「幸いなことにお弁当も届いていないので、プレ逢瀬は充分可能だ。
現地集合だろうな?それとも一緒にランチのお店まで行くのか?取り敢えず返事を待っている」
「プレ逢瀬であっても、世界で一番愛している祐樹と食事が出来るのは天から降って来たご褒美のようでとても嬉しい」
ラインは――以前はメールだったが――短い文章を紡ぐ方がお勧めとか自宅に置いてあったビジネス誌に書いてあったので、最愛の人もその記事を読んだのか、文章は短めだったけれども、以前のメールは「素っ気なさ」のお手本みたいな文面だった。
当時はそれでも最愛の人からのメールというだけで愛おしかったが一抹以下の不満がなかったわけではない。
しかし、何かの折に「祐樹の携帯に送るメールは書いては消して迷いながら書いている」と言ってくれたし、職業上も簡潔かつ誤解のない文を書くのが外科医だ。しかも最愛の人は美辞麗句など書けない不器用な人なことも知っていた。
だから「あんなものだろう」と思っていたが、最近の連絡では惜しみなく心情を披露してくれるようになったのも嬉しい限りだった。最愛の人の嬉しい開花を――肢体だけでなくて感情を吐露してくれるようになったのも――思うと唇に笑みを浮かべてしまう。
「田中先生の彼女はなんて書いて来たんですか?」
久米先生の興味津々といった声に(ああ、そう言えば居たな……)と思ってしまう。
「日本人の口に合うキャビアが見つかったらしいです。やはり、キャビアはフランス料理というのが常識ですよね?ま、最近はイタリアンとかでも供されますが。
そしてキャビア単品で販売するよりもキャビアを美味しく味わえるようにと単価を上げるためにワインとセットで売り出すとかなんとか……。
キャビアは魚介類の卵ですが赤ワインが合うらしくて、これからフランスに行って選びに選んだキャビアに最もしっくりと来るシャトーを回るらしいです。
その後は日本に帰ってきて、日本酒の醸造元を回るとか……。
日本酒の蔵元って――まあ、京都には伏見のお酒とか、神戸近辺にも酒屋さんが有りますので、その時には逢えるかもしれませんが『彼女』は仕事で来ているので、公私混同は良くないですよね……」
また花々しくも真っ赤なウソを言ってしまう。
まあ、最愛の人に対しては悪質なウソをつかないが、秘密の職場内恋愛、しかも同性同士なのでこの程度のウソは必要不可欠のような気がする。
ちなみに日本酒とか赤ワインにキャビアが合うというのは二人のお気に入りの、京都一美味しいと評判のカウンター割烹の大将(?)がお客さんと話していた時に(キャビアは魚なのに、赤ワインなのか……)と意外に思ったので奇跡的に覚えていたトリビアだった。
どうでも良いコトは即脳のデリートボタンを押すようにしているが、意外に思ったことなどは脳の中に残っているのだろう。専門外だが脳の仕組みは一通り知っているが、記憶として残るのは反復していることとか――身近な所だと名前などがそうだ。毎日のように書いていると思われるので、苗字がいくら特殊かつ画数が多いモノでもその人は絶対に難解な漢字でも絶対に覚えている――関連付けとか語呂合わせで覚えてしまうのも楽だそうだ。
そういえばコンビニなどにずらりと並んだタバコを買う場合、商品名を言うと店員さんが探し回っていることが良くある。
祐樹も悠長に待っていられない時の方が多いので番号で告げることの方が多い。
そしてたまたま祐樹のタバコの番号がマンションの部屋と同じ番号だったので即座に覚えてしまっていた。
そういう記銘力としては弱いものの(へえ、意外過ぎる)と感想まで加味したのが良かったのかもしれない。
そして何より最愛の人がキャビアと日本酒の取り合わせを食べたそうにしていたので注文した。
第二の愛の巣ともいうべき大阪のホテルでもキャビアは供されることが有るが、あくまでもクラッカー状のモノに載っているというものだった。
しかし、京都一、美味しいと評判の店では薄味に仕立てたごく少量の茶碗蒸し(?)みたいな卵の膜を被せてあって、その下から塩みの濃いキャビアがごっそりと出てくるという趣向だった。
祐樹も食べてみたが、日本酒とピタリと合っていて、その舌の記憶が蘇ったのかもしれないが。
「地図を送ります。プレ七夕の逢瀬、これは織姫と彦星の逢瀬よりもかなり短いですが、愛情の深さでは負けません。
『かささぎ』が居なくとも駆け付けますので待っていて下さいね」
夕食ならばともかくランチタイムに二人で店に入った瞬間を病院関係者に見つかったらあれこれと勘繰られるだろう。
それとも、医局とか病院に何か有ったのではと無用な不安を煽るような気がした。
祐樹は一介の医局員だが「香川教授の懐刀」という噂を奉られていることだし。
「Aiセンターに行かなくてはならないので、お先に失礼します。丑の刻参りじゃない……蛍を楽しむデート楽しんできてくださいね。
ああ、確か……」
自分が幸せだと心に余裕が出てきたのか、親身にアドバイスする気になった。最愛の人から「プレ七夕祭り」という言葉が送られて来たので、蛍狩りに行く――ちなみに、祐樹と最愛の人は豪華絢爛な蛍の乱舞が売り物の旅館で愛を交わしあったので、その幽玄の光に艶めいて煌めく肢体を愛した過去も有って尚更に。
もちろん、お店のURLをラインで送った後だったが。
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