「これはマズい……」
 午前三時の病院の職員専用の門の所で立ち止まって(きびす)を返して灰皿の有る所まで戻って取り敢えず煙草を吸った。
 底冷えの京都の街しかも雪まで降っているので早く最愛の人が待つマンションへと帰りたかったのだが、今夜は息つく暇もないほどの忙しさだった。
 定時とかそういう時間帯ならばこの職員専用の段々と奥に奥にと追いやられている喫煙スペースに職員がたくさん集まって仕事終わりの一服を楽しんでいるが、この時間帯だし、しかも雪まで降っているので祐樹以外の人間は居ない。
 祐樹だって好きでこの場に居るわけでは勿論(もちろん)なくて、激務の後に不意に来た生理現象を持て余していた。所謂(いわゆる)「疲れ」(マラ)とかというヤツだ。
 最愛の人は今頃夢の中に居るか、それとも祐樹の帰りの時間だと気付いて起きてくれているかも知れない。明日は奈良県の奥に雪遊びに行く約束をしている。
 その準備も終えているに違いないけれども、夢の中だったらこっそり一人でトイレに籠って処理出来るけれど起きていて察知されると絶対に口で……。その具体的な良さをうっかり脳が再生を始めてさらに現金な反応をしてしまう部位を何とかして鎮めようとした。六時間以上も血だまりの出来た床を走り回った疲労と空腹のせいだろう。男性の(さが)として命の危険を感じた時や疲労、空腹などの時には子孫を残す本能が目覚めるらしい。いや子作りはしたくないが、(せいし)()したいという切羽詰まった欲求を持て余してしまった。降り積む牡丹雪も――京都でこれだけ降っているのだから奈良は積雪量も凄いだろうなとは思ったが――欲求の鎮静化には何の役にも立たずに煙草の火を消してしまっている始末だった。
 ここでこうして居たって仕方ないし最愛の人の待つ部屋に帰るかと何時もよりも遅いペースで歩き出した。夢の中の住人で居てくれという願いを込めて普段以上に音を殺して部屋に入った。
 うがいと手洗いを済ませてからパジャマに「その部分」は触れないように細心の注意を払って着替えて寝室に行っる。
 帰った途端にトイレに籠ると最愛の人が起きていたら絶対に様子を見に来るに違いないと判断したからだ。病院内ではノロウイルスも猛威を奮っていると聞いているので、医師としては罹らないように、そして万が一罹った場合のことも考えて行動すべきなのは最愛の人も重々承知の上なので。
「祐樹お帰り」
 最愛の人の声が密やかに寝室の闇の中に溶けていく。普段通りにしないと絶対に何か良からぬことを考えてしまうのが最愛の人の唯一の欠点だ。
「ただ今戻りました」
 普段よりも身体の位置を離して「ただ今」のキスを交わした。
「寒かったのだろう?祐樹の唇が冷たい……。それに雨が降っていたのか?髪の毛も濡れている」
 唇を温めようとしてくれたのかもう一度最愛の人からキスされた上に、髪まで梳かれて。普段だったら嬉しいスキンシップもこの状態だと非常に困った事態なわけで。不審に思ったのかそれとも髪の毛を乾かさなければと判断したのか最愛の人が灯りを点けた。
 青く艶やかに光るシルクのパジャマを纏った肢体とか心配そうな端整な顔が今の祐樹には色々と意味眩し過ぎる。静謐そうな雰囲気を纏った最愛の人の表情には寝起きのぼんやりとした感じが皆無だったのも。
「雨ではなくて雪が降っていました。明日の奈良行きが楽しみですね……」
 さり気なく下半身を捻って隠したものの、最愛の人の切れ長の涼やかな瞳は祐樹の下半身の異変に気付いている眼差しだった。
「祐樹……それ……。口で慰めても……?」
 最愛の人がおずおずといった感じで言葉を紡ぐ。
「すみません……。今夜は一際忙しかったので……。息つく暇もなくて……つい。こうなってしまいました。お願いしても良いですか?」
 最愛の人は嬉しそうにそして寂しそうに笑みの花を咲かせている。
「祐樹の欲望を解消するのも私だけの役目だろう?自分ですると言われる(ほう)が辛い気がする……」
 祐樹としては己の本能に恥じ入るばかりだったけれども、こういうのは理性でどうにかなるモノでもないし、この二月の寒い日に冷たいシャワーを浴びて鎮めるなど風邪などのリスクが高まる。体調管理も仕事の一環だし。ベッドからすらりと降りた最愛の人は最短の仕草で祐樹の下半身を露わにした。
「祐樹はベッドに座って欲しい」
 ごく薄い紅色の唇が淡い笑みを浮かべてはいるものの、事務的な口調で言われた。まあ、嬉々として口に(くわ)えられると祐樹などは逆に引いてしまう。何と言うか、人間の心理とは複雑なモノだなぁとしみじみと感慨に耽っていると、ベッドに座った祐樹の足の間に最愛の人の顔が徐々に近づいてきて、(くび)れの部分をやや薄い唇が挟み込んで先端部分を舌全体で辿られた。それだけで背筋がしなるほどの快感だった。祐樹の反応を窺うような上目遣(うわめづか)いの眼差しにはほんの少し艶やかな煌めきも宿していてこの一方的な行為が恋人としての義務感だけでないことを悟る。
 唇も緻密な動きで括れを丹念に愛され二つの果実を一つに纏めて精緻な動きで揉みしだかれるのも堪らなく良い。ただ、幹への直接的な愛撫が欲しいなと思った瞬間に薄紅色の唇から鮮やかな紅い舌で裏筋を繊細かつ大胆に愛される。
 せめてものお詫びというか、労わりという意味を込めて最愛の人の髪の毛を梳くことにした。






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すみません!!リアル生活でバタついておりまして、「お正月」の後の話だけストックが有ったので急遽そちらを更新致します。
  こうやまみか


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