「玄関のクリスマスリース、お作りになったのですか?」

 ホクホクと甘いカボチャのポタージュスープとか目にも鮮やかなサラダやこんがりと焼けたトーストの上にバターが黄金色に溶けていく様子を目と口で楽しみながら聞いてみた。 

 野戦病院さながらの救急救命室勤務が終わって疲労(ひろう)困憊(こんぱい)状態で帰宅して廊下に飾ってあるクリスマス用のリースは見たものの、寝室のベッドで帰宅を待っていた最愛の人に「ただ今のキス」を送ったことまでは覚えていたがその後は祐樹お得意の墜落睡眠しか出来なかった。

「祐樹と違って定時上りだったので作ってみた。祐樹と秋に行った記念に松ぼっくりと紅葉の葉も使ってみたのだが、変ではないだろうか……?」

 トーストを傾けないようにして口へと運ぶ最愛の人は何だか心配そうだった。最愛の人と過ごした宝物(たからもの)を仕舞ってある祐樹の部屋に勝手に入ったことに良心の呵責を覚えているのだろう。このマンションは所謂(いわゆる)家族向けのタイプだったので子供の個室を想定した部屋がある。そこを祐樹が占拠して勝手に使っているのだが、最愛の人は「親しき中にも礼儀あり」的な考えなのか祐樹の許可なく入って来ない。夜勤続きで帰宅出来なかったので許可なく入ったのだろう。

「そこまで詳しく見ている余裕はなかったのですが使って下さって有難うございます。二人の記念の宝物ですから使って下さるのはむしろ光栄ですよ?出勤前にじっくりと拝見しますね。

 それはそうと今年のクリスマスイブは幸いなことに土曜日ですよね。大阪のホテルで過ごすというプランで構いませんか?」

 平日は馬車馬のように働いているが土日の休みだけは死守している。クリスマスイブとかクリスマスが土日になる年はそう多くはないので、この機会は絶対に逃したくない。

「勿論だ……。プレゼントとサプライズは考えてあるので……」

 キッチンは日当たりも良くて燦燦(さんさん)と光が降り注いでいる。そんな朝の空気に相応しい明るく弾んだ声で告げる最愛の人は薄めの唇に幸せそうな笑みを浮かべていた。

クリスマスには何かしらの物を贈り合っていたのでプレゼントは想定内だったが、サプライズとは一体何のことだろう?まあ、今聞いても楽しみがなくなるのでイブまで待とうと思ったが。

「このリースも綺麗ですね……ああ、本当にあの松ぼっくりにリボンで飾ってありますね。無骨さが何だか可愛らしくなっています。――あの夜これで、貴方のココを……」

 スーツの上から胸の先端を優しく撫でた。今は全く兆していない場所だったものの――そして今尖らせたら大変なことになってしまう。何と言っても手術着は薄いので布地を押し上げているのを見ると手術(オペ)に集中出来ない――最愛の人の身体は祐樹の指も知悉(ちしつ)しているので先端部分も分かる。

 最愛の人もやや熱い吐息を零していたのであの夜のことを思い出したのだろう、心もそして肢体も。

「紅葉の葉も紅いのでそんなに違和感は覚えないです。松ぼっくりは中心部分に有りますけれど、紅葉は上手く隠してありますし……。小児科病棟には業者から搬入されたリースやツリーが飾ってありましたが、こちらのリースは二人の想い出が詰まっているアイテムを使用している点が特に素敵です。それに出来栄えもこちらの方が素晴らしいと思います……」

 お世辞抜きで告げた。定時に上がって祐樹だけに見せるために作ってくれたのだと思うとそれだけで嬉しいのだが、元々手先が器用で手まめな人なのでお店で売っても充分に通用するレベルになっている。小児科の病棟に赴いたのはハロウィンイベントが切っ掛けで浜田教授と交流が始まって、お子様たちが――もちろん患者さんだ――あのイベントで主役だった祐樹に会いたいと言っているから顔を出して欲しいと言われたからだったが。

「……あのホテルの見事なツリーは真似出来ないので、リースにしてみた」

 毎年のクリスマスシーズンには一階の暖炉の有るスペースには本場から取り寄せたとかいう大きなモミの木にサンタクロースの贈り物に見立てた箱がいっぱい飾ってある。そして日本のツリーに有り勝ちな電飾とかやたらキラキラ光る金銀のモールではなくてベルベットのリボンなどで飾られている点が気に入っている。夜中の火の消えた暖炉の前のソファーに二人で座って二人して眺めるのも楽しみだった。その時間には他の人も居ないので愛の言葉も囁くことも出来る点も。

「ああいうのは外で見るから価値があると思います。二人の部屋には必要ないでしょう……」

 ツリーは作るのも片付けるのも手間が掛かる。ツリーを見て喜ぶ子供がいるわけではないのに最愛の人の時間をこれ以上奪ってはいけないだろうし、ツリーを見て嬉しいと思うメンタリティは持ち合わせていない。

「部屋は普段の時よりも良い部屋が取れると良いのですが……。クリスマスイブは繁忙期でしょうし、あまり期待はしないで下さいね……」

 常連客リストにも載っているので多少の融通は効くだろうが、祐樹達以上の常連客も――それこそ毎回自家用のヘリコプターで来るようなゲストも居ることは知っていた――当然居るので部屋は奪い合いになることは必至だ。出来るだけ良い部屋を確保したいが、先に予約をした客が居たらそちらを優先するだろうし。早速ホテルに電話しようと心にメモした。




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