森技官は演説めいた口調に――この人は元高級官僚として国政選挙に出馬しても端整で苦み走った容貌とか男らしいバランスの整った高身長だけでも世の中のご婦人方は票を投じるような気がする。何枚目の皮かは知らないが「良い人」というネコの顔も持ち合わせている。しかも弁が立つことは祐樹が折り紙を何枚でもつけたいのだから――疲れた感じで呉先生が買ってきて、最愛の人が万が一に備えて首の下に当てていたのを丁重に受け取っての一気飲みだった。熱中症の可能性を考慮に入れたのか、首の下とか腋下そして、足の付け根を冷やすことを考えて、一番無難な頸部大動脈を選んだのだろう。
その喉ぼとけの動きとか、唇を呉先生がスミレの花が春の陽射しを爛漫とうけているような笑みで見ていた。
なんだか好きで好きでたまらないといった眼差しというか。
今は、ご機嫌斜めなのだろうが――確かに寝室での行為の暴露なんて誰でもされたくはないに決まっている。しかし、狂気の元研修医が「根拠もなく」放った暴言に最愛の人がものすごく傷ついていたので、敢えて泥をかぶる決意で言ってくれた「呉先生の夜の顔」を聞いた最愛の人劇的な精神的な回復を遂げたかを考えると、感謝してもしきれない。
それに呉先生も――ものすごく恥ずかしかっただろうが――あの爆弾発言が必要な物だったということも頭では理解している。しかし、だからと言ってカラリと割り切れる類いの言葉ではなかったのだろう。
呉先生はスミレの花の可憐な見てくれとは異なって怒ったら非常に怖い。祐樹や最愛の人は怒らせたことはなかったものの、森技官にものすごい勢いで食って掛かったのを目撃したので、あの言葉の羅列の凶器は――さすがは言葉が商売の精神科出身だと思ってしまったが――出来れば受けたくない。
ただ、呉先生も森技官に対して一気に怒りをぶつけられなかったのが――森技官が祐樹最愛の人の回復を優先順位の一位としての言動で、そして呉先生も最愛の人の主治医として診ていてくれたので、あの時のあのマンションの中ではああするしかなかったのも理解出来たのだろうが――長引いている原因だろう。
ケンカは「相手が悪い」と思い込むことによって成立するものではないかと個人的には思っている。先方の気持ちも分かるし、理解も出来る場合だとケンカにならない。
森技官の「寝室事情の暴露」は森技官が「必要に駆られて」行ったものであることも呉先生は「理解」している。そしてそう踏み切らなければあの時の最大の懸念材料だった手の震えも収まらないかもしれないと森技官が判断した苦渋の「気持ち」も分かっていたのだろう、頭では。
だからケンカにはならないままに、火種がくすぶっている状態が続いているのだろう。
今夜、最愛の人が呉先生にさり気なく、そして上手く言ってくれれば良いがと心の底から願ってしまう。
ただ、口下手な人だけに、どれだけ効果があるか分からないが。しかし、営業マンのように流暢に話すよりは、つっかえつっかえの不器用さで話すほうがこの場合は良いような気もしたが。
「貧血はしていないのですね?」
ベンチからよろよろとした感じで起き上がった森技官は最愛の人に確かめるような感じの眼差しを送っている。
「はい。その心配はありません。目蓋の裏側は――けっ……正常そのものでしたから。
それに脈拍などの異常もないです。
もう一度手首を貸してくださいませんか?」
最愛の人が「瞼の裏側は血色も良好で」とでも言いたかったのだろう。ただ、森技官は血が苦手なので慌てて言い換えたのは想像に難くない。
森技官の手首に最愛の人の薄紅色の細い指が回されているが、怜悧で真摯な眼差しとか真剣そうな表情なので嫉妬をする気にもなれない。
「先ほどよりも脈拍が安定してきましたね。多分、ジェットコースターに乗ったことから脈も速くなったのでしょう」
祐樹最愛の人の涼しげな声がジェットコースターの轟音とか子供達の歓声とか悲鳴に包まれたこの辺りの空気すら冷やしていくような気がした。脈拍とか血圧は緊張したり怒ったりしたら直ぐに数値も上がる。その点は心臓外科所属でもない――というか、外科には大学時代以来縁のない二人でも容易に分かったらしく納得の表情を浮かべていた。
ベンチから立ち上がった森技官は長身を立ち眩みでも起こった感じでふらついている。
「大丈夫ですか」
咄嗟に腕を伸ばして腰を支えた。同時に最愛の人は森技官の後頭部を両手で持っている。
いうまでもなく転倒した場合に一番ダメージを受けるのが頭部なので、それを慮ったに違いないが。
「はい、何とか大丈夫です。
立ち眩みでしょうね……。時々そうなりますので」
最愛の人は真摯な眼差しで森技官を見つめている。患者さんに対するのと同じような目の光だった。
「一度、精密検査をお受けになられた方が良いかと思います」
殺しても死なないような森技官だが、意外と脆いのかもしれない。
「ありがとうございます。そこで相談なのですが……」
次の言葉の意外さに目を見開いてしまった。
その喉ぼとけの動きとか、唇を呉先生がスミレの花が春の陽射しを爛漫とうけているような笑みで見ていた。
なんだか好きで好きでたまらないといった眼差しというか。
今は、ご機嫌斜めなのだろうが――確かに寝室での行為の暴露なんて誰でもされたくはないに決まっている。しかし、狂気の元研修医が「根拠もなく」放った暴言に最愛の人がものすごく傷ついていたので、敢えて泥をかぶる決意で言ってくれた「呉先生の夜の顔」を聞いた最愛の人劇的な精神的な回復を遂げたかを考えると、感謝してもしきれない。
それに呉先生も――ものすごく恥ずかしかっただろうが――あの爆弾発言が必要な物だったということも頭では理解している。しかし、だからと言ってカラリと割り切れる類いの言葉ではなかったのだろう。
呉先生はスミレの花の可憐な見てくれとは異なって怒ったら非常に怖い。祐樹や最愛の人は怒らせたことはなかったものの、森技官にものすごい勢いで食って掛かったのを目撃したので、あの言葉の羅列の凶器は――さすがは言葉が商売の精神科出身だと思ってしまったが――出来れば受けたくない。
ただ、呉先生も森技官に対して一気に怒りをぶつけられなかったのが――森技官が祐樹最愛の人の回復を優先順位の一位としての言動で、そして呉先生も最愛の人の主治医として診ていてくれたので、あの時のあのマンションの中ではああするしかなかったのも理解出来たのだろうが――長引いている原因だろう。
ケンカは「相手が悪い」と思い込むことによって成立するものではないかと個人的には思っている。先方の気持ちも分かるし、理解も出来る場合だとケンカにならない。
森技官の「寝室事情の暴露」は森技官が「必要に駆られて」行ったものであることも呉先生は「理解」している。そしてそう踏み切らなければあの時の最大の懸念材料だった手の震えも収まらないかもしれないと森技官が判断した苦渋の「気持ち」も分かっていたのだろう、頭では。
だからケンカにはならないままに、火種がくすぶっている状態が続いているのだろう。
今夜、最愛の人が呉先生にさり気なく、そして上手く言ってくれれば良いがと心の底から願ってしまう。
ただ、口下手な人だけに、どれだけ効果があるか分からないが。しかし、営業マンのように流暢に話すよりは、つっかえつっかえの不器用さで話すほうがこの場合は良いような気もしたが。
「貧血はしていないのですね?」
ベンチからよろよろとした感じで起き上がった森技官は最愛の人に確かめるような感じの眼差しを送っている。
「はい。その心配はありません。目蓋の裏側は――けっ……正常そのものでしたから。
それに脈拍などの異常もないです。
もう一度手首を貸してくださいませんか?」
最愛の人が「瞼の裏側は血色も良好で」とでも言いたかったのだろう。ただ、森技官は血が苦手なので慌てて言い換えたのは想像に難くない。
森技官の手首に最愛の人の薄紅色の細い指が回されているが、怜悧で真摯な眼差しとか真剣そうな表情なので嫉妬をする気にもなれない。
「先ほどよりも脈拍が安定してきましたね。多分、ジェットコースターに乗ったことから脈も速くなったのでしょう」
祐樹最愛の人の涼しげな声がジェットコースターの轟音とか子供達の歓声とか悲鳴に包まれたこの辺りの空気すら冷やしていくような気がした。脈拍とか血圧は緊張したり怒ったりしたら直ぐに数値も上がる。その点は心臓外科所属でもない――というか、外科には大学時代以来縁のない二人でも容易に分かったらしく納得の表情を浮かべていた。
ベンチから立ち上がった森技官は長身を立ち眩みでも起こった感じでふらついている。
「大丈夫ですか」
咄嗟に腕を伸ばして腰を支えた。同時に最愛の人は森技官の後頭部を両手で持っている。
いうまでもなく転倒した場合に一番ダメージを受けるのが頭部なので、それを慮ったに違いないが。
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「一度、精密検査をお受けになられた方が良いかと思います」
殺しても死なないような森技官だが、意外と脆いのかもしれない。
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こちらは不定期更新ですので、本当に投稿時間がバラバラですので、アプリのお気に入りに登録して頂くとお知らせが来ます!興味のある方は是非♪♪
<夏>後日談では祐樹が考えてもいなかったことを実は森技官サイドでは企んでいますので。
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◆◆◆バレンタイン企画始めました◆◆◆
といってもそろそろネタもないため――そして時間も(泣)
ノベルバ様で「後日談」の森技官視点で書いています。
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覗いて下さると嬉しいです!
また、本日も向こうの更新は済ませました!
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向こうでは森技官の独白が終わり、そろそろ呉先生と森技官が香川教授を助けるべく頑張ろうとしています。といっても、呉先生はマカロンをやけ食いしている感じですが(笑)
こうやま みか拝