「その程度なら別に構わないが……。手首にツイリーを巻く程度なのだろう?それで祐樹が愉しんでくれるなら喜んで巻く……」

 最愛の人は紅色に染まった細い手首から上をかざして見ている。祐樹も彼の指は手術用の手袋(グローブ)に包まれていても見入ってしまいそうになるのを必死で我慢しているほどなのだから、こんなにも愛の交歓の痕を色濃く残した細く長い指の美しさに魅入られてしまった。

「祐樹に愛されるとこのような色に染まるのだから……、紅い色ではなくて白いシルクの(ほう)が映える気がするのだが……?

 薔薇の模様のも、紅いのも有るが……他の色のも多数存在するので、長岡先生に言って貰っておく。

 ちなみに、青い薔薇のは『披露宴』で絞めていたネクタイを大判のスカーフにした物が売っていた……」

 え?と思った。共著の本のパーティは病院長発案で開催されたが、二人には実現不可能な――今はカミングアウトする同好の士も増えていたり自治体によっては税金などが優遇されたりするようだが二人が属している旧態依然の病院では無理だし、そもそも優遇措置など受けようとも思わない――壇上に二人で並んで座って皆の祝福を受けるだけで満足だった。実の息子よりも気にかけて可愛がっている祐樹の母も祝福に駆けつけてくれたし。当然青い薔薇のネクタイ――ジャケットの中に隠されていたので、祐樹以外は見ていない――も同じ意匠だとは気づかなかった。

 青と白のスカーフも有るのですか?聡の素肌に良く映えますよね……。とても愉しみなのですが、店舗には売っていないのですよね……」

 少し期待した分、落胆もひとしおで溜息(ためいき)をついてしまった。

「長岡先生は店舗に行く(たび)に何かしら買っているのは知っているだろう?そして彼女はああいう大らかな性格なので……」

 大らかというか大雑把で無頓着だと内心で思ったが、最愛の人は長岡先生のことを「私生活では少し困った妹」といった感じで接している。両親を亡くした最愛の人が天涯孤独の身の上だと知っていたが例の地震で知名度もお茶の間にまで広がっても連絡がないのだから、本当に身寄りはないのだろう。祐樹も全力で支えて守っていく積もりだが、彼にも祐樹以外の交流関係が出来るのは喜ばしい。だからあまりネガティブな発言は慎んでおいた(ほう)が良いだろう。

「時々、スカーフの専用ケースの入れ替えをするそうだ……。何しろ数えきれないほど持っている上に気に入った柄は同じ物を二枚・三枚買うこともざらにあるらしくて……。もうすぐ衣替えの時期だろう?だからその時期を見計らって訪れたら要らなくなったというか、染みのついた物とか(たた)(しわ)がくっきり付いた物などは欲しがればくれると思う……。『花柄は飽きた』とか言っていたし……。最近の流行ではないらしいし……」

 流石は太っ腹な長岡先生らしいエピソードだ。貰える物は何でも貰って有効(?)活用しようと思った。

「スカーフ問題はそれで解決ですね……。その愛の交歓もとても楽しみですけれど……、秋に相応しいというわけではないので……少し落ち着いたら日本庭園の(ほう)へ散策しませんか?」

 鹿威(ししおど)しがカコーンと音を立てていたがあれが実用だとすると鹿の声も聞こえるだろうし、秋といえば――短絡的かも知れないが――紅葉(もみじ)だろう。二人の住む京都市内では未だ紅葉(こうよう)は始まっていないが、この辺りは気の早い紅葉が色づいていたのを確かに見た。

 それにホテルは経営が大丈夫なのかと心配するレベルで人が居ないので、愛の交歓の後の甘い香りを漂わせた最愛の人を連れ出しても大丈夫だろうし。

「少し落ち着いたら……というか、少し微睡(まどろ)んだ後で良いか……?色々あったし、祐樹に愛されたので少しばかり疲れた……」

 本来は繋がった部分を解くべきなのだろうが、最愛の人は祐樹に(もた)れ掛かった状態が最もリラックスすると言ってくれていた。汗で濡れた前髪を指で梳いていると、(まぶた)が重そうに落ちていく、唇には笑みの花を咲かせたままで。

 素肌を全て晒して、しかも花園の内側に祐樹を迎え入れたままの状態で眠りの国にひと時でも入るということは全てを委ねても安心出来るということなのだろう。

 そういう関係性に落ち着いたことは素直に嬉しかった。少しでも疲労が軽減出来ると良いなと思いながら前髪を梳いては落としていた。

 紺色の浴衣(ゆかた)は余分に有っただろうかとか、夜の紅葉の下に佇む最愛の人、しかも愛の交歓の余韻を色濃く残したままの肢体で……と考えると期待に胸が弾んでしまう。浴衣(ゆかた)は確か箪笥(たんす)めいた物に予備が入っていたような気がしたし、これまでの最愛の人が「微睡(まどろ)む」と言ったらごくごく短時間で目覚めることも知っていた。事故を起こした人の救命措置とか松茸狩りに加えて愛の交感でも疲れているだろうけれども、眠りの国に入りそうなら祐樹にはっきりとそう告げてくれる人だ。

 飽かず前髪を梳きながら最愛の人の紅色の滑らかな素肌が徐々に薄くなって行くのを見ていた。

「祐樹……何分くらい眠っていた?」

 最愛の人がパチリと目を開けていささか心配そうに聞いてきた。眠り過ぎたのかとでも思っているのだろうなと微笑ましく思いながらお早うのキスを交わした。



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