腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2018年05月

気分は下剋上 学会準備編 113

「はい、承ります」
 祐樹が箸を置いて正面に向き直った。
「私は幸運だっただけかも知れないが、手術で患者さんの命を奪ったことはない。
 祐樹に助けられた一件だけが『術死』として報告すべきモノで……。あの時は本当に救われたと思ったし……祐樹の咄嗟の判断力に頼ってしまうことになったけれども」
 当時のことを思い出したのか祐樹の沈みかけの太陽のような笑みが朝日の鮮やかさで目を射る。
「ああ、有りましたよね。Aiセンター長に選ばれたのもそれが切っ掛けでしたし。
 ただ、それが何か?」
 日本の外科医の中では「人を三人殺さないと一人前の外科医ではない」というジンクスめいたモノがあるので、この数字は「金字塔」と称賛されることが多い。
「逆に祐樹は救急救命室で、最善は尽くしたものの救えなかった命がたくさんあるだろう?」
 杉田師長は「来る者拒まず」の姿勢を貫いている今時珍しい名物ナースだ。本来ならば大学病院に搬送されるような容態の患者さんではない人も彼女に鶴の一声で決まってしまう。逆に言うと医師の方がそれに振り回されるわけなのだが、学生時代に――当然医師免許は持っていないので当事者ではなかったものの――そういう患者さんをたくさん見てきた。
「それはありますね……。12階からと思しき飛び降り自殺でほぼ心肺停止の状態、バイタルサインの最後の兆候が消えてないとかが直近の例です。最前は尽くした積もりなのですが、やはり救えませんでした」
 運の悪い人間は2階から落ちても死亡するが、救急救命の現場では7階以上はほぼ絶望視されるのが現実だ。だから、12階と聞いただけで尻込みしない看護師――実際に彼女はそういう悪条件の中でも赫々とした戦果を誇る熟練のナースでもある。
「そういう現場経験が私にはない。立ち会ったことは当然有るが。
 祐樹は医師として向き合っている分、その『無力感』は私の想像を上回るだろうし、その経験を手技に活かせることが出来ると思うのだが……。
 二度とあんな思いはしたくないと」
 状況が全く異なるだけに――DOA(亡くなって病院にご到着)レベルの救急救命室に搬送と、内科を経由したりあちこちの病院からの紹介書を持って病院にいらっしゃったりする生への希望に満ちた患者さんとでは――イメージしにくいかもしれないが、それでも同じ生命には違いない。
 祐樹は深く頷いて自分の言葉を噛みしめるような感じだった。
「なるほど、そういうふうに考えれば良いのですね。
 実際、地震の時は手の施しようのないご遺体まで搬送されましたし、藤宮技官はトリアージを極めて的確かつ冷静にこなして下さいましたが、それでも救える命が一つでも多い方が良いでしょうし、救って来たのも事実ですから」
 祐樹の太陽のような眼差しが揺るぎなく輝いている。
「その延長線上に祐樹の神憑り的な手技が有ったわけで、あれには本当に驚いたが……。
 あの時、私が出ようとするのを止めてくれただろう?
 あれは術死の衝撃を私に味わわせたくない祐樹の愛情に満ちた思いやりだったと思っている。
 当然リスクも考えていたハズだろうから。大きすぎるくらいのリスクを。そういうギリギリの場所で『気まぐれな医療の神様』が降臨なさると聞いている。
 当然私もそういう場面に立ち会ったこともあるが、それは全て心臓関係の手術だった。
 だから基本は同じだと考えるのだが?」
 研修医だった祐樹を――今以上に言葉足らずで――救急救命室に助っ人として送り込んだのはそういう経験を積んでおけばよりいっそう外科医としての経験値が上がるからというのが主な理由だった。他の邪まな下心がなかったわけではなかったものの」
 祐樹の真っ直ぐな眼差しが称賛の色を帯びて一際輝きを増した。
「そうですね。そう考えることにします。
 貴方がいらして下さって本当に有り難いと心の底から思います。
 プライベートはもちろんのこと、こうして教え導いて下さる偉大な上司としても……。
 有難う御座います」
 気持ちの切り替えが早いのも優れた外科医としての資質の一つだったが、祐樹の眼差しが更に力強さを増したのは決して気のせいではないだろう。
「いや、そんな大それたことは言っていないので。
 ただ、私を含めて独り立ちした外科医としての壁に早くも直面してしまったのはある意味予想以上の速さだったからこちらも声をかけるタイミングが遅きに失してしまったようで、これからは気を付ける。
 それに私は未だ祐樹の視線に呪縛されたまま幸せなプライベートも、そして仕事もこなしているからよりいっそう気付くのが遅れてしまったことはお詫びする」
 最近は――独りで過ごす時間が多かったものの――プライベートに心が繋がっているようなある意味浮ついた気持ちがしていたので罪悪感もひとしおだった。
「いえ、思ってもいなかった人生でも記念すべきイベントが大きく二つも重なったのですから、貴方はそれで良いと思います。
 何だか異なった視点から自分の手技を見直して行こうと気付かせて下さって有難う御座います」
 深々と頭を下げられてしまって逆に面食らってしまったが。
 祐樹の執刀数からいってまだまだ後のことだろうと漠然と予想していた「ある境地」に早々と到達してしまったのは逆にそれだけ外科医としての天稟に恵まれているということでも有ったし、その降り注ぐ太陽のような眼差しに惚れ直してしまったが。
 内心の鬱屈を晴らしたせいで祐樹の輝きに満ちた眼差しとか佇まいにも揺らぎがなくなった感じだった。
「いや、そういう壁に当たるのは経験則からしてまだまだ先のことだと思っていたので、こちらこそ気付くのが遅くなって本当に申し訳ない」
 頭を下げようとしたら、祐樹の長くて男らしい指が顎に添えられた。それだけで弾む心が抑えきれない、現金なことに。
「私は少しでも早く他ならぬ貴方の傍らに立ちたいのですが……。その成果は貴方からご覧になって上回っているのですね?アメリカ時代も含めて」
 確かめるように、そして祐樹自身に言い聞かせるようにいつも以上に力のこもった声だった。
 自分の経歴は祐樹も熟知しているので、アメリカ時代にしか「執刀医」を見て来なかった――帰国してからはずっと自分が執刀医を務めていたのは祐樹も知っているし、後進の指導もして来なかったのも事実だった――のにわざわざ声に出してまで確認して来るまで追い詰められていたのかと思うと、そしてその内心の懊悩を誰にも悟らせずに明るく振る舞っていた祐樹には頭が下がる思いと同時に誇らしさがこみ上げてきた。
 ただ、この場面では絶対に絡み合った眼差しを逸らしてはならないことも理性では分かっていたので極上の微笑みを浮かべた。
 どう言葉を紡ごうかと考えながら。










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◇◇◇


明日の更新なのですが、リアル生活がハードなのでかなりの確率でお休みさせていただくことになりそうです。楽しみにして下さっている読者様には大変申し訳ありませんがご容赦とご寛恕のほど宜しくお願い致します。


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        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 112

 祐樹の人生のお手本になるような人間でないのは百も承知だったが、せめて手技だけは「お手本」になれるように配慮が必要だったのではないかと今更ながらに思った。
 日本レベルで当面は大丈夫だろうと軽く考えてしまって甘えが自分の中に確かに有ったことも確かだった。
「済まない。私がもっと懇切丁寧に教えるべきだったのだが……。ただ、祐樹の手技のタイプは私とは異なるので余り口出ししない方が良いのかと思っていた。
 卑近な例で言えば久米先生が『祐樹式』の折鶴を学び終えた直後に『柏木先生式』を教わってしまってダブル・バインドを起こしてしまったように。
 祐樹にしか出来ない卓越した手技の確立には、却って私の存在がアダになるのでは……と思ってしまっていた」
 悄然と肩を落として呟いた。こんなにも近くに居るのに、何だか祐樹の存在が輝きを放ってはいるものの触れることが事実上不可能な太陽のように感じられて。
「その件は以前お伺いしましたので、私自身の問題だと頭では分かっています。ただ現在の私から見た貴方の存在は遥かに遠くて手が届かない儚い蜃気楼のように思えてしまって……。贅沢過ぎますよね、こういう悩みは。それは自覚しているので大丈夫なのですが、研修医時代に貴方の手技を拝見した時よりもさらに切実なものとしてのしかかってくるような感じですが、何とかします。他ならぬ貴方と同じステージに立つための試練ですから」
 祐樹が気を取り直したような感じで身じろぎをした。
 長い脚を持て余すような感じでソファの斜めに座り直すと、広い肩とかバランスの良い身体が更に強調されるようで、何気ない仕草の一つ一つに魅入られたようになってしまう。
「すみません、弱音を漏らしてしまって……。ただ貴方の偉大さがよりいっそう分かってしまったものですから、つい。充分『盗んだ』積もりだったのですが、実際に行ってみると貴方の手技という理想と私の現実のギャップとの余りの落差を嫌でも思い知らされまして、やはり貴方は――個人的な関係では私に勿体ないほどの理想の恋人ですが――仕事でも遥か高みにいらっしゃる方なのだな……と
 それはそうと……」 
 負けん気の強さを取り戻した祐樹が気を取り直したように唇を動かした。
 ただ、祐樹の指導医になれそうな外科医を頭の中から必死に探し出していたが。
「いや、私もアメリカ時代は必死だった。恩師が手術中にまさかの再起不能な怪我をして、しかもその時の私は向こうでの医師免許すら持っていなかったし。
 自分なりに暗闇の中で暗中模索状態が続いて……。多分今の祐樹は同じような感じなのではないだろうか……。
 それはそうと?」
 医学がドイツを中心として回っていたのは過去のことで今ではアメリカがホットスポットだ。自分のように同業者と消極的にしか関わらない世界レベルの医師も多いがフレンドリーなお国柄ということも有って、才能を見込んだ医師に対しては割と気軽に教えてくれる人も多い。祐樹の稀有な天稟を――ダイアの原石で喩えるとようやく煌めきが見えて来た程度でまだまだ宝石店で指輪として高価に売れるというほどではない――的確かつ効果的に指導してくれそうな人を頭の中で浮かべて早めにコンタクトを取ってみようかと思った。
「そうですね。貴方よりは私の方が恵まれていますよね……。たった一人しかも、よその国で研鑽を積まれたわけですから。
 その血のにじむような努力の過程を経て今の貴方がいらっしゃるわけですから……」
 祐樹の眼差しが賞賛のような輝きを浮かべて自分の方へと注がれる。
 実際は、祐樹と――当時はそう思い込んでいた――綺麗な男の人との楽しげな会話とか親密な感じから逃げ出したかっただけなのだが。そのために打ち込めるモノは手技の向上しかなかったというだけで結果までは意識していなかったのが実情だった。ただそれを言ってしまえば、また祐樹に要らない負担をかけそうなので力付けるように微笑むだけにしておいた。
 今の自分は祐樹の傍で生きていられる、それだけで充分だったのだが、祐樹は祐樹でどうしても譲れないモノが有るのだろう。そういう人間だからこそ惹かれたので――そこまでは一目惚れをした時に分かっていなかったものの――むしろ好ましいし、それでこそ祐樹だと思った。そう想うだけで今までとは異なった意味で瑞々しい幸福感が胸の中を弾ませたが。
「久米先生がダブル・バインドに陥っていたとは気付きませんでした。誰が指導しても大丈夫だと思っていましたし、事実才能は有りますよね?
 貴方が手術スタッフに――今は人手不足なので誰だって出来る足持ちなどは妥協に妥協を重ねた医師を指名して下さって即戦力は私に回して頂いていることも承知していますが――指名するのは真に実力の有る人間のみでしたから。
 午後の手術」
 祐樹がすらりと伸びた腕を伸ばして腕時計――ちなみにベルリンの国際公開手術の際の「お土産」の積もりで買ったモノだ。実際は休暇をもぎ取ってドイツまで駆けつけてくれたのでお土産にはならなかったが――を見ている。昼休みの時間があとどれくらい残っているかを確かめているのだろうが、一つ一つの動作が絵のように決まっていたし、程よい筋肉の付いた男らしい手首が絶妙なバランスで視線が惹き付けられる。
「第一助手……最後の最後まで考えた結果、執刀医を務めた祐樹の負担が大きいだろうし、担当患者さんも居るので柏木先生に振ってしまった。
 私だって祐樹が手術室に居てくれる方が良かったのだが、それはワガママだろうと自分を戒めて」
 まだ休憩時間は半分ほど残っていることは正確に時を刻む体内時計も告げていたし、何より安堵めいたため息を零している祐樹の生気に溢れた精悍な笑みを見れば明らかだ。
「そうなのですね。仰られなくとも分かっていた積もりですが他でもない貴方自身のその唇から聞くと安心します。
 隙間時間を見計らってモニター室に行って拝見しても良いですよね?まだまだ貴方から学ぶことはたくさん有りそうです。
 頭では分かっていた積もりのことが実践出来ていないという状態を自覚してしまった今の私は以前ならば気付かなかった視点で学ぶことが出来そうです」
 祐樹が気を取り直したように微笑みを浮かべて誇らしそうな目で自分を照らしてくれる。
「それは大歓迎だ。祐樹が見守ってくれているのかと思うとよりいっそう指が軽やかに動くので」
 祐樹の朝の光のような視線に――たとえそれが自分には見えない位置であっても――見守られていると思うとそれだけで嬉しくなってしまう。
 生涯に亘る恋人という座を得ることが出来たことも勿論だが、こうしてお互いがよりいっそうの高みに上るという共通の目標が持てる相手で本当に良かったと思ってしまう。そういう意味でも自分の人生に煌めきを与えてくれた唯一無二の最高の恋人なので。
「ただ一つ私にアドバイス出来るとしたら……」
 慎重に言葉を選びながら唇を動かした。











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        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 111

 幼稚だと我ながら思ったが、二人の関係性において今までは常に享受する側に回ってしまっているのも事実で、今愛の言葉や行動を惜しむ必要はないしむしろ今までが臆病ゆえの消極さだった。
 ただ、陽光のようにふんだんに与えられた極上の愛の言葉は祐樹ほどには紡げなかった――今後の重要な改善点ではあるが――それまでの期間限定の行動で示そうと。
 本当は祐樹レベルの同じ愛の言葉を紡ぐことが一番良いのだが、そこまでのスキルアップは難しいので、徐々に向上して行こうと心に決めた。今の落ち着いた関係なら拙すぎる愛の言葉も、将来的には二人で笑い合える春の陽だまりのような想い出に変わる確信が有った。 
 出張の時の――祐樹と恋人同士に成れてから――といっても海外出張に行ったのは一度だけだったがお土産とかの口実がなければなかなか祐樹に贈り物をするという機会がなくて、しかも祐樹はあまり自分がお金を祐樹のために使うことを望んでいないようだったのでいつも貰いっぱなしになってしまっていた。時にはお互いが品物を買って贈りあうということはしたが。
 ただ、国際学会デビューのために心積もりをしていた服――流石に地震直後の神様からのプレゼントのような休暇の時に買ったメガネはともかく――はパーティの時にも使い回しが出来るという基本的な思い付きだった。
 祐樹のように――それがより惹かれていく要因の一つではあったが全てではない――斬新とか画期的な発想ではないことくらいは自覚していたものの、思いつく限りを全て「特別な日」に実現させることが細やかかつ最大の生きる喜びになってしまっている。
 祐樹には未だ告げていないサイン会とかテレビ出演といった「お披露目」の機会も目白押しという、大変嬉しい状況だったし。
 黒いスーツといえばどうしても喪服めいた印象を与えてしまいがちだろうし、自分は白が基本のスーツなのだから尚更のこと。ただ、ネクタイや小物に細心の注意を払えばそういう事態は避けられるような気もする。
「いつくらいにパーティは有るのでしょうか?病院長も元外科医なだけにせっかちでしょうし、その上招待客は病院長関係者も多いでしょう……。元々過密気味なスケジュールの人が多いと思いますので、早めに招待状は出した方が良いでしょうしね……。
 それに私達の大切な友人もお招きする、事実上の『披露宴』なのですからそちらの方も気配りしないといけませんしね……」
 祐樹の輝く双眸にも一際明るい光が溌剌と宿っている。
「そうだな……。病院長には原稿が出来たという一報を入れておくことにする。
 今後の日程は出版科との兼ね合いもあるだろうから未定だが。
 本当に『披露』したい人には分かるような演出もしないとならないなと色々考えている最中だ」
 背筋が融けてしまいそうなほどの幸福感の中でそう告げる、実際は普段と同じ姿勢のハズだったが。
 祐樹も普段以上に輝きを宿す双眸とか凛々しい眉までが春の陽だまりのような感じだった。
「そうですか……。あまりそちらにお手伝い出来なくて申し訳ありません。記念すべき二人の愛の祝祭という側面も重々承知はしているのですが……」
 祐樹が申し訳なさそうに言葉を紡いだ。
「いや、執刀医としてそれなりのキャリアを積んで来た私の方がまだ余裕は有るので。
 これがアメリカに渡って恩師が手技中に怪我をしてしまって、まさかの私にそのお鉢が回って来た時にはそれだけでいっぱいいっぱいだった時期だとこうは行かなかっただろう。だから祐樹の気持ちとか緊張も分かる積もりだ。
 私も出来る限りフォローに回りたいところなのだが、あいにくこちらも私を心の底から待ち望んでいる患者さんが居るので思うに任せない……。その点は許して欲しい」
 祐樹の天稟は一番良く知っているし、あの地震の時の神憑り手技の実績もこの目で見ていたが、バイバス術――には限らないが――上達するには場数をこなすのが一番の上達の早道だ。
 出来るなら付きりで教えたい――「夏」の事件で自分の手技が出来るか危惧した黒木准教授がお目付け役として手術室に入ってくれて彼が駄目だと判断したら祐樹が交代するように言い渡す役割を引き受けてくれたように――ただそれは物理的にも無理なのが心苦しい。
「いえ、それは全く気にしていません。
 病院の、いや日本の心臓外科医としても『至宝』とまで呼ばれ続けている貴方――しかも現役の心臓外科医です――その貴重な時間を奪う気は更々ないですし、それにアメリカ時代はたったお一人で手技を磨いて来られたでしょう?
 条件は私よりも悪い中でも貴方は凛とした感じで手技にだけ没頭していたストイックさは尊敬とか畏敬の念を感じます。
 外科医としても尊敬の対象です。ベルリンでの国際公開手術の後のパーティの挨拶で貴方が仰った言葉――当時は有給休暇をもぎ取ってドイツまで行った私に対する単なる社交辞令というか……私には壮大な夢物語としか受け取れませんでした、正直なところ。
 しかし貴方の性格では『思ってもいないことを広言する』ことは不可能でしょう。
 あの檀上に二人で立つ日を夢見て頑張ります。国際公開手術では指導医も同じステージに立てると医師しかログイン不可能なサイトに書いて有りましたし過去の画像では恩師が成功者に花束を贈呈しているのを見たので。同じステージに立つことは出来ますよね。
 事実上の『披露宴』よりも華々しい場所で世界的な名声を誇る、そして公人として上司として心の底から尊敬している外科医からの称賛の言葉の方が今の私には嬉しいので。
 もちろん、生涯を共にしようと誓った恋人同士では有りますしそれは揺るがないのです。
 その上こんなに瑞々しく咲き誇った大輪の花のような貴方の笑みを拝見出来ることは単純に嬉しいです。
 しかし、世界レベルをごく当たり前のように披露されているのは頭の中に焼き付いていますけれども、自分ではまだまだだと思ってしまう点が多くて。貴方の手技は――良い意味で、です――盗もうと全部拝見してきました。
 ただ、やはり貴方ほど卓越過ぎる鮮やかな手技とまでは行かないことは何よりも私自身が自覚しています。お手本のレベルが高いのも重々承知しているのですが己の至らない点ばかりが思い知らされる感じで歯がゆさを感じることも多いので。
 執刀医として数をこなすとこれまで見えてこなかった境地がアリアリと分かるものですね」
 祐樹の手技は気になって全て観ていた――自分と同様にモニタールームでは録画の許可も出していたので――自分が果たすべき手術をこなしつつもやはり公私共々気になってしまっているのは当然だろう。
 ただ、国内というレベルに限定すれば五本の指に入りそうな勢いでは有るし、祐樹を買っている日本の心臓外科学会の重鎮でもある明石教授も「弟子」の目覚ましい進歩を褒めてくれるレベルだったので安心していたのだが、祐樹は「それよりももっと上」を目指してくれている。
 目先のことに浮かれている自分よりももっと先、というか高みを目指そうとしているからこその祐樹の内心での焦りを察することが出来なかった――しかもすれ違い生活を余儀なくされているのでよりいっそう――自分の不明を恥じてしまう。











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        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 110

「清水先生がそんなに頑張っているとは……。某所がとても気になりましたが」
 応接テーブルに向かい合って秘書に用意させた昼食を摂っていると、不意に祐樹が聞いてきた。
「ああ、その件か……。実は呉先生に聞いたのだが、不定愁訴外来の昼休みを利用して頑張っているようだな。一度私が手ほどきしたのだが、外科志望ではなかったので当然折鶴を折ったことはないと言っていた。だから、基本の段階に居る自分を知って特訓の必要性を感じたのでは?」
 祐樹が不意を衝かれたような感じで身じろぎした。
「かなり良いセンスを持っている清水先生ですから、貴方の指導も相俟って良い効果をもたらすでしょうね。外科各科の研修医がどれほど練習しているかのみをチェックしていた私は、近くに居たとんだ強敵に気付かずにいましたよ。そう言えば救急救命室でも『凪の時間』には一人で処置室に残ったことも度々でした、あの時には何とも思わなかった自分の至らなさを恥じ入るばかりです」
 勝気そうな――実際良い意味での負けず嫌いだ――眉をキリリと上げて自嘲めいた笑いを漏らす祐樹に微笑みを返した。
「いや、普段でも充分多忙なのに、原稿とか学会の準備とかで色々と作業が増えて更に大変だろう?あれはいわゆるお遊びの一環なのだからそんなに気にしなくとも良いと思うが……」
 気休めの慰めを思いついたままに言ってみた。ただ祐樹がその程度のことで納得するとは到底思っていなかったが。
「そう仰いますが、病院長まで巻き込んだからには半ば『公的』なイベントになります。予定調和の脳外科の勝利は仕方ないのですが、ほどほどのところまでは久米先生に頑張って貰わないと……。他ならぬ貴方が教えたとはいえ、圧倒的に清水先生に勝ってしまわれたのでは、各科の先生達が『あの研修医は誰だ』と絶対にウワサになります。その時に精神科所属だと分かれば負けず嫌いが多い外科医集団なだけに――まあ私もその中の一人ですが――確実にムッとされます。
 まあ、対抗策は考え付いたのですが」
 祐樹の眼差しが不敵な輝きを浮かべて思わず見入ってしまった。
「具体的には?」
 キャベツの千切りを口に運んでいた祐樹の唇が笑いを刻む。
「今は内緒です。貴方だって何だか私に秘密になさっていることがあるのではと最近思っていました。
 まあ、私絡みのことのようですし、二人の親密な私的な関係――といっても愛の行為は御無沙汰、ま、それは今申し上げることではないですね――誤解を招くような言動も取ってない自信は有るのでそんなに心配はしていないのですが」
 祐樹の言葉を聞いて口に入っていたご飯に噎せそうになってしまって――ただ、祐樹も思わず本音が漏れてしまっただけのような感じだったが――ただまだまだ祐樹の目を誤魔化すことは出来ない幸せの中にいることを実感した。
「そういう心配をしていた過去の自分とは訣別したのでその点は大丈夫なのだが……。
 祐樹に喜んで貰いたいためにサプライズは用意している、と……今の時点で言えるのはここまでだな」
 幸せ色に弾む心のままに唇が笑みを刻んでいる。今までは愛の言葉は将来に蒼い憂いを帯びて思い出してしまうことを恐れてあまり言えなかったが、これからは心置きなく語れるのだと思うとそれだけで薔薇色の幸福感に震える心が瑞々しく弾けるような感覚を覚える。
 眼差しを交わしながら食べる職員食堂の――といっても一応は教授用に特別に準備されているが――何の変哲もないランチメニューが最高の美味に思えてくる。
「原稿は貴方がチェックされた後に直ぐに出版科に回すのですか?
 高木氏にも報告なさるのでしょう……パーティの件も有りますし、今朝がた伺った300万部突破という件も皆を巻き込んだだけのことはありますね。最初は私も防衛大学の出張に付いて行くためだけの目的だったのが、まさかの急展開に驚いています。ここまで大袈裟な話になるとは……」
 自分も全く同感だったので、笑みを浮かべながら深く頷いてしまっている。
「もっと大袈裟な話になるかも知れない、な。今言えるのはそこまでだが……。
 ああ、パーティに祐樹のお母様を招く件だが、長岡先生が責任を持って衣装は選んでくれるそうだ。『私で良いのですか』と散々聞かれてしまったが……」
 祐樹が笑みを室内で弾けさせた。つられて自分も笑ってしまったが。
 長岡先生は祐樹との真の関係を知る病院関係者の中でも一番の古株だったし、それ以上に――個人的な接触では――困った「妹のような存在」だったので是非とも巻き込みたかった。
 それに呉先生から預かったスミレの花に似た指輪――大急ぎで修理に出した――を借りる時にも同じことを言われたのを思い出して幸せ色がより一層の鮮やかさで胸を満たしていく。
「彼女にしか無理ですよ……。場数を踏んでいるのは知る限りにおいて長岡先生だけですよね」
 祐樹が長い指でお箸を器用に操りながら満足そうに笑みを輝かせた。決してお母様べったりという感じではなくて、普段は自分を中に入れようと心を配ってくれているのも知っていたが、やはり肉親だけに愛情を持っているのが微笑ましい。
 そして太陽を彷彿とさせる祐樹の存在を独り占めしていることへの甘い満足感で胸の中が幸せ色で満たされていく。
 ただ、その中でも今着ているキッパリとした紺色のスーツよりも夜の漆黒に似た黒色のスーツを心の中で着せてみて、意外に良く似合うことを再確認した。ネクタイの色とかシャツの色をよくよく吟味する必要は有ったが。
 そういう「裏方の幸せ」めいたものも体感して――アメリカ時代はともかく――他の誰でもなくて祐樹のためにそういう作業が出来る機会を与えてくれた全てのモノに感謝したい気分になる。
 その時不意に閃いた天啓のような考えに我ながら驚いた。










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        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 109

 あの地震の時の神憑り的な圧倒的な眩さではなかったものの――世界的レベルの外科医ですら一生に一度巡り合えれば良い方だと言われている奇跡のような時間なだけにある意味当然なのだが――手術着からは充分眩い太陽の光りが後光のように輝いて、それを浴びて甘く胸を戦慄かせてしまっていたが。
「私の優先順位は絶対に譲れません。
 久米先生の件は事態を甘く見ていた私の責任でもありますので、最終手段を今考え付いたところです。執務室にUSBメモリを持って伺いますよ、もちろん」
 祐樹の凛とした眼差しに貫かれて、身体中、いや魂までもが祐樹の存在に震えてしまう。
「了解。では後で……」
 人の気配はほぼないとはいえ、二人きりの密室の方が未だマシのような気がして身体を翻した。
 背中に祐樹の暖かな視線を感じて薔薇色の幸せ色に染まっていく頬を自覚しながら教授控室へと入った。
 脳外科用の手術室は祐樹が使っている――そうでなくとも白河教授はひたすら「自責・自戒」の念を表現しようとしていると内田教授からも聞いているので、教授用の控室を使うことはなかった――その上悪性新生物科の執刀医は桜木先生なので使用不可能なので一人きりになれることも予め分かっていた。
 今日は患者さんからの差し入れの報告は来ていない――手技中に執務室に届くことも珍しくはないが――ので、こんな時でも体内時計が正確に動いてくれているか心許なかったこととも相俟って白衣姿に戻る前に時間を確認した。
 時計とほぼ同じ時を刻んでいる体内時計とは裏腹に、胸の鼓動は束の間の邂逅に甘く弾んだ力強いリズムで脈打ってはいたが。
 祐樹に清水研修医の件を伝えていなかったのは悪かったかと思いつつ手早く支度して秘書と連絡を取った。12時のランチタイムまであと30分は残されていたので。
 祐樹も秘書が昼の休憩に行った後を見計らって入ってくるのが常だったから、昼ご飯を用意する時間は有るだろう。
 それにしても、祐樹が即座に考え付いた「最終手段」とは一体何なのだろうなと考えを巡らせてみたものの、閃きというか咄嗟の判断力では一生勝てる気がしない祐樹なだけに直ぐに諦めて、昼食の用意を伝えて電話を切った。
 「優先順位は絶対に譲れない」と直に言われた時の祐樹の真摯な瞳の輝きとか整った眉とかが頭の中で勝手に再生されると蜜のような甘い、そして昼間のアルコールよりも熱い酩酊感に襲われて幸せな笑みを浮かべてしまったが。
「田中です。お呼びにより参上致しました」
 執務室の扉がノックされて、手持無沙汰を紛らわしていた側面も有る鉗子と攝子を慌てて仕舞って26個折った鶴もついでに引出しに放り込んで「どうぞ」と返した。
「失礼致します」
 自分と同じ白衣姿の祐樹が眩い陽光に似ている眼差しを向けてきて、何だかその光の下で煌めきを放っている海の波のような感じを強く抱いてしまったが。
 白衣の裾が長い脚の運びに翻ってまるで神の羽衣のような神々しさを帯びてはためくのを惚れ惚れと眺めることしか出来ない。
「このUSBメモリはお返ししますね。お確かめになって下さい」
 白衣のポケットから蓋付きのメモリを取り出して祐樹の指が自分の方へと向けられた。
「有難う。では一応確認だけする……」
 PCに差し込んで最終更新日時だけチェックした。祐樹の激務振りを表現するかのように日付が変わって今日の深夜二時過ぎの文字が画面に映った。
 今朝未明の午前三時に帰宅してくれたので、それまでの隙間の時間に急いで作成した――あるいは久米先生が校正作業に勤しんでいたのかもしれないが――出来たてのほやほやの「二人の」共同作業の結実だと思うと何の変哲もないUSBメモリでも輝いて見える。
「貴方は午後も手術ですよね……。私は呼ばれていませんが……」
 不平らしい感じに唇を上げて笑ってはいるが、眼差しは暖かくて優しい輝きを放っている。
「執刀医の祐樹をあまり疲れさせるのもどうかと思って。
 私だって手技の出来を祐樹の目で確認して欲しいのも本音だが、それはワガママが過ぎるような気もしたので」
 割と決断は早い方――非常事態ならば祐樹には全く勝てる気はしないものの――なのに、熟慮に熟慮を重ねた上での祐樹を手術スタッフから外した判断は間違っていたのかも知れないなと思ってしまう。
「いえ……不満に思っているわけではないのです。ただ、貴方の手技の素晴らしさを執刀医になって再確認しました。
 貴方並みになるためにはまだまだ遠いと思い知ったところです。ですから原点に立ち返る意味でも助手に指名して頂きたかったのですが。
 これでも貴方に近付けるように努力はしているのですが……、なかなか難しいですね。
 焦っても仕方のないことだとも頭では分かっているのですが……」
 白衣に包まれた広い肩を優雅に竦めて自嘲めいた苦笑を唇に浮かべている。
 その唇の暖かさを不意に自分の唇で感じたくなって、椅子から立ち上がって肩に縋って唇を重ねた。
 昼間の執務室で交わす接吻に束の間酔いしれた。
「積極的な貴方もとても素敵ですよ。
 それにその瑞々しい大輪の花のような極上の笑みを浮かべた怜悧かつ端整な表情も。
 明日の『二人だけの勝負』の勝った人は何でも言うことを聞くのでしたよね。
 その勝負が楽しみです」
 意味深に祐樹の大きな手が身体のラインを辿った。甘く激しい情動が胸の鼓動を乱していくものの、祐樹の思い通りにはならないだろうな……と内心で落胆に似た思いがかすめた。
 祐樹が自分のように特訓していないのは――まあ、自由になる時間が少ないという事情もあるだろうが――動揺した感じで足早に立ち去った久米先生の態度でも明らかだった。
「そちらの方は負ける気がしないので。
 それはともかく、手技は経験がモノを言うので、たくさん執刀することだろうな。もちろん術式とかアドバイス出来ることがあれば今後もアテにしてくれて貰う方が嬉しいが」
 祐樹の腕の中で極上の笑みを浮かべて、笑みを深くして見上げると祐樹の瞳がよりいっそう深く甘く輝いて自分を包み込んでくれる。
「そういう瑞々しい煌めきを放つ笑顔は私の前でだけ浮かべて下さいね。
 そうでなくても……」
 普段は饒舌な祐樹が珍しく言い淀んでいる。
「大丈夫だ。他の人には無理して笑っている側面も有るので……」
 漆黒に輝く双眸に魅入られたようにもう一度唇を押し当てた。祐樹の指が付け根まで絡まり合って言葉にならない想いの丈を伝えてくれるような気がした。その目くるめく刹那の時間を束の間楽しんでいる自分はきっと最高の笑顔を浮かべているに違いないと思いつつ。











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