「だって、お金を使ったデートの(ほう)が女として格が上だと実感出来るもの……。少し考えたら分かることよ。無料(タダ)でするセックスと高級ホテルのスイートルームに泊まってバスタブの中でシャンパンを呑んだ後にベッドに行くのとでは天と地ほどの違いがあるの。

 まあ、あの男もこの部屋は気に入っていたし来たがっていたから、二か月に一回は許してあげたけれど……。

 そうそう、今は『ぱぱ活』とか言って……たった三万円ぽっちで足を開くような安い女もいるようだけれども……。そうだわ……見てくれるかしら?」

 ひらりと立ち上がった西ケ花さんはドアを開けた。どうやらクローゼットらしい空間に長岡先生御用達のバッグ――彼女が京都市指定ゴミ袋に入れて持ち歩いていた衝撃的な姿は忘れられない――が色とりどりに並んでいた。他にも祐樹でも知っている高級ブランドのバックだの衣装だのがずらっと並んでいる有様(ありさま)はむしろ壮観だった。なんだか質屋(しちや)の――今はリサイクルショップとか言うらしいが――倉庫を見るような感じで。

 祐樹は彼女の指示通り立ち上がって中を見て「すごいですね」とお世辞を言った。

「あのバックは一個100万円では買えないわよ?そういう物をたくさん持っている私の女としての格が物凄く高いってことなの……。他にも宝石とか――中年のオバさんが付けているような大きさにこだわっただけの安っぽいものではなくて、フランスやイタリアの名だたる宝石店で細工した花のような愛らしさの有るものとか……」

 中年とは――所説あるのは知っているが――40歳以上という認識が一般的だ。厚労省が医療費削減を目論んで45歳からと刷り込みを始めているのは知っているけれども。

 37歳はその一歩手前だと祐樹などは思うのだが彼女の勝ち誇ったような表情を見て何も言わないことに決めてソファに座りなおす。

「百万円超えのバック……噂には聞いたことがありますが、実際に見たことがなかったもので、なんだかテンションが上がりますね!!」

 シベリア(?)とかいうあのブランドの最高峰の――最高峰ならエベレストだったかもしれないが祐樹にとってはそんな名前は死ぬほどどうでも良い――バッグをゴミ袋に詰めて持っている人を知っていると言ったら憤死しそうな雰囲気だったので絶対に言わないでおこう。

 横に座り続けている最愛の人はなんだか新種の生物を見るような眼差しだった。ただ、祐樹にしか分からない程度だったが。

 夏に行った神戸のデートの時に(せみ)の抜け殻を大切そうに持って帰って自室に置いてあるのも知っている。「祐樹と過ごした時の記念」と言ってくれているし、そういう彼が好ましいのも確かだが、第三者から見たら無料(タダ)でそこいらに有る物の一つに過ぎない。

 そういう最愛の人にとって金銭の多寡(たか)で愛情は計れないと思っているのだろう。

ただ、その場限りの欲望の相手がそれなりに居た過去の祐樹には何となく彼女の価値観というか物の見方が分かるような気もする。

 ゲイバー「グレイス」では店内での口説きは禁止されている珍しい店だったが、それなりの抜け道はあった。例えば目と目で合図して抜け出すとか、コースターで筆談をするとか。

 相手によっては男性同士でも入れる「その手」のホテルに連れだって行くこともあった。その価値もないというか、単なる欲望をお互い解消したいだけの場合はその代金すら勿体ないと思って人の来ない非常階段などでコトに及んだことも実際にあったので。

当時は今ほどに金銭的な余裕がなかったということも確かにあったが、しかしホテルに行くか行かないかは相手の魅力にも左右されていたな……と今になって思う。

最愛の人と初めて結ばれたのは大阪の一流ホテルで、京都よりは人目に付きにくいということと、世界的な知名度を誇る優秀な外科医を無碍(むげ)に扱ってはいけないと判断したと当時は思っていたが、一目見た時から惹かれていてこの人を他のその場限りの相手と同列に扱ってはならないと本能が告げていたのかもしれない。

「つまりこの素敵な部屋に長楽寺氏がいらっしゃるのは二か月に一回ということですね?それは定期的に決まっていたことですか?それともたまにふらっと来られたということですか」

 最愛の人の確かめるような口調で我に返った。

「決まっていたわね……。やっぱり色々と準備があるもの。偶数月の水曜日よ?それが何か?」

 意外にもすらすらと話してくれたな……と思って慌ててフォローに入った。

「いえ、我々の仕事はあらゆることを伺った上で総合的な判断を下します。お気に障ってしまったら申し訳ないですが……」

 「ふうん」と呟くように言った西ケ花さんはそれほど気を悪くした様子もない。

「ちなみになのですが、お手……お給料も支払われなくなりますよね。そして確かカードの持ち主が亡くなった場合使用不可能になりますよね。

 これからの生活費はどうされるのですか?」

 「お手当(てあて)」と言いかけて慌てて言い直した。せっかく良い気分(?)になっている相手を怒らすことはないだろう。逆上した時の(ほう)がポロリと本心を吐露してしまうということも知っているが、今は割と何でも話してくれるので怒らせるのは最終手段として取っておきたい。



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