腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

2017年09月

気分は下剋上≪震災編≫208

「祐樹のお母様にも報告をした方が良いと思う。やはり、こういう場合は血の繋がったお母様が一番喜んでくれるだろうし」
 祐樹は一瞬凛々しい眉を寄せたものの、しぶしぶといった感じで携帯電話を取りに行った。
「あ、もしもし、オレだけど……」
 祐樹が手招きしてくれたので通話が聞こえるほどに密着した。
『怪我の具合はどうなの?聡さんに迷惑は掛けてないでしょうね?掛けていたら承知しないからね!』
 祐樹が広い肩を竦めて半ば笑いながら自分を見詰めてくる。
「掛けてない。それよりも学会に招待されてアメリカのニューヨークに行くことになった。それを知らせろと言われて仕方なく電話しただけで」
 自分と話す時よりも気を許しているのか割とぞんざいな感じなのも肉親という血の繋がり故だろう。
『学会?私が通っているクリニックの先生だって、学会のため休診とか普通にあるのよ?祐樹がサボって行かないだけじゃない?大学病院が忙しいとか何とか言って、あんたって子は……いつも何かしらの尤もらしい理由を付けてサボるクセが有ったもの。その才能だけは誰に似たんだか……』
 盛大なため息が素肌をほぼ密着させている祐樹と電話越しに同時に聞こえて、思わず大きな声で笑ってしまった。
「母さんと話していても疲れるだけなんで、彼に代わる。その方が母さんも嬉しいだろうし」
 広い肩を竦めながらも笑みを弾けさせた感じで携帯電話を手渡された。
『最初から聡さんが掛けてくれれば良いのに、気が利かないったら……』
 祐樹のことを「気が利かない」と評価するのはお母様だけだろう。病院関係者とか患者さんの信頼はすこぶる厚いので。
「もしもし、替わりました。彼の傷の経過は大変順調です。
 NYの学会なのですが、ただ聴きに行くのではなくて、今日の祐樹の見事としか言いようのない手術をたまたまNHKのカメラマンが写していたので、それを世界的権威の教授に推薦状を付けて映像も送ったところ、術式説明というか、どういう状況の患者さんにどういう処置を行ったかということを祐樹自らがNYの演台に立って世界中から集まる心臓外科の救急救命医に説明する役目なのです。
 心臓外科の救急救命に関わる医師達に、こういう処置を施したということを説明する役目でして、この学会で説明役をした日本の医師はウチの病院では北教授が五回、東大病院の教授が一回ですね。その他の国公立大学も教授クラスしか記憶にないです」
 電話の向こうで絶句とかため息などが聞こえているので一方的に話しを続けた。
『まあ、そんな重要な役目をウチの愚息が……』
 「愚息ってアンタが産んだんだろ」と祐樹がすねたような呟きを漏らしたが、明るい笑みを漏らしながらだったので、肉親の気安さなのだろう。
「はい。あまりにも手技が素晴らしかったので、推薦状を書かせて戴いた結果、招待状が届いたというわけです。ウチの病院では救急救命の権威でもある北教授に次ぐ快挙なだけに、是非お母様にも喜んで貰いたいとお電話をした次第です」
 こういう説明をしないと喜びを分かち合えないのが――それが良い悪いではなくて――一般的なのだろう。即座に喜びを分かち合える祐樹を恋人に持った自分はきっと世界一の幸せ者だと心の底から思った。
『それは……とてもお目出度いことだわね、愚息のために聡さんが推薦状を書いて下さったのね。本当に有難う。
 貴方達がテレビの画面に映らなくなったので、他のチャンネルも観ていたのだけれど、北教授のことは解説者がベタ褒めをしていたわ。
 そんな偉いお医者様――もちろん聡さんは別格よ――とウチの愚息が肩を並べるなんて……。それに東大病院の教授も一回きりしか呼ばれていないのでしょう?
 普通の勤務医が、そんな晴れがましい場所に出られるなんて……』
 心の底から嬉しそうなお母様の声が電話越しに聞こえてきて唇の笑みが深くなってしまう。
「普通の勤務医で悪かったな……。どうせ聡と『今は』比べ物にならないのは分かりきっていることだろ」
 祐樹がふて腐れたような声で小さく呟いたが多分お母様の耳には入っていないだろう。
『それもこれも皆、聡さんのお蔭です。あの後、ご近所からとか町内会の会長さんからとか色々な人が『テレビを観た。立派なお医者さんに育てられた田中さんは凄い』とか褒められたけれど、その褒め言葉は全て聡さんに伝えたかったのよ。
 至らない息子ですけれど、これからも宜しくお願いね』
 何だか泣き笑いのような感じの声が電話越しに聞こえてくる。
「いえ、私も不束者ですが、今後ともどうか宜しくお願いします」
 祐樹に電話を替わろうかと思って表情を確かめると「不要」というジェスチャーをされたので電話を切った。
 その途端、祐樹は愉快でたまらないといった感じで笑いを爆発させていた。
 変なコトを言ってしまったのだろうかと、祐樹の顔を少し不安げに見てしまう。ただ、暖かい笑いの空気は二人の間に流れている。
 何だか愛情を根底にした別の心の繋がりを持てたような気がする。











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一日一話は(多分)更新出来そうですが、二話は難しそうです。「夏」更新後二時間を目途に更新が無ければ「力尽きたな」と判断下されば嬉しいです。
しかも更新時間がマチマチになるという体たらくでして……。
他の話を楽しみにして下さっている方には誠に申し訳ないのですが、その点ご容赦下さいませ。



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                   こうやま みか拝

「気分は、下剋上」<夏>190

 呉先生は祐樹にだけ聞こえる距離に近付いて来て小声で囁いた。
「教授は裂傷を負っていらっしゃるのですよね?その手当は田中先生の方が向いていますし手早いでしょう。その後ベッドルームでこの食事を召し上がりながら、話を聞いて……教授が無事に就寝した後に田中先生と私が「香川教授」として「事情聴取書」と診断書を作成しろとの同居人の指示です。署名と捺印だけは教授自筆で貰って『後は読まなくても良いから』で押し通せとのことです」
 大まかな流れは了解したものの、最愛の人がこんな目に遭った日に即座に眠りについてくれるかは疑問だった。
 これまでの二人の愛の歴史の経験上でも、精神的ショックを負った日には眠れなくなる体質の持ち主なのは分かっていた。
「大丈夫です。そのためにこの大荷物を持って来たのですから」
 呉先生は野のスミレの、可憐さと野生の逞しさの混ざった笑みで祐樹の思考を読み取ったかのように小さく微笑んだ。
 メスで切られた裂傷の部分は既に覚えていたし、怪我の手当て「だけ」なら用心深い最愛の人が予め家に備え付けの救急箱の中身で大丈夫そうだったが。
「浴室で話をしたのですが、それは大丈夫ですか?」
 震え続けている指を繋いだまま、呉先生に聞いてみた。今の最愛の人の精神状態は脆くて繊細なガラス細工のようなモノであること程度は分かったが、何を言って良いのかなど詳しいことは呉先生に委ねた方が祐樹も安心だった。
「尋問口調でなければ大丈夫です。教授が話し出したら決して否定的な単語を交えずにだけ注意して会話を続けて下さい。手の震えが強くなったら即座に話題を切り替えて」
 呉先生も祐樹と話しながら祐樹最愛の人の様子をさり気なく診ている。
 祐樹が浴室で会話をした時のことを思い返してみて、呉先生の専門家としての言葉に違えていないかを反復して、内心安堵した。
「田中先生に怪我の手当てをお任せしました。寝室で手当てを終えてから夜食、それとも夕食なのかもしれませんがこれらを召し上がりながらお話しをしましょう」
 呉先生の落ち着いた、そして普段よりもさらに快活そうな言葉は――祐樹は呉先生の仕事振りを見たこともない。大学病院内小さな彼の城でもある不定愁訴外来に足を運ぶ時は患者さんの居ない時間帯のみだったので――患者さん向けのトークなのだろう、多分。
「これらは、全て呉先生が作られたのですか?」
 祐樹同様の感想を最愛の人も抱いたらしくお湯に浸かったせいか幾分血の気の戻った顔色に、驚きの色を浮かべている。繋ぎ続けている手は相変わらず震えてはいたが。
 ポタージュスープとレタスとプチトマトのサラダ、そしてこんがりキツネ色に焼いたパンの上を黄金色のバターが美味しそうな煌めきを放っている。最愛の人にとっては朝食の範疇だろうが、今日も手術を終えての教授会出席だったろうから、夕食は未だのハズで空腹感どころではないだろうが、確かに食べておいた方が良いだろう。
 レタスは千切っただけ、トマトはヘタを取っただけだろうし、パンはトーストで大丈夫だろうが、ポタージュスープの難易度は――今の祐樹には作れるが、最愛の人と同居する前は不可能だったし、呉先生も当時の同じような料理のレベルだと思い込んでいたし、実際に料理は作らないとも聞いていたので――相当高いハズだった。
「まさか……。非礼を承知で冷蔵庫を全部拝見したら、冷凍庫の中に教授の綺麗な筆跡で『ポタージュスープ』と書いて仕舞ってあるのを見つけたので、それを解凍しただけです。
 ウチの古びたレンジと、後はコンビニで店員さんにチンして貰うだけの食生活を送っているので、充実しきった美味しそうに並ぶ手料理の数々に相応しい最新のオーブン兼レンジの扱い方は分からないので……冷蔵庫スープの内部が凍っていたらすみません、先に謝っておきますね」
 控え目な感じの笑顔と明るい声が野原に咲き誇る小さな野のスミレの風情そのものだったが、小春日和の木漏れ日の中に居るような寛いだ気分にさせてくれるのは呉先生の人徳の賜物だろう。そしておそらくは職業上こういう感じで――精神病の種類にもよるだろうが――患者さんに接しているに違いない。
 内部が凍っていないかは呉先生の性格上何度も確かめたハズで、これも最愛の人の心を和ませるための冗談に違いなかったが。
「凍ったスープも変わっていて美味しいかもしれませんね。ほら、何時か作って下さった冷たいカボチャのポタージュスープは絶品でしたよ。
 ただ、温かいモノを召し上がった方が良いと思われますので、凍った部分が出て来たら私に回して下さい」
 最愛の人に視線を合わせて「日常」的な会話を交わした。
 寝室に二人して入ってバスローブを必要な部分だけはだけて怪我の手当てを――内心こみ上げてくる井藤への憎悪の念を押し殺して――なるべく淡々と行った。
「右手の裂傷が一番深いですね。腱までは届いていませんが。それ以外は一ミリにも満たない傷ばかりです」
 「右手の腱」と事務的な口調を繕って言った時に、ベッドに腰を掛けて手当てを受けていた人の指の震えが大きくなった。
 慌てて手を握りながら「食事を持って来て下さい」と大声で呼んだ。多分、寝室付近で待機していたのだろう呉先生は直ぐにドアを開けてくれる。バスローブを元に戻してベッドに優しく横たわらせた。
「井藤は……『この神の手はオレのものだったのに』などとずっと車内でも言っていて……。
 北教授をスタンガンで昏倒させた後に、私が抵抗を続けていたものだからクロロホルムだろう……あの匂いはで意識が一旦途切れて……」
 北教授にスタンガンを準備していたのも想定外だったが、狂気の「元」研修医――今はどの身分なのだかは些細なことなので確かめていないものの、斉藤病院長の激怒振りと医学界の華麗な人脈の持ち主なので最終的にそうなるだろう――井藤がクロロホルム、クロロフォルムとも表記されるが、吸入用の麻酔薬まで準備していたとは。
「そして?」
 呉先生はスプーンでポタージュスープを運びながら温厚かつ案ずるような声を出して話を続けさせようとしている。
「祐樹、手は動いている……か?」
 スープを飲みながら繋いだ手を強く握られた。相変わらず震えてはいたものの。
「動いていますよ。今五本の指が強く私の指を握りしめて下さっています」
 安心したような感じで頷いたものの、最愛の人の目には恐怖に強張った感じの光りが宿っていて、祐樹の魂まで粉々になったような痛みを覚えた。
 最愛の人の世界中から称賛される「神の手」の精緻かつ大胆に動くレベルを要求されているし――実際はたゆまぬ努力の賜物だと祐樹は知っていたが――天賦の才能とも評されている。動く・動かないというレベルの話ではなく今日の手技のように精妙さと卓越した動きが元に戻るのだろうかと、祐樹自身も心が真っ青に蒼褪めていたが、一番動揺しているのは最愛の人だ。
「いっそのこと、この腱を切ってしまえば、自分が『神の手』の持ち主になれるとかも言われた。
 その時の傷がそれだ……」
 繋いだままの祐樹の手ごと震える手がベッドの上に掲げられた。
「それはさぞかしお辛かったでしょうね。私に話して楽になれるのでしたらいくらでも話して下さい。教授のお力になれるかどうかは分かりませんが」
 呉先生の野のスミレの声色がいっそう親身さを増して、聞く者の心を和ませる。
 スープを甲斐甲斐しく蒼褪めて震える唇へと運びながら、祐樹に目配せをしている。視線の先から察するに「スープ係り替わるように」とのことだろう。
 了解のサインを送ってスプーンを左手で持った。
「お話しは聞こえますから、そして話せる範囲で構いませんので続けて下さい。少しだけ準備をしますね」
 呉先生のカバンが大きく開かれて、その中身を見て驚いた。表情にもスープを唇に運ぶ手にも影響はないように振る舞ったが。











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気分は下剋上≪震災編≫207

「いえ、かなり慣れたとはいえ甘いモノはそれほど好きでは有りませんのでお祝いのケーキは聡の誕生日に取っておきます。ロウソクを吹き消すのもお好きでしょう?
 私はこの滑らかな頬が薔薇色に膨らんで紅色の唇が息を大きく出すために独特の、そして無垢で無邪気な様子で花開いているのを拝見するのが大好きなので」
 話ながら頬や唇に祐樹の右の指が頬や唇に優しく触れられて、それだけで薔薇色の多幸感で笑いが唇から弾けるように転げ落ちた。
「そうか……。祐樹がそれで良いのなら中華にしよう。予約は保留にしてあるので、時間指定さえすれば大丈夫だし。
 渋滞に嵌っていなければそろそろ斉藤病院長も病院に到着しているだろう。あの人はよほどのことがない限りは現場に丸投げをする達人でもあるから、PCが壊れてさえいなければそろそろメールを見てくれていてもおかしくないが……」
 斉藤病院長は、病院トップの権力を持ってはいるものの滅多なことでは振り回さないタイプだった。稀には存在するようだが、現場にやって来て構築されたシロモノを思いつきとか自分ならこうする!などと却って現場の人間を混乱に陥れるようなことはしない。
 仮に自分が指揮権を預かっていた時に病院に到着したとしても、概要を聞いて「後は任せますので宜しく」と言って去っていく――采配に不備が有ったら容赦なく指摘はするだろうが――ある意味理想的なリーダーだった。
 ごく自然に手を繋いでPCの前まで移動した。祐樹に隠しておかなければならないメールなど今はなかったので。
「岩手医大からのメールが来ていますよ。野口陸士の件ですかね?私が熟睡している間に送信しました?」
 祐樹が明るい声を出した。焼き餅を妬くとか言ってはいたものの、そんなには気にしていない感じだった。
「ああ、あの陸士は大学病院に対して気後れするタイプだと思ったので、私の名前が役に立つのだったら、それに越したことはないと思って」
 背後に立った祐樹が肩を軽く叩いた。
「貴方は優しい人ですね。ますます惚れ直しましたよ。循環器とか心臓外科医で貴方の名前を知らない人間は居ませんよ。先方は貴方からのメールにさぞかし驚いたことでしょう。驚いたというかパニくったかも知れません。まあ、あの陸士のお母様が受診に赴いたら医師の対応は違ってくると思いますから、それはそれで良いのでは?
 そのメールを先に見たい気もしますが、斉藤病院長の反応の方がやはり気になりますので、まずそちらを」
 受信メール一覧の「未読」フォルダには岩手医大からと斉藤病院長の二通が存在して祐樹も素早く目にしたに違いない。
「パニくる?何故だ?」
 祐樹が呆れたような眼差しで自分の顔を覗き込んだ。ただ唇には楽しそうな笑いを浮かべていたが。
「貴方は国際公開手術の術者に選ばれるほどの日本でも五本の指に入る名医なのですよ。しかも最年少でウチの大学病院――差別的なことはあまり言いたくありませんが――旧国立大学の教授職です。そこいらの私立大学病院とでは格が違い過ぎるのです。
 貴方が元居たアメリカの病院とか交流の有る世界的権威の外科医の世界と、日本の大学病院とでは全く異なります。
 好例が桜木先生でしょうね。あの先生は手技こそ教授を凌駕していますが、ウチでの待遇は一介の医局員です。本人にはその気がないようですけれどもアメリカやヨーロッパに渡れば、ガンの手術の実績からして引く手あまたでしょうね。
 そういうステージというか世界が有ると私に教えて下さったのは他ならぬ貴方ですよ」
 そう言われてみればそんな気もする。日本の大学病院の旧弊さ――と言っても自分の医局はアメリカ式の合理主義が定着したので完全な実力主義だ――は内科の内田教授がリーダー的存在となって改革中ではあったものの医局によっては温度差も当然ながら存在するのも事実だった。
「桜木先生も手技に見合った待遇で迎えてくれるところを探した方が良いのかもしれないな、それこそ世界中の規模で……」
 地震のせいで病院に緊急事態宣言を出した時に「有給休暇を取得する積もりだったが、手術室のことは任せてくれ」と言いに来た時のことを思い出して祐樹に相談してみようかと思った。
「そうですね……。まずは語学の壁がクリア出来る――私は貴方のアドバイスのお蔭様で何とかなりましたが――という前提に立てば彼自身の気持ち次第でしょう。貴方の卓越した手技を見ることが趣味のようですし……。個人的にはあの先生に私も褒められるような存在になりたいですけれども、本人が実力に見合った報酬を得る場所を獲得する方が先生のためにも良いでしょうね。その辺りのことは機会を見つけて聞いておきます。っと、斉藤病院長の高笑いが聞こえて来そうなメールですね」
 この部屋に居る時は仕事を忘れると約束していたハズだったが、二人ともこれと言った趣味もない上にダンフレーズ教授直々の学会招待メールが来たせいでいつの間にか仕事の話に戻ってしまっていた。
「本当だ……。『田中先生にもっと執刀経験を積ませるように。私も協力は惜しまないつもりです。この見事な手技は教授の指導の賜物であると共に彼の天賦の才能が開花した証しです。心臓外科のますますの発展は病院全体の誇りです。この画像ファイルを各大学の心臓外科関係の人脈に流して患者さんの派遣を要請します』か。病院長の『権威を伴った営業トーク』が炸裂する、な」
 祐樹を見上げて笑い声を上げると、祐樹は肩を揺らして大きな笑い声を立てていた。
「『権威の伴った営業トーク』……言い得て妙ですね。製薬会社とか医療関係の機器メーカーの営業担当は下手というか腰の低い営業しかしませんから、ね」
 愛の巣として良く使っていた――ただ、普段はスイートルームではなかったが――ホテルの部屋に笑い声も良く似合うことに初めて気が付いた。喜びを分かち合うというのは暖炉の火のような暖かな気持ちに弾むことも。
 「喜びを分かち合う」というキーワードに、ある人の暖かな面影が脳裏を掠めて、祐樹に告げようと唇を開いた。











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「気分は、下剋上」<夏>189

 花園の門は頑なな感じで閉ざされていて周辺が若干何かに――趣味の悪いベッドルームに踏み込んだ時の様子で「何か」は見当がついたが――擦られたように僅かに赤くなっているだけで、内心安堵の吐息を漏らしてしまう。祐樹との愛の交歓の時には嬉々として受け入れる場合とは全く異なり――そしてこの種の性的嗜好の持ち主に多く見られる奔放さは皆無で貞操観念は強い人なだけに――必死で抵抗するするだろうし、そうなればこの場所がこんな状態では済んではいないだろう。
 祐樹的にはあの狂気の研修医に最愛の人が最後まで行為をされていても全く咎める積もりはなかったが、最愛の人は絶対に気に病んでしまって己を苛むことは必至だったので。
 それに強要された性行為という――祐樹にはそういう経験は皆無だったが――しかも受け入れる側にはかなりのトラウマになってしまう最悪の事態は免れたことにも神様に感謝したい気持ちだった。
 すらりと伸びた下半身にはそれ以外の異常はないことを確かめて、祐樹も素早く着衣を脱ぎ捨てると震えている右手をしっかり握って浴室へと入った。
「怪我がシャワーの刺激で沁みるかも知れませんが、その時は仰って下さいね」
 シャワーとか浴槽の温度設定は℃単位で指定出来る仕組みになっているものの、機械の故障などを考えてお湯の温度を祐樹の手で確かめてから蒼褪めて震えている肢体に弱い水流を当てていく。
「大丈夫だ。
 それよりもバスタブに祐樹と一緒に浸かりたい……。オレンジ色のバスソルトをたっぷり入れて……」
 自宅に帰って来たことで安心したのだろうか、未だ硬さが若干残ってはいたものの怜悧な声は普段とそう変わりがなかった。
 ただ細く長い指は震え続けていたが。
「了解です。ゆっくり温まった方が良いですからね」
 心因性のショックで通常の体温よりも下がっている肢体や、何よりも震え続ける指のことが気になって少しでもリラックスした方が良いだろう。
 最愛の人のしなやかな肢体と髪の毛――祐樹にシャンプーされることを何よりも好んでいてくれる――を細心の注意を払って洗ってから浴槽に二人して浸かった。
「こうしていると……何よりも落ち着く……」
 祐樹の身体の上に乗った最愛の人が祐樹の胸に背中を密着させて先程よりも硬さの取れた声で背後から呟いた。祐樹の手に縋るように繋がれた指は相変わらず震えていたが。
「ゆっくりと温まって下さい。今頃は呉先生が食事を用意している最中でしょうし…」
 森技官は「楽しく」井藤を尋問中だろう。言葉を選ぶ能力にも長けている森技官――そう言えばあの悪趣味極まりない部屋でも最愛の人に対して「は」、心が傷付くような言葉は一切なかった――が本気を出せば、しかも専攻は精神科なので井藤の精神的に病んだ弱点を正確極まりない精度で衝くことも充分可能だろうし、森技官も怒りを――隠してはいたものの、付き合いの長い祐樹には伝わってきた――抱いてもいるようなので厳選された言葉を使って容赦なく責めるハズだ。
「呉先生にも迷惑を掛けてしまったな。
 北教授や内田教授、そして医局の皆までも……。あれは祐樹が巻き込んでくれたのだろう?」
 しなやかな上体を祐樹の素肌に密着させながら悔いるような響きで紡がれた言葉に内心瞠目してしまう。
「どうして……そこまで分かったのですか?」
 北教授に関しては狂気の井藤にスタンガンを使われたことを最愛の人も目撃しているので不思議はなかったが、内田教授や医局の皆の動きは最愛の人には内緒にしていた。呉先生の判断の結果で、だったが祐樹の様子がおかしいことに気付いていることは分かっていたものの、その他のことまで有る程度察していたとは。
 呉先生のアドバイスを待つ積もりだったが、最愛の人が自発的に言葉を紡いだからには会話を続けた方が良いだろう。その程度のことは精神科に疎い祐樹にも分かった。
「呉先生は料理が苦手なので……炭化した物体が出てくる可能性が有りますよ。
 そんな怪しげな物は召し上がらなくても結構ですので。責任を持って私が食べます。消し炭状態の料理だったら。
 炭化したということは充分火は通っているので味さえ我慢すれば胃や腸には問題がないハズです」
 背後から抱き締めた最愛の人の表情は見えないものの、幾分華奢な肩が笑っている感じに揺れた。繋いだ手の震えが強くなったり、密着させた素肌が強張ったりしたら会話は即座に話題を変えようと内心で決意しながら。
「今日の教授会で内田教授らしくない議題が上がっていたので……。彼は病院改革の具体案を提出することは有っても、職員規定に関すること、しかも『身の安全』とかそういう漠然としたことを議題にしていたし、妹さんのお通夜で欠席した脳外の戸田教授に対しても――ああ、森技官も脳外科の査察に来ていたのは、そういう関連だったな――脳外科の医局運営者としての無責任さを厳しい口調で糾弾していた。
 それに医局の誰かしらが病院から帰宅しようとした私を呼び止めて――その点は嬉しくもあったが――『相談が有る』とか『今後の心臓外科学会の動向について』などの話をしながら帰宅の途についていたが、話に夢中になっているフリはしていたものの周りを常に見回していたので何か有るなと内心では思っていた。
 そして今日の教授会での内田教授の議題の時に、祐樹の様子も普段と異なる点が多かったのを総合して考えた結果、私の身に何かが起こるのではないかと予想はしていた。
 私ですらその程度のことは予測出来たのだから祐樹はもっと積極的に動いてくれていたハズで……必ず助けに来てくれると確信はしていた。私に出来ることは『時間を稼ぐこと……』それだけを井藤の家に連れ込まれた時にはそう決意していた」
 「井藤」という固有名詞が出た時にバスソルトのオレンジ色に染まったお湯と最愛の人のお気に入りの暖かい香りが一気に碧い色に染まったような慄きの声音になってしまった。
 祐樹最愛の人の聡明さとか総合的な分析力には内心舌を巻いたが、頭脳も祐樹が心の底から感心するほど明晰な人なだけにその程度のことは容易に考え付いたのだろう。
 最愛の人が井藤という――医局に所属している久米先生ならともかく――研修医の固有名詞を何故知っていたのかという点を考えてみたが、祐樹のバカさ加減に自分でも呆れてしまう。
 島田警視正や森技官が散々そう呼びかけていたのだから、卓越した記憶力の持ち主でもあるこの人が覚えてしまっているのも無理はない。
「時間を稼いで下さったことにも感謝します。
 北教授は通行人が呼んでくれた救急車から救急救命室のホットラインを使って――というか強奪して――予め電話番号の交換をしていた私の携帯ではなく救急救命室へ第一報を入れて下さいました。
 ご存知のように森技官から渡されたGPSをタイピンと付箋紙の中に入れてありましたが、タイピンは外れてしまって……。まあ、あれは森技官が『自分が渡すよりも田中先生からの方が怪しまれない』と用意してくれたものですからどうでも良いのですが。
 付箋紙に細工をしてしまったことについては謝ります。ただ、聡に万が一のことが有った場合の最後の手段の積もりでした。
 北教授を搬送してきた救急車を杉田師長が持ち前の強引さで京都駅に私を『救急搬送しろ』と救急隊員に詰め寄って下さいまして、生まれて初めて救急車に乗りました。得難い経験ではありましたが、京都駅で降りる時は流石に恥ずかしかったです、今となっては。あの時はそれどころではなかったので。
 そして新幹線で新大阪に向かったのです。時間のロスが最小限で済んだのはそのお蔭でした」
 腕の中の彼が驚いたように身じろぎをした。
「新幹線?それは私も考え付かなかったな……。救急車から降りる祐樹というのも、通行人として見たかった。さぞかし驚かれただろう?」
 硬い感じがかなり薄まってはいた声ではあったが、指の震えは未だ治まってはいなかったのが気掛かりだった。ただ、専門家の呉先生が控えている――今頃はキッチンで右往左往してくれているだろう――のでその点は心強いが。
「実は私も思いつきませんでした。森技官のアドバイスです。何しろあの人は仕事上全国を飛び回っているらしいので、その成果でしょうね。税金を無駄に支払ってないと確信しましたよ。毎月の給与明細を見る時にはかなり悔しい思いをしていましたが、認識を新たにしました。
 京都から新大阪までという、在来線でも20分しか掛からない移動に新幹線という発想はなかなか一般人には出ないですよね。
 その後は島田警視正のベンツにも警察車両用の回転灯が付いていたので――ベンツに回転灯というのも斬新でしたが、出来ることならパトカーに乗ってみたかったです」
 最愛の人の強張った気持ちを解すために出来るだけ快活そうな声を繕って話し続けた。
 二人してバスローブ――パジャマという選択肢も有ったが、最愛の人の傷の手当ても必要だったし、身体はあまり締め付けない方が良いだろうと――姿になって浴室を出た。
 キッチンを覗くと料理が出来ないと自己申告していた呉先生が予想のはるか斜め上のシロモノを用意していたので目を見開いてしまったが。












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気分は下剋上≪震災編≫206

「手術の時とは比べ物になりませんが、怜悧で理知的な感じでPGに向かっていらっしゃるお顔と、愛の交歓の余韻に甘く薫る肢体を引き立てるお召し物との落差がとても素敵です。
 メールを読む斉藤病院長は、当然聡がそんな艶っぽい肢体とか、目的地が自分の行きたい場所の時の遠足に浮足立つような喜びに溢れた笑顔とかは全然気付かないのだと思うと、そしてこういう格好は私だけが独占して拝見出来る悦びに浸っていました」
 ホテルのスタッフから手渡されたのは、祐樹が自宅マンションで使っている久米先生だかから厚意で――PCを買い替えたので余ったとか――譲って貰ったノートPCと同じA4サイズだったので、当然自分の身体よりも小さくて、そして喜びの余り自分が今どんな身なりなのかすっかり忘れていたが、祐樹の温度すら感じるような喜びと称賛の色を宿して熱く輝く眼差しに当てられた胸の尖りが甘く疼いて繊細で華奢な紗をさらに押し上げてしまった。
「遠足に行く小学生――私はただの義務感で参加していただけなのだが――の喜びは同じだと思うが……こんな風にはならないと思う」
 メールを送信し終わって祐樹の傍へと歩みを進めた。ついつい弾んでしまう足取りにつられて胸のチェーンが胸の尖りを擦っていくのも甘くて嬉しい愛の余韻だったが。
 ボタンを外して胸の尖りを祐樹に見せようとした時も、何だか普段の愛の交歓の時の切羽詰まった愛情の発露ではなくて、背が伸びたとか成績が上がった時に子供が親御さんに報告するような無邪気な喜びの方が勝っている。
「屈託なく笑う聡のお顔もとても素敵ですが、ルビーの煌めきを放つ場所もいつもよりも無垢な艶やかさに満ちていて……、とても綺麗です。何だかルビーの妖艶な色と表現するよりも、ダイアモンドの無垢な煌めきも混ざっているような……。
 胸の尖りだけでなくて、聡のしなやかな肢体全体が遠足などを楽しみに待つ無邪気な子供のような雰囲気を纏っているからかもしれませんね。
 生涯のパートナーだと私が決めた聡が、私よりも医学界に通暁している――当たり前と言えば当たり前ですが――のも幸いでした。
 これが柏木先生のご家庭だったら一から説明しなければ喜びを分かち合えないでしょう?奥さんは――聡に比べれば格段に劣るものの――美人ではありますが、学会にただ参加するのと、今回の件の違いから説明しなければ分からないのですから、即座に喜びを分かち合えませんよね?
 そういう意味でも私は幸せ者です」
 胸の両の尖りの輪郭を確かめるように微かになぞられて、甘酸っぱい痺れが身体中に広がっていく。
 柏木先生の今の奥さんは手術室の敏腕ナースだし、家庭も上手く行っている――職階は異なってしまったが柏木先生とは元同級生だったので、時折プライベートにも呑みに行く相手なのでその程度のことは聞いて知っていた―――が、確かに旧姓藤宮看護師に祐樹が名指しで招待された学会の重要性などは即座に理解しろと言う方が無理だった。
 顎に指を掛けられて上を向くように優しく誘導される。
 何度目だか、記憶力にかなり自信のある自分でも分からないほどキスを交わしてきたが、こんなにお互いの目が弾けるように笑いの色に包まれたキスをしたのは初めてだった。
「お祝いをしなければいけないな……。祐樹の学会招待を記念して。
 家族というものは何か有ればお祝いをするものなのだろう?ちなみに柏木先生の大学合格のお祝いはヨーロッパ旅行だったそうだが……」
 そういえばNHKのカメラが回っていたことだけは知らないだろうが、祐樹の神憑り手技を称賛の眼差しで見詰めていた――そもそもそのユニットは柏木先生担当だったので――彼は、祐樹の手技の素晴らしさを野戦病院のような今は無理でも病院が通常の状態に戻った時には医局でも当然話すだろうし、医局内でも祐樹のお祝いを企画しても良いかも知れない。病院というシフトがてんでバラバラの職場だけにそれほど呑み会を開けるわけにもいかないが、慰安旅行の時ですら皆が楽しそうだったし、その後医局を挙げて――後に祐樹に聞いてから知ったことだが――自分の身を守ろうと皆が一丸となって頑張ってくれていたので。
「医局全体でもこの祐樹が主賓のお祝いを企画しようと思うのだが。皆も喜んで集まってくれると思うし、さぞかし場が盛り上がることだろう」
 祐樹の意外にも柔らかい唇を堪能してから喜びに輝く眼差しを見詰める。
「そうですね。医局の呑み会は開かなくてはならないなと思いつつもなかなかチャンスがなかったので……。
 ただ、個人的には最愛の聡と一番先にお祝いをしたいですね。医局は二番目です。
 ヨーロッパ旅行は時間的にも無理ですが……、お祝いに予約していた中華レストランでフルコースディナーを食べに行きますか?」
 そんなモノで良いのだろうかと内心は怪訝に思ったが、祐樹が良いと言うのならそれでいいのだろう。
「フレンチなら、誕生日のお祝いをスタッフがケーキを灯してサービスしてくれるようだが?」
 このホテルのレストランのことだけは良く知っている。お祝いというコンセプトならイマイチ地味な中華よりもフレンチの方が向いているような気がする。
 祐樹の輝くような笑顔が更に笑みを深くして自分だけを見詰めている、ただそれだけで胸が薔薇色に満たされて笑い声を零した。












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