「こんなに秋の味覚がギュッと詰った料理もとても美味しかったな……。

 葡萄のソースが掛かった三田牛もとても美味だったし、あれは一体どんな風に調理しているのだろう……」

 最愛の人とレストランから出て、部屋に戻る途中に弾んだ声で話しかけて来た。

「満足して下さって選んだ甲斐がありました……。

 あ!すみません、そこのスタッフの人に聞きたいことが有るので少し外しても良いですか?」 

 チェックイン時も女性のフロントマン(?)――ウーマンかも――だったし、このホテルは女性が多い。子育て支援とかの福利厚生がしっかりしているのかも知れないが。

「構わないが……?」

 最愛の人はやや酔った表情で――呑んでも酔わない人だが、温泉のせいか、それとも今日一日色々な体験をしたからなのか分からない――潤んだ瞳と薄紅色に染まった首を優雅に傾げている。

 ちなみに祐樹は密かな企みも有ったので一滴も呑んでいない。

「済みません。久しぶりに山道を思いっきり運転してドライビングの腕が落ちないようにしたいのですが、この辺りにくねくねと曲がった道が有る山は有りませんか?」

 スマホで検索しても良かったが、地元民と(おぼ)しきスタッフの方が断然詳しいだろうし。この辺りはJRの駅がポツンと有るだけだし、都会から働きに来るには不便な場所なので。

「ああ、それならこの山がお勧めです。神戸の六甲山よりもドライブには最適と(おっしゃ)るお客様もいらっしゃるので」

 六甲山よりも最適とは打ってつけだった。最愛の人とドライブをした経験の有る――そしてドライブ以上の悦楽にも耽った――場所よりも急な坂道があったとは。

 祐樹のスマホに入っているグーグルマップを器用にタップして道順まで教えてくれた。

 礼を言って最愛の人の佇んでいる場所まで戻りながら六甲山よりも素晴らしい利点をもう一つ考え付いて、一人悦に入った。

「お待たせいたしました。一旦部屋に戻りましょう」

 最愛の人は潤んだ瞳に怪訝な光を宿して首を傾げている。

「一旦……?この後は部屋で祐樹と二人きりになって……ベッドで激しく愛し合うと思っていたのだが?」

 こんなことで採算が取れるのか心配になるほど客の姿が居ないホテルの立派な内装の――と言っても大阪のホテルのような歴史的な感じの豪奢な重厚感はないが――(くぼ)んだ場所に最愛の人の腕を掴んで引き込んだ。

「それほど切羽詰まっていますか?こちらは大丈夫なようですが……?」

 (つい)ばむようなキスをしながら最愛の人のしなやかな肢体のラインを手で確かめるように辿った。スラックスの前は大丈夫だったが、祐樹だけに花開く極上の花園の中までは確かめようがない。

「切羽詰まるというほどではないが……。私の身体は早く祐樹に愛されたいとは思っている……」

 健気で淫らな言葉を紡ぐ薄紅色の唇は食べてしまいたくなるほどの魅惑に満ちていた。

「一時間くらいは我慢出来そうですか……?

 是非ともお連れしたい場所が有るのですけれど……」

 「是非とも」というわけではなくて、さっき聞いた場所だったがそこまで言う必要はないだろう。それに最愛の人は一旦愛の交歓に雪崩れ込んでしまうと歯止めが利かなくなるタイプだが、その前だと祐樹の言うことを優先してくれる可愛い人だ。

「それくらいなら我慢は出来るが……?」

 胸の尖りは食事をレストランで摂ったこともあって、熱さも引いているだろうし。部屋で二人きり、しかも隣り合って食べていたならまた異なった反応を魅せてくれるだろうが、他人の前で改まって食べた場合は熱も欲も引いていく人だ。

「では一旦部屋に戻って……着替えをして出かけましょう」

 裁判官の槌のようなキスを交わす。アルコールで体温が上がっている最愛の人の肢体からは先ほどの温泉の香りと温泉備え付けのボディソープの健康な香りがした。

 普段はシトラスの香りがするが、今は付けてないらしい。その(ほう)が旅行気分になって嬉しいが。

「貴方はこれを着てください。秋の夜なので、冷えるといけませんから、その上に何か羽織るモノを持って行きましょうか?」

 バックから今夜の目的に適した服を選んで差し出した。

「え?これか……。一応念のために持ってきただけのシャツだが……?ただ、祐樹が言うのであればそうする……」

 一切の躊躇もなく素肌を晒す最愛の人は「まだ」そのモードに入っていないらしい。

 ホテルの部屋に相応しい間接照明の灯りの元で紅色の小さな尖りが白い素肌を引き立てている。慌てて目を逸らして――そうでないと、言い出しっぺの祐樹の(ほう)が我慢出来なくなってベッドに押し倒したくなりそうだ――ちょうど壁に貼ってあったホテルの館内図と非常口、そして駐車場の位置を再確認した。

 最愛の人とは入ったことはないファッションホテルのような造りになっているのが今夜の目的に相応しい。予約を入れた時にはそんなことまで考えていなかったが。

「終わりましたか?では参りましょう」

 ホテルのカードキーと車の鍵とスマホを持って部屋を出た。

「非常階段から行くのか……」

 最愛の人が興味深げにコンクリートむき出しの階段を眺めていた。

「私達の部屋からはエレベーターを使うよりもこちらの方が早いのです」

 直線距離にして短いというのも事実だが、帰りのコトを見越した下見も兼ねている。

 帰りは、最愛の人の姿を絶対に誰にも見せたくなかったので。

 駐車エリアにも数えるほどしか車は止まっていなかった。

「乗って下さい……」

 松茸を始めとする今日の収穫物はホテルのスタッフに頼んで適温の場所にそれぞれ置かれていて、車の後部座席には何も乗っていない状態だった。

 祐樹も乗り込むとエンジンをかけて、車内温度の設定を目いっぱい上げた後にスマホで位置を確認した。

 楽しい、いや愉しいドライブの始まりだ。



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