腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2020年07月

「心は闇に囚われる」152

「是非とも偉大なる大将様の申し伝えたい状が御座います。大将様のお言葉を――いえ。我が国などの『憂うべき国難』を全てのテレビ局のレポーター達にも拝聴させたく存じますが、警察が動かない限りはテレビ局の報道部も察知出来ない体たらくでございまして……。我々はたまたまこの街に取材に参上し駆けつけた次第でございます。お詫びのしようも御座いませんが、平に、ひらに、御寛恕をお願い奉る次第でございます」
 ……何だか、西野警視正の方が時代劇風になっているのは、その場の雰囲気にのまれたのか、幸樹との以心伝心でこう言った方が良いと思ったのかは分からない。
 ただ、分かるのは「幸樹にコーヒーを飲まさないようにしている。万が一飲んでしまっても、効果が谷崎君よりも後に出て欲しい」と願っていることだけは確かだ。

「そういうものであるか……警察が動くには何が必要か、汝の意見を述べよ」
 二人の会話は時代劇風というか、時代劇と現代語が滅茶苦茶になっていて、幸樹はブラックコーヒの缶を手に沈思黙考の構えだ。その涼しげで端整な様子も目を奪われるには充分だったけれども、幸樹がコーヒーを飲んでしまえば、最悪だった。
 でも、今、俺が常用している入眠薬は詳しいことは分からないけど、全く別の成分から作られていることぐらいは分かった。それでもその手の薬に耐性がない幸樹が飲んでしまえば、コトンと眠ってしまうかもしれない。今まで幸樹が交渉し、それを引き継いだ西野警視正もそれは分かっているのだろう。
 飄々とした顔は変わらないけれど、いつもの顔色よりは少し青ざめている。「警察が来ていない」と谷崎君に信じさせるためだ。
 最悪の場合、機動隊に出動命令を出さなくてはならないので、「警察が来ている」=「強行突破もあり得る」といくら谷崎君が「闇に囚われる」薬が精神を侵していてもそのくらいのことは分かるだろう。
「恐れながら申し上げます。先程から大将殿に申し上げていますように、人質が幼児という点を日本国民が全て知るところとなるのは賢明な大将殿にはもうお分かりかと存じ奉ります」
「うむ、それはどうだな。では汝の意見は?」
 西野警視正は、耳に手を当てて「良く聞こえない」といゼスチャーをした。それを見た山田巡査は綿菓子に何となく似ている集音マイクを持って一歩前に出ながら同じ動作をする。幸樹はコーヒーの缶を見詰めていたのでそれには気が付いていない。俺も二人に倣いながら。さり気なく幸樹のシャツを引っ張った。
 顔を上げた幸樹は俺たちの動作の意味に即座に気付いたのだろう。
 左手を耳に持って行くが、右手は微かな震えと共にコーヒーの缶を唇へと近づけた。
(幸樹、ダメ!!!飲むなら俺の役目だ!!!)
 どう絶叫したかったけれども、谷崎君が聞いている以上、言うわけにはいかない。
 コクリと幸樹の喉仏が三回上下するのを絶望的な気持ちで見守るのみだ。
 西野警視正も幸樹を見ていたので何をしたのかは分かっているだろう。
 「大将殿のお声が、卓越した演説――これは是非ともテレビだけではなく、演説集として朝○新聞社から出版されるレベルだと――のご過労のせいで御座いましょうが、とても聞き取りにくくなっておりまして。おい、山田、マイクでは拾えるか?」
 幸樹がコーヒーを飲んでしまったことで西野警視正も慌ててしまったのだろう。いかにもマスコミの人らしく早口で話していたのが、もっと早口になる。
 レポーターはニュースの中での現場の主役みたいなものだ。カメラマンは脇役なのでことさら偽名を使うまでもないと判断したのだろう。それに「山田」という名前は特別目立つものでもない。
「いえ、マイクでも拾えないレベルで御座います」
 西野警視正が合図を送ったわけでもないのに、山田巡査は当意即妙の答えを出してくれる。やっぱり山田巡査は頼りになる。
 そんなことを思ってしまったのは、幸樹が強力な睡眠薬でばったりと倒れて寝てしまうのではないかという不安を誤魔化すためだった。
「拙者が意見を申す前に……、素晴らしい演説を再開するには糖分で咽喉を潤すことからお始めになられてはと存じ奉ります。
 歴史を変える変革者には、特にこの時代には演説もテレビの前にいる愚かな大衆にも周知徹底する必要が御座います。大きな会場での演説は必要なしと愚考致します。そのためには、大将殿の――後世は「玉音放送」と呼ばれる可能性の高い――演説は一言一句記録しておく必要が有ると存じ奉ります。
 俺は幸樹の様子をハラハラと見ながら、谷崎君と西野警視正の、本人にとってはとても真剣だっただろうけど、どう聞いても冗談にしか聞こえないやり取りを聞いていた。「玉音放送」って、終戦の日の8月15日の正午に昭和天皇が生まれて初めてラジオのマイクの前に立って日本国民に「敗戦」を知らせた放送であることは知っている。
「北野君、良いところに気付いてくれたな。腐敗しきったマスコミにも君のような同志が居て心強く思う。日王はあれで命拾いをしたらしいが、あの放送は、今聞いても誠に聞き辛い。余は、日王の二の轍は踏まない。高寄、そちらの缶を手渡すように」
 「よ」「よ」って何だ?と思ったけど、時代劇で殿様が使っている「自分」を表す一人称なのを思い出した。
 幸樹は幸いにもまだ、薬の効果が表れていないのかカフェオレの缶を表手で恭しく差し出した。
「恐れながら申し上げます。日本の愚民どもは勘違いをしているようですが、声を出すのは確かに声帯という部分です。
 しかし、大将殿のような重大な使命をお持ちの方は皆、腹部に力を込めて発音なさっております。大将殿の尊い胃の中に糖分が入ってこそ、有り難い演説も、さらに愚民には理解出来る……いや、差し出がましいことを申しました。私は大将殿とは人間の大きさも知識の広さも全く異なります。
 このようなことはお忘れください」
 幸樹も何だか時代劇で将軍様に謁見を許された旗本みたいな喋り方になっている。西野警視正との会話を聞いて、「闇に囚われた」人――谷崎君だけかもしれないけど――にはこういう喋り方が効果的だと判断したのだろう。
 俺は心臓が耳に引っ越してきたのではないかと思うほどだ。
 腕時計はしているが、見たら不審に思われる。壁時計が有れば見たいけど、それだと谷崎君に挙動不審だと思われてしまう。
「いや、そなたの言い分は尤もである。差し出たなどとは全く思わぬ。余は知ってはいたが……な」
 谷崎君はカフェオレの缶を飲み干した。それも一気飲みだったので、味は殆ど分からないだろう。
 三口だけ飲んだ幸樹と、全部飲んだ谷崎君では薬の量も当然違うだろう。
 でも万が一幸樹が先に倒れて寝てしまったらと思うと気が気ではない。




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「心は闇に囚われる」151

 谷崎君は本部のモニターで見た以上に痩せていた。合宿に参加する前の谷崎君は少し余分な肉が付いているかな?と思う程度の体形だったのが今では、今日亡くなった有吉さん――彼女には恋愛感情は一切なかったけど、あんな悲痛な遺書を残して亡くなったのだから、努めて彼女のことは考えないようにしていたのだけれども――を彷彿とさせるくらいの病的な痩せ方だった。ジーンズもベルト――ちなみに後ろ側には包丁を抜き身のまま挿している――がなければずり落ちてしまいそうだ。俺もやせ形ではあるけれども、本質が違うような痩せ方だった。
 それに目が怖いくらいに光っている。俺も掛かりつけのクリニックでいわゆる「イってしまった」患者さんを何回かは見た経験がある。でも、その人達よりももっと怖い。例えるなら、壮絶な喧嘩をしている不良が発する目の光に近いかも知れない。でも、その光る目の奥には俺なんかには分からない複雑な感情が錯綜しているようで、その複合した目の光はとても怖かった。それに、顔色は蒼白に近い。本部のモニターには背中に自分の包丁で傷をつけても平気な顔をしている谷崎君が映っていたけれど、どこかの大きな血管も切ってしまったのかも知れない。
「だ……大丈夫?」
 「鬼気迫る」との言葉がぴったりの谷崎君を見て俺は震える声で聞いてしまう。
「同志よ、よく来てくれた。大丈夫とは何のことかい?」
 真っ青な顔をしながらハイテンションで話されると余計に怖い。俺は身体が震えてしまうのを必死で我慢した。ここで谷崎君に不審感を抱かれるのは一番マズい。
 幸樹が一歩前に出た。
「差し入れ……。いや、今となっては『同志としての乾杯』だな。こういう時は上位者が先に飲むことになっている。北野さん、そしてカメラマンさん、しっかり写して下さい」
 幸樹がコーヒを数種類取り出す。でも、あのコーヒーの中には強力な睡眠薬が入っているハズで、どうするのだろう?
「そうだな。偉大なる将軍様への決起は俺が一番先なのは確かだ。行動を起こしたのも。だったら俺が上位者には違いない」
 満足そうな哄笑が辺りに響く。けれども、病的な痩せ方といい、背中の傷の出血のせいか、食べ物を食べていない――のだろう、有吉さんと同じように――貧血か栄養失調のせいかは分からないけれど真っ青な顔と炯炯と光った目には全く相応しくない。
「偉大なる将軍様は、決起した谷崎君を重要な部下として迎え入れて下さるだろう。将軍は無理でも大将とか中将とか……。オレ達はその部下で、せいぜい少佐、いやもっと下の階級だろう。つまりは、『北の楽園』では、谷崎様は雲の上の人で、オレ達は谷崎様――いや、『金』という名前も与えられるかも知れない。将軍様と同じ名前だ――その部下のそのまた部下ということになるだろうな……」
 幸樹の広い背中や長い足は全く震えていない。それに冷静であることは卑屈な口調からでも分かってしまう。今、俺が何か話したら声が上擦ったり震えたりすることは確実だ。幸樹は多分、「同じコーヒーを飲まないように」との伏線を張っているに違いない。
「なるほど、そういうことになるのかな、同志よ」
 谷崎君は威厳を出すためか、後ろに仰け反った。
 背中には包丁を上向きに挿していることは本部のモニターで見ていた。後ろに仰け反るということは、その刃物を背中に押し付ける結果になっているハズで、傷口がさらに深くなることは容易に想像出来た。 
 俺はさり気なく下を向き谷崎君の傷口をアリアリと思い浮かべて青くなった顔を隠した。幸樹と違って俺は血が怖いし、想像力は無駄に多い。

「ではお飲み下さい。大将殿にはもっと高価なコーヒーこそ相応しいのですが、それは本国に帰ってからということで」
 幸樹はブラックコーヒーの缶のプルトップを開けて両手で恭しく差し出す。
「うむ、御苦労。今、北野君に『地上の楽園』の素晴らしさを説いて聞かせていたところだったのだ」
 幸樹に乗せられたのか、得体の知れない上野教授の薬のせいなのか、多分両方が相乗効果を発揮したのだとは思うんだけれども、谷崎君はとても偉そうだ。その内、時代劇の将軍様のような言葉を発してもおかしくない。
 幸樹は振り向いて谷崎君が「北野レポーター」だと思い込んで疑いもしていない西野警視正に数秒視線を当てた。俺も幸樹の顔を見て、幸樹がいつも通りの端整で怜悧な顔をしていることに安堵の吐息を小さく漏らす。西野警視正は、一瞬「うんざり」といった様子の顔を浮かべたが、それも直ぐにかき消して感心した表情を浮かべた。幸樹はその様子を見て口角を上げた。
 谷崎君は一口二口飲んでいる様子だった。俺は思わず(もっと飲んでくれ!)と魂の底から願ってしまう。30分で利く薬だとは知っていたけれど、迂闊なことに「どれだけ摂取すれば」という情報を聞き逃してしまっている。一口で利くのか缶全部なのかは分からない。
 ブラックで飲ませたのは薬の味がコービーに紛れて分からなくするためだとは察しが付いたのだけれども。
「大将殿に意見を述べても宜しいですか?」
「うむ、許す」
 客観的に見たら――特に俺が時々観ているドラマとかだと上役の方が貫録たっぷりで下っ端は吹けば飛ぶような感じに描かれている――でも、幸樹と谷崎君では幸樹の方がどう見ても人間としての度量は大きそうだし、何しろ病的に痩せた谷崎君としなやかな長身の幸樹だと見た目でも幸樹の方が上の人間を演じるのに相応しいのだけれど。
「北野レポーターには、更なる御高説を仰って下さらなければなりません。いえ、北野レポーターではなく日本国民に決起を促す演説とでも申しましょうか。それには糖分を含んだこちらの方が最適です」
 幸樹はカフェオレの中で一番甘そうな缶を手に取ってプルトップを開けていた。俺も気が付いたように、薬の適量が分からなかったのかもしれない。いや、所要時間から薬品名を推測出来たのだから適量は知っている可能性も大きいけれども。
「ううむ。そう言われてみれば尤もだ。おい、北野、他の局はまだ来ないのか?」
 幸樹がブラックの缶とカフェオレの缶を交換している。何だか谷崎君の態度がどんどん尊大になって行くのはやはり「闇に囚われる」薬のせいなのだろうか?
「同志、いや、高寄、飲み残したコーヒーを飲むと良い。特別に許可を与えるのを有り難く思え」
 谷崎君は尊大な口調で幸樹に言った。
 幸樹の広い背中に隠れていた俺は、真っ青になってしまった。あのコーヒーには強力な睡眠薬が仕込まれているのだから。




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「心は闇に囚われる」 150

「三十分で効く薬か……。なら、バルビツール酸系のチオペンタール辺りかな?」
 ただでさえ体力がない俺は極度の緊張と、今日一日の行動――母校へ行ったこととか、その後のバタバタした動き――が祟ったのか早足で歩く幸樹に付いて行くにも息切れがして、眩暈が起こりそうだった。
 それを察した幸樹は立ち止まって、俺の顔を心配そうに見詰めて来た。
「大丈夫か?顔色が悪い……」
 俺は足手まといになっているのが情けないので、頑張って笑顔を作った。
「少し、気分が悪い。幸樹は先に行って……俺は少し休んだら大丈夫だから」
 幸樹の整った眉根がギュッと寄せられた。
「いや、遼を一人になんてさせられない。コンビニは遼も知っての通り駅前に有るだろう?谷崎はオレ達がコンビニに行っていると思っているから、ゆっくり歩いても大丈夫だ。谷崎の精神がどこまでおかしくなっているかは分からないが、もし、時間の経過を判断する力が残っているようなら早く着き過ぎても不審に思われるかもしれない。それに現場には西野警視正も山田巡査も居る。西野警視正は口だけでなく体力も判断力も非の打ちどころがない人だから任せておいても大丈夫だ」
 幸樹がキッパリと断言してくれたお蔭で俺も少しは気が楽になった。幸樹が大丈夫と言うからには本当に大丈夫なんだろう。
 公民館と本部はホンの近くに有る。ただ、谷崎君が籠城している公民館からは死角になっている場所に設置されているんだけれども。それに、公民館と本部とをつなぐ道は一般人というか、野次馬は入って来られないように警察がガードしてくれているのは、行きのパトカーの車窓からも見えていた。
「幸樹、こんな時に悪いんだけど、胸を貸して欲しい」
 息切れと眩暈を治すのは幸樹の胸の中で、幸樹の肌の香りや温かさ、そしてしなやかな筋肉の付いた身体を感じるのが一番のような気がした。
 警官がガードしているのは公民館と本部への道の入り口だけで、辺りに人の姿はない。それにこの辺りは一軒家の最低分譲の土地が100坪で、窓から覗いている人が居たとしても、下町のようにはっきりとは見えないに違いない。
「ああ、遼の頼みならいくらでも」
 幸樹は俺の背中をゆっくり撫でてから、手に力を入れて抱き締めてくれた。
 広い胸と幸樹の香りに包まれて、しかも背中には幸樹の腕が回されて俺の背中を宥めるように動かしてくれている。束の間の安息だとは分かっているけれども、こうしていると眩暈も息切れもウソのように治まっていく。
「幸樹がさっき言ってた薬の名前、聞いたコトがないや……。どんな薬なの?」
 入眠障害を患っているお蔭で普通の人よりはそういう関係の薬の名前はたくさん知っている。でも、さっき幸樹が呟いていた薬は見たことも聞いたコトもない。
「ああ、今では滅多なことでは処方されなくなっている薬だから遼が知らなくても当然だ。バルビツール酸系は芥川龍之介とか太宰治の時代には一般的な睡眠薬だったが、両名ともどうなったかは知っているだろう?」
 文学史もウチの大学の入試には出題されるのでもちろん知っている。二人ともそれで自殺しているし、太宰は何度だったかは忘れたけど、複数の女性と心中事件を起こして、女性だけ亡くなってしまっている。
 そんな危険なお薬なだけに、今では処方されていないのだろう。ただ、俺も掛かりつけの菊地クリニックで躁状態になって危険な患者さんを見たことが有る。その時菊地先生は何かを注射していたけれども、今思えば幸樹が言ったような薬なのだろう。小説家はたくさん飲んであんな事態になっただけで、適量を守れば命には関わらないことを知って――まぁ、警察が動いているだけに、最悪の場合薬物でどうにかするよりも、「やむを得ず発砲」という最悪のケースは考えられるけれども――少しは安心した。
「ただ、チオペンタールは五分から十五分で効果が表れるハズだからオレの予測は外れているかも知れない」
 幸樹の深みのある声を耳元で聞くと、身体がゾクリと震えてしまう。昨夜の行為を不謹慎にも思い出してしまって。
「幸樹の推測は当たっていると思うよ?十五分で利く薬でも、何かのはずみで十五分以上かかることがあるかも知れないから、お医者さんはその幅に余裕を持たせたのじゃないかな?」
 伊達にその手の薬を飲み慣れているわけではない。俺が処方されているお薬だって、「一時間後に効果が表れる」とか書いてあってもきっちり一時間後に眠気をもたらすことも有れば、もっと遅くなる場合も有るのは経験済みだ。
 幸樹の右手が肩甲骨から肩へ、そして俺の首筋へと移動する。幸樹の意図を悟って、俺は胸に当てていた顔を上げる。
「遼がそう言うのなら、そうなのだろうな……」
 幸樹の涼やかな瞳の光が俺の視線と真っ直ぐに絡み合う。
 トクトクと鳴る心臓の音は幸樹にも伝わっているのかと思うと、少し恥ずかしかったけれども、目を閉じてしまう。
 唇が重ねあわされて、その感触に陶然となる。
「もう大丈夫そうだな……。行こうか?それに、そんなに早く片が付くならオレも遼と一緒に公民館に入らせて貰う方が良いかも知れない」
 唇を少しだけ離して幸樹が切実な口調で言う。
「俺一人で大丈夫だと思うけど?」
「いや、谷崎の場合は警察や医師が想定していない要素が有るだろう?西野警視正は知っているが。だから、この中の薬の効き目が想定外になることも考えられる。それに、遼には怪我一つ負わせたくない。何が有っても遼を守りたい」
 幸樹の真摯な口調に涙が出そうになる。
 公民館の前に着くと、依然として西野警視正がインタビューの真似事をしている後ろ姿と、谷崎君のさっきと同工異曲の怒鳴り声がガンガンと響いている。谷崎君の声は、幸樹と抱き合っていた時から聞こえていたのだけれども。
「同志、差し入れを持って来た。こういう場合は握手と行きたいが、それよりも同志となった証の乾杯をしたい。オレもその中へ入れてくれ!」
 幸樹が西野警視正にチラリと目配せをしてから怒鳴った。西野警視正は「了解」と思しき視線を送る。
「若き革命の闘士達が、三人で乾杯をする……素晴らしいね。これはとてもテレビで全国に流したい映像になることは必至です!出来れば玄関を出て乾杯の様子をカメラに写したいですね!」
 西野警視正は興奮した大声を聞こえよがしに出してくれた。幸樹のアイデアの助け舟の積りだろう。
「どうだろう、誓いの乾杯をテレビに流してもらうというのは良い考えだとは思わないか?同志よ!」
 幸樹も本当の革命家のような演技をしている。
「分かった。今開ける」
 ドアが開いて、谷崎君の姿が現れた。その姿を見て幸樹はともかく俺は固まってしまった。






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気分は下剋上 公認カップル騒動 80

「それは私もついつい救急救命室の凪の時間とかで観ましたよ。確かに人を惹きつける話し方だと思いましたし、ヤジを飛ばした人に対する対応も物凄く良かったと思います。
 しかし、あそこまでするとうっかり選挙の時に私の名前が書かれてしまうような気もしますから要注意ですね……」
 冗談で言った積りだったが最愛の人は真顔で頷いている。
 「いや、それは冗談です」と言っていいのか一瞬迷った。冗談が分からないと人知れず品気で悩んでいる最愛の人だったので。
「――当然ながら立候補者名簿って言うのですか?それには載ってない人間の名前が書かれた場合、選挙管理委員会はどういうふうに処理するのかご存知ですか?
 田中祐樹が100票とか取ったら面白いでしょうが、立候補の届け出は当然していないので得票数としてカウントされないのは分かります」
 冗談じゃなかったことにしよう。
 せっかくの休日に最愛の人を落ち込ませることはしたくない。
 しかも睡眠不足で頭のネジが落ちたと思しき呉先生から「大人のおもちゃ」の数々を聞かされて困惑していたし、その追い打ちになるような気もしたし。
「ああ、開票作業の時に明らかに違う人の名前は跳ねられるとか。結局は人の目で確認するらしいので怪しいモノは数人でダブルチェックをして明らかに候補者ではない固有名詞が書かれたのは無効票になるらしい」
 そういうものなのか……と思ってしまった。
「一回の応援演説で当選ラインまで行ったら面白いでしょうね……。
 市議会議員の仕事は基本議会が開催されている時に役所に行って賛成か反対票を投じる以外では市民の皆様と触れ合って要望を細かく聞き取ったりトラブルなどが有った時にその仲裁役をしたりするだけみたいですよ?
 それで年収1200万円プラス政治活動費とかの名目でお金が貰えるらしいです。
 年収はそれほど魅力的ではないのですが、仕事量の割には高いと思いますし、何より人の命が掛かるような仕事ではない点が良いですよね……」
 研修医時代ならば羨望の余りクラクラしそうな年収だったが、祐樹もAiセンター長とか救急救命室での残業手当――と言っても心臓外科から支払われているが――などを足すともっと貰っている。
 ただ、市議会議員が人の生死に関わるようなことをしないのでストレスの度合いが違うだろう。まあ、一回なったからと言って次の選挙で必ず当選するという保証は全くないので選挙期間中はストレスの塊になるかも知れないが、それだって四年に一度だ。
「祐樹なら市議会でも府議会でも当選しそうだが……。ほら医師の肩書きも割とプラスに働きそうだし……。
 祐樹の応援演説を見に行ったらやっぱりダメか?」
 最愛の人が普段とは異なった煌めきを視線に載せて訴えかけてくる。
「母と一緒なら――あの人はあの人なりに知り合いも多いでしょうし、しかも『テツ子の部屋』を皆で観ていたので貴方との結びつきが容易に推察されますよね――ダメですが、無理のない程度に変装して貴方と分からないようにして聞きに来て下さる分には全く構いませんよ。
 ああ、そういう選挙運動の参加をして良いのかどうか病院長に確認しておかないとマズいですよね。
 今では動画のアップロードも簡単になったのでそんなモノに載せられた日には誰かが知って病院長にまで行ってしまったら大変なので。
 まあ、自民党なので病院長は快く承諾してくれそうな気もしますが。
 あ、久米先生に聞きたいことが有るのでラインして良いですか?」 
 最愛の人がこんなに乗り気になってくれるとは思っていなかったので、エキストラに行ってしかもその貴重(?)な出番までカットされたという久米先生の映画の題名を聞いておくことにした。
「そう言えば、貴方はネットフリックスも閲覧可能でしたよね?」
 久米先生の悲劇(?)が有った映画ももしかしたら含まれているかも知れない。
 祐樹は映画をゆっくりと観るのは最愛の人と「お家デート」をしている時だけだったので、そんなに家の中で娯楽を楽しむような時間的余裕はないものの、彼の場合は仕事の手際の良さと、祐樹のように長時間拘束ではないので家事をこなしながら色々見ていることは知っていた。
 久米先生からの返信がないのは岡田看護師とデートでもしているのだろうか?
 まあ、デート中にスマホを見るな!とアドバイスしたのは他ならぬ祐樹だったし、急ぎの用件ではなかったので気長に待つことにした。
「ああ、一応会員登録はしているが?そしてリビングに置いてあるテレビにも映るようにしたが?」
 そうなのか?と思ったが、PCの小さな画面で観るよりもリビングのテレビの方が迫力も違うので良いだろうな……と思った。
「それはそうと、母からまた要らない知恵を付けられたとかはないでしょうね……?」
 最愛の人が突然の降雪に困惑した薔薇のような笑みを浮かべていた。
「母の言うことは七割がたスルーで良いですよ。
 そんなに気に病まなくても別にどうとも思っていないと思いますし……?そもそも実の息子よりも貴方のことを気に入っているので、良かれと思ってお節介を焼くのも老後の生き甲斐というか……」
 最愛の人は花のように微笑んでいた唇を開いた。
「そんなお年ではないだろう?老後というほどの。
 それに気に病むとかそういう問題ではなくて『祐樹が料理をしているので安心した』という前置きがあって始まったお話しだったので……」
 実家にいた時には絶対に料理などはしなかったし、一人暮らしをしている時もそうだった。
 それが最愛の人と一緒に暮らすようになってからはマメに料理をしている。
 そのことが母もよほど嬉しかったようだった。
「それで何を言って来たのですか?」 
 変なコトを吹き込んでいないだろうな……と思いつつ気になったので深く聞くことにした。





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最後まで読んで下さいまして誠に有難う御座います。

リアバタがたたったのか体調不良で更新お休みして申し訳ありませんでした。


ではまた読みに来て頂けると嬉しいです。

     こうやま みか拝

◇◇◇





小説家になろう版 「気分は~」1stシリーズ こちらの方が圧倒的に進んでいますので、なろう様のアカウントをお持ちの方はブックマークとか感想などを頂ければ嬉しいです。









◇◇◇



「心は闇に囚われる」こちらが最も進んでいます!!感想書いて下さったのはこちらの読者様でしょうか?有り難いです!!






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気分は下剋上 七夕編 20

「大丈夫だと思う。これはキャラメルではなくて、チョコレートなので。
 ほら、マカロンってパステルカラーが基本だろう?だからチョコレートの焦げ茶色というか黒というのはそぐわないので、こういう色に工夫されているだけで。
 それにマカロンには珍しいほどダークチョコレートの味が再現されていたし。祐樹もゴディ〇のダークチョコは食べているよな?あんな味なので大丈夫だろう……」
 バレンタインの時にはナースや事務局の女性から相変わらず山のようにチョコを貰って祐樹だったが、殆どが最愛の人の口に入っているのも事実だった。
 毒見という思いは多分持っていないだろうが、これなら食べることが出来るのでは?などと教えてくれる最愛の人の味覚も優れているのも知っていた。
 まあ、ゴディ〇のような定番中の定番――と言っても久米先生などは「そんな本命価格帯のモノを義理チョコで貰えるなんて凄く羨ましいです!」と半ば本気で恨み言を懲りずに毎年言っているような気がしたが、正直なところ祐樹が貰ったチョコは殆どが最愛の人が食べていることは内緒だ。
 そして、祐樹が欲しいと思うのは最愛の人からのチョコだけだったので、正直なところチョコの獲得数はどうでも良い部類に入っている。
 そんなことを言うと久米先生とか、そして瞬く間にウワサとしてナースや事務局の女性にまで広まってしまうことも必至なので口が裂けても言えないが。
 今のところ、職場の人間関係は良好だったけれども、敵はなるべく作りたくないのも本音だったし。
「そうですか?では頂きます」 
 そう言って口を大きく開けると最愛の人は極上の笑みを浮かべて紅色に染まった長くしなやかな指を祐樹の唇へと近づけてくれた。
 マカロンを口に入れてくれる最愛の人の指を舌で舐めた。
 最愛の人の指の――まあ、マカロンの繊細な甘みも漏れなく付いてきたが――方が祐樹にとっては極上の美味だった。
「ああ、本当ですね……ビターチョコの味がしてとても美味しいです。
 しかし、私にとって最も美味しいのは貴方の指ですが。全部食べてしまいたいほど……ですよ……」
 確かに最愛の人が勧めてくれたマカロンはとても美味だったが。
「祐樹にそう言って貰えるととても嬉しいな……。
 さてと、祐樹が買ってきてくれたマカロンは食べ終わったので、笹飾り作りを手伝おうとしようか……」
 最愛の人が手を洗いに立ったのを好機とばかりに聞いてみた。
 本当はいつ祐樹の最も知りたいことを切り出そうかと内心ジリジリしていたのも事実だったし。
「あのう、この立派な化粧箱とかってダストシュートに入りきれませんよね?
 ほら、以前伊勢海老とか松茸などを患者さんから頂いた時も立派な桐箱に入っていたでしょう?
 ああいうのはどうやって処分なさっているのですか?」
 独り暮らしをしていた祐樹の場合、ゴミの収集日に間に合わないこともあった。まあ、学業や仕事が忙しいということで容赦してもらいたいなと思う。 
 そういう場合にはこっそり近くのコンビニとか生ごみが溜まりまくってしまった時には医療用廃棄物の捨て場に持っていって処分した。
 真面目で律儀な最愛の人はそんなことはしないだろう。
 さり気なさと素朴な疑問という雰囲気は崩さずにそう聞いてみた。
 最愛の人の場合、感心するほど器用なのでもしかしたら、桐の箱も化粧箱も粉々にしているのかも知れないが。
「ああ、確かにこの箱もそうだが、ダストシュートには入れないな……。そういう大きな物が出た時にはマンションの裏側にあるゴミ捨て場に持って行くが?」
 そんな場所が有ったのか……と初めて知った。
 まぁ、最愛の人が住んでいるこのマンションに祐樹が一緒に住むようになった経緯からマンションの説明は祐樹が直接聞いたわけでもないのでそれほど詳しいコトを聞いたこともなかったし、それからも全く日常生活に不自由はしていなかったので詳しくは知っていない。
 ちなみに車を買った時もマンションに標準装備として駐車場まで付いているのも知らなくて駐車場代も計算の上で大丈夫だろうと思って買ったものだった。
「なるほど、ゴミ捨て場があるのですね……。
 了解しました」
 詳しい場所は最愛の人に聞かずに――何故そんなことを聞くのかと突っ込まれた時に困る――受付嬢にでも聞いてみようと密かに決意した。最愛の人は特に疑いを抱いた様子はないのも幸いだった。
 まあ、あまり詮索する人ではないものの、万が一ということもある。
「あ、祐樹手伝う。私は織姫と彦星を折ることにする。あとカササギとお星さまも……」
 マカロンを食べ終わった最愛の人は色紙を嬉々とした感じで色紙を細く長い指で楽しそうに取っている。
「そんなものを折るのですか?いえ、貴方が折って下さったモノは永久保存版として残したいレベルなのでとても嬉しいですが……」
 そう言うと最愛の人はマカロンよりも甘い微笑を浮かべている。
「祐樹が作っているのは『あみ飾り』だろう?それも永久保存にしたいのだが、飾っておく場所が見当も付かないので残念ながらパスするしかないだろう、な……」
 ゴミ捨て場を聞いたことへの疑念は持っていないような雰囲気なので安心してしまう。
 これで寝室に鏡を運び込んでサプライズ付きの「逢瀬」が出来るかと思うと早く七月七日になって欲しいなと、クリスマスとかサンタさんを待ち望む子供のような気持ちになってしまう。
 まあ、子供は「愛の行為」を待ち望んでいるわけでは絶対になかったが。
 しかし気分はそんなモノだった。



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最後まで読んで下さいまして誠に有難う御座います。
 
そして天候不順のせいでダウンしてしまっておりました。

熱はないし、味覚なども有るのでコロナではないと思います。

今年は梅雨が明けるの遅いですねぇ……

  こうやま みか拝

◇◇◇

「心は闇に~」は再開実施に向けて頑張っています。
 
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◇◇◇






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