「そんなマンガやアニメの中でのみ可能なことを現実には求めませんよ。
 病院一適役だとナース達が選んだ田中先生ですけれど、実際に似せて作ったら想像以上に出来上がったと小児科中が大騒ぎなのです。
 本来ならナース達だけで止まっている情報が、興奮の余り大きな声で言ってしまったらしくて患者様にも知れ渡ってしまいましてね。
 それで、励まして欲しいとかゆっくり見たいとの声が続出した次第です。
 ゆっくり見るのは――香川教授に調整をお願いして頂く方向でお願いしても宜しいですか?病院一多忙な先生であることは重々承知の上です」
 横に佇んでいた最愛の人は「仕方がない」といった感じで笑って頷いている。上司でもある最愛の人なので、その辺りの調整はしてくれるのだろう。
「励ましですか?しかし、このキャラクターのセリフは二つしか言えませんよ。どちらも励ましにはならなさそうですけれど……」
 協力したい気持ちはあるものの、最愛の人とか浜田教授と異なってアニメを全部見ているわけではない。浜田教授が覚えろと言ったセリフと「無量空処」の指の組み方とかのジェスチャーはそれらしく出来るようになったし「大丈夫、僕最強だから」も似せて言えるだけで他はサッパリ分からない。
 元々が模倣もほうなので、オリジナルがなければ何も出来ないのが正直なところだった。
「その点は大丈夫です」
 聞き慣れた声がして、内田教授が最愛の人にお辞儀をしつつ話に割って入ってきた。メイク(?)などの時には居なかった内田教授だが、多分医局の仕事を終わらせて祐樹が最愛の人と抜け出した後に小児科へと来たのだろう。
「病院中に田中先生の再現度の見事さは伝わっていますね。見物に行きたいという病院関係者や患者さんの数は爆上がりしています。
 元々、田中先生にはファンも多いので、そちらは絶対に見に来ると皮算用をしていたのですが、田中先生を知らない患者さんも他科には多数いらっしゃいます。そういう人まで見学料を支払ってまで見に行きたいと。想定していた人数の倍の声を頂きました。そう言って来る人は今後も増えると思いますので、事故が起こらないように考えるのが浜田教授と私の役割なので、その点はお任せ下さい。
 確かにこれは一見の価値のある仕上がりですよね……。
 で、セリフの件ですが」
 内田教授は祐樹の全身を品定めするように、そして満足した眼差しで眺めた後にスマホを取り出してラインのアプリを開いている。
 何故ライン?と思って見ていると、内科医らしいゆっくりとした指の動きでラインのスタンプをタップして祐樹扮するキャラクターを出していた。画面には右親指を立てた姿が描かれていて、さらにタップすると「任せなさい!」と俳優だか声優さんだかの声が聞こえてきた。
「こんな感じでお願いします。
 いやあ、ウチの子に送る時用に有料のラインスタンプを購入していたのが、こんな重要な場面で使えるのは嬉しいです。
 参加料・見物料の収入も大切ですが、それは本番まで取っておくことにして、最も重要なのは小児科の患者さんへの励ましとか気晴らしです。
 予想以上のクオリティーに仕上がったじゅれいの皆さん達は基本的に言葉を発せずに練り歩くだけにする積りでして……。田中先生から励ましの言葉として『先生に任せなさい』と先ほどのラインスランプの音声にプラスして言って貰えればと思っています」
 内田教授の立て板に水といった説明に浜田教授と最愛の人は頷いている。
 他の参加者達は――中には香川外科所属の柏木先生がエリートビジネスマンといった感じのコスプレをしているが、ネクタイの柄がイマイチだ。しかし祐樹の記憶にもあの「どこに売っているんだ」的なネクタイを締めていたので忠実に再現しただけだろう――教授職三人と主役の祐樹、いや多分教授職の威光のせいだろう。遠巻きにして見ていたりスマホをかざして写真を撮っていたりはしていたが、近寄っては来ない。
「分かりました。『先生に任せなさい!』と言えば良いのですよね?」
 「先生に」というフレーズが挟まっただけで後はこのラインスタンプ通りに話せば良いだけなのでその程度のアドリブなら出来る気がする。
「内田教授と浜田教授、どちらの発案かは存じませんが良く考えましたね。私は思いつきもしなかったです。田中先生が演じるキャラクターも呪術高専の先生ですし、小児科の医師もまた先生と呼ばれているので掛詞かけことば的に二重の意味を込めた言葉なのですね……」
 最愛の人が感心したように涼やかな目をみはって唇に――先ほどのキスの痕跡は跡形もない――笑みを浮かべている。
常々、患者様がどうしたら前向きに病気へと向かい合って下さるのかを考えていらっしゃる浜田教授の発案ですよ。偶々たまたま音声付きのラインスタンプを私が購入して持っていただけで……」
 内田教授が謙遜したような笑みを浮かべている。祐樹も最愛の人もラインは使っているけれども、ラインスタンプは無料のモノしか使っていない。そんなことにお金を遣うのは勿体ないと考えていたせいもあったし、無料ので充分意思疎通は出来たので。
 ただ、内田教授の場合、お子さんに喜んで貰おうと購入したのだろう、具体的な金額は分からないが。
「『先生に任せなさい』で良いのでしょうか?」
 普段の祐樹はこんなふうに軽い口調かつ底抜けの明るさでは話さないが、精いっぱい似せて発音した。



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