朝の気配に――というよりキッチンの方から漂ってくる良い香りのせいで――意識が即座に覚めた。
昨夜の救急救命センターは息つく暇もないほどの状態がずっと続いたために、体力には自信がある祐樹でも帰宅する時は半ば意識が朦朧としていたのは確かだった。
年末のこの時期は、気の早い会社などでは忘年会も加わるし、クリスマスシーズンで浮かれている学生などが酔った挙句に事故を起こしたり喧嘩沙汰になったりで毎年そんな状態だったが。
瞬間睡眠と覚醒は祐樹の得意技ではあったものの、まだ昨夜の野戦病院のような喧噪が頭の中に残っている気がして頭を振りながら最愛の人が用意してくれていると思しきキッチンへと歯を磨いて室内着に着替えた後に向かった。
「お……」
「はようございます」と続けようとした言葉が出てこないほどの光景に目を奪われた。
朝露に濡れた大輪の花のような端整な笑みは既に見慣れた――といっても何回も見惚れてしまうが――ものだったが、祐樹の気配を感じて振り返った最愛の人はシルク専門店で購入したエプロンしか着けておらず、しなやかな肩やすんなりと伸びた長い手足などは全て見えてしまっている。
こちらを向いているので今は分からないが、肢体を反転させたら、白桃のような瑞々しい双丘も多分見えるだろう。本当に何も身に纏ってないとすれば。
ただ、そういう扇情的な格好を――本人はそれほど自覚しているわけではいのが罪作りだが、最近はそれでもマシになった方だ――好んでする人ではないので目を奪われて、ついでに言葉まで。
「おはよう祐樹。昨夜はとても寒かっただろう。今日も冷えるとテレビで」
何か――多分、味噌汁の鍋だろう――に視線を移しておもむろに背を向ける最愛の人は祐樹の予想と違わぬしなやかな素肌を惜し気もなく晒していた。
「お早うございます。その恰好……。この上もないほど目の保養ですが、どういう心境の変化なのですか」
もしかして、起きたと思ったのは夢の中の出来事で、密かな願望が顕現してしまったのではないかと目を疑ったついでに自分の頬を軽く叩いた。すると案の定痛みを感じて夢ではないことを実感した。
「祐樹……?」
涼しげな切れ長の瞳が驚きの色を湛えて大きく見開かれるのも神秘的な煌めきを放っていたが。
「いえ、朝からそういう格好をなさって下さるようになったのかと思うと嬉しくて。その見えそうで見えない胸の尖りとか、大胆に露出した絹よりも滑らかな白い肌とか……それに台所用品をお持ちになっている点も何だかとても瑞々しい淫らさを感じて、そそられます」
祐樹の視線が当たった場所が薄紅色に染まっていく。
「え?これは深夜に帰宅した祐樹が……。
もしかして覚えていない、のか……」
頬を咲き初めた紅薔薇のような色に咲かせて、唇はどこか不安そうな感じの覚束ない笑みだった。咲いくかどうか迷っている花の風情で。
「はい?昨日はくたくたに疲れ切って……。それでもマフラーはキチンと畳んで置いて、後は、ほぼ無意識の動作だったような。
何か言いましたか?」
本当にそうなのだからそれ以外言いようがなかった。
ただ、祐樹の視線の光りで素肌が紅く染まっていく風情はこの上もなく綺麗で、そして蠱惑的だったが、朝の新鮮な光の下なので余計に。
「……昨夜三時半に帰宅した祐樹に『疲れただろう。何か温かいものでも用意しようか』と聞いたら『それよりもあのエプロンだけで朝食を作って下さる方が回復します。元気になります』と言ったから、こうして……」
そんな記憶は断じてない。無いものの、疲労がピークを超えるとそっちの欲望がこみ上げてくるのも人間の身体だった。だから、そのままベッドに押し倒す体力はないと瞬時に判断して反射的にリクエストした可能性は否定出来ない。
しかも朝というのも「そういう」欲求が起きやすい時間だし、今日は土曜日なので時間的な余裕もたっぷりある。
「すみません、多分言ったとは思いますが――何しろ魂の叫びがそういう類いのお願いなので――無意識にそれが出てしまったのでしょう。
こちらもすっかり元気になりました……。
約束を律義に守って下さった最愛の恋人に御礼を兼ねて、何か約束をします。だから食事の前に」
おもむろに近付くと表情の選択に困ったような、ただ眼差しは紅色の恥じらいと期待で潤んでいる綺麗な顔が瑞々しさの中にもどこか淫蕩さを潜めている笑みの花を咲かせた。
「先程ニュースで放映されていたのだが、神戸のルミナリエが始まったそうだ。一緒に行きたいなとは思っていた」
紅色に染まった細く長い指がガスの火を消していく。その指も微かに震えていて空中に薄紅色の粉を撒いたような錯覚を覚える。
「承りました」
背中――ほぼ素肌で、その上に極上の手触りのシルクが飾りのように戒めている感じが背徳的だ――に手を回して強く抱き締めて口づけを交わした。
舌を絡めて空中に誘い出して、全体を擦り合わせると湿った夜の音が朝のキッチンを愛の場所に塗り替えていくようだった。
肩甲骨から背骨の窪み、そして瑞々しい双丘へと指を下ろしていくとしなやかな肢体が反って祐樹の胸にシルクに包まれた尖りが当たって肌を弾く。
昨夜の救急救命センターは息つく暇もないほどの状態がずっと続いたために、体力には自信がある祐樹でも帰宅する時は半ば意識が朦朧としていたのは確かだった。
年末のこの時期は、気の早い会社などでは忘年会も加わるし、クリスマスシーズンで浮かれている学生などが酔った挙句に事故を起こしたり喧嘩沙汰になったりで毎年そんな状態だったが。
瞬間睡眠と覚醒は祐樹の得意技ではあったものの、まだ昨夜の野戦病院のような喧噪が頭の中に残っている気がして頭を振りながら最愛の人が用意してくれていると思しきキッチンへと歯を磨いて室内着に着替えた後に向かった。
「お……」
「はようございます」と続けようとした言葉が出てこないほどの光景に目を奪われた。
朝露に濡れた大輪の花のような端整な笑みは既に見慣れた――といっても何回も見惚れてしまうが――ものだったが、祐樹の気配を感じて振り返った最愛の人はシルク専門店で購入したエプロンしか着けておらず、しなやかな肩やすんなりと伸びた長い手足などは全て見えてしまっている。
こちらを向いているので今は分からないが、肢体を反転させたら、白桃のような瑞々しい双丘も多分見えるだろう。本当に何も身に纏ってないとすれば。
ただ、そういう扇情的な格好を――本人はそれほど自覚しているわけではいのが罪作りだが、最近はそれでもマシになった方だ――好んでする人ではないので目を奪われて、ついでに言葉まで。
「おはよう祐樹。昨夜はとても寒かっただろう。今日も冷えるとテレビで」
何か――多分、味噌汁の鍋だろう――に視線を移しておもむろに背を向ける最愛の人は祐樹の予想と違わぬしなやかな素肌を惜し気もなく晒していた。
「お早うございます。その恰好……。この上もないほど目の保養ですが、どういう心境の変化なのですか」
もしかして、起きたと思ったのは夢の中の出来事で、密かな願望が顕現してしまったのではないかと目を疑ったついでに自分の頬を軽く叩いた。すると案の定痛みを感じて夢ではないことを実感した。
「祐樹……?」
涼しげな切れ長の瞳が驚きの色を湛えて大きく見開かれるのも神秘的な煌めきを放っていたが。
「いえ、朝からそういう格好をなさって下さるようになったのかと思うと嬉しくて。その見えそうで見えない胸の尖りとか、大胆に露出した絹よりも滑らかな白い肌とか……それに台所用品をお持ちになっている点も何だかとても瑞々しい淫らさを感じて、そそられます」
祐樹の視線が当たった場所が薄紅色に染まっていく。
「え?これは深夜に帰宅した祐樹が……。
もしかして覚えていない、のか……」
頬を咲き初めた紅薔薇のような色に咲かせて、唇はどこか不安そうな感じの覚束ない笑みだった。咲いくかどうか迷っている花の風情で。
「はい?昨日はくたくたに疲れ切って……。それでもマフラーはキチンと畳んで置いて、後は、ほぼ無意識の動作だったような。
何か言いましたか?」
本当にそうなのだからそれ以外言いようがなかった。
ただ、祐樹の視線の光りで素肌が紅く染まっていく風情はこの上もなく綺麗で、そして蠱惑的だったが、朝の新鮮な光の下なので余計に。
「……昨夜三時半に帰宅した祐樹に『疲れただろう。何か温かいものでも用意しようか』と聞いたら『それよりもあのエプロンだけで朝食を作って下さる方が回復します。元気になります』と言ったから、こうして……」
そんな記憶は断じてない。無いものの、疲労がピークを超えるとそっちの欲望がこみ上げてくるのも人間の身体だった。だから、そのままベッドに押し倒す体力はないと瞬時に判断して反射的にリクエストした可能性は否定出来ない。
しかも朝というのも「そういう」欲求が起きやすい時間だし、今日は土曜日なので時間的な余裕もたっぷりある。
「すみません、多分言ったとは思いますが――何しろ魂の叫びがそういう類いのお願いなので――無意識にそれが出てしまったのでしょう。
こちらもすっかり元気になりました……。
約束を律義に守って下さった最愛の恋人に御礼を兼ねて、何か約束をします。だから食事の前に」
おもむろに近付くと表情の選択に困ったような、ただ眼差しは紅色の恥じらいと期待で潤んでいる綺麗な顔が瑞々しさの中にもどこか淫蕩さを潜めている笑みの花を咲かせた。
「先程ニュースで放映されていたのだが、神戸のルミナリエが始まったそうだ。一緒に行きたいなとは思っていた」
紅色に染まった細く長い指がガスの火を消していく。その指も微かに震えていて空中に薄紅色の粉を撒いたような錯覚を覚える。
「承りました」
背中――ほぼ素肌で、その上に極上の手触りのシルクが飾りのように戒めている感じが背徳的だ――に手を回して強く抱き締めて口づけを交わした。
舌を絡めて空中に誘い出して、全体を擦り合わせると湿った夜の音が朝のキッチンを愛の場所に塗り替えていくようだった。
肩甲骨から背骨の窪み、そして瑞々しい双丘へと指を下ろしていくとしなやかな肢体が反って祐樹の胸にシルクに包まれた尖りが当たって肌を弾く。
【お詫び】
リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
更新を気長にお待ち下さると幸いです。
本当に申し訳ありません。
お休みしてしまって申し訳ありませんでした。なるべく毎日更新したいのですが、なかなか時間が取れずにいます……。
目指せ!二話更新なのですが、一話も更新出来ずに終わる可能性も……。
なるべく頑張りますので気長にお付き合い下されば嬉しいです。
何だかすっかり冬の気配ですね。発作的にシーズンものを書きたくなるクセが出てしまいまして、関西の冬の風物詩になったルミナリエを(ルミナリエが終わるころには終わるかと、多分)書いてしまいました。続きが気になる系の話しでもないので、飛び飛び更新確定です。すみません。
こうやま みか拝