腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2018年12月

「気分は、下剋上」<夏>後日談26

 他人の「そういう」行為を見せる――この辺りが車を使っての「行為」のメッカだということは事前に調べて知っていた上に自転車よりも遅い徐行運転で、例えばホテル代を節約したいのでとか、車高をワザと低くしたいわゆるヤンキーのカップルを避けたのは、最愛の人が別社会の人と思っているので説得力を欠くのではないかと思ったからだ。その点先ほどのカップルは普通の社会人っぽくて海を見に来てついついその気になってしまったのだろう――荒療治だったが、最愛の人は自分の身に置き換えてとかそういう考えは持っていないことも知っていた。
 海に臨んで佇んで、もともと凛と伸ばしているのが習い性になっている人が、背筋を反らしつつ腕を回している。同時に深呼吸して――工業地帯の一画なのでそれほど空気が良くないものの――海の近くなので潮風が心地良い。
 祐樹も同じように背筋を反らして深呼吸した、腕を付け根から回しながら。
「呉先生直伝だけあってよく効きますね。何だか肩が軽くなったような気がします。肩だけではなくて気分も」
 手近なベンチ――ジョギングなどをする市民のために一応は設けられている――に座ると、最愛の人も隣に座ってくれた。ただ、この時間でもウオーキングやジョギングをする人達が通りすがるので「恋人」の距離というよりは「友達・同僚」の間隔の取り方だったが。
「――貴方もそうですが、呉先生はより相談相手が居ないので……どうか明日の夜には思いっきり愚痴を聞いて下さればと思います」
 隣に座る最愛の人が祐樹のほうへと顔を向けた。その動作でシトラスの香りが仄かに漂ってくる。
「私の話でよければ別に構わないが。ただ、私だってそんなデリケートな話題に興じる知り合いはいないけれども……」
 怪訝さを含んだ声が海の表面に溶けていく。
「貴方の場合――そういう必要があればですけれど――『グレイス』に行って杉田弁護士とかそのお友達の常連さんなどにお悩み相談は可能でしょう。そういう意味での駆け込み寺的な場所は有りますが、呉先生にはそれも存在しないので……。
 グレイスに行かれた場合、私のことも覚えている人は覚えているので、そういう意味でも相談しやすいかと思います」
 最愛の人が懐かしそうなため息を零していた。
「そういえばそうだな。ただ、祐樹とこういう関係になって以来、幸せなことにそういう悩み事とは無縁な上に、祐樹からもあの店に行くことを止められているので考えたこともなかったが」
 グレイスは二人にとって――最愛の人が誤解をしたままアメリカに渡ってしまったという痛恨の過去は有ったものの、その衝動的な行動がアメリカでの成功に繋がっているだけに、まさに禍福はあざなえる縄のごとしといったところだろう――ターニングポイントになった店だ。
 それに良くある出会いの場所としてではなくて、同じ性的嗜好を持つ人達の団欒の場所として重宝されているのも事実だった。
 祐樹などは声を掛けてくる男性で、かつ外見が好みであれば――店では「口説き禁止」だったが、いくらでも抜け道は存在するのも事実だったし――恋愛ごっこのお相手を探す場所としても使ってはいたが。
「呉先生の場合は、もともとそういう性的嗜好があったのも事実でしょうが、森技官が現れなければ普通に恋愛して結婚するという選択肢も有ったハズです。
 貴方や私は自分の性的嗜好を自覚していましたが、そういうタイプは日本では少数派で……漠然とした違和感を抱きながら世間の常識通りに結婚生活を送っている人も数が多いらしいです。呉先生も間違いなくそのタイプなので、悩みを共有出来る人間が存在しないかと。ですから貴方が話して下されば幸いです」
 祐樹の言葉に一つ一つ頷きつつ聞いていた最愛の人の動きにつれてシトラスの香りが仄かに香って祐樹の嗅覚もかけがえのない人の存在で満たされていくようだった。
「確かにその通りだな。それに『あの時』森技官の言葉で私が救われたのも確かなので……協力はさせてもらう」
 最愛の人の言葉に祐樹は幾分華奢な肩に手を回して優しく引き寄せた。ちょうど人の気配も途切れているのも確認した上で。
 最愛の人の唇が可憐な花の風情で咲いている。ただ、前のように大輪の花の華麗さではなかったのはまだまだ「事件」の痕跡が精神に色濃く残っているからだろう。
 ただ、そういうトラウマの解消も時間の経過に任せるしかないのが歯がゆい限りだが、精神的な問題は劇的に回復することの方が少ないのも知っていたので気長に待つしかない。
 幾分冷たい唇に唇を重ねた。祐樹の熱を分け与えるような感じの口づけを交わすだけで充分幸せだった。
 何よりも最愛の人がこうして隣に座ってくれて、その温かみと確かな感触を腕で、そして唇で感じられることが「事件以前」は何だか当たり前になってしまっていたものの、実はそうではなくて奇跡的なことだと思い知った。
 熱を帯びた潮風が頬を撫でるのをむしろ心地よく感じながら、触れては離すキスを続けた。
 最愛の人も細く長い指を祐樹の指に深く絡めてくれていて、唇が重なる度ごとに繋いだ指の力も強さを増す。
 スーツに包まれた肩を抱いて口づけを交わし続けていると、体温が上がったせいかシトラスの香りもさらに濃くなった。
 最愛の人が腕の中に居てくれる、ただそれだけで「今は」充分過ぎるほど満たされていて、砕けた魂の欠片が心を傷つけることもない。
 ただ、祐樹が果たすべき贖罪はまだまだ残っていることを自覚しつつも、今だけは接吻に酔いしれようと思った。




______________________________________

宜しければ文字をクリック(タップ)お願い致します~!励みになります!




2クリック有難うございました!!






 

 
 

◆◆◆お知らせ◆◆◆

時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。

「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
リンク先です。
↓ ↓ ↓


メカ音痴なのでリンクが違った場合は、お手数ですが「エブリスタ 神殿の月 こうやまみか」で検索して頂けたらと(泣)
◆◆◆宜しくです◆◆◆

ツイッタ―もしています!
更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……)はフォローお願い致します。

@mika_kouyama02

◇◇◇お詫び◇◇◇

実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。


読者様も良いクリスマスをお過ごしくださいませ。
 
       こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 212

「さてと……まだ時間は大丈夫ですよね?」
 来場して下さった人、全てにサインを終えた祐樹が小さな声で聞いてきた。
 ただ、見覚えのあるナース達、そして何故か見知らぬ女性達も多数会場の隅とか柱の陰とかでこちらを見ていた。そして長岡先生に付き添われた祐樹のお母様も。
 テレビ局のカメラマンとかレポーターは――野口陸士と同様に――時間の制限でもあるのか姿を消していた。
「ああ、あと6分は大丈夫だ」
 余りの人数の多さに終了時間が守れるかどうか内心危惧していたものの、ボランティアの的確な誘導と、サインを手早く終える術を学んだせいもあって行列は神業のように捌かれていったのは見事だった。
「では、皆様のご要望にお応えして……。撮影の準備は良いですか?」
 祐樹が極上の笑みを浮かべつつ、会場内にも良く響く凛とした声を上げている。
 女性達が手に手にスマホをかざしている。何故か長岡先生までも。
 何をされるかと胸の鼓動が薔薇色に脈打っている。祐樹が椅子から立ち上がったので、自分も立った方が良いのかと腰を上げた。
 檀上のテーブルの奥ではなくて、先程までサインを求めてお客様が立っていた場所へと移動する祐樹の広い背中を――何をする予定なのか未だ全然分からなかった。それに祐樹のお母様の目も気にしている感じだった――追って壇の上を移動した。
 滝のように流れ落ちる胡蝶蘭の花が一際見事に見える位置まで移動する。
 花屋さんで目にする単体の鉢植えとは異なって、これだけの量の花の洪水は圧倒的な華麗さを誇っている。
 祐樹が眼差しで合図をしてきて、了承の意を返した。
 先ほどの書店では腰を抱き寄せられたので、それ以上のスキンシップかと思いきや手首だけを丁重に掴まれて、持ち上げられた。
 祐樹は腰を落とした格好になって手の甲に唇を落とされた。
 中世の騎士が高貴な女性に忠誠を誓うような感じの恭しさと慈しみに似た口づけだった。
 その瞬間、ため息とか黄色い嬌声が会場内の熱気をさらに高めている。スマホの撮影音――その一台当たりの音はそんなに大きいモノではないだろうが、これだけの人数が一斉に立てたので、昔のカメラのシャッター音よりも遥かに高く響いた。
 腰を落とした祐樹の唇が手の甲に触れているだけなのに、唇にキスされるよりも薔薇色の心の弾みが大きくなってしまっている。
 それに手の甲だけでなく、身体中が薔薇色に染まっていくような気がして、笑みも更に深まった。
 祐樹のお母様がどのような反応をなさるのか気になって視線を転じると、お母様は満面の笑みを浮かべて拍手をしていた。
 それが合図になったのか、会場内からパラパラと拍手の音がし始めて瞬く間に万雷の拍手に変わった。
「それでは、お時間となりましたので香川教授・田中先生のサイン会をこれでお開きにさせて頂きます」
 店長のマイク越しの声が会場に響き渡った。
 こういう時には自分達ではなくて、運営側というか第三者の声が有った方がお客様も納得しやすいのだろう。
 祐樹も膝をついている状態ではなくて立ち上がって横に並ぶ。手の甲に唇の熱い感触は残っていたものの。
 そして二人して満面の笑みを浮かべて会釈を会場内に振り撒きながら会場を後にした。
 祐樹のお母様は目に涙――だろう、多分――を浮かべて見送って下さっていたのが特に印象深い。
 他の女性達は熱の籠った拍手を続けている。
「凄い反響ですね。どんな人気を誇る作家の先生でも会場内があんなに熱狂した感じになることは有りません」
 一時はどうなることかと気を揉んでいたと思しき店長さんが、イベントが無事に終了した安堵と思しき感じで話しかけてくる。
「そうですか……。ただ、作品で読者の方を魅了する作家の先生とは異なって私達は日頃なかなか会えない人達が応援に駆けつけて下さっただけです。
 基になる作品がないという点で根本から違うので、単純な比較は出来ないと思います」
 祐樹の言葉に――といってもどれだけが本音なのかは分からない――頷きながらも、心情表現の部分は「祐樹の作品だと思うが」という言葉が胸をよぎったものの、店長の耳を気にして仕舞っておくことにした。
「病院の方へかなり運びましたが、まだこんなに残っています」
 会議室めいた部屋には花束が山のように積まれていた。三店舗目だったので――当然重複して来て下さっている人達も多い――その量に驚いてしまう。書店のハシゴをして来てくれる人達は花束とか手土産を省略しても良さそうなのに、朝一番でサイン会をした書店よりも多い量の花束だったので。
「香川教授・田中先生お疲れ様でした。あの人数を良くこんな短時間で捌かれたと思います。同じ作業が延々と続いて大変でしたでしょう?」
 高木氏が一段落ついたことの安堵感からか、ゆったりとした笑みで迎えてくれた。
「いえ、同じ作業を延々とするという点では普段の業務とも似ていますのでそんなに疲れてはいないですね。
 少なくともミリ単位の正確さを求められるわけではないですので」
 ミリというのはあくまで例えで、実際はもっと細かな手作業の連続だったし、患者さんのバイタルの変化とか手術スタッフの動きなども集中力を何分割もして見ていなければならない普段の手技とは異なっていたので、そんなに疲れてはいないような気がする。
 ただ、表情筋の動きとかサイン会に来て下さった人とにこやかな対応をするという点の方が慣れていない。ただ、懐かしい顔とか思いも寄らない人が来て下さったので嬉しさの方が上回っていたのも事実だったが。
「ああ、なるほど、言われてみればその通りですね。次の書店も回線が繋がらないほどの反響だそうで、少し休憩を挟んで……先生方が宜しければ直ぐに移動した方が良さそうです」
 サイン会に誰も来てくれない――といっても作品の出来映えだけで判断される作家さんとは異なって自分達には病院が付いているのでサクラは一定量見込めたが――という悲劇ではなくてお客さんが多すぎて困るという嬉しい誤算の方が良いことだけは確かだった。
「書店に電話が殺到しているのは分かるような気もしますが、電話が繋がらないのに良くそんな情報が入手出来たのですか?」
 祐樹の疑念も尤もだった。確かに電話が繋がらないイコール「自分達のサイン会のせい」とは断言出来ないような気もする。
「いえ、書店の固定電話は確かに繋がりにくいのですが、裏ワザというか……」
 書店の狭い――しかも雑多なモノが積んであるので余計に――通路を歩きながら次の書店のことに思いを馳せた。




______________________________________

宜しければ文字をクリック(タップ)お願い致します~!励みになります!




2クリック有難うございました!!






 

 
 

◆◆◆お知らせ◆◆◆

時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。

「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
リンク先です。
↓ ↓ ↓


メカ音痴なのでリンクが違った場合は、お手数ですが「エブリスタ 神殿の月 こうやまみか」で検索して頂けたらと(泣)
◆◆◆宜しくです◆◆◆

ツイッタ―もしています!
更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……)はフォローお願い致します。

@mika_kouyama02

◇◇◇お詫び◇◇◇

実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。

        こうやま みか拝

「気分は、下剋上」<夏>後日談25

「――この車の中を覗いてみてください。ああ、顔は前を向けたまま横目で……」
 最愛の人が細く長い首を不思議そうに傾がせながらも祐樹の指示通りにしてくれた。
「ゆ……祐樹、このカップルは、そのう……」
 座席を一番深くまで後ろまで下げ、そしてほとんど助手「席」というよりも小さなベッドのようにシートを倒している車内で、ブラウスのボタンや下着を乱して肝心な場所が全て見えている女性の身体の上にスラックスを半ばずり下げているために臀部や太ももが露わになっている男性が激しく下半身を動かしているという最愛の人にとっては衝撃の一幕だろう。
 ただ、割と理知的な顔立ちの女性が、我を忘れたような感じで唇を大きく開けて、綺麗に描いた眉も悦楽の深さを物語るように嬉しそうに、そして苦しそうに顰められている。
 その上、品の良さそうなスカートをじれったそうにたくし上げて男性のワイシャツに包まれた腰へと半ば脱いだストッキングに包まれた脚を回して結び付きを深めていっている。
「愛を確かめ合っているのです、身体中で、ね。
 二人とも着ている物や全体的な雰囲気からして、ごくごく普通の会社とか銀行にでも勤めている感じですよね。
 そういう『普通』の社会人でもこういう行為の時は、こんなあられもない姿になります。
 それが普通なのです。ほら、一段と律動が深まった証しに車がこんなにも揺れているでしょう……。それに女性だってお化粧の崩れなど気にせずに――窓が閉まっているので声は聞こえませんが――大きな声を上げているのは分かりますよね。綺麗に巻いた髪の乱れも全く気にしていないでしょう……」
 絶句している最愛の人の頬が薄紅に染まっているのが微かな灯りの下でも分かった。
「このカップルも、この行為に及ぶまでは私達と同じく仲良く食事をしたり、海辺を散策したりしてごくごく普通の、そして仲睦まじい微笑ましい恋人同士だったと思います。
 それが密室に二人だけになった途端に、愛の本能というか衝動の赴くままに振る舞っている……、ただそれだけです。恋人同士とは皆が同じようなことをするのです」
 祐樹最愛の人は「成人向け」のDVDなどは一切見ない人なので、何だか足に根が生えたように立ち尽くしている。
 島田警視正は職業柄サングラスも車内に常備していると踏んでいたし、事実その通りだったが本当に良かったと思った。
 目の部分は隠されていて良く見えないものの、祐樹が密かに危惧していたような嫌悪感を抱いた様子もなかったのも幸いだった。
「つまり、恋人同士が二人きりになれば、皆がこういうことをすると……。それを教えたくて祐樹はこの場所に私を連れてきてくれたのか……」
 最愛の人の腕を優しく掴んでその車の傍を離れた。
「そうですよ。ま、海辺の――と言っても砂浜などの気の利いたものはありませんが――空気を満喫したいという気持ちも当然含まれていましたけれど。
 愛し合っている二人なら、他人に迷惑を掛けさえしなければどんなことをしても良いということです。ベッドの上では特に。それは別に恥ずかしいことでも何でもないです。
 あの清楚な感じの女性だって大きな声を上げて悦楽を貪っていましたよね。百聞は一見に如かずだと思ってお連れしました。
 それで……、ほらあの事件直後に森技官が呉先生との寝室事情を敢えて暴露して下さったでしょう。
 呉先生も貴方も『そういう』耐性がないので……、今回は特に呉先生がご機嫌斜めなのです。ですから、明日二人きりになった時にでも話して下されば嬉しいです。
 ――って、もうサングラスは外して良いですよ。充分遠ざかりましたから」
 ベンツから離れて散策している二人が夜なのにサングラスというのも充分怪しい。
「そういえば、何故サングラスなのだ?視線を誤魔化すためか」
 灯りに照らされた最愛の人は微かに上気した薄紅色の頬だけが先程の「覗き」の余韻を残していてとても綺麗だった。ただ、それ以外は何だか安らいだ表情を浮かべているのは海の近くに二人で居るからだろう。
「それも有りますが……。当事者にバレた時のことを考えてですね。夜にサングラスなんて反社会勢力に属している人くらいしかこんな海辺に来ません。そういう人間に文句をつける度胸のある人も少ないかなと思いまして」
 隣を歩む最愛の人が小さな笑いの花を咲かせていた。
「私達がそういう関係者に見えるとでも……」
 他人の「そういう行為」を見ても自分のコトに置き換えて考えることのない性格だろうと考えていたが、案の定でそんなに動揺している感じでもない平静な声に安堵してしまった。
「最近のあの業界は法律が出来たことによって『いかにも』な人は減っていると読んだこともあります。それでも『組』を維持していかないとならないので、株式などの投資とかそういう頭脳と言いますか、外見がそれらしい人ではなくてごくごく普通の人間の方が多くなったとも。
 それだったら私達も見えなくはないでしょう。それに『なにわ』ナンバーのベンツもいかにもその筋という感じで、無言のプレッシャーを与える良い小道具です。
 ま、普通の人間なら『そういう行為』を覗き見られて――あの方達は愛を交わすのに夢中で気が付かなかったようですが――文句を言ってくる人もそうそういないとは思いますが念のために」
 海沿いの――といっても大阪湾の場合は工業地帯なのであまり自然の息吹を感じられないのが残念だ――潮風に二人して吹かれながら指を絡めて歩くとそれだけで良い気分転換になる。
「ああ、なるほど……。そういうことか。確かにインテリヤクザと呼ばれる人間が増えているらしいな」
 最愛の人の声が潮騒に交じって聞こえてきた。
「呉先生で思い出しましたが、お勧めのリラックス法を試してみましょうか?」
 マンションのリビングで効果を確かめ済みだったが、この海と空とが近い場所の方が効き目も倍増しそうだ。



______________________________________

宜しければ文字をクリック(タップ)お願い致します~!励みになります!




2クリック有難うございました!!






 

 
 

◆◆◆お知らせ◆◆◆

時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。

「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
リンク先です。
↓ ↓ ↓


メカ音痴なのでリンクが違った場合は、お手数ですが「エブリスタ 神殿の月 こうやまみか」で検索して頂けたらと(泣)
◆◆◆宜しくです◆◆◆

ツイッタ―もしています!
更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……)はフォローお願い致します。

@mika_kouyama02

◇◇◇お詫び◇◇◇

実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。

        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 211

「あ、母の乱入に紛れてしまって目配りを怠っていましたが、懐かしい顔が。貴方もきっとお喜びかと」
 祐樹も先程より二倍速の早さでサインをこなしていた。それでも筆跡は祐樹のお母様も褒めていたほどの綺麗さを保っていたが。
 祐樹の眼差しの先に視線を動かした。会場の入り口の近くで、その真横の壁にはカメラマンやリポーター、そしてボランティアに加わっている女性達で一段と華やかな感じのする場所だった。最も華やかかつ豪華なのは祐樹や自分が並んで座っている壇の上だったが。
「お客様、整理券をお持ちでない方には……。せっかくご足労頂いて申し訳ないとは思いますが」
 店員さんが多分、そういった感じの断り文句を言っているのだろうと思って、どうしようかと祐樹を見た。
 祐樹はすっかりお母様専用の介護人になってしまっている、長岡先生に「店長を呼んで下さい」と良く通る凛とした声で言ってくれた。お母様の容態は充分安定しているようなので彼女が近くに居なくても大丈夫だろう。それにこの書店でのサイン会も終盤に差し掛かっていたので柏木先生の奥さん――彼女は手術室勤務なので即戦力とは言い難いが――その周りで楽しそうにお喋りしているナース達の中には内科所属の女性も居た。自分でも顔を覚えている内科のナースなので当然ナースにも人脈を持つ祐樹はそれ以上に把握している。
「彼は香川教授の大切なお客様なので、特別扱いして頂けないでしょうか?幸いまだ時間の余裕は有りますよね?」
 祐樹と困り顔の店長の会話に長岡先生が割り込んで来た。
「整理券ならまだ持っておりますわ。宜しければこれをお使いになられては?」
 高価なバックから――ちなみに祐樹のお母様に持たせて大丈夫かと心配してしまうほどの重量だ――くしゃくしゃになった整理券を取り出してくれた。長岡先生のバックだけに破れたり千切れたりしていないのが奇跡的だ。
「有難う御座います。会場の皆様、誠にすみませんが……順番を違えても良いですか?」
 もう一般客というか、見知らぬ人は会場を後にしていて残っているのは見知った顔ばかりという状態だったので祐樹もそう言えたのだろう。
「私達は別にいつまで待っても構いませんけど。それに10周もしましたし……、ね、皆がそうですよね?」
 会場には一体感というか連帯感めいた空気が流れていたのも事実だった。
「香川教授……。今朝の新聞さ見だ曹長さんが教えて呉た。一目会うて御礼を申し上げねばと、ずっと考えていたから嬉しかった。この機会を逃すと二度と会えねと思ったんで。
 お母さの具合も良くなって、内職くれえは出来るようになったであります。本当に何て御礼を言ったら良えか分からねであります」
 会場の雰囲気は――残っているのがほぼ女性ということもあったし、胡蝶蘭やお祝いの花束で埋まっている――暖色の彩りに溢れている。そしてテーブルの上には純白のクロスで覆われている。その中で野口陸士の姿だけが灰色っぽい黒だった。
 相変わらず朴訥とした感じの表情だったが、地震の時に初めて会った時よりも何だか大人びて落ち着いた感じがするのは狭心症のお母様を岩手の大学病院に運んで、そして村にその大学病院の定期検診の車が回ってくるようになったという実績のせいだろうか。
「お久しぶりです、野口陸士。わざわざ来て下さって本当に有難う御座います。
 今日は休みではないのでしょう?」
 長岡先生には事の顛末を話してあった。未だに医療が行きわたっていないという、いわゆる僻地医療の限界についての実例として。
 自分と異なって生まれも育ちも良い彼女も内心では驚いているだろうが、そんな様子は微塵も見せない点が「本物の育ちの良さ」なのだろう。
「はい。だども、曹長が特別だと言って……。柵の中から出して下さったのっす。ただ、門限までに帰らないと脱柵者として追っ手がかかるモンで、あまり時間がないのであります」
 店長さんが本を大急ぎといった感じで持って来てくれた。手早く表紙をめくってサインをした。「頑張ってください。心の底から応援しています」と書き添えて。
「田中先生も有難う御座います。何べんでも御礼を言っても、とても足りねが……」
 祐樹と自分に向かって頭を下げ続けている野口陸士に祐樹も優しい笑みを浮かべている。
 「手段は違っても共に頑張りましょう。お互いの天職で大きな花を咲かせることを祈っています」祐樹にしては長い文だった。
「この本と、教授から貰った手紙は一生の宝にします。集団的自衛権たら言う、難しことは分からねども、どこの国に行っても肌身離さず持って行きます。本当に有難う御座います。そして順番を譲って下さった皆々様も本当に申し訳なく有り難く……」
 自衛隊に入って本当に良かったと、香川教授に初めてお会いした時からずっと思っていました。
 こんたな綺麗な場所で、教授や田中先生のサインを貰える日が来るとは思ってもみなかった。
 極楽みてぇな綺麗な花が並んでいる夢のような場所に来れて……、そして本にサイン、あ、お金は支払うであります。ただ、場違いは承知してるから、柵の中に帰ります」
 そそくさと檀の上から離れようとする野口陸士を呼び止めて握手をした。
「少し筋肉がついたようですね。日頃の訓練の賜物でしょうね。頑張って下さい」
 ごつごつした手は彼の日頃の訓練の大変さを物語っているようで、その手が少しでも癒されるように硬く握り締めた。
 テーブルを隔てた彼は言葉も出ない感じでただため息だけをはいていた、そして満面の笑顔を浮かべて。





______________________________________

宜しければ文字をクリック(タップ)お願い致します~!励みになります!




2クリック有難うございました!!






 

 
 

◆◆◆お知らせ◆◆◆

時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。

「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
リンク先です。
↓ ↓ ↓


メカ音痴なのでリンクが違った場合は、お手数ですが「エブリスタ 神殿の月 こうやまみか」で検索して頂けたらと(泣)
◆◆◆宜しくです◆◆◆

ツイッタ―もしています!
更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……)はフォローお願い致します。

@mika_kouyama02

◇◇◇お詫び◇◇◇

実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。

        こうやま みか拝

「気分は、下剋上」<夏>後日談 24

「とても美味しかった。特に香ばしく揚げた麺にプリップリの海老とか厚めに切ったイカなどを入れた熱いスープを注いでさらに熱したのは絶品だったな……」
 最愛の人が満足そうな笑みを浮かべて祐樹を見上げている。
「あれも美味しかったですね。ただ、熱いスープを掛ける前の麺を少し食べたのを御覧になっていたでしょう?あのカリッとした麺の感じは――ソース味とかチキン味ではなかったものの――何だかベビースターラーメンに似ていましたよね。気付きませんでした?」
 コンビニで売っている駄菓子類も大好きな最愛の人に当たり障りのない感想を述べた。
 美味しかったのは事実だし、それに最愛の人も満足そうな笑みを花開かせながら食事を続けていたのも祐樹にとっては嬉しい限りだ。
 今の祐樹の砕けた魂の欠片が精神を突き刺す痛みを緩和してくれるのは、最愛の人の薔薇色の微笑みだけだったので
「そういえば、そうだな……。そんなことを聞いたら、食べ比べをしてしまいそうになる」
 最愛の人が車窓を見ているのはコンビニエンスストアを探しているからかも知れない。
「救急救命室ではね、トンデモ・インスタント料理が流行っていますよ。コンビニで入手出来るモノを使ってどれだけ美味しい物を作れるかという、他愛のない遊びなのですけど。
 ご存知の通り凪の時間はとことん暇を持て余すので……」
 最愛の人の長くしなやかな指が熱々の海鮮料理のせいかほんのりと紅く染まっている上に温かくなっている。その深くまで絡めた指を微かに上下させながら言葉を続けた。
「それも面白そうだな。ちなみに祐樹はどんな物を作ったのだ?」
 最愛の人が興味深そうな感じで言葉を紡いでくれているのも嬉しかった。海沿いの道を予め調べていた通りに徐行運転しながら、他愛のない会話を交わすのも楽しかった。
「私は『確実に食べられる物』を狙いました。インスタントとはいえ、食べ物を大事にしたいので冒険は避けて。
 インスタントの味噌汁、ちなみに油揚げがメインのカップですがその中にポテトチップスの塩味を入れるというモノです。油分が多いという点を除くとポテチのジャガイモ味が味噌汁に合うので割といけました」
 最愛の人が何か考えている感じで唇を閉じている。
「ジャガイモも味噌汁に合うので、意外に美味しいかもしれないな……。今度の朝食にでも短冊に切ったジャガイモを入れてみるか……。他にはどんなインスタント料理が出来たのだ?」
 興味津々といった感じの声がベンツのエンジン音しかしない車内に吸い込まれていくような感じだった。
 島田警視正と会ったことや捜査本部のことは幸いにも彼のトラウマには影響していないようなのが祐樹の心を軽くさせてくれた。
 ただ、森技官は島田警視正とお友達だし、その上学生時代に大学が有る本郷の近くの雀荘でコツコツ貯めた借用書を多数持っているようなので島田警視正が現在どのような事件を担当しているのかを抜かりなく聞いている可能性に今更ながら思い至る。
「最も笑ったのは、久米先生発案の『じゃが○こ』に塩味だけのお握りをばらして入れて……蕩けるチーズとお湯を入れたシロモノですね。
 本人はサラダ味のドリア風を目指していたようですが、なにせ普通のインスタント食品――例えばカップ麺とかには時間が書いてありますよね――そういうのも当然なくて適当というか野生の勘というか、ま、久米先生に手技の才能はともかく、野生の勘がないのはご両親に蝶よ花よと育てられた生育歴からするとむしろ当たり前ですが、蕩けるチーズは中心が硬いままでしたし『じゃがり○』はふやけ過ぎ、そして塩味だけのお握りのお米の塊がそのまま容器に入っていたという体たらくでして……。
 ただ、ルールとして本人が責任を持って食べてみて、そして美味だと判断したら皆に勧めるという楽しい時間潰しだったのですが、半泣きで完食していました。
 ちなみに私のポテチの味噌汁は皆に勧めるだけの完成度でした」
 最愛の人は久米先生のその時の顔を想像したのだろうか、唇に花のような笑みを浮かべていた。
「さてと、このベンツが『なにわ』のナンバープレートなのは助かりました。それにこの辺りに仕舞ってあるような気がしますね、目的のものは……」
 アームレスト――ちなみに今は最愛の人と指を絡めるために使っていた――よりも助手席側に設えてあるグローブボックスに入っていそうなので、最愛の人に開けて貰った。
「案の定でしたね。サングラスが常備されていて真の目的が達成出来そうです」
 最愛の人は怪訝そうな表情で祐樹の横顔を見ていた。
「こんな夜にサングラスが必要なのか?それに、ナンバープレートの表記もそんなに重要なのか?」
 最愛の人が戸惑うのも無理はない。
 そして、祐樹の「目的」は一種の賭けでもあった。最愛の人の反応が吉と出るか凶と出るか心の中では冷たい汗が流れているような気がした。
「とにかく、サングラスを掛けて頂けませんか?私も付けますので」
 この辺りは海に面しているとはいえ、倉庫が立ち並んでいる場所で昼はその倉庫で働く人達がたくさんいるだろうが、夜にはほぼ無人となる。
 ただ、そんな寂れた感じの道にも自動車がほぼ等間隔に停まっている。
「サングラスをかけると視界が極端に悪くなるような気がするが……」
 最愛の人が長く細い首を傾げながらも祐樹に倣ってサングラスを着けていた。
 時速は3キロという超徐行運転――自転車よりも遅い――だったが、これも祐樹の目的だったので。
 これが良さそうだと思って車を停めた。
 正確には、前後の車の真ん中に幅寄せをして割り込んだ形だったが。
 最愛の人にとって荒療治になれば良いと心の底から願いながら、降りるように優しく促した。



______________________________________

宜しければ文字をクリック(タップ)お願い致します~!励みになります!




2クリック有難うございました!!






 

 
 

◆◆◆お知らせ◆◆◆

時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。

「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
リンク先です。
↓ ↓ ↓


メカ音痴なのでリンクが違った場合は、お手数ですが「エブリスタ 神殿の月 こうやまみか」で検索して頂けたらと(泣)
◆◆◆宜しくです◆◆◆

ツイッタ―もしています!
更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……)はフォローお願い致します。

@mika_kouyama02

◇◇◇お詫び◇◇◇

実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。

        こうやま みか拝
このブログには
このブログにはアフィリエイト広告を使用しております。
Twitter プロフィール
創作BL小説を書いています。ご理解の有る方のみ読んで下されば嬉しいです。
最新コメント
アニメイト
ギャラリー
  • 遅ればせながら
  • お詫びとかお知らせとか
  • Happy New Year!
  • 気分は下剋上 クリスマス編 3 (2023年)
  • 有難う御座います~!!
  • 気分は下剋上 クリスマス編 2 (2023年)
  • 気分は下剋上 クリスマス 1 2023
  • ありがとうございました。
  • ありがとうございました。
人気ブログランキング
にほんブログ村
カテゴリー
資産運用
楽天市場
  • ライブドアブログ