐樹をスカウトしてくる。性的な関心が女性に向かない二人のことも知っているので、長岡先生の部屋にも入ることを許されている。

 また最愛の人は両親も既に亡くしているし、兄弟どころか親戚もいない。だから長岡先生のことを「困った妹」扱いしている(ふし)がある。

「困った事態ではなくて、非常に困った?」

 確かダイヤモンドの強度を試すためという研究心、いや出来心かも知れないが婚約者から貰った3カラットだかのダイヤを砕いてしまい、最愛の人に「直してください」と電話を掛けてきた過去がある。

「ほら、あれは長岡先生だろう?車を停めて貰えないだろうか?」

 しなやかな長い指が示している場所を見て、内心(嘘だろっ!マジか?)と思ってしまった。

 そういう言葉遣いは病院に就職したのを機に止めようと決意して実際その通りにしてきたけれども、マジか?というのが正直な感想だった。



___________________


後書きめいたもの
すみません、都合により更新時間遅れています。
二時間後に「夏休み」を更新します。宜しければお待ちください。


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気分は下剋上<夏休み> 16

 無いとは思ったがそれにしては迷いのない足取りだった。

「祐樹がシャワーを浴びている時にスマホでここの施設一覧を調べていた。

 祐樹が最も休める場所を色々考えて」

 デート自体はいつも楽しそうに応じてくれている最愛の人だったけれども、全て祐樹にお任せといった感じだった。だから主体的に動いて――調べてが正解かも知れないが――くれたことが単純に嬉しい。

「有難うございます。ドリンクは気休めにしかならないと思いますが、貴方のお気持ちがとても嬉しいです」

 喫煙所を――何だか祐樹の知る限りどんどん隅っこに追いやられている――通り過ぎて展望台的な場所に案内された。

 ただ、見えるのは何の変哲もない山の斜面だけだったので、人っ子一人居ない場所だった。

 喫煙所を通過する際にタバコで眠気を紛らわそうかとも思ったが、今の祐樹は病院でこそ吸っているけれども最愛の人と一緒の時は吸う気が起きない。それに椅子がなくて皆が立って吸っていた。

 今は出来るだけ体力温存をしたかったので、吸う気にならなかった。

 研修医時代の比べると10分の1程度しか吸っていない。最愛の人と居ると全くストレスを感じないとか気分を紛らわす必要がないからだろう。

 展望台と思しき場所にはベンチが備え付けられていた。

「あそこに座って(しばら)く休めばいいと思うのだが……」

 高速道路のSAは「非日常」という感じが強い。最愛の人が先導してくれている道中でも長距離輸送のトラック運転手と思しき人達が車の中やベンチで寝ていたり、喫煙所でタバコを手に持ったまま地面に座り込んで仮眠を取ったりしていた。

「貴方の肩を貸して頂ければ、良く眠れると思うのですが」

 最愛の人は白い薔薇のような笑みを浮かべてゆっくりと頷いてくれた。

 ベンチに密着して座って――普段はそのようなことは絶対にしない、他人の目を気にして――若干華奢な肩に頭を預けた。

 最愛の人の細く長い指が髪を梳いてくれている感触と体温、そしてシトラスの香りを感じながらコトンと眠りに落ちた。ブラックアウトというよりも煌めく白い場所に落ちていくように最高に幸せな気分だった。

「どのくらい眠ってしまっていましたか?」

 最高に幸せな気分で目覚めた祐樹は、眠りながらも感じ続けていた指の優しい感触を思い出しながらも、最愛の人の肩、そして腕への負担を慮ってしまう。

「……大体、二十分くらいかな……」

 その言葉に優しい嘘を感じてしまう。

 時計がなくとも正確な時間が分かる最愛の人が「大体」とか「くらい」などという曖昧な言葉を使ったのだから。

「そうですか……。とてもすっきりしました。二十分でも熟睡出来て良かったです」

 8時間くらい熟睡したような感じだった。多分最愛の人の体温や香りを感じて過ごしたからだろう。

 そっと周りを窺うと、誰もこちらを見ていなかった。

 指を付け根まで絡めて、一瞬のキスを交わした。

 感謝の意味と愛おしさを伝わるようにと。

「昼間のキスは最高の目覚ましになりました、よ」

 名残(なご)りを惜しみながら唇を離した。

「それは何よりだ。顔色も、とても良くなった」

 安堵めいた吐息を零しながら薄紅色の唇が笑みを浮かべてくれている。そしてその瞳には祐樹だけを写していることも祐樹には嬉しかった。

「では、秘密の場所に向かいましょうか……」

 さり気なく時計を見ると一時間も経過していて、内心驚いた。そして最愛の人がずっと祐樹の髪を指で梳き続けてくれていたのだなと嬉しさ半分、済まなさ半分だったが。

「ああ、そうだな」

 車に向かって歩き出した、肩を並べて。

「私が眠っていた時、貴方は何を考えていらっしゃったのですか?」

 何となく、何も考えていなかったと答えるかなと思って何気なく発した言葉だったが。

 視線を合わせると、最愛の人は花のような笑みを浮かべている。

「祐樹のことがどれほど好きかを考えていた。それだけで充分幸せになれた、な。

 あと、祐樹と出会えて良かったとか生涯に亘ってのパートナーにして貰えて本当に幸せだとか色々考えていたら時間など忘れてしまっていたな」

 その言葉を聞いて眠って良かったと思ってしまった、デート中なのに。

「それはとても嬉しいです。では取って置きの場所に向かいましょうか?」

 車のキーのボタンを押してドアを開いた。




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気分は下剋上 登場人物紹介小説 10

「田中先生、お元気そうで何よりです。もう、香川教授や田中先生の家の方角には足を向けて寝られません。本当にお世話になっていますし、先の事件では……」

 白河教授が平身低頭といった感じで祐樹に挨拶してきた。脳外科の狂気の研修医が仕出かした「夏」の事件のことに未だ罪悪感を抱いている。

 祐樹も予兆を察知しながら最愛の人を危険にさらしてしまったことに忸怩(じくじ)たる思いを引きずっている。

「白河先生も田中先生も外科医だろう。過ぎてしまったことは取り返しがつかないことくらい分かっているだろ?もうサッサと切り替えろ。切り替えの早さは優秀な外科医としてのバロメーターなんだよっ!!」

 「夏の事件」は病院長が「脳外科の白河准教授(当時)そして教授職しか知らせてはいけないと箝口令(かんこうれい)を敷いている。

 最愛の人の精神的ケアを直接担当した呉先生は別だったが。

 おそらく桜木先生は白河教授から聞いたに違いない。

「あの時はさ、香川教授も右腕にケガしたんだろ?でも、何だか厳戒態勢っていう感じの月曜日のオペはいつも通りの華麗かつ大胆だった。

 手術室スタッフの多さとか表情で何かが起こったのだろうな……とは思ったが、黒木のおっさんまで出張ってきてたもんな……。

 教授は大丈夫なのだから、そんなに悲観することはないだろ?」

 祐樹と白河教授の背中をバンバンと叩きながら――多分フォローしてくれているのだろう――真剣な声でそう教えてくれた。

「痛いですよ。

 そうですね。切り替えます」

 祐樹とか森技官が踏み込むのが遅れたら、無理やり最後までされていたことは病院長以下の教授職には伏せてある。

 だから、白河教授経由で聞いたと思しき桜木先生が知らないのも無理はない。

 当時の厚労省ナンバー2に唇を奪われただけでも取り乱していた最愛の人だから、極上の花園を蹂躙されたらどうなるのか分からない。それを防いだだけでも良しとしよう。

 肉厚の手が祐樹を力付けるために背中を叩いてくれているのは明白だった。

「ま、過ぎたことはスルーして、次に活かせばいいさ。

 で、俺はもうここから退散しても良いんだろ?病院長室ではケツが痒かったし「、教授執務室ではムズムズした。ま、香川教授のトコのコーヒーはすげえ美味かったけどな。

 そろそろ手術室の空気が吸いたい。こんな場所は似合わないし、さ」

 頑固な手術職人というあだ名に相応しい言葉に笑ってしまった。

「いえ、今度は論文執筆の手伝いをしてもらいたいのですが」

 ポリポリと頭を掻く桜木先生はあからさまに迷惑がっている。

 白河教授もそれは分かったのだろう。

「口述で構いません。それを私が論文形式に纏めますから。悪性新生物科の教授には許可を貰っていますし。

 今日のオペはあのヘボ教授でも充分可能でしょう」

 有無を言わせずといった感じで白河教授の部屋まで連行されていった。

 白河教授も最愛の彼と同じく学生時代から救急救命室に入りびたっているほど職務熱心な人だと聞いている。

 生粋の外科医として職務にまい進していた結果、実力で准教授職まで上り詰めた人だ。

 そして、いずれ行われる病院長選挙には「絶対に香川教授を押します。病院内に蔓延る旧態依然な悪しき慣習、教授のお気に入りとかではなくて実力で評価される病院を作りたいのです」と言っていたので信頼は出来る。最愛の人が病院長の椅子に座ったら、教授に嫌われてとか、逆らったら飛ばされるといったことを無くすのが目的だろう。

 そう言えば精神科の真殿教授は。彼視点からすると「古き良き大学病院が良い」と思っているフシが有る。

 もしかして森技官は病院長に「そういうのは古いです」といった釘を刺しに来たのではないだろうか?

 そんなことを考えて時間潰しに佇んでいると、最愛の人の秘書が出て来た。当然ランチを摂るためだろう。

「香川教授がお待ちかねでらっしゃいます。出来れば急いでくださいね」孫も居る――実際に存在するのかは聞いていない――年齢の人なのだが、実務能力という点ではピカ一だ。

 最愛の人は美人秘書を侍らしている斎藤病院長とは異なって「仕事さえ優秀ならばどんな人でも大歓迎」といった人なので、プライベートでは色々仕出かしてくれる超優秀な内科医という点だけで医局に迎えたと聞いている。

「香川教授、田中です。お呼びにより参上いたしました」

 緊張した表情を取り繕ってノックをした。何しろランチタイムなので廊下には教授とか教授秘書といった人が歩いている

 この表情だと、職務でミスをしたとかで教授に呼び出された医局員にしか見えないだろう。

「どうぞ」

 怜悧な声が室内から聞こえた。

「入ります」

 声を掛けて入室した最愛の人の大輪のピンクの薔薇のような笑みと応接用のテーブルに用意された料理に見惚れた。

 正確には最愛の人が9で料理は1だ。





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気分は下剋上<夏休み> 15

「いや、それが……牛の革よりもワニの革の方が水に弱いらしい」

 え!?と思った。

「水に濡れたらどうなるのですか?」

 ワニ革の製品には全く関心がないので全然知らない。

「バッグの表面に、俗に言う水ぶくれ状態の物が出来たらしいな……。しかも直径15センチくらいの……。ボコっと膨らんだらしい……」

 長岡先生が京都市指定ゴミ袋に入れていた、綺麗なバッグを思い出してしまう。あれは白い色だったが、黒のバッグに酷い発疹(ほっしん)が出来たらさぞかし目立つだろう。しかもお値段は600万円だ。

 彼女の金銭感覚は祐樹と二桁程度異なることは知っていたものの、それでもショックだろう、多分。

「修理とか出来ないのですか?」

 世界に冠たるハイブランドだけに、サポート体制も充実しているだろう。

「それが……『このレベルの損傷だとご要望に沿いかねます』と言われたらしい。

 それで、ここからが本題なのだが、祐樹が見たバッグもワニ皮で……ただ、商品名というのか愛称というのか分からないがとにかく名前が違っていたので、ワニの革だとは知らなかったらしくて……うっかり買ってしまったみたいだ……」

 そう言えばあの日の長岡先生はワニの革とは言ってなかったような気がする。地図に載っている固有名詞だったような。あれは確か……シベリアとかだったような気がするようなしないような。

「うっかり買ってしまったのですか?600万円の『濡れても大丈夫』だと信じたバッグを……?

 彼女らしくて笑えます」

 長岡先生らしいエピソードにブラックアウト寸前の脳が若干回復の兆しがしている。

600万円の超高級品が使えなくなるとは。祐樹もこの車を壊してしまったら……と考えた時にふと閃いた。

「保険とかには加入出来ないのですか?」

 この車は祐樹にすれば高価な買い物だったし、他人様にケガをさせてしまうリスクなどを考えて限度額まで保険に加入している。ただ、最愛の人にケガを負わせることは絶対に有ってはならないことだと自分に戒めているが。万が一そんな事態になったら死んでお詫びするレベルだ。

「携帯品保険という保険商品は有るらしい。私も彼女に聞いて知ったのだが。

 ただし、補償額は20万円が最高限度らしい」

 それは……と声を上げて笑った。

 最愛の人の懸念に満ちた顔が安堵のような表情に変わった。

「……まさに雀の涙ですね。600万円という大金に比べると……」

 SAの広大な駐車スペースのシャワールームに最も近い場所に車を停めた。

 取り敢えず、眠気を散らしてしまおうと思ったことと出来るだけ体力を温存しておかなければならなかったので。最愛の人の羽化する肢体を見たいがために。

「貴方は売店とか喫茶スペースで時間を潰していて下さいね。浴び終わったら連絡します」

 病院よりは豪華なシャワールームの個室で冷水を頭からかぶった後に、それだけではデートとしてはあまりにも色気がなさすぎると気付いてシャンプーとボディソープを追加した。

仕事柄そういう一連の動作は素早くなっていたし、秘密の場所経由で神戸のホテルにチェックインするまでの時間はたっぷりとある。ただ、あまり待たせては悪いような気がした。

シャワーエリアから出た瞬間、最愛の人がスマホを弄りながら佇んでいて驚いた。

売店とかで時間を潰しているとばかり思っていたことと、そして何より彼の場合はイマドキの若者のように常にスマホを弄っているわけでは全くなかったので。

電話を使ったり祐樹とラインを交わしたりして使っているらしいが、当然ながら見たことはない。

「祐樹、早かったな。10分待って出て来なかったら様子を見に行こうと思って待機していた。シャワー室でブラックアウトを起こしたらどうしようかと思って……。

 ただ、顔色が普段と同じ程度に良くなっている」

 淡い笑みを浮かべた最愛の人は、祐樹の髪の毛を指で梳いてくれた。こんな時間だからか、それとも常にこうなのかは知らないがシャワー室は無人だったので、しなやかな指が髪の毛や頭皮を確かめるように撫でる感触に一時溺れた。

「祐樹、少し休まないか?」

 怜悧な声が心配そうな色合いを含んでいる。

「そうですね。だいぶスッキリはしたのですが、貴方を乗せて事故ったら、取り返しのつかない事態になりそうなので、お言葉に甘えます」

 安堵したような笑みが大輪の白い薔薇の風情だった。

「祐樹、こちらへ」

 何だか歩き慣れた感じで祐樹の一歩先を歩いている。途中で大きなコンビニに寄って「どれが一番効くのだ?救急救命室で飲んでいるのだろう?」と栄養ドリンク売り場で聞かれて祐樹が選んだコーヒーと「眠眠打破」を買ってくれた。

 その後も祐樹の一歩先を迷いのない足取りで進んでいる。

「車で休んでも良いが、自律神経を整えるのなら外だろうな……」

 確かにその通りだったので、足を速めて隣に並んだ。

「この奥が一番休めると思う」

 先ほどから気になっていたのだけれども、このSAは最愛の人が初めて来た場所だ。

 医局の慰安旅行のバス移動以外で最愛の人が高速道路を使うのは祐樹とのデートだけだと断言出来る。トイレ休憩などはもっと先のSAで行っている。

「良くご存知ですね。以前にいらしたことが有るのですか?」



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気分は下剋上 登場人物紹介小説 9

「よ、田中先生。執刀見ているぜ。香川教授とは全く違ってはいるが……、豪快というか天衣無縫というか、とにかく見ていて飽きないな。また時間が空いたら見に行く価値は充分有る見事な手技だ」

 (教授執務階でエレベーターが停まっているよな……?)思わず階数表示を確かめた。

 この階には近付きもしない――悪性新生物科の教授に叱責を受ける時くらいだろう、多分――桜木先生が親しげに話しかけてきていた。

 彼は「手術室の(ぬし)」とか「頑固な手術職人」と呼ばれていて手術室では有名人だし、表向きは教授執刀とされている難易度の高い手術をこっそりと執刀していることは外科医の中では公然の秘密だった。

 出世には一切興味がなくて、趣味は優れた手技をモニタールームで見学するという根っからの手術職人だ。

 ただ、祐樹も最愛の人が凱旋帰国をしなければ、ひねくれた研修医から日の当たらない手術職人になっていた可能性は高いので他人事(ひとごと)とは思えないし、帰国直後の医局トラブルの一環として――考えるのも腹立たしいが――当時の手術室ナースを買収してメスなどを渡すタイミングをワザとずらして妨害させていた。その件で最大の証人になってくれたのは桜木先生と当時は学生だった久米先生だった。

「お褒めに与って恐縮です。桜木先生の期待を裏切らないようにより一層精進します」

 この先生は外科医を手技でしか判断しないし、お世辞なども一切言わない人なのも知っている。

 だから純粋に嬉しかった。

「いつもの雰囲気とはまるっきり異なっていらっしゃったので少し吃驚(びっくり)しました」

 手術室から出ないのでぼさぼさの髪に無精ひげという恰好は見慣れていたが、髪もそれなりに整えているし、無精ひげはなくなっていたので雰囲気が全く異なる。

「ああ、これか……。脳外科の白河教授と共に病院長に呼び出されたんで、仕方なくだ」

 何だか不快そうにかつて無精ひげが生えていた場所を指で弄っていたが、何だか達成感に満ち溢れているような表情だった。

「脳外科の白河教授と?では、悪性脳腫瘍の切除方法をついに突き止められたのですか?」

 外科的アプローチ不可能だった悪性脳腫瘍の術式を模索していることは知っていた。
 何しろ手術職人だったせいで執刀歴は長いし、脳にまで転移したガン細胞を取り除く手術をしているうちに閃いたらしい。

 ただ、脳外科の白河教授と――前任の野田教授は「夏の事件」で狂気の研修医から金銭的な援助を受けて特別扱いしていた件などで引責辞任している――桜木先生を引き合わせたというか「あんたなら病院を変えてくれそうな気がするので全面協力をする」と最愛の人の病院長就任に向けて陰で動いてくれている。

 最愛の人、しかも教授職に向かって「あんた」呼ばわりは一瞬ムッとしたものの、桜木先生の性格は知っていたし実力という点で尊敬に値する人なのでスルーしたが。

 「披露宴」で白河教授とも意気投合して、共同研究及び執刀をしていたのは知っている。

「ああ、何とか目途はついた。患者の状態にも依るが、な。

 で、そもそも切っ掛けを作ってくれた香川教授にも挨拶に来た」

 なるほど、だから教授執務室がずらりと並ぶこの階に来たのかと納得した。

「白河教授ももう直ぐ香川教授の部屋から出て来るぜ?

 何でも医局運営の件で折り入って相談が有るとかで……。

 ただ、香川教授は『ランチタイムは秘書が居ないので……』とか言って12時までの時間指定していたからもう直ぐ出て来るハズだ」

 ぶっきらぼうな感じでそう教えてくれた。ただ、この先生はいつもこんな感じなので全く気にならない。チラリと腕時計を見ると11時58分だった。

 昼食の時間がマチマチで場合によっては食べ損ねる場合もある医師とは異なって教授秘書などの場合ランチタイムは普通の職場と同じく12時から一時間きっちりと休める。

 ただ、最愛の人は「祐樹が来るから12時までには退出して欲しい」という遠回しの言い方ではなかったかと思ってしまう。

 ウソがつけない人が必死に考えてくれたのかと思うと愛おしさが募った。

「そうですか。医局運営の話でしたら両教授のお二人でなさるのが良いと思います。

 白河教授が出て来られるまでお待ちします。

 私も患者さんのことで緊急に報告したいことが有ったので、黒木准教授の代理で参ったのです」

 ウソをつくと口数が多くなるのは人間として普通だろう。

「そうか、田中先生の手技は天衣無縫だとさっき言ったが、道具出しのナースが異なると一秒ほどのタイムラグが有る。あれは改めた方が良いぜ?

 道具出しのナースちゃんそれぞれのペースというか癖に合わせるともっと良い手術が出来る。一人一人のクセを把握すべきだろうな」

 思ってもいないことを言われてハッとしてしまった。だが、桜木先生が親切心からアドバイスしてくれているのは分かったので素直に頭を下げた。ナースに「ちゃん」付けをする辺り(ごう)(がん)不遜(ふそん)を絵に描いたような桜木先生らしい。

 最愛の人は手術室ナースを――しかも最も重要な道具出し――選べる権限は持っているが、桜木先生や――同列に並べるのもおこがましい気はするものの――祐樹は持ち合わせていない。

「有難うございます。確かにそうですね……。一人一人のクセというか反射神経を把握するように努めます。

 手術室の先輩のアドバイス、本当にためになります。これからもお気づきの点は遠慮なくご教示ください」

 深々と頭を下げていると、最愛の彼の執務室のドアが開いて、白河教授が深々とお辞儀をした後にこちらに向かって来た。

 何だかとてもスッキリした表情なのは医局運営についても的確なアドバイスを貰ったに違いない。最愛の人がどんな助言をしたのか気になった。





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