腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2018年01月

気分は下剋上 Vt2018  1

「あ、あのう……香川教授……」
 定時上がりの職員用通用口で控え目な――というより蚊の鳴くような――綺麗な声で名前を呼ばれて振り返った。
「ああ、岡田看護師ですか。今帰宅ですか?」
 最近は表情筋の動きも良くなったと祐樹に褒められた「仕事上」の淡い笑みを浮かべた。
 白衣姿ではなく私服なのでその程度のことは分かる。
「はい。今日は珍しく定時に上がることが出来ました。久米先生との件で柏木先生ご夫妻までお手数をお掛けいたしまして本当に有難う御座います。個人的なことなのに、そこまで親身になって頂いて本当に感謝しています。
 直接御礼を申し上げるのが遅くなって誠に申し訳ありません」
 深々と頭を下げられて――しかも相手は祐樹が付けたあだ名のアクアマリン姫という表現が主観的にも客観的にも的確過ぎるほどの可憐な美人さんなので――周りの目も気になって内心狼狽えながらも淡い笑みだけは崩さないことに何とか成功しているような自覚はあった。
「宜しければ今からご一緒にお茶でも致しませんか?何でもこの辺りに穴場が有ると聞いた覚えが」
 この場から立ち去りたい一心でそう告げたのに、岡田看護師は心の底から驚いたように清楚な感じの強い目を大きく瞠って微動だにしなかったので内心困り果てた。祐樹が居れば難なくこの場を切り抜けるだろうが、あいにく今夜は救急救命「センター」勤務だ。
「貴女の科の元研修医のことを田中先生に教えて下さったという話は聞いています。その喫茶店にでも参りませんか?御礼を兼ねて……」
 この辺りの飲食店のことは全く分からない――八百屋さんや魚屋さんなら何軒も頭の中に入っているが――ので、祐樹から聞いた彼女と話し込んだという喫茶店に案内してもらうしかない。そもそも彼女が祐樹に脳外科の頭のおかしい研修医のことを話してくれなければ、もっと被害は甚大になっていただろう。それを考えると御礼を言うのはこちらの方だった。
「はい。ではご案内致しますね」
 淡いピンクの唇が綺麗な――久米先生が彼女に夢中なのも良く分かる、あくまでも客観的に――笑みを浮かべて軽やかに歩きだしたので、心の底から安堵した。
 彼女しか道を知らないので当然なのだが、先に立って歩く久米先生絶賛のウエストラインとはこういうものか……などと医局の中で漏れ聞いた話とか祐樹がマンションで話してくれた内容を意味もなく確認しながら後ろを歩いた。
「まさか香川教授に誘って戴けるとは……申し訳ありません、却ってお気を遣わせてしまいました」
 驚いたように出迎えた喫茶店のマスターは多分自分の顔を知っているのだろう。京都の人間で地震の時――停電していなければ、だが――テレビを観ない人は稀だろうし、災害時に最も視聴されるのがNHKなので当たり前と言えば当たり前なのだが。
 向かい合ってテーブルに座ってもまだ謝り続ける彼女の気分を変えようとメニューを手渡した。
「お好きな物を頼んで下さい。あの時ウチの田中に協力して下さった御礼です。貴女の勇気のある内部告発がなければ、私の外科医生命も終わってしまうような出来事でしたから」
 今となっては笑い話に出来る自分の強さはきっと祐樹が与えてくれたものに違いない。
 メニューをいそいそとめくる華奢な指にはアクアマリンの指輪が清涼な煌めきを放っている。
「そんな……香川教授にそう仰って頂けるほどのことは致しておりませんし。それに『病院の至宝』の名前に傷を付けるようなことにならなくて何よりでした」
 アクアマリンそのもののような笑みを浮かべている目の前の彼女の控え目な態度に「同じ医療従事者としての」好感を抱いた。これなら久米先生とも上手く行くだろうなと。
 祐樹にダメ出しを何回も食らった後に――何でもメノウとかサンゴとかを考えていたらしい――やっと選んだ宝石だと聞いている。というか、祐樹がアクアマリン姫とあだ名を付けたのだからその宝石を何故選ばないのかイマイチ良く分からないものの、久米先生には久米先生なりの拘りでも有るのだろうか?
 メニューを全部見た後に「ホットコーヒー」と無難なセレクトをする女性は一般的なのかどうかもまるっきり分からないが、ホットコーヒーを二つ頼んだ。
「柏木先生ご夫妻の説得で久米先生のご両親も納得して下さって……本当に有難う御座います。柏木先生とは同級生でいらっしゃったのですよね?そこまで良くして頂いて本当に有難う御座います」
 また深々と頭を下げられたが、彼女が心の底から感謝している程度のことは分かったので自然と笑みが深くなる。
「いえ、その件も田中が考えたようなものですから。私は単に話を繋いだだけで……。それに医局員の幸せを考えるのも上司の務めの一部だと考えていますので、そんなに気になさらず。
 強いて私から申し上げるとすれば、婚約指輪を買う時には一緒に宝石店に行かれるようにお勧めするくらいです」
 岡田看護師が宝石を選ぶのなら久米先生は唯々諾々と従うような気がしたし祐樹の無駄な労力も少しは減るだろうから。
「はい。久米先生はある意味とても純朴な方でいらっしゃいますから、そうさせて頂きます」
 「純朴」というキーワードに該当するのは自分が知る限り一人しか居ない。あの涙ぐましい返信を寄越した野口陸士のことをぼんやりと考えてしまう。
 久米先生の場合はどこか――いや自分も他人のコトは言えないのは充分自覚しているが――ズレているだけだろうと内心で思ってしまう。
「田中先生にも本当に良くして頂いて本当に感謝しています。それに久米先生は兄のように慕っている様子が微笑ましいです。あの時田中先生に出会えて本当に良かったです、私個人は……」
 言い難そうに口を噤んだ彼女に「もう全て済んだことですから」と心の底から言える自分は祐樹の存在に何時も助けられているからだろう。
「もうすぐバレンタインデイですね。そういえば、先輩ナースがゴディバのお店に行って『田中先生お気に入りのチョコは販売していない』と困っていました」
 内心愕然としたのを彼女に気付かれていないだろうか?
 コーヒーを飲んでいる時ではなくて本当に良かった。彼女が何気なく漏らした言葉でコーヒーに噎せてしまうところだったので。











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少し前に読書が趣味(腐った本もそうでない本も含めて)とか書きましたが、
小説書くのも趣味ですけれど、他人様が書いたモノの方が新鮮味も有って面白いのです。
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ちなみに時系列的には「夏」→【かなりの時間経過】→「学会準備編」→「Vt2018」です。



最後まで読んで下さいまして有難う御座います。

        こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 35

 自分の行きつけのブランドには敢えて寄らず――あの神様のプレゼントのような特別休暇の時には第一候補として考えていたが、祐樹には更に似合う老舗を見つけたので――「祐樹のためだけに」買い物をしたというささやかな充足感が季節とは関係なく春風に乗っているような気持ちだった。
 職員用の出入り口から入って――多分僅かな暇を見つけてタバコ休憩に来ているのだろう――顔見知りのスタッフ達が皆怪訝そうな顔でこちらを見ている。百貨店の袋ではなくて整っていると祐樹が褒めてくれる顔よりも上を。
 髪型のせいだと思い当たってどうしようかと一瞬考えてから――顔見知りなだけで知り合いレベルが居なかったのは不幸中の幸いだった――旧館の方へと向かった。不定愁訴外来は診察日だが時間が空いていれば呉先生の部屋で、患者さんと対応中なら人の気配のないこちらの建物のトイレの水で髪を後ろに流してから新館エリア――当然自分の医局員達もたくさん存在するし、患者さんだって居るのだから「普段着」に等しい前髪を下した姿を見せるのはごく限られた人間だけで充分だった――いくら祐樹用の買い物だけをして心が弾んでいたとはいえ、ノーネクタイや髪のことまで気が回らなかったのは我ながら迂闊過ぎたと反省しながら。
 不定愁訴外来のドアの前で耳を澄ますと話し声も聞こえず、その代わりに薫り高いコーヒーの良い匂いがほのかに漂っている。患者さんの居る前で呉先生はコーヒーを飲まない――まあ、それが医療従事者としては当たり前の姿勢だろうが――ので躊躇いがちにノックした。
「どうぞ?」
 スミレ色の穏やかな声が旧館の風情のある建物に相応しく響いた。地震の時に若干の損傷はあったものの、大規模な工事をするには至らないとの専門家の見立てを受けて壊れた場所だけを直して使用中だった。だから地震前とはほとんど変わっていない。
「香川です。急にお邪魔してしまって申し訳ありません」
 ドアを開けると更に芳香が心を穏やかにする香りに匂い立った。
「いえ、ちょうど患者さんの愚痴を聞き終えて、手が空いたところですから。いや、今回のは長かったです。透析の患者さんなのですが、インフルエンザなどの感染する病気を併発している患者さんのために存在する個室を使わせないのは病院の怠慢とかなんとか……。まあその患者はもともと鬱から来る攻撃性のクレーマー患者なので、そういう患者さんの対応はある意味慣れているので大丈夫なのですが。
 病院側に問題があるとは全く思いませんので正直『そんなに嫌なら転院しろ』なのですが、そう言ってしまうとこのブランチの存在意義を失いますので、延々愚痴を聞き続けるのです」
 以前心臓内科に入院中の患者さんが自分の手術を受けたいとダダをこねていたことを思い出した。あの時は誠実に対応した積もりだったが血を見るのが嫌いでなおかつ想像力が有り過ぎる呉先生にトイレに駆け込むほど嫌な思いをさせたことを思い出して友人に向ける笑みに曖昧さが混じってしまう。
「加藤看護師はお留守ですか?地震の時に彼女のツバメのような道具出しのお陰で、ゆ……田中先生の神懸かり手技が一瞬の遅滞もなく上手く行ったのでそのお礼を申し上げないとと思っていたのですが」
 呉先生は白衣に包まれた華奢な肩を残念そうに竦めた。
「彼女はあれだけ気持ちのいい道具出しが出来て、心も体も現役時代に戻ったようだと喜んでいましたので、お気持ちだけ伝えますね。今日は患者さんの予約時間オーバーが二件有ったので、彼女は今ランチ休憩です。あれ?教授のその髪型とか紙袋……もしかして今日は有給ですか?」
 呉先生も遅い昼食と思しきサンドイッチを幸せそうに食べながら――多分よほどお腹が空いていたに違いない――スミレのような可憐な眼差しで自分の姿を見つめてくる。
「いえ、今日は珍しく午後の手術がなかったものですから少しの間だけ病院を抜け出したのです。
 ただ、平日の昼間に百貨店に居るのがバレたらサボっていると看做されるとゆ……田中先生が言ってくれたので」
 促されるままに椅子に座ると呉先生は軽快な感じで立ち上がってコーヒーを淹れてくれた。
「ああ、地震の時ので一躍全国区ですからね。その点私なんて薬剤室に籠っていたので一切顔バレはしていないのが助かりました。
 地震の時といえば……清水研修医の抜擢有難うございました。本人も精神科に限界を感じていたようで、この前挨拶に来たときは本当に晴れ晴れとした顔をしていました」
 呉先生も病院のブランチを立ち上げる力の有る――そうでないと病院長はバッサリ切るだろう、そういう人だ――精神科医だが、ブランチの数も自ずから制限されるので清水研修医は真殿教授の元で不貞腐れながら働くか実家の病院に戻るという二択しかなくなる。それを救急救命室勤務という畑違いのゴリ押しが出来たのは地震のせいだった。
「ああ、清水研修医に連絡は取れますか?彼に伝授したい技も有りますので直近に連絡を取ろうと思っていたのです」
 救急救命室に行けば清水研修医には会えるだろうが――ちなみに自分の医局員ではないので連絡先を知る権限はない――教授を教授と思わない唯一の看護師でもある杉田師長にこき使われる可能性があった。普段なら助っ人でも喜んで引き受けるが、これから祐樹の居ない夜の時間には――床に置いた紙袋の中身を含めて――することが山積みなので出来れば避けたい事態だった。
「ええ、教授にならお教えしても構わないでしょう。ちょっとお待ちください」
 スマホに登録してあるのだろうが、そのスマホをタップしながら自分の動作を見て驚いた感じで可憐な目を見開いているのが不思議だった。












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        こうやま みか拝

「気分は、下剋上」<夏>254

「キョウ君、有難う。明日で良ければサッカーをしましょうね?由美ちゃんは接続詞、いや『つなぎ言葉』分かったかな?ここからは自分でしてみて明日答え合わせをして間違った場所だけ教えますから。ヒデユキ君は7の数字の掛け算の暗記をした方が良いと思います。お家で7かける1から9までママに十回言って覚えてくるように。そうしたら全部丸になりますよ。弱点は多分そこなので……」
 蒼褪めて震える唇が無理をして言葉を紡ぎだそうとしているのが良く分かる普段よりも硬さのある口調が痛々しくて祐樹の魂も凍り付いていくようだった。
 今回の件はたまたま起こったアクシデントのようなものだが、問題の根底にはアイツの脅威を予め知っていながら未然に防げなかった祐樹の落ち度があることは自明だったので。
「うん!分かった。お兄ちゃんせんせっ!有難う!また勉強教えてや!ついでにサッカーも」
 キョウ君が心配そうな感じで力付けるように元気いっぱいの声を出す。
「ず~る~いっ!由美に砂のお城作ってもらうんが先やもん!!ちゃんと『つなぎ言葉』も覚えたし、明日までにここまで進めるから……約束!!」
 由美ちゃんは頬を可愛らしく膨らまして抗議をしながら指切りげんまんをしてもらって相好を崩して笑ってバイバイのジェスチャーをしてくれた。
「とりあえず車に戻りましょうか?柳生さんがご在宅だと良いのですが」
 呉先生がシートを子供達と一緒に畳みなが提案した。柳生さんというのは祐樹の車を停めさせてもらっている家らしかったが。
「ええ、車の中ならクーラーも効いていますし、ヘンな雑音も入らないでしょう」
 あのプリン頭の女子高生を忌々しく思い出して苦虫を数十匹噛み潰したような胃の重みを感じた。
「じゃあ、せんせ!また明日!早う元気になってや!!」
 公園の入り口まで見送ってくれた子供達は――多分物騒なので公園から出ないようにと言われているのだろう――小さな兵隊さんのように並んで見送ってくれた。
「ああ、キョウ君のお母様にメッセをしなくては」
 呉先生がスマホに気を取られているのを見た最愛の人は手の甲を軽く触れ合わせて青さの残る怜悧な眼差しで祐樹を見上げて微かに微笑んでくれた。祐樹もありったけの気力を振り絞って極上の笑みを浮かべた。
「有難う。祐樹があんなに怒ってくれて……。
 あの勢いはかつての医局騒動の時とか……ザッカーバ氏のことを誤解して執務室に来てくれた時以来だな。なんだかとても懐かしい」
 勝手に一目惚れをした挙句に病棟を空にするという暴挙を仕出かした傍若無人なアメリカの大富豪のことを思い出して思わず苦笑してしまう。
「あの時は貴方が秘書兼ボディガードの人のことで悩んでいらっしゃったにも関わらず、気付きもしないで一方的にまくし立ててしまって申し訳ありませんでした」
 その点については本当に悪かったと思っていたので頭を下げた。
「いや、とても嬉しかった。祐樹が感情をぶつけてくれるのは全て私がらみだし……。
 ただ、あの女子高生達は祐樹を見て何の感慨も抱かなかったのかが不思議だな。ナースや女性の事務の方の一番人気を誇っている祐樹の顔とかスタイルの良さなのに……。
 もちろん私も大好きだが、祐樹の一番の魅力は見る者を力付けるオーラだと勝手に思っているので……」
 「見る者を力付ける」というオーラが本当に存在するなら今一番注ぎたい人に何故届かないのかがもどかしい。
 呉先生がスマホをいつの間にかポケットに戻して華奢な肩を微かに揺らしている。
「あの時の田中先生の剣幕は物凄かったですからね……。しかもあの女子高生の語彙にはない言葉を使っていらしたようなので、まずは呆気に取られて次はビビってそれどころではなかったのでしょう。
 きっと田中先生の顔すら覚えていませんよ。
 同居人もああいう辛辣な言葉は得意なのですが、浴びせかけられた方は同居人の顔――まあ一応は整っていますよね――も見られないほど怖くなるらしいと省内、いや役所内では有名です。一度だけマゾ気質の人間に辛辣な言葉を投げかけて「もっと」とか言われて好意も持たれてしまったという笑えないエピソードもありますが」
 森技官がサディスティックな性格がデフォだとは知っていたが――相手によって使い分けることは最近判明した事実だ――ただ、対等に言い合える相手の呉先生を恋人にしているのでSMの趣味はないのだろう。
「すみません。少しお部屋をお借りして良いですか?体調を崩してしまったようなので」
 柳生さんの和風の玄関先にはちょうど出掛ける支度――といってもご町内程度だろうが――ご主人が人待ち顔で佇んでいた。
「ああ、そっちの先生か……。精神科も色々大変だね。今からお東さんの寄り合いに行くので勝手に使ってくれて構わない。それにしても大丈夫かね?」
 心配そうに伸び上がって祐樹最愛の人の蒼褪めた顔を覗き込む。「お東さん」とは東本願寺のことだろう、多分。
「すみません。少し休めば大丈夫かと思います。ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありませんが」
 律儀に礼を言いながら無理に笑いを作っているのも痛々しくて心が痛む。
「いや、森さんにはいつもお世話になっているからな……。そのご恩返しだと思えば安いものだ……。おーい、お前、お客さんに客間を貸すぞ」
 見るからに温和で裕福そうなご夫婦なのに森技官の「お世話」になっているとはどういうことだろうか。特に彼の出番が必要な環境とも思えないし、そもそも区役所勤務と偽っている点で森技官の「特技」が発揮された形跡もないのだが。ただ、この暑い中で立ち話――しかもこの際どうでも良い――森技官のことを聞く心のゆとりなどない。
「すみません、薬を取って来たいので車のカギを貸して戴けませんか?」
 呉先生の大きなカバンはまだ車の中にあるので――多分想定される限りの薬剤を入れて来てくれたのだろうが、結果的には大正解だ、皮肉なことだが――カギを渡した。
「あらあら……それはそれは。宜しかったらスイカ召し上がりますか?」
 同じく外出着の奥様が玄関先に走り出てきた。年齢よりも若々しい身のこなしはきっと心身が健康なのだろう。
「いえ、お部屋を貸して頂くだけでもご迷惑なのに、それ以上のご厚意は……。それにお仕度中のところに押しかけて来てしまいまして誠に申し訳ありません」
 祐樹が頭を下げると奥様は若やいだ笑みを浮かべた。
「いえいえ、もう切ってしまいましたから、どうか召し上がって下さい。麦茶も用意しておきましたので暑さしのぎに召し上がって下さい。
 玄関から直ぐの障子の部屋なのでお分かりになるかと思います。開けておきましたので、どうぞご自由にお使いください。ウチはちっとも構いませんので」
 呉先生という「ご町内」の身元保証人の存在が大きかったのか、森技官の「お世話」--どんな世話をしたのか怖くて聞けない――のせいなのか排外的だと言われている昔からの京都の人間らしくない歓待ぶりに却って戸惑った。有難いのはもちろんだったが。
「では、ワシ達は出掛けるからの。呉先生が玄関の鍵の暗証番号を知っているハズなので、帰る時には施錠してくれと伝えて欲しい」
 出掛ける直前の急な来客など迷惑この上ないだろうに温和そうで心配そうな笑みを浮かべながら二人して出ていくご夫婦に頭を下げて見送ってから玄関を開けようとした瞬間、最愛の人の肢体が力を失ったように祐樹の方へと倒れ掛かってきて慌てて支えた。











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        こうやま みか拝

気分は下剋上 Vt 23(I8禁)

イメージ 1

「少し待っていて下さいね……。この日のために用意したチョコレート――聡に戴いた物は後で一緒に食べましょう――を取ってきますので」
 手際の悪さも「初めて」感が強いので、純白のシーツの上に真紅の煌めきとか濡れた紅い薔薇や水晶の雫を浮かべた最愛の人の身体を強く抱き締めていったんベットから離れた。
「ああ、早く戻って来て……欲しい……」
 薔薇色の濡れた声が甘く鼓膜を染めていく。
「ええ、こういうのも必要だろうと思いまして」
 脱ぎ捨てたジャケットの内ポケットからミニボトルを取って掌に液体を載せて最愛の人の甘く乱れた端整な容貌に近付けた。
「『初めて』には必需品でしょう?それにコレを舐めて見て下さい。少しだけで良いので」
 紅色の唇から花弁のような濡れた舌が祐樹の掌を、ミルクを舐める臆病な猫のように辿っていくのも初々しい魅惑に溢れている。
「チョコの味と香りなのだな……透明なのに。あっ……」
 ルビーの尖りに透明なシロップを落とすと更に煌めきが強くなる。油分も充分含まれているので指を細かく動かすだけで紅色の肢体が更に甘く咲き誇っていく、愛撫を強請る花のように。
「こちらにもシロップで充分濡らさないと……。『初めて』ならばなおさらです」
 唇と舌で大粒の水晶の雫を零している場所から付け根まで辿る愛の行為にしなやかな上半身が紅色の弧を描いてシーツから浮き上がる。その動きを利用して指に纏ったシロップごと「深く繋がる」場所を濡らしていく。
「ああっ……、祐樹の……指の動きも……とてもっ……」
 潤滑油がなくとも柔軟で繊細な動きで祐樹を虜にする場所ではあったが、油分で滑りの良くなったせいかよりいっそう甘く濡れた声が寝室に秘めやかに響いた。
「そう……もう少し足を開いて……。ああ、目も開いたままにして下さいね。
 愛の行為は『誰と』するのかが重要なので……ちゃんと視覚でも確認していて下さい」
 涙の雫を纏った睫毛も極上の瑞々しさで煌めいているし、甘く蕩けた怜悧な眼差しも薔薇色の蠱惑に満ちてとても綺麗だった。
 扇の要を優雅に外したような感じで紅色の足が開かれてシーツの上を乱していく。
「あっ……、そこ……とてもっ……感じっ」
 花園の中の弱い場所を指で愛すると、純白のシーツの上の紅色の肢体が鮮やかで優雅な動きで撓って両のルビーが更に硬く尖って煌めいている。
「聡の肢体はどこもかしこも綺麗ですね……。綺麗なだけにより乱したくなります。
 純白の雪を踏み初める喜びにも似て……。
 私の色で染まって下さいますか?ココで繋がって……」
 三本まで増やした指を九の字に曲げると、花園の中が歓喜にさざめいているように吸いついてくる。
「ゆ……祐樹っ……来て……私の中に……」
 緋色の白魚のような肢体が優美かつ妖艶な感じでシーツの波から跳ねては海の余韻のような汗の雫をベッドに降らせるのも、そして愛の行為に焦れた感じに綺麗な眉が寄せられているのもこの上もなく無垢さと恍惚感に満ちている。
「少し腰を上げて下さいね……正面から抱き合う形を取りたいので。そうすれば指のリングも触れ合えるでしょう……」
 瑞々しく甘く薫る肢体が全て祐樹の目に晒されて極上の眺めに愛情と欲情が更に募った。
 チョコよりも甘く蕩けた極上の花園へ祐樹の濡れた先端部分を当てて、左手を繋いだ。
「挿ります、よ。大丈夫そうですから」
 魂まで薔薇色に染まるような熱く甘い花園へと身体を進める。普段よりも濡れた音が淫らに寝室に響いた。
「ああっ……祐樹ので……。開かれる感じが……堪らないっ……。
 右の尖りをっ……強く……弾いてっ……。そうっ……。それ……とても感じるっ……」
 紅色の唇が甘さを増した薔薇色の声を小さな花のように咲かせているのも、そして閉じられなくなった口から蜜のように滴っている雫もどこもかしこも極上の色を宿して鮮やかに咲き誇っている。
 両脚が祐樹の腰に縋るように回されるのも初々しい淫らさに満ちていて、愛の律動の呼び水になった。
「愛しています……永遠に……。聡だけを……」
 濡れた素肌が立てるお互いを求める水音も愛の響きを奏でている。そして甘いキスで塞いだ唇が解けて歯が奏でる音も部屋に艶やかさを増していく。
「私もっ……祐樹だけ……愛している。今までも……そして……これからもっ……、ずっと。
 ああっ……祐樹っ……もうっ……」
 半ば浮き上がった薔薇色の肢体がしなやかに震えて限界を訴えている。腹部に当たった最愛の人の愛と欲情の象徴も淫らな文字を描いて祐樹に素肌を濡らしつつ一際大きさを増していた。
「一緒に……聡の中は……最高で……いつまでも……留まって……いたいのですが……」
 花園の中もきっと真紅の薔薇色に染まっているだろう。
 左手を繋ぎ直して、愛の律動をより深く強く穿つ。無垢な魂まで祐樹の色に染めるように。
「ああっ……もうっ……」
 強張った肢体に細かな汗の雫が蠱惑的に煌めいている。祐樹の動きを反映して。
「一緒に……」
 祐樹の身体から滴り落ちる汗の雫も最愛の人の素肌をより薔薇色に染めていく。
 魂に一番近い場所に、絶頂の証しを放ったのと当時に腹部に熱く甘い飛沫を感じてこの上もない多幸感に包まれた。
 最愛の人の肢体の上に弛緩した身体を重ねる悦びに震えつつチョコレート味のキスを交わした。
                         <了>














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バレンタイン編、待っていて下さる方がいらして嬉しいです!!
ただ、私のバカな頭が時系列を滅茶苦茶にしてしまったのを更に多くの皆様に晒してしまうようで大変気が引けるのですが(汗)とにかく、完結だけはします。暇を見つけての不定期更新になりますが宜しくお願いします!!

こちらは、諸般の事情で凍結せざるを得なくなった前ブログからの続きになりますが(私の作品としては)短いので、前が気になる方はこちらへ飛んで下されば嬉しいです!


ややこしくて申し訳ないのですが、書庫は「バレンタイン(クリスマスの後)」です。

こちらは「夏」→クリスマス→バレンタインという時系列です。(ただし辻褄が合っていないという致命的なミスをやらかしてしまったという黒歴史が……)18話まで有る話の続きになります。







最後まで読んで頂いて有難う御座います。
           こうやま みか拝

気分は下剋上 学会準備編 34

 祐樹と付き合い始めた頃から割と最近まで(祐樹はこういうプレゼントを嫌いそうだ)程度の認識はずっと持ち合わせていたが、今の祐樹なら意外と喜んでくれるかも知れない。
 その一心で、周囲の女性客の「驚いた感じの」視線を受けつつPCで閲覧したサイトのアドバイス通りの量を祐樹に似合いそうな色で揃えていくのは楽しいと言えば楽しい作業だった。
 色とか材質とか細さなどが多種多様に並んでいる売り場に女性客しか居ないのは想定内だったが、手に買うと決めた物をたくさん持って歩いているとこれまでに経験した――そしてその当時は全く気付かなかった――「異性に向ける好意的な眼差し」ではなくて「羨望」とか「尊敬」の眼差しで見られるのも内心意外だった。羨望とか尊敬の眼差しは厚労省に行った時などに同業の医師から良く受けているのでその程度のことは分かる。こちらが知らない人間でも先方は自分の経歴とか勉強熱心な人間は手技の画像まで見てくれているからある意味納得出来るが、この売場では「たまたま紛れ込んだ物好きな男性客」としか認識されていないハズで何故「尊敬」めいた視線を受けるのかが分からない。
 ただ、この場の女性達は皆満ち足りた幸せそうな仄かな笑みを浮かべていて、唯一の男性である自分にチラリと視線は向けるものの、商品の方を熱心に見ている感じが新鮮で良かったが。
 祐樹に似合いそうなモノを厳選して、色とりどりのモノを持つ自分の顔と左手の薬指を交互に見て納得めいた表情を浮かべた年配の女性の穏やかで慈愛に満ちた微笑みを浮かべられて内心怪訝な思いが過ったが。その女性に会釈めいたものを返してから指輪と商品の関連性について思いを馳せるものの、経験値も知識も少ない自分には全く分からない。
 これらの材料を使って無事に出来上がった時――祐樹が喜んでくれた場合にのみ――聞いてみようと内心で思った。何しろ祐樹の方が世間知も高いし年配の女性――患者さん限定だが――との他愛のない話しで盛り上がれるという特技を持ち合わせているので。
 予想していたよりも遥かに嵩張ってしまった紙袋――デパートのロゴマークの入ったごくごく普通のシロモノだが――中に何が入っているかは他人には分からない安心感と先程までの異物感を払拭出来たことに内心安堵しながらそそくさと売り場を後にした。
 今日の目的の一つは無事達成出来た細やかな達成感と共に、行きつけのフロアまで下りる。
 普段はその店舗に一直線に向かって必要な物を購入するだけだったが、今日はPCで予めチェックしていた数店舗に入って、品物を見比べるのも楽しい。
 それにこのフロアは独立した店がそのブランドに相応しい重厚感とか落ち着いた雰囲気を醸し出しているし、自分の着ているスーツ――祐樹がネクタイを解いてくれたとはいえ――がどのブランドの物なのか店内スタッフは一目で見抜いたようで、控え目で穏やかな笑みを浮かべて迎え入れてくれるのも居心地が良かった。先程のフロアでは場違い感満載だったが、このフロアを一店舗ずつ回ってどれが最も祐樹に相応しいかだけを基準にあれこれと思案するのもとても心弾む体験だった。
 嵩張る紙袋の中の物――それを無事に完成させても――祐樹が気に入ってくれるかどうかは未だ分からない。気に入ってくれなくても良いので使ってくれればそれで充分だという気もするが、今までは祐樹からの贈り物を「気に入って下されば嬉しいです」的な言葉と共に喜んで受け取ってきたが、こちらが贈る方に回ると「気に入って貰えるかどうか」が物凄く気になると実感してしまった。
 祐樹もこんな気持ちで指輪とかアクセサリーを選んでくれたのかと思うと何だか離れていても心が通い合っているようで心は季節に関係なく春風で満たされるような気がした。
 ただ、こちらの階の店舗――今日は下見なので購入予定はないものの――で選んだ物は間違いなく気に入って貰えそうな気がする。
 ただ問題は祐樹と一緒にこの店に来るという約束――祐樹は思いっきり誤解しているが――を取り付けるためには折鶴勝負に勝たなくてはいけない。
 祐樹も――持ち前の負けん気の強さも相俟って――救急救命室から攝子や鉗子を即座に調達して久米先生の特訓にかこつけて一生懸命復習というか練習をするだろうし、もともとの才能は祐樹の方が上なので油断は出来ない。
 「この店のこれにしよう」と心に決めて取り置きを頼んで店から出た。ポケットチーフなどの小物に至るまで自分の理想通りの発色の良さと上品さを兼ね備えていて、祐樹にはとても似合いそうなお店――PCのサイトでも気に入ってはいたものの、実際の商品を見てからでないと安心出来ない――を発見出来て本当に良かった。
 ただ、問題は祐樹をこの店に連れて来られるかどうかに掛かっている。
 祐樹だって例の神憑り手技の画像の解説スピーチの原稿を英語で書くなどの準備に抜かりはないものの、アメリカの学会の講演壇に立つ人間がどのような服装をすればよりいっそう説得力が増すかなどの――あの国では内容はもちろんだが、外見とか身なりも日本以上に重要視される――細かい配慮が出来るのはアメリカでの勤務歴のある自分こそ誰よりも適任者だろう。
 手技の合間を縫って学会にも割と真面目に参加しておいて本当に良かったとしみじみ過去の自分を褒めてやりたい気持ちになった。
 その頃から祐樹のことは片想いの対象だったが、まさかその本人のために色々と用意出来る身の上になれるとは当時の自分には思いも寄らない幸福さを噛みしめつつ百貨店を出て病院に戻るためにタクシーに手を上げた。
 嵩張る紙袋も期待と不安が込められた愛情のびっくり箱のような存在で、出来上がるまでは祐樹には絶対に内緒にしておかなければならないと甘やかな清涼感が心を満たしていく。
 独りで買い物をすることは多かったものの、ごくごく事務的な買い物しかしてこなかっただけにこんなに楽しいと思ったことは過去に一度もないような気がする。祐樹と一緒の時は常に楽しかったが。











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