他人の「そういう」行為を見せる――この辺りが車を使っての「行為」のメッカだということは事前に調べて知っていた上に自転車よりも遅い徐行運転で、例えばホテル代を節約したいのでとか、車高をワザと低くしたいわゆるヤンキーのカップルを避けたのは、最愛の人が別社会の人と思っているので説得力を欠くのではないかと思ったからだ。その点先ほどのカップルは普通の社会人っぽくて海を見に来てついついその気になってしまったのだろう――荒療治だったが、最愛の人は自分の身に置き換えてとかそういう考えは持っていないことも知っていた。
海に臨んで佇んで、もともと凛と伸ばしているのが習い性になっている人が、背筋を反らしつつ腕を回している。同時に深呼吸して――工業地帯の一画なのでそれほど空気が良くないものの――海の近くなので潮風が心地良い。
祐樹も同じように背筋を反らして深呼吸した、腕を付け根から回しながら。
「呉先生直伝だけあってよく効きますね。何だか肩が軽くなったような気がします。肩だけではなくて気分も」
手近なベンチ――ジョギングなどをする市民のために一応は設けられている――に座ると、最愛の人も隣に座ってくれた。ただ、この時間でもウオーキングやジョギングをする人達が通りすがるので「恋人」の距離というよりは「友達・同僚」の間隔の取り方だったが。
「――貴方もそうですが、呉先生はより相談相手が居ないので……どうか明日の夜には思いっきり愚痴を聞いて下さればと思います」
隣に座る最愛の人が祐樹のほうへと顔を向けた。その動作でシトラスの香りが仄かに漂ってくる。
「私の話でよければ別に構わないが。ただ、私だってそんなデリケートな話題に興じる知り合いはいないけれども……」
怪訝さを含んだ声が海の表面に溶けていく。
「貴方の場合――そういう必要があればですけれど――『グレイス』に行って杉田弁護士とかそのお友達の常連さんなどにお悩み相談は可能でしょう。そういう意味での駆け込み寺的な場所は有りますが、呉先生にはそれも存在しないので……。
グレイスに行かれた場合、私のことも覚えている人は覚えているので、そういう意味でも相談しやすいかと思います」
最愛の人が懐かしそうなため息を零していた。
「そういえばそうだな。ただ、祐樹とこういう関係になって以来、幸せなことにそういう悩み事とは無縁な上に、祐樹からもあの店に行くことを止められているので考えたこともなかったが」
グレイスは二人にとって――最愛の人が誤解をしたままアメリカに渡ってしまったという痛恨の過去は有ったものの、その衝動的な行動がアメリカでの成功に繋がっているだけに、まさに禍福はあざなえる縄のごとしといったところだろう――ターニングポイントになった店だ。
それに良くある出会いの場所としてではなくて、同じ性的嗜好を持つ人達の団欒の場所として重宝されているのも事実だった。
祐樹などは声を掛けてくる男性で、かつ外見が好みであれば――店では「口説き禁止」だったが、いくらでも抜け道は存在するのも事実だったし――恋愛ごっこのお相手を探す場所としても使ってはいたが。
「呉先生の場合は、もともとそういう性的嗜好があったのも事実でしょうが、森技官が現れなければ普通に恋愛して結婚するという選択肢も有ったハズです。
貴方や私は自分の性的嗜好を自覚していましたが、そういうタイプは日本では少数派で……漠然とした違和感を抱きながら世間の常識通りに結婚生活を送っている人も数が多いらしいです。呉先生も間違いなくそのタイプなので、悩みを共有出来る人間が存在しないかと。ですから貴方が話して下されば幸いです」
祐樹の言葉に一つ一つ頷きつつ聞いていた最愛の人の動きにつれてシトラスの香りが仄かに香って祐樹の嗅覚もかけがえのない人の存在で満たされていくようだった。
「確かにその通りだな。それに『あの時』森技官の言葉で私が救われたのも確かなので……協力はさせてもらう」
最愛の人の言葉に祐樹は幾分華奢な肩に手を回して優しく引き寄せた。ちょうど人の気配も途切れているのも確認した上で。
最愛の人の唇が可憐な花の風情で咲いている。ただ、前のように大輪の花の華麗さではなかったのはまだまだ「事件」の痕跡が精神に色濃く残っているからだろう。
ただ、そういうトラウマの解消も時間の経過に任せるしかないのが歯がゆい限りだが、精神的な問題は劇的に回復することの方が少ないのも知っていたので気長に待つしかない。
幾分冷たい唇に唇を重ねた。祐樹の熱を分け与えるような感じの口づけを交わすだけで充分幸せだった。
何よりも最愛の人がこうして隣に座ってくれて、その温かみと確かな感触を腕で、そして唇で感じられることが「事件以前」は何だか当たり前になってしまっていたものの、実はそうではなくて奇跡的なことだと思い知った。
熱を帯びた潮風が頬を撫でるのをむしろ心地よく感じながら、触れては離すキスを続けた。
最愛の人も細く長い指を祐樹の指に深く絡めてくれていて、唇が重なる度ごとに繋いだ指の力も強さを増す。
スーツに包まれた肩を抱いて口づけを交わし続けていると、体温が上がったせいかシトラスの香りもさらに濃くなった。
最愛の人が腕の中に居てくれる、ただそれだけで「今は」充分過ぎるほど満たされていて、砕けた魂の欠片が心を傷つけることもない。
ただ、祐樹が果たすべき贖罪はまだまだ残っていることを自覚しつつも、今だけは接吻に酔いしれようと思った。
海に臨んで佇んで、もともと凛と伸ばしているのが習い性になっている人が、背筋を反らしつつ腕を回している。同時に深呼吸して――工業地帯の一画なのでそれほど空気が良くないものの――海の近くなので潮風が心地良い。
祐樹も同じように背筋を反らして深呼吸した、腕を付け根から回しながら。
「呉先生直伝だけあってよく効きますね。何だか肩が軽くなったような気がします。肩だけではなくて気分も」
手近なベンチ――ジョギングなどをする市民のために一応は設けられている――に座ると、最愛の人も隣に座ってくれた。ただ、この時間でもウオーキングやジョギングをする人達が通りすがるので「恋人」の距離というよりは「友達・同僚」の間隔の取り方だったが。
「――貴方もそうですが、呉先生はより相談相手が居ないので……どうか明日の夜には思いっきり愚痴を聞いて下さればと思います」
隣に座る最愛の人が祐樹のほうへと顔を向けた。その動作でシトラスの香りが仄かに漂ってくる。
「私の話でよければ別に構わないが。ただ、私だってそんなデリケートな話題に興じる知り合いはいないけれども……」
怪訝さを含んだ声が海の表面に溶けていく。
「貴方の場合――そういう必要があればですけれど――『グレイス』に行って杉田弁護士とかそのお友達の常連さんなどにお悩み相談は可能でしょう。そういう意味での駆け込み寺的な場所は有りますが、呉先生にはそれも存在しないので……。
グレイスに行かれた場合、私のことも覚えている人は覚えているので、そういう意味でも相談しやすいかと思います」
最愛の人が懐かしそうなため息を零していた。
「そういえばそうだな。ただ、祐樹とこういう関係になって以来、幸せなことにそういう悩み事とは無縁な上に、祐樹からもあの店に行くことを止められているので考えたこともなかったが」
グレイスは二人にとって――最愛の人が誤解をしたままアメリカに渡ってしまったという痛恨の過去は有ったものの、その衝動的な行動がアメリカでの成功に繋がっているだけに、まさに禍福はあざなえる縄のごとしといったところだろう――ターニングポイントになった店だ。
それに良くある出会いの場所としてではなくて、同じ性的嗜好を持つ人達の団欒の場所として重宝されているのも事実だった。
祐樹などは声を掛けてくる男性で、かつ外見が好みであれば――店では「口説き禁止」だったが、いくらでも抜け道は存在するのも事実だったし――恋愛ごっこのお相手を探す場所としても使ってはいたが。
「呉先生の場合は、もともとそういう性的嗜好があったのも事実でしょうが、森技官が現れなければ普通に恋愛して結婚するという選択肢も有ったハズです。
貴方や私は自分の性的嗜好を自覚していましたが、そういうタイプは日本では少数派で……漠然とした違和感を抱きながら世間の常識通りに結婚生活を送っている人も数が多いらしいです。呉先生も間違いなくそのタイプなので、悩みを共有出来る人間が存在しないかと。ですから貴方が話して下されば幸いです」
祐樹の言葉に一つ一つ頷きつつ聞いていた最愛の人の動きにつれてシトラスの香りが仄かに香って祐樹の嗅覚もかけがえのない人の存在で満たされていくようだった。
「確かにその通りだな。それに『あの時』森技官の言葉で私が救われたのも確かなので……協力はさせてもらう」
最愛の人の言葉に祐樹は幾分華奢な肩に手を回して優しく引き寄せた。ちょうど人の気配も途切れているのも確認した上で。
最愛の人の唇が可憐な花の風情で咲いている。ただ、前のように大輪の花の華麗さではなかったのはまだまだ「事件」の痕跡が精神に色濃く残っているからだろう。
ただ、そういうトラウマの解消も時間の経過に任せるしかないのが歯がゆい限りだが、精神的な問題は劇的に回復することの方が少ないのも知っていたので気長に待つしかない。
幾分冷たい唇に唇を重ねた。祐樹の熱を分け与えるような感じの口づけを交わすだけで充分幸せだった。
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熱を帯びた潮風が頬を撫でるのをむしろ心地よく感じながら、触れては離すキスを続けた。
最愛の人も細く長い指を祐樹の指に深く絡めてくれていて、唇が重なる度ごとに繋いだ指の力も強さを増す。
スーツに包まれた肩を抱いて口づけを交わし続けていると、体温が上がったせいかシトラスの香りもさらに濃くなった。
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いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。
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更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……)はフォローお願い致します。
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@mika_kouyama02
◇◇◇お詫び◇◇◇
実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。
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読者様も良いクリスマスをお過ごしくださいませ。
こうやま みか拝
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