腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2018年06月

気分は下剋上 学会準備編 118

『彼女は勉強家としても知る人ぞ知るといった人なので、当然教授のご高名もこちらが紹介するまでもなく知っていました。その上原稿を実際に見たいとかねてから聞いていたので一読した後に勝手に送ってしまいましたが、問題はなかったでしょうか』
 祐樹と比較すればの話しだが、自宅の滞在時間も圧倒的に多い。家事などをこなしながら落ち着いた感じのテレビの番組を選ぶことも当然多かったので、彼女が出ているクイズ番組を観ていた、あくまでも他人事のように。ただ、知的好奇心旺盛な女性という印象を受けていたのでその反応は妥当だろうな……と思ってしまう。
「それは全く構いません。専門家にお任せした以上はこちらが下手に口出しをしない方が物事も上手く回る程度の経験則は持ち合わせていますので」
 自分にとっては常識だと思っていたが、厚労省詣でとかその他ごく僅かながらも日本での同業者の人脈も出来た今となっては割と投資とか資産運用を――といっても海外で一手術ごとの収入を得るレベルの外科医とは文字通りケタが違う運用額だったが――自分でも干渉したがる医師が多いことに気付かされてむしろ内心では驚いていた。といっても他人のお金のことなので口に出しては何も言わなかったが。
 電話の向こうで安心したような感じの一呼吸の間の後に咳払いの音が微かに聞こえてくる。
『流石は世界の香川教授ですね。
 当然といえばそうなのですが、彼女も是非ゲストに呼びたいとの意向でした。最新の心臓バイパス術についても質問が有るそうですよ。まあ、番組の中では本の話題でしょうが……。局からの依頼は斉藤病院長経由の方が良いのでしょうか?それとも直接教授の方にお話しを持って行くように致しましょうか……』
 斉藤病院長は当然、日経新聞の「ワタシの履歴書」執筆依頼を今か今かと待ち構えている状態だったので高木氏と直接話したがるだろう。医学部長兼病院長という「名士」ではあるが、大学の学長の座を虎視眈々と狙っていることは研修医ですら知っているほどの野心家――といっても大学病院に勤務してそれなりのポジションに居る人間には野心がない人の方が少数派なのも事実だったが――の一面も持ち合わせているので尚更のこと。
「是非斉藤病院長経由でお願い致します。斉藤も話したがっているようですので……この機会に。
 そして、出版記念パーティか何万部記念だかの判断は全て一任致しますが、オー○クラのパーティの件も何卒宜しくお願い致します」
 斉藤病院長の歓心を買う――今まではこれ以上の世間で言うところの出世には全く興味がなかったが、自分が病院長になれば心臓外科の教授職のポストが空くという盲点といえば盲点に気付いた今となって話はまた変わって来た、何しろ年齢的にはそれほど変わらない祐樹がこの病院の教授の座に就くにはそれ以外の方法はないのだから――ポイント稼ぎにも絶好の機会なのでその点は念押ししておこうと思った。ただあの宴会場の荘厳さとシックな感じが融合した場所に祐樹と二人で座って皆の祝福を受けるという方が自分にとって大切なのは言うまでもなかったが。
『承りました。ではそのように致します。そろそろ具体的な日にちを決めなければなりませんね。
 当然ながらマスコミ各社からも問い合わせが殺到しているのが現状でして……。どう断れば良いかと頭を悩ませるという最近では稀な良いお話しを頂いて、しかも原稿は予想を遥かに凌駕した出来の良さで――いえ、文才の有る医師の方々が多いのは経験から存じ上げていますし、こう申し上げるのは失礼かもしれませんが――』
 恐縮したように言葉を切った高木氏だったが、自分の文章ではなくて祐樹が激務を縫って書き上げてくれた部分を褒められていることくらいは自分でも分かったし、最愛の祐樹が激賞される方が自分的にも天に上るほど嬉しいのは言うまでもない。
「いえ、その点は全く気にしてはいません。直すべき箇所などが有れば是非ご指導を頂ければと思います。可能な限り応えますので……」
 自分よりも病院に対して愛着心が多い祐樹にしては珍しく、折鶴勝負という「医局の威信」が掛かった催し物よりも優先して久米先生まで動員しての「推敲」という名のでっち上げ作業に没頭してくれてはいた「作品」だったが、祐樹だって文才は人並み以上持ち合わせてはいるものの、素人なので専門家の指導を仰ぐ方が良い程度は自分でも分かった。 
 自分にとっては一言一句たりとも変えたくない祐樹の「珠玉の作品」だったが、それはあくまでも個人的な事情であることは重々承知の上だった。
 清水研修医が予想以上に期待に応えてくれている今となっては久米先生にも頑張って貰わないとならないと「祐樹ならば」判断するだろうな……と思いつつ薔薇色に弾む気持ちが誰も居ない執務室一杯に広がっていくような気がした。
 外科開催の折鶴勝負の前に祐樹と二人だけの密かな勝負にも「絶対に」勝たなければならなかったし、楽しい緊張感で心が夢のように張りつめている。
 柏木先生の奥さんなら手術控室も自分が頼めば快く貸してくれる感触だったので空間には不自由していないが、今この喜びを分かち合いたい唯一の恋人が不在なのも却って大きな歓びに想えるのも人間の気持ちの複雑さというかシンプルさに震えてしまう。
 普段の激務の合間を縫っての原稿作成とか諸々が重なって一緒に居る時間が激減したのも事実だったが、気持ちが通じ合っていると確信が持てるようになってからはむしろ不在の時間も蜜のように甘くて切ない味がするのも我ながら現金なものだと甘い笑みを浮かべてしまった。
 それにテレビ出演がほぼ決まったという幾重にも重なりあった幸せを噛みしめつつ受話器を握り直した。掌には滅多に出ない汗が出ているのを受話器が教えてくれている。









 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 




        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 117

 自分にとって世界で一番大切な祐樹の意外な一面を垣間見た幸福な気持ちのまま四回読んでしまったコピー用紙の束――USBメモリで貰っているので校正とか訂正箇所が有れば直そうと思っていたがその必要は全くなかった――を大切にデスクに仕舞ってから院内メールで斉藤病院長に、そして高木氏には一般的なメールで送信した。
 斉藤病院長は祐樹がそれらしくでっち上げた原稿――使用する画像は既に決めている――で大満足だろう。この「誠実な熱意と患者さんを一人でも多く救いたいと熱意溢れる教授」が自分の病院に在籍している格好のアピールになるので。
 高木氏はどうだろうか……。呉先生によると「某国民的美人女優の結婚引退の際のエッセー」ですら書き直しを要求した結果大ベストセラーになったという逸話の持ち主だ。出版界の凄腕と呼ばれているだけあって「どう書けば売れるのか」という点を追及して来るに違いない。ただ、物凄く多忙そうだったので――経験則からすれば多忙な人の方がレスポンスも早いし、本を刷ってしまってから内容変更の指示が掛かれば出版科の人達の時間も病院の経費のお金も無駄にしてしまうのは好ましくないので原稿の段階で、つまり祐樹と自分しか関わっていないこのタイミングで原稿を読んで貰って直すべき個所――自分としては祐樹の「でっち上げ」が完璧に思えるものの、高木氏の求めているレベルに達しているかどうかは本人に聞かなくては分からないし予測も専門とは異なるので想像も付かない――を具体的にアドバイスして貰えるに越したことはないだろう。
 ただ、自分の書いたいかにもレポート、若しくは体験談めいた無機質の文章と祐樹の珠玉の物語文のような文章が上手く調和して読む者を惹き付ける程度のことは分かった。しかし出版業界という自分の知らない世界の事実上の第一人者の意見はまた異なるかも知れないなと思いながら五回目――といっても一回目で暗記は完了しているのに祐樹の文才に惹かれて手に取って読まずにいられない吸引力に惹かれてしまって――コピー用紙の束を普段は絶対にしない声に出して読んでしまっていた。
 祐樹の全てが自分を惹き付けるのは、これまでの「恋人としての付き合い」から、いや以前に大学のキャンパスで一目惚れをした時から自覚していたことだったけれども、この文章を読めば読むほど「医師としての自分が考えそうなこと」――実際祐樹が病院に居なかったとか、例えば自分一人で災害に遭ってしまった時とかのこの世で一番大切な祐樹が関わっていなかった場合にはほぼ同一の行動を取るだろうと推量するだろうことが祐樹の華麗な文章で鮮やかな宝石のように再現されているのは、祐樹が自分の性格とか普段の言動を漏れなく見てくれていることの証しのような気がしてどんな宝石よりも煌びやかな光を放っているような気がしてその眩い愛情の証しの照り返しを受けたような多幸感に包まれて書類の束から目が離せなかった。
 同時に二つ以上の事柄にありったけの集中力を使って判断するというのは職業上慣れているハズだったのに、デスクの上の電話が鳴り続けていると辛うじて気付いたのは、無意識に注意を払っていてはいたものの(出なければならない)と思えた時には5コール目だったとあやふやな記憶が告げている。
 慌てて受話器を取ると『高木です』と以前話した時よりもやや高い声と早口で告げられた。
 高い声はテンションが上がっている証拠なのも経験上良く知っていた。患者さんを多数診て来て――自分を頼って来て下さるのだから有り難いが、それでも手術前は不安に思うのか低い声で、手術成功を告げると患者さんやご家族の声がちょうどこんな感じに高まっていくので――知っていた。
『原稿拝見致しました。素晴らしい出来ですね!これは私のサポートがなくても充分ベストセラーになりそうな感触です。教授自身と田中先生の知名度も相俟って……。
 ですが、ビジネスという観点からではなくて私自身がこの本の出版に関わりたいと思っているのですが……、契約書は未だ生きていますか?」
 出版業界の営業トークは高木氏が初めてだが、医薬品とか医療機器の敏腕営業マンとは何度も話したことが有る。その時も熱心に勧めてくれていたが、何だか熱の入り方が異なるような印象を受けたし、その上どこか遠慮がちな感じも――初めて高木氏と話した時には皆無だった――受けたので自分が書いた部分ではなくて祐樹の筆力に感嘆したのだろうと思うと自分のこと以上に嬉しかった。
「もちろんです。お任せすると決めていましたから。さっそく読んで頂けたのですね……
 治すべき点が有れば遠慮せずに仰って下さい。何しろ文章には素人なのでプロのご指導に委ねるのが上策だと存じます。それに貴方のお力をお借りすれば売り上げからして違いますし、その上付随する諸々のことへのアドバイスも頂きたいので」
 電話越しに安堵のような感嘆詞を挟んでいるのが聞こえて来た。二人の共同作業が想像以上に高木氏的には大きな成果を挙げていることに内心の弾みがシャンパンの黄金の泡のように心を満たしていく。
 手術に関しては絶対の自信めいたモノも当然持ち合わせているし、それだけの実績も有ったが、それ以外のこと――例えばアメリカ時代に得た莫大な資産運用などは厳選したプライベートバンキングに一任しているし、素人が口を挟むと却って逆効果なこともあるとその担当者が話のついでに言っていた。だからその道のプロに丸投げしてしまうというのが最上の策であるとの人生の教訓として何となく分かっていたので、元からその積もりだ。
『承りました。この完璧過ぎる原稿なら300万部どころかその倍の数を見込めます。
 ああ『T子の部屋』へのゲストとして招かれる件なのですが……』
 いったん言葉を区切られたが、声の調子からして――元々の性格が悲観主義なのは重々承知しているものの――「多分」良い知らせだろう。その程度は想像出来たが、高木氏――素早いことに番組のホステス役の女性にも読ませたに違いない――の口から聞くまでは何だか落ち着かなくて固定電話の本体と受話器を繋ぐ几帳面過ぎるほど丸まった線を更に綺麗に整えることで辛うじてこちらからの発言を慎むことにした。
 高木氏が胸の高まりを抑えきれていないことは電話の向こうから雰囲気で分かったし、自分も「祐樹と二人だけで」有名な番組に「同時のゲスト」として招かれて隣り合った席に座ってスポットライトを当てられる絶好のチャンス――テレビ出演はおまけだが――が直ぐそこまで近付いて来ているかも知れないと思うと高木氏以上の薔薇色の煌めく感情の波が心の中で甘く激しく潮騒を告げるような気がした。












リアバタでお休みしてしまい申し訳ありませんでした。

そして、今日(というかもう昨日ですね)は大阪で地震……。私は電車が運転見合わせのため、自宅から出ずに待機扱いになっていて(幸い、私も家族も皆無事でしたが)結局お休みになりました。
なので、生存・無事の報告も兼ねて小説の続きを急遽更新しようと思いまして。
明日からは(勤務地とか建物は倒壊こそしていませんが、書類とかでカオスになっているようです)また忙しくなるので更新は無理だと思いますが、気長に待って頂けると嬉しいです。

                      こうやま みか 拝





        こうやま みか拝
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