頭皮のマッサージが気持ち良いのか、最愛の人は血統書付きのシャム猫のような仕草で祐樹の身体へと肢体を反らして来た。そのパジャマ越しの肌の感触と重みが心地いい。若干華奢な肩にも指で圧を掛けた後に首回りも(ほぐ)す感じで指を上にあげていく。

「呉先生の薔薇屋敷の固定資産税が大変だそうだ……。それでお金に困っているみたいで……、かなり追い詰められている感じを受けたな……」

 そう言えば、呉先生の話をした時に最愛の人が言い淀んでいたことが有った。その時はスルーしてしまったが、多分、これを言いたかったのだろうなと今にして思った。

 固定資産税……。祐樹の場合、実家は賃貸ではなく持ち家だったけれども税金関係はノータッチだった。高校時代まで住んでいた家だったが、母から「学生はお金のことなど考えなくて良い」みたいなことを言われていたし。大学時代から借りているアパートに毛が生えたマンションは――今もダミーの住所として継続して家賃だけは払っている。このマンションに常に居るものの、最愛の人と住所が同じだと事務局に届けたら必ず病院中のウワサになる。最愛の彼は病院の看板教授だし、祐樹もそれなりに注目されている。その二人が同じ住所というのは流石にマズイ――大家さんが払ってくれているハズだ、多分家賃の中から。

 このマンションの名義は最愛の人から祐樹へと変更してくれていて、固定資産税も祐樹の名前宛てに来るようになった。その税金額は医師の収入なら払える額ではあるものの、最愛の人が気を遣って口座へと振り込んでくれている。

 財力は最愛の人の方が上なのも確かだし、その行為も嬉しかったので甘んじて受けている。ただ、それだとまるでヒモみたいな存在に成り下がっているような気がしたのも事実だから、その分はプレゼントやデート代で補っている。

「呉先生の固定資産税ですか……?彼だって精神科の助手ですよね?それなりの収入はあるハズですが?」

 別に疑っているわけではなくて単なる疑問だった。このマンションの固定資産税額は当然覚えている。

「私もその点は気になったのだが、固定資産税は土地と建物とに分割して計算されるらしくて、このマンションは専有面積こそ、それなりに広いけれども、土地は各階の住民が分割して払うようなのでごくごく少額で済んでいるみたいだな……」

 そう言えば母親にそんなことを聞いた覚えが微かにあるような気もした。路線価というモノが役所によって決められていて、銀座だかが最も高価らしい。呉先生の家も昔ながらの住宅地だし、土地も広そうな「お屋敷」だ。

「なるほど……納得しました。それで、追い詰められているというのは?」

 淡い吐息が寝室に零れた、満足そうな、そして心配そうな気配のモノが。

「長岡先生のバックの値段は祐樹も知っているだろう?」

 彼女が四千万円のバックを京都市指定ゴミ袋に入れて運んでいた姿がありありと脳裏に浮かんだ。シベリアとかいう名前だったような気がするが、定かではない。

「ええ、彼女の金銭感覚も規格外と言うか……。私などの常識では考えられないですが……」

 婚約者が規格外のお金持ちなのも彼女にとってもお似合いだなと思う。

「病院にも色と素材が異なる同じブランドのバックを持って来ているだろう?何個持っているのかまでは知らないけれども……」

 祐樹なら無難な色というか、どんな洋服にでも合う茶色のバック一つで充分だと考えるが、その考えは男性だからかも知れない。

「ええ、ファッションにうるさいナースが絶賛し、かつ羨んでいるみたいですね」

 通勤時には基本何も持たない祐樹には全く理解出来ないのも異性だからかも。

「呉先生は『あんなに持っているのだから一つくらい盗んでネットオークションに出品したい』とまで考えたことも有ったらしい……」

 長岡先生は仕事面に限り超優秀だけれども、家事が――特に整理整頓――苦手なタイプで、彼女の婚約者は最愛の人や祐樹が異性に「そういう」感情を抱かない人間だと知っていたこともあり、マンションの出入りは許されている。

余りの散らかり振りを見かねた最愛の人が掃除を始めてしまい、祐樹も手伝ったことが何度もある。同じ医学専門書、しかも版が同じで改訂されていないモノが三冊以上も部屋に存在して、疑問に思って聞いたところ「探すよりも買った方が早い」と返って来たので、こっそりと持って帰った記憶すらある。外科の専門書なら祐樹も買うが内科かつ興味を惹かれたモノだったので。

 彼女は多分というか絶対に気付かないと踏んでいたし、掃除の手間賃代わりだと思うと罪悪感は覚えなかった。

「ネットオークションですか?確かに需要はあるでしょうね……。ナースが言っていましたから。店舗では在庫なしの状態が続いているとかで欲しくても買えないとか。だから長岡先生のバックは垂涎(すいぜん)(まと)のようですね。それに彼女は医師なのでナースからは反感ではなく羨望を買っているので良いかなと思っていました。ナース同士だと『何で貴女が買えて私が買えないの』みたいなマイナスの感情を抱くらしいですが、医師は格上なので何も言えないというか……。

 しかし、呉先生がそんなことを言うほど追い詰められているのですか……?」


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