「西ケ花さんのキッチンの棚にはウエッジウッ〇のピーターラビットのマグカップとかがセットで置いてあった。マイセンは小花模様のモノしかなかったな……。彼女が使っていた灰皿も小花模様だった。付け加えるほどの情報かどうかは祐樹が判断して欲しいのだが……」
 幾分あやふやな感じでそう告げてくれているのは、その情報が本当に必要なモノかどうか判断に余ったのだろう。
「ピーターラビットって、あのイギリスだかの草原に住んでいるウサギですよね……?」
 その食器は見たことがないので、スマホで検索してみた。愛らしいウサギが割と写実的な筆致で描かれている食器で、あれだけ「バーキンが!」とか言っていた西ケ花さんの好みとしては少女趣味だな……と思ってしまう。
 しかも一揃い揃えているということはかなり好きなのだろう。
 祐樹の母は結婚式の引き出物として貰った――どうも結婚式でその柄が贈られる定番らしい――イチゴの模様のお皿とかカップは実家に飾ってあったなと思う。最愛の人と帰省した時には特別に使ってくれていたが、それ以上の愛らしさに満ちた食器だ。
 西ケ花さんは要らない物なら捨てるとかリサイクルショップに即座に持って行きそうな人っぽいので彼女にとっては大切なモノなのだろう。何だかしっくり来ないなと思ってしまう。
「有難うございます。有益な情報だと思います。マイセンも私が好きな薔薇が一輪描いてあるようなカップはなかったのですよね?」
 小花が散っているカップは西ケ花さんが食後のコーヒーを飲んでいた時に使っていたので何だか似つかわしくないなと思って見ていたのだが。
「なかったな……。長岡先生のマンションにも病院の個室にもピーターラビットの食器は置いていない。祐樹が好きな薔薇の花が一輪、大きく描かれているのは見た覚えが有るけれども……」
 長岡先生もエルメ〇のバーキ〇とかハリ〇・ウィストンとかいう「ティファニ〇よりも高価かつ大人っぽい」と言われている宝石店が好みだ。そういう点だけは西ケ花さんと好きな物が似ているような気がする。長岡先生の場合は「女の格」云々(うんぬん)に拘っていたり、高価だから好きだったりするわけではなくてシンプルに気に入った物だから買うというだけの話だろうが。長岡先生が可愛い物好きだと感じたことはないし、病院にある彼女の個室に行った時には小花模様のコーヒーカップは――しかもコーヒーが半分入っている状態でそのまま放置されて冷え切ってしまっている――見た覚えが有るが。
「女性の好みはそれほど詳しいわけではないですけれど……、長岡先生がスルーしたと思しき可愛いウサギ柄を西ケ花さんが使っているのはとても興味深いです……」
 ノートに「ピーターラビットの食器を(いち)(そろ)え持っている。少女趣味か?」と書き加えた。
「今日の収穫はこれくらいですよね……。調査だか捜査だかの初心者にしては良く頑張ったと思います。特に貴方が気付いて下さった金銭的には何不自由なく暮らしていくだけのお手当てプラス家族カード使い放題だった愛人(パトロン)を『あの男』呼ばわりしている点が分かったのもきっと大きな収穫です」祐樹は――先行きの不安が有るとはいえ、そして他人の顔色を窺って生活する気は皆無だったが――月に600万円もの買い物を許してくれたり生活費として150万円ものお金が入って来たりする生活というのも悪くない境遇だと思いっきり他人事(ひとごと)として評価している。だから何故彼女が「あの男」呼ばわりをして、カルティ〇の時計を贈ると口約束した祐樹を「ゆき君」と愛称で呼ぶのかが分からないなと思いながらノートを閉じた。

「お疲れでしょう……。一緒にお風呂に入りましょうか?久しぶりに二人でゆっくりと平日の夜を過ごせるのですから……。頭皮マッサージの上達具合を味わってみてください。あ、頭皮だけではなくて肩とか肩甲骨辺りのマッサージも多分上手くなっていると思います」祐樹も疲れていたが、最愛の人は――彼が言いだしたこととはいえ――西ケ花さんを口説くというミッションの25分を色々と案じながら待っていてくれた。季節的には外で待っても問題はないだろうが、気持ち的にはそれどころでなかったことは祐樹もその後分かったので寛がせたい気分だった。
「それは楽しみだ……。祐樹のマッサージは最高に気持ちが良いので……」
 切れ長の目に期待に満ちた光を宿して、唇には花よりも綺麗な笑みを浮かべている最愛の人の唇を奪った。


「流石は京都のお屋敷街として有名な場所ですね……」
 降りる時には領収書だかレシートを忘れずに貰おうと思いつつタクシーの外を眺めた。祐樹的には充分広大な敷地に色々な意匠を凝らした家、いやお屋敷とか(やかた)と呼ぶのが相応しい邸宅が並んでいる。
「そうだな……。この辺りは確か斎藤病院長のお住まいもある由緒正しい街なので……」
 最愛の人も珍しそうに切れ長な目を(みは)って外の風景を眺めている。
「お客さん、この住所ならあの家ではないですか?」
 タクシーの運転手がナビを見ながら減速している。住所は森技官がくれた資料に書いてあったので、土地勘もなかったことからタクシーの運転手さんに場所を告げただけで全てを任せていた。
 根っからの庶民育ちの祐樹からすると、瀟洒なのは良いとして、故長楽寺真司氏、そして妻の佳世さんと使用人の野上里香さんしか住む人が居ないのに、どうしてこんなに大きなお屋敷が必要なのかサッパリ分からない。かつては息子の直哉さんと配偶者でもある瑠璃子さんが住んでいたと聞いているが、それでも持て余すほどの大きさだった。
 手広い商売をしている関係上、お客様を招いてもてなしたり、昨日行った太田医院の院長夫妻などを呼んでホームパーティを開いたりするのだろうが、20人程度のゲストを呼んでも大丈夫なほどの広さだった。
 レシートを貰ってタクシーから降りて玄関のチャイムを――いや、昔ながらの呼び鈴と表現したくなる代物(しろもの)だった――鳴らした。西ケ花さんは(しな)びたババアとか言っていたが、中からどんな女性が現れるのかと思って門が開くのを待っていると、慌ただしい足音がしている。軽快な足取りからして使用人の野上さんだろうと思ったが、開いた門の内側で佇んでいる女性は祐樹の予想とは大違いだった。





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昨日はお休みをしてしまって誠に申し訳ありませんでした。
そして!!コメントを下さった方、本当に有難うございます!!とても嬉しくて、そして申し訳なく思います。貴重なお時間を割いてしまったのですから。しかし、物凄く励みになりました!!有難うございます。リコメはこれからです(´Д`)

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