腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2019年02月

「気分は、下剋上」<夏>後日談 58

 森技官は演説めいた口調に――この人は元高級官僚として国政選挙に出馬しても端整で苦み走った容貌とか男らしいバランスの整った高身長だけでも世の中のご婦人方は票を投じるような気がする。何枚目の皮かは知らないが「良い人」というネコの顔も持ち合わせている。しかも弁が立つことは祐樹が折り紙を何枚でもつけたいのだから――疲れた感じで呉先生が買ってきて、最愛の人が万が一に備えて首の下に当てていたのを丁重に受け取っての一気飲みだった。熱中症の可能性を考慮に入れたのか、首の下とか腋下そして、足の付け根を冷やすことを考えて、一番無難な頸部大動脈を選んだのだろう。
 その喉ぼとけの動きとか、唇を呉先生がスミレの花が春の陽射しを爛漫とうけているような笑みで見ていた。
 なんだか好きで好きでたまらないといった眼差しというか。
 今は、ご機嫌斜めなのだろうが――確かに寝室での行為の暴露なんて誰でもされたくはないに決まっている。しかし、狂気の元研修医が「根拠もなく」放った暴言に最愛の人がものすごく傷ついていたので、敢えて泥をかぶる決意で言ってくれた「呉先生の夜の顔」を聞いた最愛の人劇的な精神的な回復を遂げたかを考えると、感謝してもしきれない。
 それに呉先生も――ものすごく恥ずかしかっただろうが――あの爆弾発言が必要な物だったということも頭では理解している。しかし、だからと言ってカラリと割り切れる類いの言葉ではなかったのだろう。
 呉先生はスミレの花の可憐な見てくれとは異なって怒ったら非常に怖い。祐樹や最愛の人は怒らせたことはなかったものの、森技官にものすごい勢いで食って掛かったのを目撃したので、あの言葉の羅列の凶器は――さすがは言葉が商売の精神科出身だと思ってしまったが――出来れば受けたくない。
 ただ、呉先生も森技官に対して一気に怒りをぶつけられなかったのが――森技官が祐樹最愛の人の回復を優先順位の一位としての言動で、そして呉先生も最愛の人の主治医として診ていてくれたので、あの時のあのマンションの中ではああするしかなかったのも理解出来たのだろうが――長引いている原因だろう。
 ケンカは「相手が悪い」と思い込むことによって成立するものではないかと個人的には思っている。先方の気持ちも分かるし、理解も出来る場合だとケンカにならない。
 森技官の「寝室事情の暴露」は森技官が「必要に駆られて」行ったものであることも呉先生は「理解」している。そしてそう踏み切らなければあの時の最大の懸念材料だった手の震えも収まらないかもしれないと森技官が判断した苦渋の「気持ち」も分かっていたのだろう、頭では。
 だからケンカにはならないままに、火種がくすぶっている状態が続いているのだろう。
 今夜、最愛の人が呉先生にさり気なく、そして上手く言ってくれれば良いがと心の底から願ってしまう。
 ただ、口下手な人だけに、どれだけ効果があるか分からないが。しかし、営業マンのように流暢に話すよりは、つっかえつっかえの不器用さで話すほうがこの場合は良いような気もしたが。
「貧血はしていないのですね?」
 ベンチからよろよろとした感じで起き上がった森技官は最愛の人に確かめるような感じの眼差しを送っている。
「はい。その心配はありません。目蓋の裏側は――けっ……正常そのものでしたから。
 それに脈拍などの異常もないです。
 もう一度手首を貸してくださいませんか?」
 最愛の人が「瞼の裏側は血色も良好で」とでも言いたかったのだろう。ただ、森技官は血が苦手なので慌てて言い換えたのは想像に難くない。
 森技官の手首に最愛の人の薄紅色の細い指が回されているが、怜悧で真摯な眼差しとか真剣そうな表情なので嫉妬をする気にもなれない。
「先ほどよりも脈拍が安定してきましたね。多分、ジェットコースターに乗ったことから脈も速くなったのでしょう」
 祐樹最愛の人の涼しげな声がジェットコースターの轟音とか子供達の歓声とか悲鳴に包まれたこの辺りの空気すら冷やしていくような気がした。脈拍とか血圧は緊張したり怒ったりしたら直ぐに数値も上がる。その点は心臓外科所属でもない――というか、外科には大学時代以来縁のない二人でも容易に分かったらしく納得の表情を浮かべていた。
 ベンチから立ち上がった森技官は長身を立ち眩みでも起こった感じでふらついている。
「大丈夫ですか」
 咄嗟に腕を伸ばして腰を支えた。同時に最愛の人は森技官の後頭部を両手で持っている。
 いうまでもなく転倒した場合に一番ダメージを受けるのが頭部なので、それを慮ったに違いないが。
「はい、何とか大丈夫です。
 立ち眩みでしょうね……。時々そうなりますので」
 最愛の人は真摯な眼差しで森技官を見つめている。患者さんに対するのと同じような目の光だった。
「一度、精密検査をお受けになられた方が良いかと思います」
 殺しても死なないような森技官だが、意外と脆いのかもしれない。
「ありがとうございます。そこで相談なのですが……」
 次の言葉の意外さに目を見開いてしまった。





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向こうでは森技官の独白が終わり、そろそろ呉先生と森技官が香川教授を助けるべく頑張ろうとしています。といっても、呉先生はマカロンをやけ食いしている感じですが(笑)

       こうやま みか拝

気分は下剋上 白衣の王子様 6(I8禁)

イメージ 1

「感じ過ぎて……、辛いのですか。胸の尖りも濡れたベルベットローズの趣きで……。とても蠱惑的ですし……」
 いくら使われていないとはいえ病院のベッドだし、祐樹は純白の白衣姿でベッドサイドから見下ろしつつ指であちこち触れているのが新鮮だった。
 お医者さんごっこは流石に抵抗の有る愛の行為だった。何だか職業を冒涜しているような気がして。
 ただ、この程度だと「医師と患者」めいた感じにはならない。
 先程強く掴まれた腰骨の窪みも悦楽の小さな炎を灯している。
「私にとって、唯一無二の白衣の王子様に……目覚めのキスではなくて……愛の行為が欲しい……」
 涙の膜越しに見える祐樹の輝くような眼差しもとても扇情的だった。
「承りました。愛する者の大切な務めですからね。
 眠れる森の美女の話の場合、100年だかの眠りに落ちた城の中を薔薇のツルを切ってまで入って行った王子様ですが……、好みじゃなかったらどうする積もりだったのでしょうかねぇ。
 ああ、薔薇の花は今のところ大量に余っているようなので、何とか口実を考えて聡のマンションに送ります。
 あのベッドの上に真紅の薔薇を散らして交わす愛の交歓もきっと素敵でしょうね。
 しかも、美女ではないものの、最高に好みの顔と肢体の持ち主が、何も着けずに横たわっているのですから、物凄く贅沢な空間になります。
 約束して下さいますか?」
 祐樹の手の強さを腰骨で感じながら身体を反転させられた。
「ああ、それは約束する。…………しかし、このシーツを汚してしまうのは……。少し、いやかなり抵抗が……あるな……」
 お互いに前を向いてという愛の行為は祐樹の白衣とかスーツに放ってしまう危険性が高いのは分かっていた。だから、後ろから迎え入れるしかないのも理屈では分かる。
 けれども、古びているとはいえ、病院の備品だと思うと公私混同も甚だしいような気がする。
 祐樹の低い小さな笑い声が耳朶に掛かった。それだけで身体が更に紅に染まっていく。
「このベッド……新館のとは大きさが異なることに気付きませんでしたか?
 昔の人はこの大きさがちょうど良かったのでしょうね。平均身長が低いために。
 規格違いのシーツは新館に流用は出来ないのも分かりますよね?
 だったら、一枚くらい真珠の迸りを零してしまったのをこっそり焼却炉に持って行けば証拠は隠滅出来ます。救急救命室の凪の時間にでもしておきますので安心して下さい。
 この鍵を持っている人間も限られているので、他人には見られない――というか勘付かれないと思いますので」
 そう指摘されて初めてベッドの大きさが20%ほど小さいことに気付いた。相変わらず目敏い祐樹の観察眼には目を瞠ってしまう。
 ただ、乾いた絶頂の大きな波や小さな波が立て続けに起こっている今の自分が他のことを考える余裕などない。
 祐樹の言葉とか、白衣に染み込んだ消毒薬の香りや微かなタバコの香りに反応するのが精一杯だ。
「お待ちかねの……愛の証しを差し上げます、ね」
 祐樹の濡れた先端部分が門の入口に当てられた。待ち侘びて焦れていた花園は嬉々とした様子で動いているのが分かってしまう。
「ああっ……。そこではなくて……もっと奥まで……欲しっ……。
 凝った場所を……衝かれると……、尖りと連動して……また……乾いた……絶頂が来てしまう……のでっ」
 快感の大波がいくつも押し寄せてくる、乾いた絶頂も嫌いではない、というかむしろ好きだが、やはり祐樹に花園の奥処に愛の真珠の迸りを注いで貰った確かな熱さを感じながら禁を放つ方が好きだった。
「胸の尖りが……どんなに硬くてルビーよりも艶やかなのかは目とそして紅色に染まった指で確かめて……ください……。
 そんな恐る恐るではなくて……、摘まんで思いっきり捻って下さると……私も嬉しい……です。
 凝った場所がより大きく硬くなりますので」
 祐樹の低くて濡れた声に唆されるまま、胸の二つの尖りに指を寄せた。ルビーよりも更に紅くて、そして熱さまで孕んだ場所を祐樹の言う通りに強く摘まんで……。
「ああっ……悦いっ……」
 紅色の指の動きと連動させた祐樹の凝った場所を衝く動きが、立て続けに紅色と金色のフラッシュを浴びせかけられたように脳がショートしそうだった。
「聡の極上過ぎる花園の中も、凝った場所はもちろんですが……、しなやかに動いて……強く弱く私を奥へと……誘って下さっています。
 凝った場所も捨て難いですが……。奥まで一気に挿れますね……。
 聡の花園は……ある意味……麻薬ですので……依存症に……なってしまいます……」
 耳朶を甘く噛まれて告げられる愛の交歓の時の褒め言葉は、鼓膜までを紅い毒で染めていくようだった。
「ああっ……強くて……熱く……硬い……祐樹のがっ……感じる場所にっ……当たって」



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気分は下剋上 白衣の王子様 番外編 5(I5禁)

イメージ 1

「お返しです……」
 くびれの辺りに唇を挟まれて、先端の白い迸りを舌全体でふき取るように動かされる。
 片方の指は胸の尖り、そしてもう片方は花園の中の凝った場所を愛さされて――頭の中が濃い紅色や金色の花火が爆ぜ続けていた。
「ゆ……祐樹っ……。尖りと……そしてっ……凝った場所を……。もう少しっ……強く……」
 頭の中の火花が濃い紅色の炎となって脳を焦がしていく。
「こう……ですか……」
 尖りが二本の指で摘ままれたかと思うとネジを捻るように回された、しかも強い力で。先端部分は優しく撫でられていたが。
 それと連動して花園の中の凝った場所も二本の指で括り出されるように愛されて、魂ごと薔薇色の頂点へと昇っていくような気分になった。
「ゆ……祐樹っ……唇を……離してっ」
 強すぎる悦楽の嵐に巻き込まれてしまっているのを緩和すべく祐樹のサラサラとした髪の毛をかき回した。
 その程度では何の効果もないことは分かってはいたものの、何もしないよりはましなような気がする。
「唇を離したがっていらっしゃるのは……、真珠の放埓を放ってしまいそうだからですか?」
 「そうだ」と唇を動かす前に、祐樹の尖らせた舌が先端部分の穴に入って広げられた。
 そしてそのまま強く吸われる。
「ゆ……祐樹っ……。紅い花火がっ……爆ぜるっ」
 幸福過ぎる断末魔を迎えるかのように撓らせながら熱い息を零し続けていた。
「ああっ……。もうっ……」
 紅色の悦楽で堰を切ったと思ったが、いつもの絶頂ではなくて、大きすぎる波のような絶頂感のみが断続的に打ち寄せてくる。
「多分、そうなるだろうな……とは、思っていましたが、案の定でしたね。
 立っているのも辛そうですので……」
 祐樹の手が腰と膝裏へと回されたかと思うと、身体が宙に浮いた。
 ただ、乾いた絶頂の大波が次から次へと身体だけでなく脳までを濃い紅色へと染めて行く。それに育ち切ったモノと身体も祐樹の腕の中でヒクリヒクリと震えていた。
 真珠の迸りなどを祐樹の服につけないようにするのがやっとの有様で、それ以外は悦楽の紅と金色の雲の上を漂っている。
 そんな自分の身体が下ろされたのはベッドの上だった。旧館は使われていないと聞いていたが、何故白いシーツに覆われたベッドが有るのかは分からない。
「ご存知ですか?」
 電気のスイッチを押した祐樹は、その電灯よりも強く輝く瞳で自分を見下ろしている。この上もなく愛しさを込めた眼差しで。
「何を……だ?ああっ……」
 断続的な大波のせいで、身体が反ってしまう。汗と涙の雫を纏った身体のあちこちから大粒の水滴が転がり落ちて行くことすら感じてしまう。
「眠れる森の美女は王子様のキスで目を覚ましますが、あれは童話だからそういう設定になったらしいですよ。
 薔薇のベッドの中で眠るお姫様は王子様のキスではなくて、愛の行為で100年の眠りから覚めたというのが実際の話だという小説も有ります。
 聡も充分ご存知でしょうが、キスよりも愛の交歓の方が目覚めやすいでしょう。何しろ身体中で感じるモノですので。
 近いうちに、薔薇の花のベッドをご用意しましょうか?サイン会の時に皆様が持って来られた花束が病院には飾りきれないほど残っていると聞いたので、あれをマンションに送って貰って……ね。
 どんなに美しい紅色の薔薇でも、この尖りの煌めきには敵いませんが、引き立て役くらいにはなるでしょう」
 絶頂に追い上げられ続けている身体を見下ろされているばかりでなくて、胸の尖りの側面部を歯で唆すように上下に小さく揺すっているのも、そしてごく狭い先端部を舌先で突かれるのも乾いた絶頂を持続させてしまう。
「その甘く蕩けたお顔が、むしろ苦悶に満ちている感じなのも物凄くそそられます。
 紅色の目蓋とか長い睫毛に細かな涙の雫を纏っているのも。
 ココも可憐に震えていますよね」
 祐樹の手が育ち切った場所の先端部からくびれの辺りまでを確かめるように辿った。
「そこは……。今はダメだっ……」
 涙が紅色のまなじりを伝う小川になっているのを自覚しつつ唇を開いた。



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気分は下剋上 白衣の王子様 28

「もう貴方にも私にも過去の話になったので白状しますが……。あの忌々しい脳外科の元研修医……」
 祐樹の引き締まった唇が珍しく「へ」の字になっている。同時に自分の表情筋の動きや眼差しを探るように見つめて来るのは、話して大丈夫なのかという心配からなのだろう。
「ああ、井藤とかいう人間のことか?」
 損害賠償請求などは病院長が杉浦弁護士に依頼してくれていたので、詳しいことは知らないが犯人の――今は容疑者だろうか――名前程度は知っていた。
 それに、あの事件では祐樹の方がよほど心に傷を負ったことも分かっていたので、努めて明るい表情を作った。
 それに、万事が上手くいっている今となっては過去の一部と化している。
「アイツは犬や猫を虐殺する性癖がありまして、医療用の廃棄物入れは絶対に開けられないようになっていますよね、それを悪用して無残な犬や猫の死骸を放り込んだという過去がありました。
 それをたまたま目撃したのが岡田看護師で、何しろ新人ナースなのでウチの科に知り合いも居ないしツテもない状態だったのをたまたま私が話しを聞くことが出来ました」
 井藤に精神疾患が有るのは分かっていたが、犬や猫殺しまでは知らなかった。ただ、そういう小動物に無残な扱いを好んでする人間はかなりの高確率で人間へと凶器を向けることになるというレポートを読んだことが有る。
 祐樹はさり気なく「たまたま」と言ったが、今の白河教授率いる脳外科ではなかったので医局の交流は無い。医師同士なら、同級生とかそう言った繋がりを持っている場合もあるが――祐樹の学年は病院残留組が極端に少ないので同級生は皆実家の医院に勤務したり、人間扱いされなかった過去の医局の待遇に嫌気がさして他の病院で勤務していたりしていると聞いていた――看護師、しかも岡田ナースのように新人だと祐樹も苦心して見つけてくれたことは想像に難くない。
「犬とか猫か……。カリキュラムの中に入っていたので、そういう小動物も当然扱ったが、『これは医療に本当に役に立つのか』という疑問と共に、自分が行っていることがとても冷酷非情に思えて、居た堪れなかった記憶がある。
 人間の解剖などよりも抵抗感が有ったな……。逆にそういうことを好んでする人間が井藤だったというわけか……。岡田ナースも気の毒な物を見てしまったのだな……」
 執務階でエレベーターが停まった。
 廊下には人の気配が全くなかったので肩を並べて歩くことが出来る。
 どこかの部屋から叱責などの呼び出しを受けた医師が出て来れば、祐樹のことなのですかさず一歩下がってくれるだろう。
「岡田看護師は犬や猫が大好きで、そして彼女の受けたトラウマを直すべく、久米先生がデートでペットショップに行ったのです。ああ、もちろん柏木先生や私にも相談はありましたよ。まだ任せるレベルには行っていないので、デートコースは大雑把なタイムスケジュールと共に提出するようにとの約束も律義に守っています。
 そして、そのペットショップで一番美人かつ清楚な――岡田看護師に相応しい――犬を購入したのだそうです。
 本当は岡田ナースの名前を使いたかったようですが、彼女が嫌がったので、何とかフミオちゃんという名前をつけて可愛がっています。時折は二人で散歩に行くみたいです。久米先生のご両親も柏木先生ご夫妻からの説明を聞いて、二人の結婚を許して貰えた時以来、久米先生の家にもちょくちょく行っているようですし、気に入られているようですね。機転の利き方とか、しっかりした女性ながらも久米先生を立てるという点が。
 ご存知の通り久米先生は、手技などの業務は別にして性格的な面でまだまだ『お坊ちゃん』気質が抜けていないので、久米先生のご両親もどこぞの医院の箱入り令嬢よりも、しっかり者の嫁の方が良いのではないかという点と、柏木先生ご夫妻や、貴方の心証を良くするには岡田看護師『で』良いという判断をなさって下さったようです」
 地震の時のことを唐突に思い出してしまった。野戦病院さながらの一階メインロビーで久米先生が、選りにも選ってモーツアルトの「レクイエム」が――お葬式の時に良く流されている曲だ――好きという場所を弁えない発言にキャンディを口に放り込むという方法で黙らせた岡田看護師の機転は流石だったと思う。自分には全く縁もなければ関心もない恋愛とか結婚の対象としての女性なので、ドラマなどで得た漠然とした像しか持っていないものの、蝶よ花よと育てられた深窓のご令嬢が久米先生と結ばれても、共倒れを起こしてしまうのではないかとも思ってしまう。
 それよりも、大学病院の内部のこともしっかりと知悉している岡田看護師の方が何千倍もマシというのが祐樹と自分の一致した見解だったし。
 執務室のドアを開けて、二人分の教授職用のお弁当が用意された応接セットへと足を勧めた。



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気分は下剋上 白衣の王子様 4(I5禁)

イメージ 1

「そうです。条例で決まっていますよね。これが大阪とか神戸だったら――勿論場所にもよるのでしょうけれども、競い合うような感じでどんどん高いマンションとかビルが建って行くでしょう……。いくら人の来ない旧館の非常階段とはいえ、窓から覗かれたら直ぐに分かります。
 それに、最近では余り関係のない人でも割と遠慮せずに病院にクレームをつけて来る世の中になっていますので、愛を交わし合っていたとか電話ででも言われたら大変です」
 低くて甘い声ながらも口調は思いの外に真剣だった。ただ、胸の尖りを指で挟んで回したり、先端部分を爪で強く弾いたりして、その度ごとに身体とそして、花園の中の凝った場所が火照るというよりも熱く疼いて甘い声が出てしまっていた。
「そういうクレームまで有るのか……」
 頭の中で爆ぜる金と赤の花火を誤魔化そうとはいているものの、自分の声が甘く蕩けていることは自覚していた。
「ありますよ。教授会の議題にするほどのことではないと病院長が判断したのでしょうが。
 近所に住む住人が、川辺でタバコを吸ってはポイ捨てを複数回に亘って行っているウチの職員らしき人間が居ると電話してきたようですね。捨てるのはマナー違反ですし、タバコとはいえ、放置すれば火事になりますので危険だといえばそうなのですが……自分の家の庭先でもないところのことまでわざわざ電話までしてくるという事例が有ったので気をつけろと喫煙を申告している全職員にメールで回って来ていました。
 貴方がご存知なかったのは、健康診断の時に非喫煙者のところにチェックを入れていたからでしょう。
 それはそうと、汗も冷えてきましたよね。風邪を引くと困りますので……屋内に入りましょうか」
 白衣ではなくて、その下のスーツのポケットから祐樹がハンカチらしき布を取り出したのが至近距離なので見えた。
「祐樹、時間はあとどれくらい残っているのだ?」
 祐樹だけでなく医局員のシフト表は頭の中に入っている。特に祐樹のタイムスケジュールは別枠で記憶していたが、救急救命室の場合は――救急車のサイレンも鳴っていなかったし――割と時間に融通が利くことも知っていた。ただし、サイレンが立て続けに鳴った場合は別だったが。
「あと30分は二人きりの時間を愉しめますが……。室内に入った方がっ……」
 祐樹の低い声に髪を引き摺られた感じで、ハンカチで拭う積もりだった場所を唇と舌で愛おしさを込めて辿っては吸ったからだ。
 物理的に離れていたり時間的に余裕がなかったりした場合には気にならないが、いったんスイッチが入ってしまった上に時間がまだ残されていると分かったら止められない。
 唇でくびれの部分を挟んで小刻みに動かしながら先端部分を舌全体で撫でるようにすると、祐樹の愛情と欲情の象徴が大きくなるのも嬉しい。
「聡の大胆さは……とても嬉しいですが……後始末では……なくなってしまいます、よ?」
 既に育っている熱い滾りの方が雄弁に「次」の期待に満ち満ちている。
 祐樹の熱く濡れた声がより低く響いて、夜空を束の間焦がす感じだった。猫がミルクを舐める音よりも大きく水音が夜のしじまに響くのも、却って身体の中の熱を煽っていく。
「祐樹が……欲しくて……まだ……乾いているので。
 もっと奥処を濡らして欲しい」
 いったん唇を離してそう告げた。
 舌に残った祐樹の真珠の雫は――他の男性のモノだと多分異なる感覚を覚えるだろうが――自分にとっては愛の甘露だ。
「お誘いは嬉しいですし……私もお返しをしなければ……なりませんが、気温が……唯一の……問題です。ああ、そうか……。
 濡れたベルベットの唇と舌を……いったん離して……下さいませんか?」
 祐樹の低い声が夜空に熱く響いた。声をひそめている分、よりいっそうの魅惑を放っている。
 昂ぶったままだとはいえ、一応は綺麗にしたので達成感は味わえた、それなりの。
 祐樹の左手が腰に回されて、立つようにとリードされた、丁重な仕草で。
 右手には呉先生から預かった鍵を持っていた。
「この階は昔、病室として使われていたようです。そして、非常階段の鍵は一つしかないという、今では信じられないほどの大雑把な管理だとか」
 この旧館が現役だった頃というのは当然生まれていないほど昔なので、生粋の病院育ちの祐樹も誰かから聞いたに違いないが。
 祐樹が鍵穴にキーを差し込むと、軋みながら回転する感じだった。器用な祐樹がそんなに苦労するのはよほど使われていなかったからに違いない。
 自分の心と身体が祐樹を求めているよりかは低いだろうが、この鍵穴も油分が足りていないのだろう。
 二階から上は使われていないと聞いている場所へと二人して入った。手をしっかりと繋ぎながら。
 埃っぽい感じとか人の居ない場所特有の寂寞とした感じが逆に新鮮で、しかも何だか二人きりでこの世から取り残されたような気がする。
 もちろん錯覚というか気分の問題だが、万が一世界が滅びても、祐樹と二人きりになれるのならそれはそれで幸せだろうとも思う。
 世界中の人間と、祐樹一人という究極の二択がもし有るとすれば、自分は躊躇なく後者を選ぶだろうから。
「何だか、体育倉庫の中みたいですね……。いや、元々が重厚かつ荘厳な建物なので……風情とか由緒が有る点は異なりますが」
 こめかみにキスを落としながら祐樹の声が辺りの昏さを払うように輝いていた。
「こちらを向いていて下さいね」
 一階部分の暖房の空気が上がって来るのか中はそう寒くはない。
 口づけを交わしながら祐樹の指が尖った胸を強く弾く。
「ああ……ゆ……祐樹……とてもっ」
 撓る背中と甘い声が重厚ながらも寂寥感の漂う空間に濡れた彩りを放っているようだった。
「あっ……祐樹っ……。そこはっ……」
 意外な場所に唇を落とされて身体が跳ねた。



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