腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2017年11月

申し訳ありません。

本日も高熱と咳のため更新をお休みさせて頂きます。

「気分は、下剋上」<夏>216

 熱く滾ったコールタールのような液体の海の中になす術もなく沈んでいく。ただ、黒く粘ついた液体の中に青く仄かに光る白く長い指が芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のように鮮明に見えたが、今の祐樹にはその指を掴む資格がないように思えて、さらに深みへと呑みこまれていく覚悟を決めた。
「田中先生、起きてらっしゃいますか?」
 呉先生の温和な温かい声と肩を小さく揺すられて完全に覚醒した。今のは多分祐樹の、普段は滅多に見ない夢なのだろう。
「お早うございます。もう朝ですか?」
 目を開けたものの、熟睡したという実感は持てなかった。普段ならどんな短時間でも熟睡した後の爽快感が得られるにも関わらず。
 そして夢と異なっている点は指を繋いだままの状態で寝ていたことくらいだった。
「教授もそろそろ薬が切れてお目覚めになるかと思います。普段もこの姿勢でお休みになられているのですか?」
 呉先生が細い眉根を寄せている。危惧や懸念を抱いたような表情だったので腕の中で安らかな寝息を立てている最愛の人を起こさないように首だけ上げて見た。
 大学生の頃に習った胎児のように身体を丸めていた。
「いえ、普段は横向きなどで……。こういう姿勢で眠っていたことは記憶にないですね」
 起こさないように小声で告げた。呉先生も興味本意で聞いているわけではないのは明白だったし、別に隠さなくても良い程度の情報だった。
「そうですか……。精神が防御反応を起こしているのかも知れませんね。あくまで仮説に過ぎませんが。
 完全に安心出来る場所として、本能が母体に居る時のことを思い出しているという説なのですけれども」
 つまりは、最愛の人の負った心の傷はそれほど大きいということなのだろう。
 全ては祐樹の対応が後手後手に回ったせいで……。
 祐樹が見た夢の話を相談しようかという気にもなれず、ため息を押し隠すのが精一杯だった。
 夢判断として有名なのは言うまでもなくフロイトだろうが――著作を数冊読んだだけだが――何でも「性的なモノ」に繋げる点が気になったし、第一彼は心理学者で精神科の医師ではないので、呉先生も専門外かも知れない。
「朝ご飯はここで三人で食べましょう。
 教授がご自分から昨夜のことを言いだすまでは『なかったこと』としてスルーした方が良いと思います」
 熟睡した感じは全くなかったが、それでもやはり睡眠をある程度まとめて取ったせいで――時計を見ると11時過ぎだったのでかなり驚いた――頭は昨日よりもマトモに動くようだった。
「もう少し寝かせておいた方が良いかと……」
 蒼褪めた素肌がバスローブの隙間から見えて、汗の雫が細かく宿っているのも痛々しい。
「それはお勧めしませんね。寝過ぎると今日の夜に眠れなくなります。今のところ抑うつ症状は出ていないようですが、ウツに依る過眠も有りますので日光の光りを浴びることや適度な運動も必要ですよ。
 本当は外に出て散歩する方が良いのですが、それは教授の様子を診ながら判断します」
 ウツで眠れないという話は良く見聞きするので知ってはいたが過眠状態というのは初めて知った。
「分かりました。その点はお任せします」
 呉先生に無理やり微笑んでみせた後に、朝の身支度には――普段は無意識に行っているので――考えている以上に手の動きが必要なことに気が付くという体たらくだった。
 歯を磨くとか、顔を洗うとか一々意識しているほどの暇はない日常だったが、ことここに至って改めて考えてみると指を動かす動作が多いのは痛恨事だった。
「洗顔とか……。いえ良いです。何とかこの人の負担にならないように考えます」
 呉先生も――聞いてはいないが枕が変わると寝られないタイプかもしれないし、緊急事態に駆けつけて来てくれたこととか――かなり疲れているだろうから。
「何ですか?田中先生はお一人で抱え込むタイプでしょう?精神科医だって人間であることには変わりがないので……精神科時代には「患者さんのマイナスとか妄想とかの強い心の働きの波及効果――精神が病んでいる患者さんの発する心のエネルギーは物凄く強いのです――に引き摺られないようにお互いでケアをしあったものです。
 田中先生も、肩の力を抜いてというか、一人で背負いこもうとせずに何でも相談して下さいね」
 野のスミレの可憐な笑みを浮かべながら心配そうに祐樹を「診て」いたが、そして最愛の人の精神状態のケアは全部任せる気になってはいたものの、祐樹が一人で抱え込むべき問題だと思えた。
「有難う御座います。そうさせて戴きますね」
 本心とは逆のことを言って笑顔を取り繕った。
「夜は眠剤を使いますが、それまでは様子を拝見しながら対処療法で薬は出すかどうか決めます。
 昼間はあまり強い薬を出すのは控えた方がベストですし……陽射しを浴びて――まあ、このマンションはキッチンでも燦々と日が当たるので大丈夫でしょうが――少しでも外の空気を吸いに出かける程度は必要かと思いますよ」
 外に出る方法……そういえばセミの幼虫の羽化を「夜」に楽しむというデートの約束を交わしていたものの、夜中まで起こしていては逆効果だろう。
 それに手の震えがどの程度緩和されているのか全く分からないので、取り敢えずは様子見だろうな……と思う。
「ゆ……祐樹……」
 長い睫毛が蒼褪めた滑らかな肌に小さな影を落としている。閉ざされた目蓋も白さではなく青みを帯びているのも心が痛む。
「お早うございます。
 勝手に泊まり込んでしまったお詫びに朝食を作ったので、三人で食べましょう。
 朝食というより、もうブランチといった時間ですが」
 呉先生の声が明るさと穏やかな軽やかさを加えて部屋に響いた。どうやら本格的に彼を起こす積りらしい。
「お早うございます。お早うのキスは……二人きりの場所で交わしましょうね」
 祐樹も快活さを装って最愛の人の肩を軽く触れた。
「馬に蹴られてしまいそうな邪魔者はキッチンに退散しますから、どうかごゆっくり」
 呉先生の――多分「職業上の顔」なのだろう――頼り甲斐の有る感じの温和な笑顔が満開のスミレの群生を彷彿とさせていったん寝室から軽快な足取りで出て行った。
 「料理を作った」と聞いて一瞬嫌な予感が胸を掠めたが、この際そんなことはどうでも良くて、繋いだ手とベットに投げ出されている左手をそれとなく見守った。
 閉じた目蓋が完全に開いたと当時に、手の震えも同時に起こってしまっていたのを見て胸が潰れるほどの痛みを覚えながらも、笑顔を取り繕って口づけを交わした。
「祐樹……お早う」
 震える手は自覚しているのだろう、青褪めた表情が幾分強張っている。
「朝の身支度は全部お手伝いします。停年後、万が一のことが有った場合に備えて今から予行演習をしておくのも悪くはないと思います、よ」
 手の震えを止めるように強く絡ませながら、最愛の人の切れ長の瞳を見詰めつつ額を合わせて唇には「屈託のない」笑みを強いて浮かべた。
 綺麗に澄んだ眼差しは最初こそ焦点が合ってないようなぼんやりとした光を宿していたが、それは多分薬のせいだろう。直ぐに無垢さの煌めきに変わったものの、夜の海のような仄暗さを秘めているのが気になってしまう。
 一晩で回復しろという方が間違っているとは考えてはいたものの、現実の重さに打ちひしがれてしまいそうだった。











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◇◇◇


本日は【二話】更新を目指しますが、二時間を目途に更新されなかったら「力尽きたんだな」と思って下されば幸いです。

 
ちなみに時系列的には「夏」→「震災編」です。


最後まで読んで下さいまして有難う御座います。
                    こうやま みか拝

お詫び

気管支炎の発熱のため、本日更新お休みさせて頂きます。
誠に申し訳ありません。

「気分は、下剋上」<夏>215

「マンションってとても便利なのですね……。防犯性も極めて高そうですし、掃除も楽そうで良いですね」
 二人分のコーヒーを更に追加しながら呉先生が祐樹の気分を引き立てるように淡く微笑んでいる。
「そうですね……。ただ、路上で狙われるのは充分予測していたのですが、防ぎきれなかった点が悔やんでも悔やみきれないです……」
 そう言えばMSセキュリティの相模所長に警護の必要が無くなったことを告げなければならないなと思いつつも、先送りにすることを即座に決めた。今夜の精神状態では「あの」異様なテンションの高さとか妙な日本語を聞きたくないのも揺るぎのない事実だったので。
 これ以上精神的に負荷を掛けるとメンタル面も強いと自覚している祐樹でも何だか危険水域に達しそうで怖かったので。
 世界で二番目に美味しいコーヒーを飲みながら警官達を迎えるべく心の準備を固めた頃に控え目なドアチャイムが鳴らされた。
 もっと傍若無人的な感じを予想していただけに、一回だけのチャイムという――署長が平謝りをしていたのでその意を汲んだのかも知れないが――心遣いに感謝しつつ玄関のドアの開錠ボタンを押した。本来なら玄関まで迎えに行くのが普通だろうが、もう一歩も動きたくないのが本音だったので。
 祐樹の顔色とか雰囲気を察したのだろうが呉先生が空気を読んで玄関まで軽やかな仕草で立ち上がって出迎えに向かった。
 キッチンのテーブルの上には病院公用の封筒に入った診断書と、二人してある意味でっち上げた「事情聴取書」がひどく禍々しい感じで置かれている。
 警官二人が深夜に相応しく静かな動作でキッチンに入って来たのを立ち上がって迎えた。
「この度はとんだことで……。心中深くお察しいたします。
 また、署長から直々にお詫びを申し付かりまして……本来ならば生活安全課の課長が参るべき事態なのですが、帳場の――つまり捜査本部――立ち上げに忙殺されておりまして私どもが参った次第です」
 幾分年配の方の警官が名刺を差し出しつつ温和そうな腰の低い感じで祐樹に話しかけてきた。(警官が名刺を差し出すこともあるのだな)と内心で意外に思いながら名刺に目を落とすと、生活安全課係長と記されていた。
 捜査本部を立ち上げても無駄――アイツは厚労省のどこかの矯正施設に厳重に身柄を確保されていて、今頃は森技官に容赦ない精神攻撃を食らっている頃だろうから――なことは分かってはいたものの、一定の評価はすべきだろう。島田警視正も全てを承知の上で警察署に居るので、その判断に従うしかなかった。
「初めまして。京大附属病院の田中と申します。名刺はあいにく持ち合わせていないものでご容赦下さい」
 名刺入れはパウダールームに脱ぎ捨てたスーツのポケットに入っているのは分かってはいたが、取りに行くのも億劫な気分だった。
 律義かつ几帳面な最愛の人なら多分取りに行っただろうが――実際肌身離さず持っていた方の二枚しか紙の入っていない名刺入れで所在地が即座に分かったのは助かった――早く役目を終えて退散して貰って今夜は一刻も早く休みたい上に最愛の人の傍に居たい気分だった。
 傍に居ても何も出来ないだろうが、せめて悪夢を見ないように、そして何より早く指の震えが取れるように指を繋いで眠りたかったので。
 座るように勧めたものの直立不動という感じで立ったまま「事情聴取書」を読み終えた係長は遠慮がちな感じで口を開いた。
「ご本人からもお話しを承りたいのですが……?」
 祐樹が口を開くよりも早く、呉先生が細い眉を逆立てて怒りの表情――恋人である森技官以外にこういう表情をしているのも彼にしては珍しい――でスミレの可憐さをかなぐり捨てていた。
「貴方がた御用達の警察病院の精神科も優秀だと漏れ聞いていますが、精神的ショックを受けた被害者に対して問答無用の事情聴取を行うのですか?
 しかも、優秀な外科医にとって一番大切な腕を切りつけられそうになった人に向かってこれ以上何を話せと?
 それにご本人はオレ……いや私の打った鎮静剤の注射が効いて眠っておられます。
 精神科医の私としては、断固としてドクターストップを掛けます。警察は容疑者ですら傷を負った人間に『回復を待って』事情を聞くのでしょう?だったら、被害者には更に配慮が有って然るべきだと思うのですが、如何でしょう」
 寝室に響くのを恐れたのかごく低く小さな声だったが、凛然とした中にも激怒の雰囲気ときっぱりとした拒否の構えを固く決意した感じがヒシヒシと伝わってきた。
「それは大変失礼を致しました。では、私どもはこれを戴いて帰ります」
 呉先生の権幕に平身低頭といった感じで頭を深く下げた係長は二通の書類を押し頂くような恰好でそそくさと退散した。
「呉先生がいらして下さって本当に良かったです。私が口を開けばもっとひどい言葉を投げつけたかと思うので……」
 玄関ドアが閉まったのを確認してから感謝の言葉を呉先生にかけた。
「同居人が良く言っていました。警察は『庁』のクセに生意気だとか『省』になってから対等にモノを言えとか。あまり実感はわきませんでしたが、今夜ハッキリと分かりましたよ。
 『庁』とか『省』なんて一般の私達にはどちらでも同じように思えますが、旧内務省という、政治の中枢を担っていた厚労省――まあ、不祥事続きでバッシングの絶えない『省』では有りますが――と所詮は『庁』にしか過ぎない警察ではやはり対応が異なるのですね」
 憤懣やる方なしといった感じでスミレの可憐な唇を動かす呉先生の怒りが凄まじすぎて、祐樹としては「出遅れた」感が強すぎて怒りの矛先が削がれたのも事実だった。省と庁ではそんなに異なるのかと外部の人間には分からないものの、内部に居る人間にはまた別の感慨とか思惑が有るのだろう。
「これで今夜の務めは終わりました。教授は明日の朝まではお目覚めにならないハズですので、今夜のところはいったんお開きにしましょう。
 万が一薬が切れて起きられた時に備えて私はリビングルームのソファーで眠りますが、何か有れば即座に声を掛けて下さいね。
 明日の朝ご飯は遅めに声を掛けますので……それまではゆっくりとお休み下さい。
 田中先生が最もお疲れだと思いますので。あ、お薬は必要ですか?」
 呉先生の大荷物の中には祐樹用の眠剤も含まれているらしかった。ただ、薬の力を借りて眠ったら、夜中に最愛の人が起きてしまった場合に対応が不可能になるので淡く微笑みを浮かべて謝絶した。
「明日の朝食も、教授が作り置きして下さったものを解凍するという手抜き料理で良いですか?」
 呉先生がスミレの初々しさのような恥じ入った感じの表情になった。
「それで充分です。来て下さっただけで本当に助かりました。私一人では対応に苦慮したでしょうから」
 別に呉先生に料理の腕は求めていない。その上、下手に頑張るよりも冷凍庫に多数入っている最愛の人の手料理の方が確実に美味だろう。
 空になったコーヒーカップなどを皿洗い機に入れてから最愛の人のパジャマ――呉先生にはサイズ的に少し大きいだろうが――を出して着替えるように勧めてから寝室へと入った。祐樹もパジャマに着替えてから、最愛の人のバスローブを起こさないように細心の注意を払って開いた。
 蒼褪めた肌に消毒済みの傷の手当ての跡とかバスローブに吸収されないほどの汗の雫が浮いているのも痛々しくて見ていられない。
「申し訳ありませんでした……。もう少し早く駆けつけるべきでした。後手後手に回ってしまった不始末を深くお詫び致します」
 聞こえていない謝罪の言葉を口に出さずにはいられない気分で、汗の雫を拭ってからベッドに入った。
 恐らく無意識なのだろうが、祐樹の体温を慕ったような感じで最愛の人の身体が祐樹の方へと寄せられる。
 普段ならベッドに入れば直ぐに眠ってしまう体質になっていた祐樹だったが、今夜だけは全く眠気が襲って来ない。
 右手を固く繋ぎ合わせて、砕けた魂が心を悔恨という名のドライアイスが熱く抉り続けてしまう。
 明日に備えて眠らなければならないと思いつつも、一向に眠りの国に入れない長い夜を持て余していた。











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◇◇◇


本日は【二話】更新を目指しますが、二時間を目途に更新されなかったら「力尽きたんだな」と思って下されば幸いです。

 
ちなみに時系列的には「夏」→「震災編」です。


最後まで読んで下さいまして有難う御座います。
                    こうやま みか拝

気分は下剋上≪震災編≫227

「花園の真紅の花びらから白い蜜が滴っているようで、とても綺麗ですね」
 今まで花園の中を確かで熱い質量で満たしていた祐樹の愛情と欲情の楔が引き抜かれて、その部分から零れ落ちた白く熱い真珠の雫が太ももへと滴っていく感触すら薔薇色の悦楽に変わっていく。
「立てますか?今度はこちら向きで」
 祐樹の甘く熱い眼差しが確かめるように顔に当てられるだけでシャンパンの泡のような細かい悦楽が心の中で弾ける。
「大丈夫だが……?」
 「し残したこと」が何かは分からないものの、祐樹とこうして二人きりになっている時が一番幸せな宝石のように煌めく、そして甘い蜜のように心と身体を溶かしていく時間なのは確かなので祐樹の言葉通りに立ち上がった。
「愛の交歓の痕跡を肢体のあちこちに残して、甘く薫る素肌の聡が一番綺麗でずっと眺めていたいのですが、『御礼』をするのを忘れていました。
 推薦状を書いて下さったことや、学会発表用の原稿の推敲をお願いしたでしょう?
 つい恋人としての気安さから図々しく頼んでしまいましたが、本来ならば教授職の方にモノを頼むにはそれ相応の御礼が必要なのです」
 大学病院勤務歴――少なくとも研修医とか医局員としての経験は皆無だ――からして祐樹の方が病院の慣習というか因襲を良く知っているのでそういうものなのだろうかと思ってしまう。
 昨夜から一睡もしていないだろう祐樹が眠っている暇つぶしが第一の目的だったので割と軽い気持ちで書いた推薦状だったが、祐樹にはそうは思われていない感じだった。
 それにアメリカ時代の経験とか人脈を使えば英語の推薦状を書き上げることとか然るべき人間に送り付けることは自分にとっては簡単な作業で、そんなに労を要することはしていない。アメリカの医学会の方が日本の何かしら面倒な旧弊さを未だ頑なに残している学会よりも自分にとっては親しみやすいシロモノだった。それにメインはNHKのカメラマンがたまたま撮っていた神憑り的な手技の画像だったので、自分の推薦文はむしろ「おまけ」のようなもので、そんなに感謝されるほどのことをしたという自覚も全く持っていなかった。
 それにこの話が教授執務室で交わされているならまた話は別だが、第二の愛の巣のホテルの密室だし、しかもこの部屋に居る時は「愛の時間」と決めているようだったので「御礼」も堅苦しい話にはなりそうにない。
「私はお金など……。それより祐樹の愛が欲しい」
 甘えるような声で小さく本音を呟いた。充分愛されている実感はあるものの、さらにと望んでしまうのはワガママかもしれないが。
「金銭に恬淡とした人なことは充分承知しています。ただ、教授の推薦状、しかも差出人が他ならぬ貴方なので、物事がスムーズに運んだことも事実でしょう?世界レベルで名医と認知されている日本の医師はそう多くはないハズです。そういうことも考え合わせると金銭で支払うのは無理なので、愛情と身体で支払います」
 絨毯が敷き詰められている床に座ったままの祐樹が凛然とした表情と熱い眼差しで見上げてきた。
 「身体で支払う」というのはつまり、愛の行為の続きなのだろうと思うと甘い予感に心に薔薇色の雫がシャンパンの泡のように弾けては湿った素肌を熱く染めていく。
 足を折った形で座りなおした祐樹が足元に跪く格好になって、意外さの余り呆然と立ち尽くしてしまう。告げるべき言葉が見つからなくて、唇が空回りしてしまうもどかしさを久しぶりに実感した。
「ゆ……祐樹っ……そんなことは気にしなくてもっ。あっ……」
 足の指に恭しく唇を触れられたかと思うと足の指の付け根に向かって舌が這わされた。
 心だけでなく身体ごと愛してくれる祐樹との夜を重ねたせいで――しかも祐樹は愛の仕草が物凄く上手だ――足の指の付け根も弱い箇所なのは知ってはいたが、こういう格好では愛されたことがなくて、驚き交じりの甘い声が上がってしまう。
「ゆ……祐樹っ……。そんなことはっ……しなくて良いのでっ」
 実力に相応しいプライドの高さを――逆に自分は手技以外に矜持を持てるモノがないことを祐樹に指摘されて暖かい笑いを浮かべられたことは有った――持ち合わせている祐樹がある意味屈辱的なことをしてくれているという奇妙な背徳感と高揚感で足の付け根の悦楽が背筋から頭に薔薇色の細い閃光を放って背筋が仰け反った。
「最愛の聡だけにしか、こういうことは致しません、よ。
 聡にはそれだけの価値が有ることをいい加減自覚して戴きたいです。私が跪く相手は地球上で聡一人ですので」
 濡れた足の指の付け根に熱い息が掛かることすら薔薇色の悦楽が背筋を奔って脳を甘く溶かしていく。
「それ……気持ちは良いがっ……。ベッドの上で……続きをっ」
 背筋が傾ぐせいで身体のバランスが取り辛い上に普段なら支えてくれる祐樹の腕は――怪我で使えないという現実もあったが――床に付けたままだったので、覚束なさの余りにそう強請ってしまった。
「ベッドでは……御礼にはならないでしょう……。ああ、こちらへ来て下さい」
 何事にも目敏い祐樹に思っていたことを見抜かれたのか、上半身を起こした祐樹の右手が恭しく差し出された。
 ベッドの中だったら、自分もお返しの愛の行為が可能だったのに……と思うと少しは残念な気もしたが、祐樹の甘いエスコートに身を委ねた。











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◇◇◇


本日は【二話】更新を目指しますが、二時間を目途に更新されなかったら「力尽きたんだな」と思って下されば幸いです。

 
ちなみに時系列的には「夏」→「震災編」です。


最後まで読んで下さいまして有難う御座います。
                    こうやま みか拝
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