「相変わらず素敵でした……。いや私が愛する聡の極上の花園に丹精を込める度に開花をどんどん無垢かつ淫らになって咲き誇って行くようです……」
 息が収まると、紅色の唇や首筋そして耳朶(じだ)にキスの雨を降らせた。後の(たわむ)れも愛の交歓の愉しみの一つだったので。
「私もとても()かった……。祐樹が愛してくれているのは普段から良く知っているが、身体を繋げるとより鮮明に分かるので大好きだ。あっ……耳朶の裏……そこも……感じる……」
 清潔な紅色に染まった薄い皮膚を入念に舌で辿った。
 しなやかな肢体が甘さを纏って震えるのも、そしてその素肌に載ったままだった紅葉の葉の紅さとか二つのルビーの小さな煌めきが汗の雫を纏っているのも愛の交歓の後という気怠い甘さを放っているようだった。
「柏木先生がね……『恋人同士で訪れるならベッドの有るホテルよりも布団の旅館の(ほう)が愛の行為に夢中になって落ちる心配がないとかでお勧めだ』とか言っていました。確かにその通りだとも思ったのですが、聡は旅館の方が良いですか……?こういう行為をするのが……」
 紅色に染まった唇が極上の笑みの花を咲かせている。心の底から満足そうな笑みだった。
「祐樹が居てくれるならどこでも嬉しいが……。スカーフの件はホテルで……だろうな」
 律儀にも覚えていて、そして実行してくれるらしい。感謝の証しに唇を強く吸った。
「ああ!旅行番組で観たのだが、昔の家を復元した古民家的な所もあるらしい。岩魚(いわな)(あゆ)囲炉裏(いろり)の炎の周りに立てて(あぶ)ったりお鍋も『自在(じざい)(かぎ)』で釣って煮込んだり出来るらしい。大阪のホテルでは暖炉だろう?そちらの炎の揺らぎを見ているのも楽しいけれども……。岩魚や鮎を立てかけて焼いたりお鍋を煮たりする囲炉裏の火を祐樹と見たいなと思った覚えが有る……。スタッフは下準備をしたら下がるらしいので二人きりになれる時間はたっぷりありそうな感じだった。テレビで見た感じだと少なくともそうだったな……。テレビの撮影用かもしれないが。幼い頃にテレビの時代劇でそういうお百姓さんの食事風景を観た覚えが有って……一度してみたいと思っていた」
 最愛の人の紡ぎ出す風景は確かに素敵だろうなとも思ったし、そして何より最愛の人が色々不自由だった幼少期に憧れていたことを叶えるのは祐樹の役目だと思っている。
「良いですね。岩魚や鮎が焼ける香りとかお鍋の中から温かくグツグツと煮た湯気と共に立ち上ってくる美味しそうな匂いと――そして多分(まき)を使って調理しますからその燃える音とか香りも素敵でしょうね。いつ頃参りますか?」
 既定事項のように話すと涙の雫を宿したままの最愛の人の目が大きく見開かれた。愛の交歓の名残りの潤んだ瞳が最高に艶めいている。それに扇のような睫毛が涙の雫を纏ってパッと開く感じは瑞々しい官能の残り香が匂い立っているような感じだった。
「良いのか?本当に……」
 無邪気な喜びめいた響きが加わった弾んだ声だ。そういう声をもっと聞いてみたい。
「ええ、聡がお望みなら。やっぱり冬ですかね。割と田舎にあるのですか?その旅館……」
 繋がりは解いているものの汗の雫に濡れた素肌を重ね合わせてキスを交わしながら感じる場所を羽毛の軽さで触れながら話すのも大好きな時間だった。
「奈良県の奥らしい。雪が割と降る地方らしくて……。しんしんと降りしきる雪を木の枠の窓から眺めて……囲炉裏の前で二人きりというのも良いな……」
 夢みるような表情を浮かべる最愛の人の端整な顔も艶やかな無垢さに満ちていた。
「そんなに雪が降る場所なのですか?」
 だったらタイヤをスタッドレスに交換しないといけないなと思いながら聞いてみた。
「大阪の高校生が防寒訓練などの遠足で来る場所らしい。稲刈りの終わった田んぼも雪に覆われていたな……番組では……」
 楽しそうに語る最愛の人の表情が活き活きとしている。
「誰も居ない場所なのでしたら雪合戦とか雪だるまを作れますね……」
 京都市内育ちだし、病弱なお母さましか居なかった最愛の人は雪合戦をしたことは多分ないだろうなと思った。そして京都市内は雪が降ることは有っても雪だるまを作れるほどの降雪量はない。
「えっ?雪合戦はテレビで観た覚えは有るがしたことはなくて……、一度してみたいと密かに思っていた。雪だるまも……」
 感嘆の溜め息といった感じの口調が生け花のように活き活きと弾んでいる。
「降雪量がどの程度あるか分からないので何とも言えないのですが、三センチ以上だったら雪だるまは作れますよ?大きさは少し心許ないですけれど……」
 あくまで祐樹の経験則に基づいて言ってみた。
「その程度は充分に有ったな……。靴が埋まるくらいの雪道だったので。まあ、その撮影の日がたまたま降雪量の多い時に重なったのかも知れないが……。それにしても……雪だるまと雪合戦……」
 幸せそうに反復する最愛の人の幸福そうな口調が祐樹にとってもなによりも愛おしい。
 テレビとかパンフレット撮影の時は最も見事な時を選んで撮るというのは聞いた覚えが有るし、桜の名所などでは開花日が気温などで前後することも良くあるらしくて「せっかく満開の桜を見に行ったのに、満開どころか全く咲いていなくて木だけ見て帰った」とナースが不満げに溢しているのを聞いた覚えが有る。
 ただ雪の場合は気温と降雪量をチェックしておけば大丈夫だろう。
「雪の日のデート、お連れしますよ。はい指切り」
 小指を差し出すと紅色の指が絡んで来た。激しい愛の行為も好きな人だが、こういう些細なスキンシップも大好きなことは知っている。愛の行為を終える段落として、そして次の約束を交わすための(ささ)やかな指の交わりだった。






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