腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2018年07月

気分は下剋上 学会準備編 127

「先程、祐樹の執刀時に冗談を言って場を和ませるのは私の真似だと柏木先生の奥さんに聞いたのだが、それは本当なのか?」
 手技に自分の模倣――良い点は是非学ぶべきだが、祐樹と自分とではそもそも才能の土台が異なるので強いて推奨出来ないのも厳然たる事実だったし、実際に自分が指導するよりももっと祐樹の強みを活かせる天才型の医師を紹介するだけに留めておいていたのも全てが祐樹の才能を考慮した上でのことだった――が入っていることはモニタールームで見た祐樹の執刀で勘付いたコトではあったが、祐樹の冗談は執刀医としての使命感だけで行っているモノだと思い込んでいたので意外だった。
 祐樹は青い和紙で作り上げた折鶴を貴重な陶器でも扱うように指先に細心の注意を払ってプラスチックの名刺ケースに入れ終わった後に安心したような笑みを浮かべている。
「はい。その通りです。
 ただ、私は貴方のような卓越した記憶力も、そして生きた英語力も持ち合わせていないので、日本語で慣れておくしかないかな……と思いまして。日常会話はともかく手技中に母国語でない英語に変換しつつ言葉を発するという一手間掛かる頭脳労働は今のところ無理なので、せめて日本語では慣れておこうと。
 もう少し執刀数という場数を踏んだら、今よりも心のゆとりが大きくなると思っています。その時には日本語から英語に変換するという頭脳労働も可能かと考えまして。
 全てはベルリンで見た貴方の素晴らしすぎる公開手術の時に学んだモノを自分なりに再現している積もりなのですが……、しかし、まだまだ追いつけないな……と日々実感している今日この頃です。
 第一助手を長らく務めて来たので、貴方の清流のせせらぎを彷彿とさせる水際立った手技を頭では覚えている積もりでしたが、実際に行ってみるとやはり己の未熟さばかりが気になって勉強不足を恥じるばかりです。
 成長はしているという貴方のお言葉を聞いて救われた気になっているのですが、追いつくにはまだまだ掛かるのでしょうね……」
 祐樹の負けん気が眉の辺りから漂ってはいたものの、眼差しとか唇には称賛と羨望めいた輝きしか感じない。
 確かに記憶力とか模倣力に対しては人よりも勝っているという自覚は有った――というか記憶力という点に関して言えば祐樹の指摘で初めて「他人とは異なる」と初めて気が付いた、自分ではそれが当たり前だと思っていたので――しかも医師デビューがアメリカだったので冗談はもれなく付いて来るものだと思って実行していただけで、逆に日本語だと冗談とか気の効いたセリフなどは出てこない自分はやはり他人とは、そして何より大切な恋人である祐樹ですら異なっているのだなととても残念に思った。
 しかし、祐樹が自分の模倣を――良いと判断しなければ人は真似など絶対にしない程度のことは自分でも分かった――してくれていたのは素直に嬉しかったが。
 プライベートでは完璧な恋人でもある祐樹が、仕事面でもかなりの高評価を下してくれているという事実は魂が震えるほど嬉しかった。
 白衣のポケットに大切に仕舞ったオレンジ色の折鶴が羽ばたいたような気がしてくる。
「追いつかれるのは時間の問題だろうが……。ただ、その時間を少しでも長く引き伸ばさないとならないな……。仕事面でだけでは祐樹の尊敬の対象で有りたいので……」
 祐樹が意外そうな、そして怪訝そうな眼差しで自分だけを見詰めてくる。
「え?貴方の全てを尊敬していますよ。そして心の底からの信頼も。
 そうでなければ公私に亘って生涯のパートナーになる決意などしていません。
 根底は愛情なのも言うまでもないことでしょうが。
 明日、定時に上がって百貨店に二人で行くのですよね?
 それはもしかして私のための買い物なのでしょうか」
 祐樹の適応力とか順応力、そして察しの良さは相変わらずで――そして自分の買い物に時間が許せば付き合ってくれていた過去も相俟って――わざわざこのような勝負を自分が目論んだことで「特別な何か」――具体的に分からないのはアメリカでの学会を経験していないのである意味仕方ないだろうし、積極的に本場の学会に「聞くだけ」の参加をしている医師も多分そこまでは考えが及ばないだろう、多分。
 しかし、自分の場合は学会の演者――実際にスピーチをしたことこそないものの、同じようなレベルの医師達から「身内にだけ明かす、ここだけの話」を多数聞いていたという強みのようなものは持ち合わせていた――は身近に何人も居るというのは今となっては有り難い過去だった。当時は何の感慨も抱かずにただ聞いているだけだったが。
「それは明日になってからのお楽しみということで……。
 今日の勝負で私が勝ったことは事実だから――タイマーの切り忘れは忘れて貰えればもっと嬉しい――明日は私の言うことに全て従って欲しい」
 祐樹はこの時間になってもシワ一つない白衣に包まれた広い肩を竦めて唇に甘い笑みを浮かべている。
「それはお約束致しますよ。今日『は』負けたのは事実ですから、貴方の仰ることに一切の異議は唱えません。明日全てが分かるのでしょう?
 楽しみにしておきます。
 ああ、スマホは返して下さい。流石にずっと持っていると久米先生にも悪いですので」
 祐樹の差し出した手にスマホを載せた。
 先程から何だか合図のような音がしていたものの、自分には縁のないものだし、さしたる関心もなかったので画面は全く見ていなかった。
 祐樹の大きな掌と自分の紅色に染まった指が微かに触れて、それだけの接触に甘い痺れが身体と魂を蕩けさせていくような気持ちになる。
「アクアマリン姫……夢を見過ぎですね……。現実的な面が強いとは思っていましたが、こと恋愛に関しては夢見る乙女なのでしょうか……」
 スマホの画面を見ながら祐樹が呆れたように呟いている。気になって祐樹の手元を覗き込んで、思わず小さな笑い声を立ててしまった。
「確かに夢を見過ぎなのだろうな。
 ただ、祐樹の恋人がこういう女性だと思われているのか……。
 まあ、その麗しい誤解に相応しくあるように――性別はこの際置いておくことにして――私も精進しなければならないな……」
 スマホの画面には有名な美人女優さんが演じた――ドラマは数回流し観をしていた――商社レディの設定の画像が「田中先生の彼女さんはこんな感じでしょう」という字付きで久米先生のスマホに表示されていた。
 祐樹も可笑しそうに唇を弛めてはいたものの、眼差しは真剣かつ揺らぎのない輝きで意外な言葉を紡いでくれた。










 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
 原稿書く時間がホントにないもので……。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。




        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 126

 絶対に負けられない――祐樹は今自宅マンションで密かに作っている手編みのマフラーのようなそれほどお金が掛かっていないモノとか、お土産として購入した時計などは快く受け取ってくれそうだが、洋服となると――しかも百貨店に行って試着した後に購入という流れなので当然値段は把握されるので――二の足を踏む可能性の方が高い。自分には惜し気もなくプレゼントを贈ってくれるものの、二人の資産の相違に何かしらの拘りを抱いているのは確かだったので。
 祐樹も年齢にそぐわない役職手当なども給料に含まれているので医師としても高給取りの方だろうが、それはあくまで日本の大学病院所属の医師としての評価で、自分のように手術代が言い値――というかアメリカの病院が提示した額というのがより正確な表現だ――というわけにはいかないので、どうしても格差が生まれてしまっていてそれを気にしているような気配が微かに有った。
 だから祐樹基準では高価なスーツ一式を贈るには細心の注意を払わないとならない。
 せっかく思い立った激励と自分は出席出来ない贖罪の代わりのプレゼントなので快く受け取って欲しかった。
 そんなことを頭の隅で考えつつも視線は祐樹の指先の動きに釘付けになってしまっている。先ほどとは異なった意味で呼吸すら忘れて。
 確かに祐樹の執刀する手術は全て――リアルタイムでは物理的に無理なのでモニタールームで録画したものを――見ていたが、実際に見るとその緻密かつ華麗な動きは目を瞠ってしまうほど素晴らしかった。愛する人だからという贔屓目ではなくて客観的に見ても充分過ぎるほど。
「出来ました。貴方の芸術的な美しさと比べると出来映えはイマイチですが。それに何分ほど掛かりましたか?」
 確認するように祐樹が輝く瞳で自分を見詰めてきた。鉗子と攝子を大切そうにデスクの上に置いてから。ただ、道具を大切に扱うという点「でも」以前の祐樹とは格段の進歩を遂げているのも事実だった。
 ただ、スマホのタイマー機能――スタートさせたのは確かだが――を停めるのをすっかり忘れ果てていたという体たらくなのが情けない。ダイナミックな繊細さで動く指を見詰めていたとはいえ。
「今の時点で3分と52秒だな。ただ、停めるのを忘れるくらい鮮やかな手技に見入ってしまっていて……、正確な時間は不明なのが申し訳ない」
 集中力を何分割も出来るというのがこの職業に就いたモノの強みだし、自分もその点だけには自信が有った上に、タイマー機能がなくとも秒単位で時間を計ることが出来る頭も祐樹の手技に魅了されて時を刻むのを忘れ果てていたのも事実だった。
「どちらにせよ、一分も開きが有るので貴方の勝ちは動かないでしょう。
 貴方の仰る通りに致しますよ、負けた以上は」
 さして悔しそうな感じを受けないキッパリとした口調と明るい声に救われたような気になった。
「明日は貴重な定時上がりの日だろう?
 夕飯は家で一緒に食べることにして、その前に百貨店に付き合ってくれないか?」
 予想通りというか、祐樹が「誤解」していた申し出と異なっていたせいで、心の底から驚いたような目で自分を見下ろしている祐樹に明るい笑みを返した。
「百貨店……ですか?そんな場所なら別に折鶴勝負をしなくてもいつでも付き合いますよ?」
 怪訝そうに眉を寄せる祐樹に「まだ内緒だ」と唇で伝えた。
 祐樹が作ってくれた大胆かつ精緻な折鶴を間違っても潰さないようにそっと手で掴みながら。
 これは一生モノの宝物だったので。
 祐樹が道後温泉で手慰みに折った折鶴をこの上もない宝物にしてくれている気持ちが分かったような気がした。
「有難う御座います。これで宝物が更にまた一つ増えました。部屋に戻る前に潰してしまっては元も子もないので」
 祐樹が白衣のポケットからおもむろに取り出した容器を見て思わず笑ってしまった。
「祐樹も同じような発想なのだな……。実は私も同じモノを用意している」
 医局でこそ一介の医局員だが、祐樹は厚労省の肝煎りで出来たAiセンターの長なだけに病院からは名刺が支給されているし、自分も教授職なので――使う機会はそれほどないものの――当然ながら事務局が用意してくれた200枚セットの名刺ケースを折鶴を入れるのには最適な大きさということもあって用意していた。
 200枚――漏れ聞くところによると昔は100枚だったらしいが、一度に刷った方がコストカットになるらしい――の上質な紙で出来た名刺を入れるプラスチックの容器は意外にも頑丈そうなので、それを流用することを思いついたのだが、祐樹も同じことを考えていたということだけで何だか心が薄紅色の甘い空気を吸ったような心地よい酩酊感を覚える。
 先程は程よい緊張感を抱いていたのでそれが無事に済んだことも相俟って。
「ああ、貴方もそれを用意していらしたのですね。容積が大きいような気も致しますが、当面の間持ち運び出来ればそれで良いので。
 お互いの宝物を壊してしまったら大変ですから、この無駄に頑丈なホルダーは最適ですよね。我々は営業職ではないので200枚も名刺を貰っても使い道がないと思ってはいたものの、こういう場面で役に立つとは全く思っていませんでした。
 ただ、この折鶴は一生の宝物にします。有難う御座いました」
 祐樹の長い指がこの上もなく優雅かつ静謐な動きで自分の作った青色と銀色の混じった折鶴を大切そうにケースに仕舞っている。
 当然自分もそれに倣ったが。
「いや。こちらこそ一生モノの宝物が更に増えて喜ばしい限りだ。本当に有難う」
 自然に綻ぶ唇で謝意を述べると祐樹が輝くような笑みを浮かべてくれている。
 それだけで魂までもが宙に浮いているような多幸感に包まれてしまっていたが。
 それに、明日の今頃は――試着とはいえ――正装に身を包んだ祐樹の普段よりも更に凛々しくて端整な顔立ちとか一分の隙もないスーツ姿を見られるというのも。
 そうでなければ多忙な祐樹の時間を奪ってまで捻出した折鶴勝負の甲斐が――ケースの中に鎮座している宝物の入手はこの際置いておくことにして――ないと思ってしまって、微笑みが後から後から浮かんでこの上もないほどの笑みを浮かべている自覚は有った。
 それを眩しそうに見ている祐樹も勝負のことはスッキリと忘れたのか、極上の笑みを浮かべて自分だけを見詰めてくれている。
「次の機会には負けませんので……。今回の雪辱はきっと果たします。
 ただ、貴方が指導した清水研修医は当然あの手技を見て模倣しようとしているのですよね……」
 自分だけが柔らかさを知っている――過去には何人もが触れただろうが、そういうのは気にしないようにしている――唇に手を当てて難しそうな表情で考え込んでいる祐樹は、今度は医局対抗の折鶴勝負のことが気になっているに違いない。
「まだまだ、祐樹には負けていられないので……。明日は私の言う通りにしてくれるのだろう?
 今度も絶対に勝ってみせる」
 冗談の積もりで言ったのだが、祐樹は秀でた眉間に負けん気を漂わせておもむろに口を開いた。
 本当なら早くこの控室を出ないといけないのだが、二人きりになれる時間が極端に減ってしまっている今では少しの時間も惜しいと思ってしまうのは愛情ゆえだろうが。










 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
 多分ですが、次回更新は土曜日になります。それまでは原稿書く時間がホントにないもので……。今日は奇跡的に更新可能な時間が空きましたが、明日は未定なので。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。




        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 125

「じゃんけん・ぽん!最初はグー1」
 白衣の袖から露出しているしなやかさと強さをよりいっそう際立たせている手首が風よりも早く動的に翻った。
 反射的にグーを出して唇に笑みを刻んでしまう。
 確かにコイン投げで順番を決めるのはアメリカ時代に何度もした覚えは有ったものの、じゃんけんは――している場面は何度も見た記憶は当然持ち合わせていたものの――祐樹としかしたことのないモノの一つだった。
 多分祐樹はふと漏らした自分の言葉を律義に覚えていてくれたのだろう。
 自分が思っている以上に祐樹が自分のことを良く見ていてくれていることは既に出版科に回してある原稿からも如実に分かってはいたものの、こうした祐樹のさり気ない優しさがとても嬉しくて心が宙に浮きそうになる。
「ああ、負けてしまいましたね……。ではお先にどうぞ。
 それはそうと今の笑顔も咲き初めた薄紅色の薔薇のような笑みですね。瑞々しくてそして、少しは緊張なさっている様子が却って新鮮で……目が離されません。そういう笑顔はどうか私にだけ見せて下さいね」
 祐樹の凛々しく引き締まった唇が甘い言葉と極上の笑みで自分へと向けられた。自分の容姿を褒めてくれるのはとても嬉しいが、祐樹こそ太陽神のような神々しい輝きを放っていて自分と同じ白衣を纏っていてもそれすら神の裳裾のような感じで着こなしている。
 ただ、自分が心に思い描いている晴れ舞台に相応しい服装はもっと祐樹を凛々しくそして実年齢よりも更に落ち着いて見えるだろうが。
 ワイシャツの色を数点の中から決めあぐねてはいたが、この瞬間に色はこの色にしようと密かに決意をしてしまった。
 確かにこの勝負に負けてしまうと「祐樹のしたいようにする」という――それはそれで心の底から嬉しいが、今はそれ以上に祐樹の魅力を最大限に引き出すために自分が下調べをした服装を試着してもらう必要が有った。いくら祐樹のことを知悉しているとはいえ、実際に身に纏って貰わないと分からないこともあるので。
 祐樹の手の動きに対しては考える間もなく出したパーの指先が仄かに紅く震えているのは内心の心の弾みのせいだろう。昔渾身の勇気を振り絞って渡した自分の携帯番号を記した紙片の時とは全く異なっていることへも感謝と嬉しさで胸が暖かく甘く震えているようだった。
「祐樹……。そのスマホは久米先生のでは?」
 見覚えのあるスマホが気になってつい聞いてしまう。自分達はさして必要もないこともあって今時珍しいガラケーだが、多分スマホの最新のタイマー機能を使おうと祐樹が考えたに違いない。ただ、他人の個人情報も入ったスマホを使って良いものかどうかの判断は自分には難しすぎる。
「ええ、少しの間だからと借りて来ました。我々にはプライバシーが有ってないようなモノですから、多少の融通は効くのです。特に救急救命の凪の時間などは皆が他人のスマホで遊んだり、ゲームアプリを勝手に起動させたりとしたい放題していますので」
 そういえば、久米先生が遊んでいる恋愛シュミレーションゲームとやらで祐樹が悪戯に「好感度」とやらを下げたとか聞いた記憶があったが久米先生が「本気で」気にしている様子は皆無だったことを思い出して(そんなモノなのか)と思ってしまう。
 肩を竦めて笑みを浮かべた後に攝子と鉗子を手に取って机の上の和紙に精神を集中させた。
「レディ・ゴー」
 祐樹の滑舌の良い低い声と共に無心に手を動かした。
 スマホのタイマーをタップした後には祐樹の眼差しが和紙とそれを掴む攝子と鉗子にのみ注がれているのを感じながらも。
 心の中で秒単位のカウントしつつ、祐樹が注視してくれているという安心感と、そしてそれを上回る安堵感からか、指はいつも以上に軽やかに動いて昨夜自分が最上の動きだとイメージした以上の鶴が出来上がっていく。
「2分29秒ですか……。流石ですね。しかもこの出来映えとは」
 心の底から感心したような祐樹の声とか明るい瞳の輝きに笑みを深くしてから殺していた息を大きく継ぐことにした。祐樹の大きな掌になら10個は楽々載るだろう、ごく小さな折鶴を織り上げた心地よい達成感と満足感を覚えながら。
 頭の隅でカウントしていたのも2分29秒だったので――統計によって異なるだろうが自分が調べた限りで外科医の平均は10秒で早いと高く評価されるらしい。ただ昨夜の自己ベスト――学生の時は5分そこそこだった――を大きく上回っていたのは祐樹の眼差しが自分に注がれていたからだろう。祐樹の輝きが自分には何よりの励みにも、そして癒しにもなってくれているので。
 机の上にはオレンジ色の小さな鶴が今にも飛び立つような感じで鎮座している。自分の手で作りだしたモノだったが、勝負が決まってからずっと頭の中で思い描いていた――イメージトレーニングは基本中の基本だったので――よりも綺麗かつ端整な出来栄えだった。
「予想はしていましたが、想定以上に早い上にこの正確さですからね。じゃんけんで負けたことも有って、後発は厳しいです、実際のところ……。ただ、私も負けてはいられませんが……」
 祐樹の負けん気の強そうな眉が男らしく跳ね上がっている、唇には優しい微笑みを浮かべながらも。
「私には準備する時間がたくさん有ったので、そのせいだろう?」
 祐樹の外科的な才能は――本人が自覚している以上に――豊かなことは他ならぬ自分が一番良く知っている。ずっと見てきたという点では、自分だって祐樹に負けていなかったのも厳然たる事実だった。
「それは言い訳になりませんよ。これは単なる――まあ、遊びというには真剣ですが、大雑把に括ると遊びの範疇でしょう――しかし、患者さん相手にはいかなる言い訳も通用しませんから。
 最善は尽くします。スマホの操作は分かりますか?タイマーの画面を表示させてはいますが……」
 祐樹の長い指で久米先生から借りたスマホが優雅な弧を作ってこちらに差し出された。
「多分、分かると思う。ここをタップすれば良いのだろう?」
 実際に使ったことはないものの、使っている人を散々見て来たしその上祐樹が褒めてくれる程度に暗記力にも自信はある。だから何となく使用法は分かった。手渡した時に触れ合った祐樹の確かな温もりが冴え冴えとした僅かな緊張すら春の薄氷のように溶けていく。
「そうです。では、合図をお願いしますね」
 祐樹が笑みを一瞬だけ浮かべて自分の紅色の指を見詰めた後に研ぎ澄まされた刃のような真剣な輝きを放って仄かな銀と青い色が混じった和紙を見下ろしている。手に鉗子と攝子を慣れた感じで持ちながら。
「レディ・ゴー!」
 祐樹の指が華麗勝つ大胆な緻密さで動くのを思わず息を詰めて見守った。
 秒単位で動いて単なる和紙の平面から鶴が出来上がっていくのを心の底から感嘆の想いで見詰めてしまう。










 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
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        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 124

「香川教授、いつもの手術控室の鍵を開けておきました。使い終わられましたら、私に声かけをお願いしますね」
 柏木先生の奥さんでもある手術室のベテランナースが一目を盗んで――といっても緊急手術が行われない限りこの時間帯は人もまばらになっているが――手術控室へと案内をしてくれた。
 柏木先生は結婚前こそ彼らしくない感じの不安定さを垣間見せていたものの、今では以前よりも更に人間的に成長しているように思う。
 多分、同じ大学病院所属なだけに医師という職業に余計な夢とか理想を持っていない奥さんだから良かったのだろうが。
「有難う御座います。……手術のことで、田中先生に綿密かつ詳細なアドバイスの必要を強く感じたもので……。……いえ、ゆ……田中先生の手技に問題はないのですが……」
 自分で言っていても、何だか嘘くさいというか言い訳じみた感じしか出せないので故千葉を切った。
 祐樹ならば平気な顔をしてウソをつくだろうが、そしてそれが大学病院というある意味特殊な場所で生き残っていくためには必要な才能の一つであることは頭で分かってはいたものの、実行するにはハードルが高すぎた、今の自分では。しかし、以前の自分では考えもしなかった病院長兼医学部長の座を獲得するという野望が芽生えた今となっては必要不可欠なモノではあるので、今後の改善点の一つだろう。
「田中先生の手技は一見すると教授と異なった感じですが、よくよく見ると教授の手技の影響が顕著に見受けられますので、上司という立場もお有りになるでしょうがそれ以上に愛弟子として教授が指導なさりたいと思うのは当然かと思います」
 「門前の小僧習わぬ経を読む」というコトワザが存在するが、手術室勤務のせいで色々なオペに立ち会ったことのある彼女の忌憚のない、そして正確極まりない意見を聞けて本当に良かったと思う。天才肌の祐樹に対しては自分が教えるよりももっと適役が存在するとあまり指導をして来なかったのだが、ずっと助手を務めて貰っていたせいもあって手技の癖まで似て来ているのだろうかと思うと胸が甘く熱く震えるようだった、他人に指摘されると尚更のこと。
「そうですか?ただ、田中先生の手技の方が華麗でダイナミックですよね?
 ああいう天才的な手技は私にとって永遠の憧れです。それに、手術中に冗談を言うほど余裕を持っている執刀医という点でも」
 こちらは紛れもない本音だったので普段通りになめらかな言葉が出た。
 彼女は――どうやら自分に憧れめいた気持ちを抱いてくれているらしいが――頬を女子高生のように初々しい色に染めて、とんでもないといった感じに手を振っている。
「いえ、主人が申すには教授ご本人が国際公開手術の時に英語で冗談を言いながら手技をなさった時の真似ではないかと……。恥ずかしながら私、英語はサッパリ分からないのであくまで伝聞ですけれども……。教授だって海外ではそうなさっていらっしゃいますよね?」
 確かに英語が苦手なナースの方が多いので、柏木先生からの聞きかじりなのだろうが、ただ英語の時は日本語よりもジョークの回数が多いモノという認識というか思い込みが前提として有ったので自然と饒舌に話せてしまっているだけだったのだが、彼女はそう受け取らなかったようだ。
 それに手術中に冗談を言ってその場の雰囲気を和ませる祐樹にひたすら憧憬めいたものを感じていたが、あれが休暇を取ってまでベルリンまで駆けつけてくれた国際公開手術の模様を忠実に再現したものだとは考えてもいなかった点で大きく目を見開いてしまったが。
 自分の手技を褒められることよりも祐樹のことを大称賛してくれた方が個人的には天にも昇る気持ちになるのだが、どうも相手にはそうは伝わらないようで目の前の彼女も困惑した感じの笑みを浮かべて黙り込んでしまった。
 結婚式でのハプニングの一件――「何か青いモノ」が間違って新郎の柏木先生の控室に届いたこと――でも聞いてみようと口を開きかけた時に、自分にとって夜空に輝く太陽よりも眩しい雰囲気と活力に溢れた祐樹という世界で一番大切な人の気配を全身で感じ取って、ほぼ脊髄反射的に振り返ってしまった。
「教授、遅れてしまって申し訳ありません。
 この御礼には、柏木先生も巻き込んで――今は久米先生の特訓中で手が離せないのは事実ですが――キチンと考えてありますので。
 では教授、ご指導をお願い致します」
 異性に一切興味を抱けないという自分のことを分かっているハズの祐樹だったが、何だか彼女と自分の間に入り込んで距離を置こうとする祐樹の男らしいバランスの取れた長身が視界を遮っている。
 ただ、そうやって守られている感は何よりも自分にとって嬉しくて甘い蜜のような笑みを唇に浮かべてしまっていたが。
「了解した。では終わったら知らせますので」
 ナース服の彼女に会釈をしてから割と狭い室内に入った。白衣のポケットにはこの日のために用意した和紙を忍ばせて。
「さてと……。ああ、こんな綺麗な和紙を用意して下さったのですね。
 色気のないコピー用紙ではなくて。有難う御座います。こちらが私用ですか?」
 デスクの上に鉗子と攝子を置いてからポケットの中にクリアファイルに入れた和紙を取り出すと祐樹が驚いたように目を輝かせている。
 さして迷うような感じも見せずにオレンジ色を基調にした和紙を男らしい長い指で引き寄せてから、重さを確かめるように手で持っている。
「そっちの色が祐樹用だと良く分かったな……」
 まあ、散々祐樹のイメージカラーの話しをして来たので分からない方がおかしいのだが、やはり自分のことを誰よりも理解してくれている人が唯一無二の恋人だと思うと何回確認しても嬉しいものは嬉しい。
「貴方のことは貴方以上に良く知っていますから。
 コイン・トスがこの場には相応しいのでしょうが……、貴方にはこちらの方が新鮮なハズです、よ」
 意外なジェスチャーをされて一瞬の戸惑いの後に薔薇色の幸せな泡が心の中に弾けた。










 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
 次回更新は未定です(泣)原稿書く時間がホントにないもので……。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。




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