通りすがりの女子高生の言葉など普段の最愛の人なら気にも留めないだろうが、今だけはマズい。何かアイツに関わってからというもの、全てが悪い方向へと向かっていくような気がして、真剣にお祓いでもして貰おうかという気になった。
恐る恐る視線を最愛の人に向けると案の定、氷の彫刻よりも冷たい冷気に包まれたような感じと震える指が蒼く染まっていた。
ただ、相手が見知らぬ人間だし悪気がないのも分かっているのでフォローのしようがなかった。頭の中で思考が目まぐるしく回転するものの、これと言った打開策は見つからないのがもどかし過ぎて自己嫌悪に苛まれてしまう。
「プリンのお姉ちゃん!ちゃうもん、ホンマに居るんやで?ああいうお医者さん!京都の大学病院にも有名なせんせが居るってお祖母ちゃんが言ってた!!
そのせんせならみんなが安心して手術を受けるって!!『心臓の血管が詰まってもそのせんせが居るから安心や!!有り難いことや』とか言ってた!!『神の手』はホンマに居るんやで」
キョウ君が半分は泣きそうでもう半分は意地になった感じで女子高生達に向かって突進しながら叫んでいる。
プリンとは多分金髪部分に染めた後に日数が経過して黒い髪の毛が出て来てしまっている状態を指すのだろうが。
咄嗟にキョウ君と気色ばむ女子高生達達の間に身体を滑り込ませてキョウ君の頭部に手を添えて頭を下げさせる。
「ウチの子が大変失礼なことを申し上げてしまいまして誠に申し訳ありません。
しかし、お嬢様方の棲息区域とは全く異なる次元でそういう者も確かに居ります。フィクションの世界だけではなく本当に。
日々を怠惰に過ごしていらっしゃる方々にはお分かりではないでしょうし、ご理解頂こうとも愚考しておりませんが、生活の範疇が異なるだけのことですのでその点をご理解戴けると誠に幸甚です。
たゆまぬ自己研鑽や不断の努力を重ねた結果の賜物である『神の手』が実在することを、そしてその恩恵を受けた人間が多数存在することもご存知でいらっしゃらないのは仕方のないことですが、この『子』の夢を『壊す』ような言動は控えて戴きたいものです」
プリン頭と茶髪は「何?日本語なん、これ?」などと言いながらも祐樹の権幕に驚いたような感じで立ちすくんでいる。
わざと難しい言葉を選んで使ったのは、どうせ彼女達には理解出来ないだろうし、祐樹が唯一守りたい人に聞いて欲しかっただけだったので。
「ワケ分かんねぇ。ま、ウチ達には関係ないし、良っかぁ」
茶髪の女子高生がプリン娘の方を見て取りなすような感じだった。
「プリンだって!!!ウザっ!!
キショいから家に帰って髪染めるしっ!!」
下着が見えてしまうのではないかと――祐樹には何の関心のないシロモノではあったが――危惧してしまう短いスカートとか全体の雰囲気が祐樹や最愛の人が属している世界とは異なることも分かったし、呉先生が「関わるな」と言った意味も充分承知の上だが言わずにはいられなかった。
「その点は大変申し訳ありませんでした。子供らしい無邪気な表現をついつい使ってしまったようですね。
心よりお詫び申し上げます」
心にもないことを言うのは森技官ほどではないにしろ得意だったので全く良心は痛まない。むしろ、金髪に染めるのなら――祐樹の職場関係には居ないが「グレイス」などでは髪型にも髪の色にも凝ることの出来る自由業の人間は完全な金髪も見かけたことも話したこともある。黒い部分が出て来たら即座に自分で染めるか行きつけの美容院に飛び込むのが彼らなりの美意識らしかった――完全に染める程度はして欲しかった。まあどうでも良いことだが。
それに最愛の人や祐樹の世界では結婚の平均年齢も上がる傾向に有るが、二極分化が進んでいるという記事によると、この娘たちが属している世界では祐樹の年齢でキョウ君程度の年の息子が居てもおかしくないだろう。顔は――似ていないこともない――程度だが、負けん気の強さが表面に出ているところは似ているような気もするので。
「さ、キョウ……お兄さんせんせのところに戻ろう。良くあのプリン頭に言ってくれて本当に有難う。偉いな!!お兄さんせんせもきっと喜んでくれると思う」
下品な舌打ちの音と共に底辺高校――多分この辺りでは悪い意味で有名なのだろう――女子高生達はが立ち去ったのを確かめてキョウ君の頭を撫でた。
子供らしい体温の高さがいっそのこと清々しく感じられる。
「ホンマ?だってお祖母ちゃんチに行った時、皆がそんな話をしてて、近くにその病院があるからホントに良かったとかそんな話ばっかりで……」
場の雰囲気が変なことに子供なりに気付いたのだろう、言い訳するように必死に言い募る様子が健気で、子供にはほぼ関心がない祐樹の心も解してくれる。
「そういう話は、お兄さんせんせに直接して上げてください。私からもお願いします」
若干マシになったとは言うものの、氷の彫刻の冷たさを漂わせている最愛の人は斎藤病院長が電話を掛けて寄越し上がった時と同じように手の震えが戻ってしまっている。
出来ればあの女子高生達の住所と名前を聞き出して親類縁者一同まで調べ上げて香川外科には出入り禁止にしたいほど腹が立った。あの女子高生は心臓も丈夫そうで――不摂生をしなければ、という前提は付くが――140歳程度まで軽く生きそうなほどだった。まあ、カラオケ屋の店員をしているとかいう「カレシ」とでも最愛の人と祐樹の視界に入らない所で慎ましやかに生きてくれればそれでいい。職業に貴賤はないことも知っているしどんな職業でもそれはその人の自由だが、公私混同をしている点で――しかも店の売り上げを故意に減らすような大失策だ――許しがたい。それよりももっと腹立たしいのはあの傍若無人なお喋りだったが、それを緩和してくれるのは意外なことにキョウ君の繋いだ手の温もりだった。
「お兄ちゃんせんせ、大丈夫?気分が悪いん?
あのな……近くの大学病院に偉いせんせが居て、町の誇りだとかお祖母ちゃんの友達とかが言ってたんやで。
本当に『神の手』のせんせが居るからこの町はもっと住みやすいとか言ってた!!」
他の子供も心配そうに最愛の人の凍り付いた表情を見つめている。キョウ君も必死になって言い募ってくれていて、少しは救いになっただろうが。キョウ君は目の前の人が「神の手」の持ち主だとは全く気付いていなさそうだが、子供にそこまで要求するのは酷だろう。
「何とか……。ただ、少し……」
掛け算の式を大きく書いていた鉛筆書きの端正な感じの流麗な字があの忌々しい女子高生達のある意味爆弾発言時からだろうが――彼女達に悪気のないことは理性では分かっていたものの――大きく乱れているのも気になった。
呉先生に懸念と危惧の視線を送った。
「お兄さん先生は少しお休みしないといけないんだ。だからサッカーは明日にでも回してくれれば嬉しいんだけど……」
キョウ君がサッカーをしたがっているのは知っていたが、子供心にも最愛の人の変調は分かったらしく残念そうに頷いてくれる。
「明日でなくても良えで!またこの公園に来た時にサッカーしてや!
そんで、算数のドリルまた教えてんか?指切りげんまんっ!!」
キョウ君の幼い指と最愛の人の震える小指が「再会の約束」に絡み合った。
最愛の人に関しては嫉妬深いと内心で自負はしていたが、キョウ君の屈託のなさとか無邪気さに救われた今は感謝の気持ちしかない。
「少し休みましょう。寺子屋は一時的に閉めて。
ったく、あのド底辺高校のヤツはロクなことをしないのでこの辺りでは有名なのです」
休むと言ってもどこに行くのだろうか?まあこの古くからの住宅街には呉先生の薔薇屋敷も有るのでそちらにでも移動するのだろうか。
恐る恐る視線を最愛の人に向けると案の定、氷の彫刻よりも冷たい冷気に包まれたような感じと震える指が蒼く染まっていた。
ただ、相手が見知らぬ人間だし悪気がないのも分かっているのでフォローのしようがなかった。頭の中で思考が目まぐるしく回転するものの、これと言った打開策は見つからないのがもどかし過ぎて自己嫌悪に苛まれてしまう。
「プリンのお姉ちゃん!ちゃうもん、ホンマに居るんやで?ああいうお医者さん!京都の大学病院にも有名なせんせが居るってお祖母ちゃんが言ってた!!
そのせんせならみんなが安心して手術を受けるって!!『心臓の血管が詰まってもそのせんせが居るから安心や!!有り難いことや』とか言ってた!!『神の手』はホンマに居るんやで」
キョウ君が半分は泣きそうでもう半分は意地になった感じで女子高生達に向かって突進しながら叫んでいる。
プリンとは多分金髪部分に染めた後に日数が経過して黒い髪の毛が出て来てしまっている状態を指すのだろうが。
咄嗟にキョウ君と気色ばむ女子高生達達の間に身体を滑り込ませてキョウ君の頭部に手を添えて頭を下げさせる。
「ウチの子が大変失礼なことを申し上げてしまいまして誠に申し訳ありません。
しかし、お嬢様方の棲息区域とは全く異なる次元でそういう者も確かに居ります。フィクションの世界だけではなく本当に。
日々を怠惰に過ごしていらっしゃる方々にはお分かりではないでしょうし、ご理解頂こうとも愚考しておりませんが、生活の範疇が異なるだけのことですのでその点をご理解戴けると誠に幸甚です。
たゆまぬ自己研鑽や不断の努力を重ねた結果の賜物である『神の手』が実在することを、そしてその恩恵を受けた人間が多数存在することもご存知でいらっしゃらないのは仕方のないことですが、この『子』の夢を『壊す』ような言動は控えて戴きたいものです」
プリン頭と茶髪は「何?日本語なん、これ?」などと言いながらも祐樹の権幕に驚いたような感じで立ちすくんでいる。
わざと難しい言葉を選んで使ったのは、どうせ彼女達には理解出来ないだろうし、祐樹が唯一守りたい人に聞いて欲しかっただけだったので。
「ワケ分かんねぇ。ま、ウチ達には関係ないし、良っかぁ」
茶髪の女子高生がプリン娘の方を見て取りなすような感じだった。
「プリンだって!!!ウザっ!!
キショいから家に帰って髪染めるしっ!!」
下着が見えてしまうのではないかと――祐樹には何の関心のないシロモノではあったが――危惧してしまう短いスカートとか全体の雰囲気が祐樹や最愛の人が属している世界とは異なることも分かったし、呉先生が「関わるな」と言った意味も充分承知の上だが言わずにはいられなかった。
「その点は大変申し訳ありませんでした。子供らしい無邪気な表現をついつい使ってしまったようですね。
心よりお詫び申し上げます」
心にもないことを言うのは森技官ほどではないにしろ得意だったので全く良心は痛まない。むしろ、金髪に染めるのなら――祐樹の職場関係には居ないが「グレイス」などでは髪型にも髪の色にも凝ることの出来る自由業の人間は完全な金髪も見かけたことも話したこともある。黒い部分が出て来たら即座に自分で染めるか行きつけの美容院に飛び込むのが彼らなりの美意識らしかった――完全に染める程度はして欲しかった。まあどうでも良いことだが。
それに最愛の人や祐樹の世界では結婚の平均年齢も上がる傾向に有るが、二極分化が進んでいるという記事によると、この娘たちが属している世界では祐樹の年齢でキョウ君程度の年の息子が居てもおかしくないだろう。顔は――似ていないこともない――程度だが、負けん気の強さが表面に出ているところは似ているような気もするので。
「さ、キョウ……お兄さんせんせのところに戻ろう。良くあのプリン頭に言ってくれて本当に有難う。偉いな!!お兄さんせんせもきっと喜んでくれると思う」
下品な舌打ちの音と共に底辺高校――多分この辺りでは悪い意味で有名なのだろう――女子高生達はが立ち去ったのを確かめてキョウ君の頭を撫でた。
子供らしい体温の高さがいっそのこと清々しく感じられる。
「ホンマ?だってお祖母ちゃんチに行った時、皆がそんな話をしてて、近くにその病院があるからホントに良かったとかそんな話ばっかりで……」
場の雰囲気が変なことに子供なりに気付いたのだろう、言い訳するように必死に言い募る様子が健気で、子供にはほぼ関心がない祐樹の心も解してくれる。
「そういう話は、お兄さんせんせに直接して上げてください。私からもお願いします」
若干マシになったとは言うものの、氷の彫刻の冷たさを漂わせている最愛の人は斎藤病院長が電話を掛けて寄越し上がった時と同じように手の震えが戻ってしまっている。
出来ればあの女子高生達の住所と名前を聞き出して親類縁者一同まで調べ上げて香川外科には出入り禁止にしたいほど腹が立った。あの女子高生は心臓も丈夫そうで――不摂生をしなければ、という前提は付くが――140歳程度まで軽く生きそうなほどだった。まあ、カラオケ屋の店員をしているとかいう「カレシ」とでも最愛の人と祐樹の視界に入らない所で慎ましやかに生きてくれればそれでいい。職業に貴賤はないことも知っているしどんな職業でもそれはその人の自由だが、公私混同をしている点で――しかも店の売り上げを故意に減らすような大失策だ――許しがたい。それよりももっと腹立たしいのはあの傍若無人なお喋りだったが、それを緩和してくれるのは意外なことにキョウ君の繋いだ手の温もりだった。
「お兄ちゃんせんせ、大丈夫?気分が悪いん?
あのな……近くの大学病院に偉いせんせが居て、町の誇りだとかお祖母ちゃんの友達とかが言ってたんやで。
本当に『神の手』のせんせが居るからこの町はもっと住みやすいとか言ってた!!」
他の子供も心配そうに最愛の人の凍り付いた表情を見つめている。キョウ君も必死になって言い募ってくれていて、少しは救いになっただろうが。キョウ君は目の前の人が「神の手」の持ち主だとは全く気付いていなさそうだが、子供にそこまで要求するのは酷だろう。
「何とか……。ただ、少し……」
掛け算の式を大きく書いていた鉛筆書きの端正な感じの流麗な字があの忌々しい女子高生達のある意味爆弾発言時からだろうが――彼女達に悪気のないことは理性では分かっていたものの――大きく乱れているのも気になった。
呉先生に懸念と危惧の視線を送った。
「お兄さん先生は少しお休みしないといけないんだ。だからサッカーは明日にでも回してくれれば嬉しいんだけど……」
キョウ君がサッカーをしたがっているのは知っていたが、子供心にも最愛の人の変調は分かったらしく残念そうに頷いてくれる。
「明日でなくても良えで!またこの公園に来た時にサッカーしてや!
そんで、算数のドリルまた教えてんか?指切りげんまんっ!!」
キョウ君の幼い指と最愛の人の震える小指が「再会の約束」に絡み合った。
最愛の人に関しては嫉妬深いと内心で自負はしていたが、キョウ君の屈託のなさとか無邪気さに救われた今は感謝の気持ちしかない。
「少し休みましょう。寺子屋は一時的に閉めて。
ったく、あのド底辺高校のヤツはロクなことをしないのでこの辺りでは有名なのです」
休むと言ってもどこに行くのだろうか?まあこの古くからの住宅街には呉先生の薔薇屋敷も有るのでそちらにでも移動するのだろうか。
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少し前に読書が趣味(腐った本もそうでない本も含めて)とか書きましたが、
小説書くのも趣味ですけれど、他人様が書いたモノの方が新鮮味も有って面白いのです。
コメやブログ記事、そしてランキングクリックがなければ多分そちらの誘惑に負けてしまいそうです~!!こちらに引き止めて下さって有難う御座います。
小説書くのも趣味ですけれど、他人様が書いたモノの方が新鮮味も有って面白いのです。
コメやブログ記事、そしてランキングクリックがなければ多分そちらの誘惑に負けてしまいそうです~!!こちらに引き止めて下さって有難う御座います。
最後まで読んで下さいまして有難う御座います。
こうやま みか拝