「日本円に換算すると4,000万円くらいでしょうか?」

 よ、四千万円!!!

 家が買えるのではないだろうか?的な値段だ。確かにあそこのブランドはこの不況にも関わらず強気な値段設定をしていることは知っている。というか、最愛の人もそのブティックには良く行くので祐樹も詳しくなった。

 しかし、四千万円のバッグというのは驚天動地だ。

 それにそんな高価すぎるバッグを京都市指定ゴミ袋に入れて持っているとは……。

 祐樹の認識ではゴミ袋とは不要なモノを纏めて入れるためのモノだった。多分それが常識なのではないかと思うのだが……。

「ということは……中央に煌めいているのはダイヤモンドですよね……?」

 祐樹がおそらく一生見ることもない――いや、別に見たくもないが――希少なバッグなのだろう。

 な、長岡先生のすることには度々驚かされて来たが、超弩級(ちょうどきゅう)というか……想像の遥かに上というか斜め上を行っている。

 バッグミラーを見ると、最愛の人は真剣そうな眼差しをバッグに注いで精緻な動きでゴミ袋を(ほど)いている。

 解くモノはアレだが、手技の時と同じような感じの指先の動きは綺麗かつ流麗だった。手術の時は手袋(グローブ)をしているので、素手でこういう動きを見るのはより一層の鮮烈さだったが。

 長岡先生を車に乗せる前は(車内が濡れると嫌だな)と思ってはいた。しかし、金銭感覚がバグっているというか、祐樹とは二桁くらい異なるというか……、そういう異次元のバッグなので、車内は後で拭いたら良いだけだし、手に負えないようなら買った店に乗って行けばメンテナンスもしてくれる。国産車はそういう点が便利だし、身の丈に合っていると祐樹などは思うのだが。

「ええ、そう聞いていますけれども……。ただ、雨に弱いらしくって。

 途方に暮れていたところを香川教授や田中先生に見つけて貰えて本当に良かったですわ」

 こちらこそ、四千万円の物を車に乗せる日が来るとは思わなかったですと言いたいのを我慢した。

 そして、祐樹よりもそのブランドのブティックに行っている最愛の人なのだから、情報量も多いに違いない。

 だからこそ「非常に困った事態」と表現したのだろう、多分。

 祐樹などは、ゴミ袋を持って京都の目抜き通りを歩いている女性が医局の一員なだけに恥ずかしいと単純に思っていたが。

「雨に弱いのですか……。それは大変ですね……。ただ、高温多湿の日本に居る限りそれは不便だろうと思いますが……」

 濡れて困るようなバッグを作って、しかもそれを買う方も買うほうだとは思ったが、祐樹の懐が痛むわけでもないので黙っておいた方が無難だろう。

「そうなのです……。この『ヒマラヤ』は雨に弱いから気を付けなさいと岩松に注意されていたのですが……。

 そして目ざといナースにも見せることは出来ないので、持って行く場所が限られてしまうので、今日のお買い物には絶好のチャンスと思ったのですけれども……うっかりです」

 ヒマラヤ?ぱっと見た感じは牛革ではなくて、ワニとか爬虫類の革のようだったが、世界最高峰の山にちなんだワニだかトカゲだかが居るのだろうか?

 岩松氏というのは長岡先生の婚約者で、日本一有名な私立病院の御曹司だ。

 祐樹最愛の彼を自分の病院にスカウトしたいと言っていて、凱旋帰国直後の医局のトラブルの時は「二人の関係を知った上で」病院に招いてくれた。その後は執刀医としての経験を積むために祐樹はこっそりと岩松氏の病院で手術をこなしてきた。

 長岡先生には「家事などは使用人に任せて、内科医として、そして未来の院長夫人としての振る舞いを覚えて欲しい」と言っている鷹揚(おうよう)な人だった。ある意味お似合いともいえるが。

 ただ、最愛の人が居たアメリカの病院で内科医として勤務後、凱旋帰国と共に香川外科に所属となった。

 その頃の岩松氏は有力政治家のご令嬢か何か、そういう断るのが難しい縁談が進んでいたらしくて極秘だった。祐樹は公私混同して最愛の彼が「婚約者」と――こういう性格の人とは知らなかったし、仕事場では才色兼備の生きた見本といった感じだ――同伴して帰って来たのだと誤解していた。

 しがない研修医と教授職しかも婚約者付きという格差に内心嫉妬と怒りを覚えていた。

 今となっては笑い話だが。

「長岡先生、これで如何でしょう?水滴は付いていないと思いますが……」

 しなやかな指と華奢な手首が長岡先生の方へと向けられている。ゴミ袋は器用に裏返しになっていたのはバックミラーで確認した。

「まあ!有難うございます。もともとバックについていた水滴まで拭って下さるなんて……ご親切にありがとうございます!

 やはり香川教授は何でもお出来になって……。とても羨ましいですわ」

 最愛の人は可笑しそうに唇を弛めている。

「全てというわけではないですよ。砕けたダイヤモンドの修復は無理でしたし。

 ただ、ダイヤモンド付きの『ヒマラヤ』のお値段としては手ごろです。以後は濡らさないようになさってください」

 え?と思った。四千万円がお手頃価格?




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