「彼女のバックを一個でも良いのでこっそり盗んで、ヤフーオークションなどでこっそり売ってしまいたいという誘惑に駆られます。

 特にクロコダイルとかだと物凄く高値からの出品なので、あの値段で売れれば税金を分割払いではなくて一気に支払ってしまえるのに……とね」

 どこか遠い目をして(はかな)げに笑う呉先生はよほど税金に悩まされているのだろう。固定資産税は一括で支払うモノだとばかり思っていたが――ただ、あのマンションの名義は祐樹なので祐樹の口座に入金するようにPB(プライベートバンク)の担当者に指図はしてある。機械的に振り込まれるようにしたので祐樹はお礼を言ってくれたし負い目を感じることもなさそうだった――そんなに高いとは思ってもみなかった。確か、森技官も家賃としてお金を払っていると聞いていたが、それでもまだ不足しているということなのだろう。

自分のマンションと呉先生の祐樹(いわ)く薔薇屋敷の差について考えてみた。答えは土地の大きさだろう、多分。ただ具体的な金額まで立ち入って聞くのも憚られた。

「そんなに高値で売買されているのですか?」

 定価は知っていた。自分も40センチの牛革のバーキンを個室で見せられたことが有ったので。バックの話をして、呉先生の負担額を類推するしかない。

 長岡先生が言っていた「エルパト」なるモノがどの程度の人数居るのかは知らないが、毎日店舗に行って収穫もなく帰るよりも多少高くても――ただ偽物のリスクは高まる――インターネット取引で買おうとする人は一定数居るだろうなとも思う。

「ご覧になりますか?」

 取り敢えず頷くと、呉先生がPCのキーを叩いている音が部屋に響いた。旧館のノスタルジックな趣きの有る部屋には少し似つかわしくないのは、細い指が強くPCのキーボードを叩いているからだろう。

「これですね……」

 画面を見るようにと眼差しで指図されて呉先生のデスクに移動して画面にずらっと並んだ商品の値段を見て驚いた。

 新品で200万円以上とか普通で、80万円はいかにも古いといった感じだった。

「こんなに高いとは思っていなかったです。物の値段は需要と供給のバランスで決まるのは知っていましたが、需要の方が明らかに多いみたいですね……。これ定価は140万円ですよ……」

 呉先生の固定資産税は年に100万円から200万円くらいなのだろうと推測しながら話した。

「定価ってそんなに安いのですか……。長岡先生から盗むというのは勿論、冗談です。でも140万円で買って200万円以上で売れたらそれだけで60万の儲けが出ます。

 固定資産税用の口座に60万も入ったら……とても嬉しいのですが……」

 スミレ色の溜め息をついた呉先生を力付けたくて。

「私も店舗に行きますので、担当者に聞いてみます。購入して定価でお分けしますので。後はお好きなようになさってください……。ただ在庫がない状況が続いているみたいなので何時(いつ)になるか全く分かりませんし、お分け出来ない可能性も高いですが……」

 いつもお世話になっている呉先生の細い肩に掛かっている負担を少しでも減らしたくてそう言ってみた。

 大学病院の給料はポジションで決まるので助手の呉先生よりも教授職の自分の方が多い。

祐樹はAiセンター長などを兼務している上に夜勤手当も付いている。

 しかし、呉先生の場合は定時で上がることの方が多いので、残業手当も出ないのだろう。

「図々しいお願いですが、宜しくお願いします」

 呉先生の可憐な笑みが少し寂し気だった。

「そう言えば、長岡先生に言われました。私は人類を明確に二分割して把握していると。つまり、ゆ……田中先生と、それ以外の人間に分けて考えていると」

 重くなりがちな空気を紛らわせるために咄嗟(とっさ)に口に出したのだが呉先生は細い肩を揺らして笑い転げている。

 そんなに面白いことを言ったとは思えなかったのだが。

「まさに至言ですね。長岡先生に対する、ただし一方的なモノなのですが……認識を変えなければ。

 良く教授のことを見ていらっしゃる女性なのですね」

 笑い過ぎて息が苦しそうだったけれどもそう感想を伝えてくれた。

 呉先生にもそう見えていたのだろう、多分。

「あ、電話ですね。多分教授では?」

 内線電話の受話器を細い指で取りながら呉先生が独り言のように呟いている。

「香川教授、黒木准教授からです」

 スマホは鳴らなかったので、自分の出番ではなくて単なる事後報告のような内容だろうなと思いながら受け取った。

「お電話替わりました。香川ですが、どうなりましたか?」

『香川教授、内田教授の要請を受けて田中先生が処置に当たりました。手術(オペ)の予後は順調ですので教授のお手を煩わせることはないと思います。ご報告をと思いまして』

 温厚そうな声が電話越しに伝わって来る。手技の腕は可もなく不可もないといった人だけれども人を見る目とか医局の采配についてなどは全面的に信頼している。

「田中先生が手術を……。分かりました。ご報告有難うございます」

 「田中先生」と口に出した瞬間に、呉先生の細い指がPCのキーボードを叩きつつ画面を見ろというふうに眼差しで伝えて来た。怪訝に思いながらも画面を見て驚いた。


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