腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2019年06月

「船上のモリアーティ」 9

「よ!来てくれたか……。」

 相変わらずラフな格好で馬車や徒歩の人間が行きかう港の雑踏の石柱に凭れかかったシャーロックは眩しげにウィリアムの一分の隙もない服装と普段よりも若干緊張している顔を眺めていた、とても嬉しそうだった。

 ウィリアムは伯爵家の馬車ではなくて辻馬車を下りて、人混みから頭一つだけ出たシャーロックの方へと近付いて行った。

「はい。約束ですから。僕は約束を違えるようなことはしません。しかし、少し道が混んでいたので遅れてしまったのは申し訳ないです……。お待たせ致しましたか?」

 ほぼ同じ高さに有るシャーロックの顔を見ると先程まで感じていた後ろめたさが氷解して何故か心が溶けていくような気がした。

「俺も今来たばっかだし、別に待ってはいねぇよ」

 ウィリアムはシャーロックの足元を見て淡く笑みを浮かべた。

「そんなに煙草を吸っているのに、ですか?」

 シャーロックは慌てて足の下に散らばっていた煙草の吸殻の山を崩そうとした。

「いやぁ、来たのは10分くらい前なんだが、リアムが本当に来てくれるのか来てくれないのかとか考えちまって……、つい煙草の量が増えただけだ。

 リアムが約束を守る人間だってコトは充分過ぎるほど知っていたんだが、伯爵家には怖えぇ人間が二人居るだろ?

 だから抜け出されないんじゃないかって思ってしまって。

 で、どうやって抜け出したんだ?」

 ウィリアムはシャーロックの長い脚が吸殻の山を蹴散らしている様子を見て普段よりも明るい笑みを浮かべてしまっていた。

「『我々』に新たな――いえ、初めてといった方が正確ですね――敵というか、脅威が出て来たのでその対策を一人になってじっくり考えたいとそう言って屋敷を出て来ました」

 シャーロックが目を眇めて真剣な眼差しでウィリアムのルビーに似た紅い瞳を見詰めた。

「新たな敵?それは……。

 リアム『達』にとって俺は敵ではあるが、ある程度の譲歩は可能だ。結果的に相容れなくなっちまっても、な。しかし、今の状況ならばそこまで切羽詰まってないだろ。

 そういう歩み寄りが出来ない相手なんだろ?大丈夫なのか……」

 シャーロックの親身な口ぶりにウィリアムはむしろあどけない笑顔を向けた。

「色々手は打っています。ただ、追い詰めるだけの証拠が出ないので……。そのプランを考えるために一人になって考えたいと言ったら兄も弟もそして同志も納得してくれました。

 だから貴方のシンデレラになる時間は出来ました、が……」

 シャーロックは煙草の煙を肺がしぼむのではないかと思うほど盛大に吐き出して、海に捨てた。

 船の乗降口を優雅かつ上品に歩むウィリアムよりも、シャーロックの方が険しい顔をしている。

「それは大丈夫なのか……?」

 ウィリアムは先日シャーロックから受け取った一等船室のチケットを船員に見せていた。

「まだ分からないです。正直なところ。敵に対する情報が少なすぎて。

 ですから、このシンデレラ・リバティの時間にでもじっくり考え」

 「る積りです」と、そう言葉を紡ごうとしたウィリアムの薄めの唇をシャーロックの長く節張った指が塞いだ。

「そういう野暮なことを考えさせるためにわざわざ呼んだわけじゃない。

 三日間は文字通り、シンデレラの『自由』の時間だ。

 ま、気が向けば俺が相談に乗って……って、それはリアムにとっては要らん世話か……。

 ただ、いつかの宝石商殺しの時は別々に考えて同じ解答を導き出したんだから二人で一緒に考えれば正解がより近付くんじゃね?

 ま、相談する気になったら、いつでも言っ」

 「てくれ」と言いかけたシャーロックの唇を今度はウィリアムの白くしなやかな指が塞いだ。

「船室に折角ご案内して下さっている乗務員の方がいらっしゃるのに『作り話』を延々とする神経が分かりません。ここは公共の場所ですよ」

 ウィリアムひいては犯罪卿に対峙する「敵」……そんな頭脳と資金力、そしておそらくそれなりの武装集団まで持っている人間がこの国にまだ居たのかと思うと謎を解きたくなってしまい、ここがどのような場所か一瞬頭から飛んでいたシャーロックは「みだりに変なことを言うな」とウィリアムに咎められて口をつぐんだ。何しろ謎を解くことが――しかも「あの」ウィリアムまでが手こずっている相手なだけに尚更だ――第一の生きている証しだとまで思っているシャーロックの悪いクセが出てしまっていた。

 ただ、この三日間だけはそういう自分の執着を棚に上げてウィリアムと二人きりの時間を愉しもうと思っていたし、実際、逸る気持ちのまま約束の時間よりも随分早く港に着いたというのに。

 ウィリアムは厚いペルシャ絨毯が敷き詰められた一等船室のゲスト専用のエリアに足を踏み入れた途端に、歩みを止めた。

「ノアティック号の時もそうだったが、黄金比ってのはそんなに良いモンかね。

 まあ、見事な建築だし、あの天使の像なんてものすげぇ造形美だと思うけど。それに螺旋階段やステンドグラスの天井も……」

 二人並んで、ウィリアムは階段を、シャーロックはウィリアムの肢体を黙って見ていた。

 ステンドグラス越しの陽光が赤や黄色の模様を織りなす空間に佇んだまま。


--------------------------------------------------


このお話は、今ドハマり中の「憂国のモリアーティ」の虹小説です。1万字程度で書こうと思っていたのですが、私の悪いクセでついつい長くなってしまいました。

あと三回くらいで終わる予定、は未定です。
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが上がりますので、宜しくお願い致します!!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村



小説(BL)ランキング


PVアクセスランキング にほんブログ村

気分は下剋上 学会準備編 303

「明日は、やはりお客様に楽しんで貰うとか、病院長が華麗な人脈を駆使して招待した国会議員などにも気を使わないといけませんからね。

 ですから、こうして前夜祭めいた気分で楽しめる方が気も楽です。

 それに、何か――まあ、この殺風景な部屋の雰囲気は別にして――二人でこっそりと金と銀の粉を浴びるというのもお目出度いですよね。

 正確には『披露宴』ではなくて結婚式が終わった後に新郎新婦が教会の扉から出て来る時にライスシャワーを投げて貰いますよね。

 まあ、確かにあれも綺麗と言えば綺麗ですが……所詮はお米でしょう。金や銀の方が断然綺麗ですし、貴方には相応しいと思いますよ」

 祐樹の極上の笑みを浮かべた唇が薔薇色の言葉を告げてくれる。

「そうだな……。ただ、殺風景だと言うが、私は祐樹が居てくれるだけで……その空間は薔薇色の空気で満たされるのでそれで充分だ。

 しかも、シャンパンタワーが――動画では見ていたが、再現性については不安だった――想像以上に綺麗で……、明日あの頂上から黄金色のシャンパンを『二人の共同作業』として注げるのがとても楽しみだ。

 今ですらあんなに煌めいているグラスなので、その中に黄金色の液体と白く細かい泡が加わったらどれほど綺麗かと思う」

 祐樹も目を輝かしてパーティ会場を見ている。

「そうですね。

 しかし、あんなに精緻に組み上がっているタワーですから、細心の注意を払って注ぐ必要が有りますよね。

 うっかりシャンパンのボトルをグラスにぶつけてしまわないか心配です」

 確かにボトルを異なる方に向けてしまうとシャンパンタワーが崩壊してしまう恐れは有る。そんな事態になってしまったら、乾杯の挨拶すら不可能になってしまう。

 そもそも、祐樹と二人であのタワー全てにシャンパンを満たす「共同作業」を終えた後に、グラスをゲストに配るというスケジュールだったので。

「パーティが始まった直後だから酔ってはいないだろうが、緊張とか喜びの余りに手が滑るとかは有り得るだろうから気を付けなければならない、な……」

 そういう意味では披露宴ではありがちなケーキカットの方がそういうミスも少ないだろう。何しろケーキは動かないし、ナイフを入れるという作業の方が単純だ。

「ま、貴方がミスをするようなことはないと信じていますが……。あんなに器用な上に充分過ぎるほど身体能力もお持ちでしょう」

 祐樹が力付けるような口調で断言した、その揺るぎない信頼に心が黄金色に波打った。

「それは……、最善を尽くすが……緊張の余りに何かを仕出かしてしまうかもしれない……」

 それでなくとも、ここから見える十字架を象った照明が荘厳さを醸し出す壁の前の雛壇の上に二人並んで座って、事情を知っている人には「披露宴」を行うという一生に一度の晴れ舞台だ。どういう感情に支配されるか――もちろんプラスの感情だけだろうが――自分でも想像がつかない。

「大丈夫です。シャンパンのボトルも二人で持つ予定ですよね。ですから、貴方が手を滑らしたとしても――と言ってもそういう事態は想像が出来ないのですが――私が全力でお助けします」

 祐樹の真摯な声や眼差しが自分の心の薔薇色と銀を更に深みを増していくようだった。

「いや、仕事ではミスをしないという自負はあるが……。待ちに待った『披露宴』なだけに感情が高ぶってしまいそうで。

 それに……、何度も言うがこういうふうに皆の前で祝福を受けるという幸せ過ぎる機会が私に降ってくるとは思っても居なかったので尚更嬉しくて……。だから正直なところ、明日の私が普段通りに振る舞えるかどうか自信がない……」

 祐樹の方が緊急事態にも強いし、臨機応変に物事を見事に対処してくれるのも知っている。だから、今のうちに懸念材料を伝えておく方が良いだろう。

 祐樹だって予め想定しておいた方が臨機応変さにも磨きがかかるだろうし。

「ああ、なるほど。それはそうですね。大丈夫です。貴方を全力で支えると――プライベートはもちろんのこと、職務上でも――常々思っているので、その点は大船に乗った気持ちで居て下さい」

 祐樹の指が指の付け根まで絡められた、力付けるように安心させるように。

 その力強い感触に薔薇色の鼓動が全身を染めていくようだった。

「裕樹に全て任せている……。

 今までも、そしてこれからも……」

 紅の情動のままに祐樹の首に片一方の腕を絡ませて唇を合わせた。

 唇の表面だけを重ね合せただけの接吻なのに、背骨が溶けるような甘く熱い感触が薔薇色の電流となって身体を奔った。

「はい。私も今まで以上にサポートします。

 特に病院長選挙という想定外のことまで――いや、貴方の場合主観はどうであれ、客観的に見て目指すのは当然だと思いますし……密かに待望論も根強かったですからね――目指して下さるのですから……。その件も織り込み済みで動きますね。清水氏と今日お会い出来たのは幸いでした。貴方は貴方らしい『多次元尺度構成法』で各科の教授職や准教授、そしてキーパーソンの穏当かつ自然な取り崩しをなさってくださいね。

 そういう意味でも清水研修医を知ったことは大きいですよね。

 私は従来の……いわば斉藤病院長お得意の方法で試みてみます。

 二人が同じことをするのと、異なったアプローチ法でするのでは効率が異なりますから。

 そういう点では清水氏と親しく語り合えたのは僥倖でしたね。

 母に感謝しないといけませんね、この件だけは」

 祐樹の唇を唇で感じると、その確かな熱さに眩暈がするほどの薔薇色の陶酔が頭の中に霞んでいく。

 確かに、祐樹のお母様が手の痺れを相談してくれなければ今日はマンションで「披露宴」前日の感傷に耽りながら一日を過ごす予定だったので。

「名残惜しいですが……。そろそろタイムアップのようです。

 ほら、宴会場のテーブル設置という、ホテルのスタッフにとっては日常業務に変わっていますので。

 明日の準備が終わるのも時間の問題でしょう。闖入者はそろそろ退散した方が良いです」

 隙間から覗いたら、祐樹の言葉通り先程のシャンパングラスを――ワイングラスに色々な種類が有るが、通常の物よりも平べったい感じだった――並べていた時の慎重極まる手つきではなくて、椅子とテーブルを素晴らしい手際の良さで並べていっている。

「そうだな……。何だか覗き見をしている――祐樹と二人なら何をしても楽しいが――スリルも味わえて嬉しかったが」

 それに、祐樹の尤もらしい、そして何の化学的根拠もない口から出任せの言葉も頼もしかったしそれ以上に可笑しかった。このホテルに来て本当に良かったと思いつつ、祐樹が開けてくれたドアから出た。

 明日の準備は完璧に出来ているものの、マンションに帰って感傷に耽りたい気持ちも有った。

 その全てが薔薇の花に銀の粉が舞っているような錯覚を覚えた。

 その瞬間に、会場全てが視界に入り目を見開いてしまったが。



--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが上がりますので、宜しくお願い致します!!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村




小説(BL)ランキング


現在ノベルバ様で「下剋上」シリーズのスピンオフ作品を書いております。

もし、読みたいという方は是非!!
こちらでもお待ちしております。

https://novelba.com/publish/works/884955/episodes/9398607
↑ ↑

すみません!試したらノベルバ様のトップページにしか飛べなかったので、「こうやまみか」と検索して頂ければと思います!!



PVアクセスランキング にほんブログ村

気分は下剋上 学会準備編 302

「化学変化が万が一起こって、大切なゲストだけでなく我が病院の優秀なスタッフ、そしてホテルのタブーだと聞いています、火事・食中毒――と言っても実際に火の粉が上がるかは分からないのですが――有毒ガスが出てしまわないか計算しています。

 もうかなり以前になりますけれども主婦がお風呂場で二種類の洗剤を混ぜてお亡くなりになった痛ましい事故が有りましたよね。

 あのように二種類以上の物を混ぜると危険な反応が起こることもありますので、一応念のために計算しておかなければならないのです……。

 金や銀がシャンパンの中に入って化学反応を起こしたら大変ですよね。これだって二種類以上の混合ですから」

 祐樹が実際に立式した上で解いているのは金と水銀を混合した場合だったが、ホテルのスタッフは分からなかったらしく、まるで日本から出たことも学んだこともないアラビア語を眺めるような呆然とした顔だった。それに「混ぜるな危険」と今では書いてある洗剤は塩素系の洗剤と、酸素系の物でそれを混ぜてしまうと硫化水素が発生するのは事実だが、祐樹のミスリードでは「二種類のモノを混ぜればまずい」との誤解を与えるためだろう。咄嗟にそんな口から出まかせが出てくるな……と感心してしまう。

「……はあ……。なるほど……無残なことが起こったお風呂場みたいに有毒ガスが出る危険性が有ると……」

 ホテルマンは――しかもここは日本有数の観光地だけに――語学には堪能なのだろうが、理系科目の化学はサッパリらしかった。

 そうでなければ祐樹の書いた元素記号が金や銀はともかく水銀だと露見してしまっていたハズだからだ。

 そういえば、友達と呼べる人も居なかった高校時代の同級生が――といって別に独りで居たほうが気楽だったので気に病んだことは一度たりともない――ビジネスマン向けの雑誌に載った自分の略歴と名前を見て連絡を取ってくることも稀に有る。ある程度理系の勉強をしなければ大学に受からない国公立と異なって早稲○大学やK応義塾大学など私立大学に進学した人達は会社のグローバル化に合わせてビジネス英会話には苦労しているそうだが「理系の勉強は赤点さえ取らなければ良いし、一夜漬けをして終わったら頭から飛んで行く」と高校時代にも言っていた通り、化学とか物理など高校時代で止まっているのだろう。

 そしてこのホテルのスタッフさん達も。

「もう少し計算してから参りますので、もう少々お時間を頂いて宜しいですか?

 火災というか爆発とか異臭騒ぎが起こった場合、私達の記念パーティも台無しになりますし、このホテルも新聞沙汰、いやニュースかも知れませんが、とにかくメディアにマイナスのニュースが流れるのはマズいのではありませんか?」

 尤もらしいウソをつくのは祐樹も得意だった。しかも真剣かつ真摯な表情で熱心に言い募るのだから聞いている方も説得力が有り有りなのだろう。

 もしここに理系出身の森技官が居たら鼻で笑い飛ばすような化学式だろうが。

 そういうのを真似なければ病院長の道のりは遠いことは分かっていたが、自分にはこんなハッタリのような真似は出来そうにないので祐樹の爪先を煎じて飲みたい気がした。

「承りました」

 恐れ入ったような感じでドアを閉めかける年長のスタッフに裕樹の言葉が「象牙の塔」の住人のような重々しく響いた。

「金や銀の粉も粉塵爆破が起こるような――え?粉塵爆破もご存知ないのですね。まあ、大学の専攻が異なるので仕方ないのかも知れませんが。

 例えば小麦粉有りますよね」

 中年の温和そうかつ腰も低い男性がきょとんとした表情を浮かべていた。ドアを半分だけ開けたままで。

「コムギコというのは、厨房に山ほど有る……食材のことですよ……ね?」

 何だか異国語のような発音で聞いてきた。確かに小麦粉だろうと片栗粉だろうと空中が真っ白に成る程度撒き散らした上で火を点けると爆発する。ただ、そんなバカなことをしない上に、ある程度の理系の知識がなければ分からないのだろう。

「そうです。宙に舞う細かい粉も実は大変怖いのです。

 あいにく金と銀の粉がそうなるかどうか存じ上げないので……。

 しかも、明日のパーティではローソクの灯りも使う予定ですよね。ですから万が一にも爆発が起こらないように実験をしていたのです。

 ほら」

 祐樹が最も舞っている場所にライターの火を躊躇なく近付けた。

「ね、小麦粉と異なって爆発しないでしょう。そういうのを実験していたのです」

 中年のスタッフは感嘆しきりという感じで頷いていた。どうやら祐樹の舌先八寸で丸め込まれたらしい。空中に撒いた小麦粉が爆発するのは本当だが、それはそもそもが小麦粉は可燃物だからで、金や銀はそうではない。

 ただ、そんなふうに言いくるめるのかと思うと――何しろ、二人でシャンパンタワーを見ながら金や銀の粉を身体だけではなく鮮やかな薔薇色に咲き凝った心にもふんだんに浴びている気持ちだったのは自分だけではないような気がする――頼り甲斐が有り過ぎて惚れ直してしまう。

「教授、田中先生ご存分にご検証下さい。お二人のことですから大丈夫だと思いますが、そちらに消火器が御座いますので万が一、いやもっと低い確率でしょうが……とにかく非常時にはお使い下さい」

 感嘆しきりといった感じの表情を浮かべてドアを静かに閉める。

 その瞬間、祐樹がやや小さ目な、しかし心の底から楽しそうな笑い声を立てた。

 自分もつられたようにドアの向こうに聞こえないようにだけ気を配って声を立てて笑っていた。

 金と銀の粉が舞い散る二人きりの空間で、眼差しを絡み合わせて笑い合える宝石のような時間に束の間酔いしれた。




--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが上がりますので、宜しくお願い致します!!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村



小説(BL)ランキング


ノベルバ様



もしくは、現在ノベルバ様で「下剋上」シリーズのスピンオフ作品を書いております。

もし、読みたいという方は是非!!
こちらでもお待ちしております。

https://novelba.com/publish/works/884955/episodes/9398607
↑ ↑

すみません!試したらノベルバ様のトップページにしか飛べなかったので、「こうやまみか」と検索して頂ければと思います!!




PVアクセスランキング にほんブログ村

気分は下剋上 学会準備編 301

「柏木先生の結婚式の時に、私に誓ってくれただろう?『死が二人を分かつまで』ではなくて『死が二人を分かつとも』と決まった文言を変えてまで。

 あの時も涙が出るほど嬉しかったな……。そういう嬉しさの結晶があのシャンパンタワーとか十字架型の照明だと思うと薔薇色に染まった気持ちに銀と金のシャンパンの泡が後から後から弾けては心を嬉しく揺らしているようで、感無量だ……」

 副支配人が比較的年齢の高い人に耳打ちをした後に急ぎ足で会場を後にしている。

 ホテルの業務は当然ながら良く知らない。何か他に急用でも出来たのだろう。

 ただ、祐樹と自分の対応窓口だったので、副支配人が居なくなると他の人間に引き継ぎを済ませていない限り――見た感じだと何か突発的な事態が起こったようだったので、そこまでの余裕はなさそうだった――この部屋に留まることが出来そうだった。

「私もですよ。貴方を愛しているとずっと申し上げてきたというのに、愛を信じないとずっと仰っていたでしょう?

 その頑なさも好ましいと言えなくはなかったのですが……。しかし、いい加減に信じて欲しいなとずっと考えていました。

 実家の母に紹介したのもその一環でした。しかし、その足で行った天橋立では貴方は月に透けてどこかに行ってしまうのではないかという非科学的な恐怖に怯えましたね」

 祐樹がやや湿った声で告げてくれた。

「ああ、だから『どこにも行かないで欲しい』と言ったのか?

 私の居場所は祐樹の傍しか考えられなかったので――若しくは祐樹の居ないアメリカかヨーロッパの病院というのが妥協に妥協を重ねた場所だ――何故そんなことを言うのか分からなかったが」

 天橋立の松の木の上に輝く月の光を鮮明に覚えている。確かに綺麗だったが、それは祐樹と一緒に見上げていたからで、一人だと――まあ、そもそもそんな場所に自分だけが行くこともないが――月を見上げることもしないような気がする。

「そうですよ。徐々に私の言葉を信じて下さるようになって嬉しかったですけどね。

 布引ハーブ園でのことを覚えていらっしゃいますか?」

 マイナスイオンの爽やかさに囲まれた、懐かしさとそして祐樹の言葉は――その頃にはやっと心の底から確固として信じられるようになった、愛に臆病だった自分が――永遠に続く「二人だけで生きていく将来」を誓ってくれたものだった。

 あの時も幸せ過ぎて涙が零れそうになるのを必死に堪えていたのを今でも鮮やかに覚えている。

「もちろん、覚えている。とても鮮明に。そして祐樹の誓いの言葉が――口先だけで言っているわけではなくて――魂の底から言っているのだろうなと思わせてくれた。

 それまでは愛とはいずれ移ろうモノだから、いつ裕樹が去って行っても仕方ないと、その時には事故に見せかけて自殺しようと思い詰めたことも有ったな」

 祐樹が心の底から驚いた感じの眼差しが自分の視線を絡め取った。

 ついでに、金と銀の粉が舞い散っている中で静かな抱擁を交わした、祐樹の長い腕に抱き寄せられるままに。

「そんな物騒なことをいつ考えていたのですか。ああ、あの忌々しいアメリカの大富豪が狭心症ごときで病棟を貸切りにした時ですか。

 あの時はてっきり貴方があのアメリカ人に……。まあ、済んだことなのですが」

 祐樹の広い胸に抱きすくめられて、魂までもが溶けそうなほど安堵した。

 隙間から見える十字架を象った白い照明が涙で霞んで見える。そして宙に舞う金と銀が二人を祝福してくれているようで目に眩しかった。

「そうだな……お互い嫉妬し合っていたのだったな……。私はてっきりあの患者さんの秘書兼ボディガードが裕樹の好みだと思い込んでしまっていたので。

 これからは……」

 顔を上に向けて接吻を強請った。望み通りに落ちてくる祐樹の唇とか男らしく整った容貌を凝視しながら――勿体なくて目を閉じるなど不可能だった――唇を動かす。

「嫉妬の念もそうだが、思ったことは全て祐樹にこの唇で伝えることにする」

 切実な眼差しで伝えると、祐樹の輝く瞳が優しくて慈しむような光を宿していた。

「約束ですよ……。明日実質的な『披露宴』を済ませたからには『死が二人を分かつとも』お互いが一緒に居る約束を正式に交わしたと見做しますからね。

 それに、今時は敬虔なキリスト教徒でも神様の前で誓った『死が二人を分かつまで』を反故にして離婚するカップルが多いみたいですね、外国でも。

 しかし、私は無神論者ですが、貴方との約束は死んでも破りませんので」

 誓いの接吻めいた感じで唇を強く吸われて背筋が薔薇色に跳ねた。

「あ、こちらに人が……」

 祐樹が抱擁を解いたと思ったら、ドアがノックされた。

 金と銀の粉が舞っているのをどう言い訳しようかと、途方に暮れて裕樹を見た。

 表情筋の動きは以前よりも遥かに改善されていると祐樹は褒めてくれていたが、笑って誤魔化せる類いのモノではないので、こういう点は裕樹頼みになるには今のところ仕方ない。

 ただ、未来の病院長を狙うのなら――いくら祐樹の力強い援護が約束されているとはいえ――自力で解決しなければならないことも多くなるだろう。

 そもそも自分が病院長というポジションに就くことを決めたのは祐樹を自分の後継者にしたいからだった。

 つまり、公的な場所限定ではあるが斉藤病院長と自分の関係性を、いずれは自分と裕樹が担うということだ。斉藤病院長は一々自分にお伺いなど立てていないし、特別なお願いとか指示などがないと病院長室には呼ばない。

 いずれは、祐樹が心臓外科を率いて、自分は病院全体のことを考えなければならなくなる。

 教授総回診の行列はこっそりと見守る積もりだったが。

 私生活は変わらないだろうが、教授と病院長ともなると――今日偶然会った清水氏も全面協力して下さるのは僥倖だったが――今のように一緒に医局に居られなくなるのが少々寂しいが、まだまだ先のことなので当面の目標としては裕樹が居なくても自分で何とか対処法を考えられるような人間になることだと心に決めた。

「ああ、すみません。金や銀の比重から言って、そして化学式――」

 祐樹が棚に有った段ボールの箱の側面に置いてあった黒いマジックで化学式を書いている。

 ただ、金と銀の化学記号は合っていたが、何故か水銀と足している点が不可思議だった。

 ただ一つ分かるのは裕樹が金と銀の粉を撒き散らしたことを有耶無耶にして誤魔化そうとしているということだった。

 そういう祐樹を薔薇色と銀色に弾んだ気持ちで見ていた。


--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが上がりますので、宜しくお願い致します!!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村



小説(BL)ランキング



現在ノベルバ様で「下剋上」シリーズのスピンオフ作品を書いております。

もし、読みたいという方は是非!!
こちらでもお待ちしております。

https://novelba.com/publish/works/884955/episodes/9398607
↑ ↑

すみません!試したらノベルバ様のトップページにしか飛べなかったので、「こうやまみか」と検索して頂ければと思います!!



PVアクセスランキング にほんブログ村

気分は下剋上 学会準備編 300

「しかし、先程の副支配人が戻って来たら……」

 こんな雑然とした部屋ですら――スタッフ・オンリーと書いてあるが実際は倉庫的な存在なのだろう――こんなに綺麗に舞っているのだから、そしてその豪華な光景を二人きりで見ているというおまけ付きなのはとても嬉しかったが、唯一の懸念はこんな場所で貴重な金の粉をこっそりと散らせていることがホテルのスタッフにバレてしまうことだった。

「大丈夫ですよ。医師と教師、そして警察官はホテル・旅館業界では歩く三大無礼講と密かに呼ばれているようです。

 まあ、宴会の時には滅茶苦茶をするというほどの意味なのですが、ある意味慣れているでしょう。教師と警官は知りませんが、斉藤病院長なども御用達のホテルなので、医師の傍若無人さは。

 それに、この箱に入っている金や銀箔は『病院の宴会』のために用意されたもので、多少減っていても、結局は明日撒くわけですからプラスマイナスゼロになります。

 料金にはキチンと反映されているのですから文句はないかと思います。

 最悪『明日のパーティを完璧にしたかったし、その様子を自分の目で確かめたかった』と言い張れば良いのです。

 貴方のことを副支配人は知っていたので――しかも感謝の念、まあある意味当たり前ですからね、元上司の手技成功については。しかし、彼にとって執刀医としての貴方は特別な存在です――完璧主義者だと思い込んでいても全くおかしくないです。

 そんな風に麗しい誤解をされることは良くある話しですよね?」

 金と銀の――当然予算の関係で銀の方が多いが、舞い散らせてみると、銀の方が綺麗な煌めきを放っている――乱舞を二人で見詰めながら祐樹が確信に満ちた口調で断言している。

 確かに、自分は手技に関してだけ完璧主義しか認めない。患者さんの命を預かっているのだからある意味当然だと思っている。

 しかし、日常生活では何も考えていない――祐樹のことは別だ――ことの方が多い。

 病院長を始めとして錚々たるメンバーが集まる教授会の最中でもどうでも良い議題の時には聞き流して裕樹のことを考えているとか、あるいは何も考えていないことも多いのも事実だった。ただ、一度聞いたことは丸暗記してしまうという、祐樹に言わせれば秀逸過ぎる記憶力のお蔭でどんなにお互いが激論を交わす白熱した議論の内容も完璧に再現出来るので、誰が何を言ったかとかどんな暴言をはいたかなども覚えている。

 だから後々にトラブルになりかけた場合――大学病院は各々の思惑がうごめく魑魅魍魎の世界だとも言えなくはないので、足を引っ張る機会を皆が狙っているということは割と有る――自分はボイスレコーダーの代わりに使われていたのも事実だった。そして「今まで限定で」関わり合いにならないように、旗幟不鮮明に徹してきたが、未来の病院長を狙うからには味方と敵を明確にしないといけないことも分かっている。

 ただ、自分が単に何も考えていない時も、どうやら周りの教授はそうは思っていないらしいことも何となく漏れ聞こえてくる。

 祐樹はそれを言いたいのだろう。

「麗しいかどうかは分からないが、夕飯の献立を真面目に考えている時に『病院の将来を真剣に憂いている』とか言われたことは有るな……」

 祐樹が小さな笑い声を立てて笑ってくれた。

 その輝く笑みを見詰めると、自分もとても嬉しくなってしまって笑い返した。

 そもそも、祐樹がとても面白い冗談を言って笑わせてくれることは良くあるがその逆は情けないことにほぼ無い。

 だから、自分の発言で裕樹が笑ってくれるだけで心は薔薇色の細かい泡が弾けるような気分になるのに、こんな金と銀が送風機のせいで空中を舞っている絢爛豪華な空間で――と言っても設えてある棚には雑多なモノがごちゃごちゃと置いてあるけれども――二人が笑い合えること自体が心の薔薇色をより濃くしていく。そして先程呑んだシャンパンの細かい泡に似た弾みが心を細かく揺さぶるような気がして、眩暈がするほど幸せだ。

「そういう『麗しい誤解』を副支配人もして下さいますよ、きっと。

 職場での貴方の振る舞いをある程度見ているならなおさらのことです。

 それに、医師が休日とか宴会の時に羽目を外しがちなのは、事実ですからね。

 ――ウチの医局では柏木先生が率先してやらかして下さいますが……。

 まあ、あの時は結婚前の不安定な気持ちのせいで一時の過ちだと本人は言っていますが、あまり信頼は出来ないです……」

 順送りで医局長になった――ちなみに医局を纏める役割だが、普段は過不足なく務めてくれている――柏木先生の医局慰安旅行の時の泥酔したこととか祐樹がそのフォローと言う名前の憎まれ役になったことを、しっかりと覚えているらしい。

「祐樹が医局の裏の束ね役をしてくれてとても助かっている……。

 それはそうと――あれ……」

 祐樹が誰も入って来ないようにぴったりと閉めたドアから漏れていた光りが雰囲気を変えたことに気付いて、扉の方へと眼差しを移した。

 それまでは祐樹と二人で金と銀の乱舞を満足げに笑い合いながら眺めていたのだが。

「見て下さい。とても綺麗ですよ」

 祐樹が僅かに開いたドアの隙間から「披露宴」会場を見ていた。自分も祐樹に倣ってドアに近付いた。

「あの照明……十字架みたいですね……」

 祐樹が感嘆したため息混じりでそう呟いた。

「そういうふうにして欲しいと要望は出しておいたので……。

 それよりもあのシャンパングラスの塔の煌めき――今ですらあんなに綺麗なのだから明日『二人で』上からシャンパンを注ぐと、もっと輝きを増すだろうな。

 それにこの……」

 振り向くとまだ金と銀の粉の乱舞は続いていて、ため息が出るほど豪奢な雰囲気だった。背景がイマイチなのも全く気にならないほど。

「そうですね。金と銀の煌めきと――何だか貴方のイメージですよね――太陽の光りに似たシャンパンがあの見事な塔を満たしていく様子はきっと絶品ですよ……。

 それに、明日の『披露宴』の時はシャンパンタワーを倒さないようにとか、上手く下まで太陽の黄金が満たされるかどうかなどを考えないとならないでしょう。

 そういう意味では色々と気を配らなければならないことも多いので、こうしてこっそりと鑑賞して、そして想像力の助けを借りて『披露宴』をこっそりと二人きりで眺めるのも何だか秘密めいた、そして少しだけ背徳めいた感じまでしてとても素敵です」

 祐樹の感嘆めいた響きを帯びた声が鼓膜を薔薇色に染めていくようだった、もちろん心も。

「裕樹だって……」

 無神論者にも関わらず、十字架をイメージした照明が結婚式の――そういえば柏木先生の結婚式の時には裕樹が素晴らし過ぎるサプライズプレゼントをくれた。あの時も涙が出るほど嬉しかったけれども――雰囲気を醸し出している。

「私が何ですか……?」

 弾んだ心のままに唇が勝手に動いた。


--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが上がりますので、宜しくお願い致します!!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村



小説(BL)ランキング


現在ノベルバ様で「下剋上」シリーズのスピンオフ作品を書いております。

もし、読みたいという方は是非!!
こちらでもお待ちしております。

https://novelba.com/publish/works/884955/episodes/9398607
↑ ↑

すみません!試したらノベルバ様のトップページにしか飛べなかったので、「こうやまみか」と検索して頂ければと思います!!


PVアクセスランキング にほんブログ村

Twitter プロフィール
創作BL小説を書いています。ご理解の有る方のみ読んで下されば嬉しいです。
アニメイト
ギャラリー
  • 明けましておめでとうございます。
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
  • 「憂国のモリアーティ」とプリンスホテルのコラボ、行って来ました!
人気ブログランキング
にほんブログ村
カテゴリー
資産運用
楽天市場
  • ライブドアブログ